ついに合宿が始まった。仮免許取得に向けた強化合宿だというけど…
「が、頑張りましょうね!百姉さん!」
「っ、ええ…頑張りましょう、創さん…」
百姉さんの様子がおかしい。なんというか…僕を避けているような…
「その…百姉さん、僕…百姉さんに何かしました…?もしかして狂戦士時に」
「そうじゃありませんの…ただ…ごめんなさい…どうしても言えませんの…」
それ以上は聞かないことにした…いや、どうしても聞く気になれなかった…
なんとか宿舎に付き、ご飯を食べ、お風呂に入る。
…よくわからない。百姉さんにいったい何があったのか…それしか考え
「おい相心…分かってるよな…お前の"被想像"の使い方をよ…」
峰田さんが僕の肩をグッとつかむ。
「…ここで八百万を"被想像"するんだよ。もちろん裸のな…」
峰田さんが何を言っているのか分からなかった。
「お前はいつも"想像"しているだろ?あのヤオヨロッパイをよ…今日ぐらいおすそ分け」
「ふざけるなよ!?言って良いことと悪いことがあるだろ!?」
僕は峰田さんの肩を掴んで叫んでいた。
「百姉さんが何にどれだけ苦しんでいるのか分からないのに!
ちょっとでも百姉さんの力になりたいのになれなくて!
僕だって困っているのに!そんなふざけたことができるわけないだろ!?
この…大馬鹿野郎!!!」
拳を峰田に向けて振りかぶる。
「止めろ創!」
鋭児郎君が僕を抱きかかえて止める。
「なにするんだ鋭児郎君!こいつは…こいつは許しちゃいけない!」
「創の言ってることは分かる!だけどよ!
だからと言って仲間を殴っていい理由にはならねえだろ!?」
鋭児郎君に言われてはっと気づく。そうだ今僕は…
「…ごめん…」
誰に何を謝ったのか分からない。でも、この場にはいられないと思って逃げ出した。
二人の大声は女子風呂にも届いていました。
「今の声って…相心と切島のだよね?」
「きっと峰田君が『八百万を"想像"しろ』って頼んだんじゃないかな?」
「最低だわ、峰田ちゃん…」
「…皆さん…このあと少しお時間を頂いでもいいでしょうか…」
皆様は嫌な顔一つせず、頷いてくれました。
就寝時間になり、女子の皆様が私の周りに集まりました。
「ヤオモモ、峰田のことは気にしちゃだめだよ。きっちり締めた」
「私が気にかけているのはそこではありません…創さんの発言です…」
私は女子の皆様に創さんへの想いを語りました。
「私…創さんにどう接したらいいかわからないんです…
このまま『百姉さん』として創さんの頼れる存在であるべきなのか…
それとも『八百万百』として創さんに想いを伝えていいのか…
伝えたとしても受け入れてもらえないんじゃないかと思うと…!」
涙が止まりませんでした。胸に抱えていた重みが辛くて。
「大丈夫だよ、ヤオモモ。何があっても…私たちのヤオモモじゃん。」
芦戸さんが私を抱き寄せてくれました。両親のハグとは違う温かさがありました。
「そうよ。例え百ちゃんに何があっても…『頼れる百ちゃん』に変わりはないわ。」
「そうだよ!ヤオモモじゃなきゃ私たちをまとめられないよ!」
「ちょっとちょっと、百ちゃんを頼りすぎだよ…
今度は、私たちが百ちゃんの頼りになる番だよ!」
「だからさ…ヤオモモ、ウチらが付いてるから…ヤオモモのしたいようにしなよ。」
皆さんの温かい言葉が支えになり、私の心を押し上げてくれました。
『頼ってもいい』。創さんが私を頼りにするように、私も誰かを『頼りにしてもいい』。
簡単なことでしたが、『百姉さん』として過ごしている間に忘れていました。
「ありがとう…ございます…!」
私は泣きながら決心をしました。この合宿が終わったら、創さんに想いを伝えると。
同時刻 宿舎のバルコニー
眠れない夜なんて言うとかっこいいけど…その実は不安で眠れないだけだ。
峰田さんに手を出しかけた件、逃げ出した件、何より百姉さんの件…まともに眠れない。
月明かりが照らすバルコニーに来たけど、僕の道は照らしてくれない。
「早く寝た方がいいぞ…明日も厳しい訓練が待っているからな。」
後ろから相澤先生に声をかけられる。
「…眠れないので相談に乗ってくれますか?」
「…手短にしろよ。」
僕は相澤先生に百姉さんのことを相談した。
「僕なんかにどうにかできる問題じゃないのは分かって」
「お前はもう少し自分に自信を持て。」
相澤先生はぴしゃりと遮った。
「…自信を持ちすぎるのもどうかと思うが、自信がなさすぎるのはもっと問題だ。
お前は何のためにヒーローを目指すんだ?八百万におんぶやだっこをしてもらうためか?」
そんな訳ない。僕が百姉さんの足を引っ張るなんてことはあっちゃいけない。
「百姉さんと一緒に…ずっと一緒にいるためです。」
「…八百万だって人間だ。悩みや不安で押しつぶされそうになる時ぐらいある。
その時にお前まで困っていたら…八百万は何も出来なくなっちまう。
そうならないためにも…自信を持て。お前は…俺の同級生に似ているからな。」
相澤先生曰く、自信過剰な僕みたいな同級生がいたそうだ。
見た目が似ているからできるだろ、
なんて相澤先生らしくない発言に思わず笑ってしまった。
「…ありがとうございました。相澤先生。とても気持ちが軽くなりました。」
「…一言アドバイスをしよう。思いは言葉にしなければ届かない。
何をどう思っているか…はっきり言うんだ。伝えておかないと…人は壊れる。」
相澤先生に一礼をして、寝室に向かう。
…そういえばなんで相澤先生は起きていたんだろう?…って見回りか。
僕みたいな生徒の為にわざわざありがとうございます、相澤先生。
月光に照らされた創の赤い髪を見て、俺は終を思い出した。
「朧。覗くぐらいならあたしの裸で勘弁してやる。だから菓子よこせ。」
「菓子やったら見せてくれるのか!?」
「馬鹿野郎、ばれたら大問題になるぞ。相心もからかうな。」
「…ふん。この根暗男が。あたしの裸でも想像してろ。
そうしたら…その代金として菓子を貰いに来てやる。」
「ただ菓子が食いてえだけじゃねえのか相心!?素直に言えよ!?」
「…姉弟揃って問題児だよ、全く…」
届きもしない月に手を伸ばす。終なら月にも手が届くだろうか。
『月に手が届けば…朧も妾のものになるだろう…』
あの日から変わった、終の声が聞こえた気がした。
これは私の考えなのですが、曇らせたら早めに立ち直らせてあげたいんですよ…
だって、ハッピーエンド至上主義者ですから…