今日はあいにくの雨だった。でも、そんな理由で心が落ち着かないわけじゃない。
『亡霊による事故死事件』がまた起きたからでもない。
「相心…お前に姉はいるか?」
「…?百姉さんは実の姉ではないですよ?あくまでそう呼んで慕っているだけで」
「いや…ならいい。変な質問をして悪かった。」
なんて相澤先生とよくわからない会話をしたからでもない。
休日に知ったヒーロー殺しの事件…飯田さんのお兄さんが被害にあったからだ。
それでも飯田さんはいつも通りに振舞っている『つもり』何だろうけど…
「今日のヒーロー情報学で『コードネーム』を決めてもらう。」
相澤先生がプロヒーローからの指名グラフを出しながら説明する。
百姉さんと僕にかなり多くの票が集まっている。
百姉さんは当然だけど、なんで僕なんかに票が集まるんだろう?
僕なんかより百姉さんの方がすご
プロの活躍を実際に体験してより成長する必要がある。
そのために職場体験に行く必要がある、と相澤先生が言う。
だからコードネームを決めることになったのかな。
下手な名前は付けられない…ちょっと周りの人を見てから決めよう。
鋭児郎君は『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』という名前たっだ。
憧れのヒーローから取った名前だそうだ。
かっこいい…けど、漢字で書くのは大変だと思う。
百姉さんは『クリエイティ』だった。ピッタリだと思う。
…もしかしたら僕の『創』から取って…いやそんな訳ないか。
百姉さんが僕ごときを思っているなんておこがましい。おこがMAXだ。
「…決まりました!」
「それじゃあ、相心くん!どうぞ!」
空論の実現 ハンドレット
「空論の実現とは大きく出たわね…この名前にした理由を聞いてもいいかしら?」
「は、ハンドレットは『百』を意味する英語です。
この数字は僕にとってどんな数よりも大きくて、信頼できる数字なんです。
だから…この名前だったら、何でもできると思ってこの名前にしました。」
クラスの皆が百姉さんの方を見る。…流石に分かりやす過ぎるか。
でも、本当にそう思っている。ビビりな僕だけど、百姉さんと一緒なら何でもできる。
いつも一緒にいられる訳じゃないから、名前だけでも一緒にいたい。
「…いいじゃない。アツい感情がひしひしと伝わってくるわ。
頑張りなさい、『ハンドレット』。」
ミッドナイト先生が頭をポンポンしてくれた。
嬉しいですけど、…子ども扱いしてませんよね?
皆のヒーロー名が決まった後、職場体験先を決めることになった。
僕に渡されたリストは相当なものだった。ざっと目を通す。
その中でとあるヒーロー事務所の住所に目が留まった。
「…東京都保須市…確かヒーロー殺しの…」
その時、いやなことを想像してしまった。
様子のおかしい飯田さん、お兄さんの事件、ヒーロー殺しの活動…
まさか…僕の想像ではなく妄想であってほしい。だから飯田さんに聞いてみる。
「あ、あの、飯田さん…職場体験先どこにしました…?」
「ああ、相心くんか。マニュアルさんの事務所にしたよ。」
その言葉を聞いてしまい、僕は妄想が現実になりかねないと思ってしまった。
「相心くんはどこにするんだ?八百万くんと一緒の所に行くのかい?」
「あ、え、こ、今回は百姉さん離れの訓練をしようかなって…
あ、ありがとう飯田さん。参考にするね…」
一応、(僕の中では)それっぽい理由を付けて飯田さんとの会話を終わらせる。
家に帰って職場体験先を考える。
「…どうすればいいんだ…」
上位のヒーローからの指名はたくさん来ている。そこに行けばいい経験ができる。
でも…『あの飯田さん』を無視していいのか…?
とりあえず百姉さんに電話する。
「百姉さん?ちょっと相談したいことがあるんだけど…」
「なんでしょうか創さん?どんなことでも受けますわ。」
一通りの事情を説明する。
「なるほど…委員長として見逃せないことではありますが…
人には人の事情があります。下手に触れるのもよろしくないかと思います。」
百姉さんの意見はもっともだ。身内の不幸なんて下手に触れられたくないはずだ。
「そう…だよね。ありがとう、百姉さん。ちょっと心が軽くなったよ。」
「いつでも頼ってください。…私は創さんの頼れる『百姉さん』ですから。」
百姉さんとの電話を切る。
関わらない方がいいのかもしれない。
だって飯田さんの問題に僕が首を突っ込むのは筋違いだ。
でも…それでいいのか?でも、百姉さんもそう言ってるし…困った…
『困ったことがあれば何でも相談しろよ!』
僕は鋭児郎君に電話をかける。
「もしもし、鋭児郎君?僕、相心創って言うんだけど…」
「そんなの知ってるぜ?そんなにテンパってどうしたんだ?」
開口一番しくじった。いや、そんなこと気にしている場合じゃない。
「…鋭児郎君。
もし、鋭児郎君が…誰にも何も言えず、一人で困っている人を見かけたら」
「んなもん助けに行くに決まってるだろ。…なんか困ってるのか創?」
鋭児郎君は即答した。…そうだよね。鋭児郎君なら、いや、ヒーローなら当然だよね。
「…職場体験への自信がなくてさ。鋭児郎君に勇気を貰いたかったんだ。」
「なんだよ、創がヤバい状況なのかと焦ったぜ…
失敗したって大丈夫だ。お前が歩みを止めない限り、必ずそこは道となるからよ。」
電話越しに拳を振るう音がする。僕も拳を振るって答える。
すごく気分が明るくなった。
職場体験が始まる。僕は飯田さんと一緒に電車でマニュアルさんの事務所に向かう。
「い、一緒になるなんて奇遇だね!飯田さんは頼れるから頼りにするね!」
「…奇遇なわけないだろう。なぜ『僕と一緒に行く』と決めたんだ?」
すぐにバレた。取り繕うのはやめよう。
「…僕には飯田さんがどんなことを考えているのか分からない。
お兄さんのこと、ヒーロー殺しのこと、職場体験のこと…想像の範疇でしかないけど…
『お兄さんの仇討ち』を考えているんじゃないかなって…」
飯田さんの表情が固まる。
「僕は…『復讐が動機』なのを悪いことだとは思わないよ。」
飯田さんが驚いたような顔で僕を見つめる。
「もし、百姉さんがヒーロー殺しの被害にあったら…
僕だって飯田さんと同じことを思う。同じ行動をすると思う。
だから…復讐を動機にする飯田さんに何か言うことはできない。」
僕は正直に思ったことを、そのまま口にした。
「だったら…だったらなぜ僕についてきたんだ!?これは僕の問題なんだ!」
飯田さんは拳を握り締め、僕に向かって叫ぶ。
「…だ、だからこそ…飯田さんの手だけじゃなくて、
プロヒーローと協力して…『正しく復讐する』べき…だと思う…」
飯田さんに気圧されながらも、僕は言葉を返した。
「ぼ、僕は…これを言うためだけに飯田さんについてきたんだ…
分かり切ってることだとは思うけど…様子がおかしかったから…
め、迷惑だったよね…?ごめん…言い過ぎ」
「いや…僕が間違っていた。すまなかった、相心くん。」
飯田さんが頭を下げて謝る。
「ヒーローが復讐するなどよくないと勝手に思っていた。
だから、僕一人でどうにかしようと思っていた。だが…
相心くんの言うとおりだ。『正しく復讐する』べきだ。
…僕と一緒に『兄さんの仇討ち』をしてくれないか?」
飯田さんが手を差し出してくれた。
「もちろんだよ。飯田さん…いや、天哉君。」
その手を強く握り返す。僕だって覚悟を決めなきゃいけない。
次回、創君大活躍回です。