公安に入ったあたしに待っていたのは地獄のような日々だった。
身体能力の強化は当然として、"個性"の訓練の為にあらゆることを経験させられた。
一通りの怪我や事故に巻き込まれ、死にかける事なんて日常茶飯事だった。
世界を統べるなんて言うバカみたいな夢しか支えのないあたしは…壊れそうだった。
訓練を終えたあたしは床に崩れてぼやいた。
「…世界を統べるなんて…馬鹿な夢を持ったものね…」
ここで諦めて死んでしまえば朧に会えるだろうか。
「いい夢じゃないか。詳しく聞かせてくれないか?」
そこに手を差し伸べてくれたのが火伊那さんだった。
火伊那さんに連れて行かれて一緒にお風呂に入ることになった。
「女同士、裸の付き合いをするのも悪くないだろう?」
美男美女が好きなあたしとしては嬉しい誘いだったわ。
「あたしの夢をお風呂で語ると…のぼせますよ?」
あたしは傷だらけの体を露にして火伊那さんに威嚇をしたわ。
それを見て火伊那さんはちょっと驚いた顔をしていたわ。
「…なるほど。これは聞き甲斐がありそうだな。」
「アイスミルクを奢ってくれるなら話しますよ、先輩。」
お風呂に入っている間は火伊那さんの麗しきボディーを眺めていたわ。
「私の体を見る暇があったら話をしてほしいものだな?」
流石にバレたわ。だから、あたしは開き直ったわ。
「あたし、いいと思った人なら男とか女とかどうでもいいんですよ。」
あたしの伴侶が男か女かなんて些細なことよ。
「恋バナのつもりか?人の好みにとやかく言うつもりはないが…」
「それでできれば美しい人がいいんですよ。そして」
「まて。そういう話がしたい訳ではない。お前の過去の話だ。」
火伊那さんと恋バナをするのはまたの機会になったわ。
あたしの過去はそれなりに重いものがある、だから再び威嚇する。
「語ると6000文字超えますよ?」
「…過去の話だよな?お前の好みの話ではないよな?」
「好みは語りだすと倍はかかりますよ?」
「分かった。早く風呂を出て話をしよう。」
火伊那さんは手早くお風呂から出て行ったわ。もう少し見ていたかったわ。
ということで火伊那さんの部屋で話すことになったわ。
ぬいぐるみとかドーナツのクッションとか可愛らしいものがいっぱいあって驚いたわ。
「何から話した方がいいでしょうか先輩?あたしの性癖」
「過去を話せ。牛乳二瓶奢って開口一番にそんな話は聞きたくない。」
ということで火伊那さんにあたしの過去を話したわ。
全世界チャートNo.1ヒーローを目指した事。雄英高校に入った事。
学友と青春の日々を過ごした事。その中で白雲朧に恋をした事。
事件の中で朧を失った事。そこからあたしが壊れた事。
その中で弟に殺されかけた事。目覚めて公安で世界を統べようとした事。
色々話してスッキリしたあたしは火伊那さんにお願いをした。
「ドーナツありますか先輩?クッション見てたらお腹空いちゃいました。」
「今の話の流れからよく言い出せるな…あるから出してやるが…」
駄菓子の安っぽいドーナツだったけど、それはそれでおいしかった。
「というわけであたしと先輩は一蓮托生になりましたね。
これからお付き合いお願いします。公安ってデートスポットありますか?」
「…まて、話が全く見えないぞ?お付き合い?デート?」
この時の火伊那さんは面白かったわ。空いたグラスにドーナツを注いでたもの。
「だってあたしは世間には死んだことになっているんです。
そんな人物の過去を知って、
裸の付き合いまでしたら責任取ってもらうしかないですよね?」
あたしは堂々と言い切ってやったわ。
「…どれだけ自分中心で物事を考えれたらそうなれるんだ…」
火伊那さんは呆れた顔をしていたけれど…あたしを否定しなかったわ。
「…まあ、迂闊に踏み込んだ私にも非がある。分かった。よろしく頼むぞ。」
ここからあたしと火伊那さんはコンビになったわ。
公安のレディコンビの活躍はすさまじかったわ。
まず、マイフェアレディの火伊那さん。銃器の扱いで右に出るものはいなかった。
そしてフィアーレディ(Fear lady)ことあたし。
第三者から見たら事故にしか見えないような殺しはまさに『恐怖の女』だったわ。
二人が揃うとどうなるか?あたしが視認できれば誰が何処にいたって狙撃可能よ。
…一回火伊那さんに頭を銃で撃ってもらった時は、よくない快感が走ったわ。
何にせよ、公安の最強コンビであったのは間違いないわ。
だからこそ、あたしは怖かった。火伊那さんを失うのが。
もし、火伊那さんを失ったら、二度と立ち上がれないと思うほどに。
ある日、火伊那さんをあたしの部屋に呼び出したの。
「どうした終?次の作戦で不安なことでも」
あたしは火伊那さんの胸に飛び込んだ。
「火伊那さん…あたし怖いの…また大切な人を失うんじゃないかって…」
信頼できる火伊那さんだから本音を明かす。もう、失いたくない。
だから、世界を統べて、安心できる世界にしたいと。
「…だから、終は我儘なんだな…」
火伊那さんはあたしの髪を優しく撫でてくれた。
「大丈夫だ。少なくとも…私は終のそばにいるよ。」
「かいなさん…うあああん…かいなさあああん…」
私は火伊那さんの胸で泣いた。ここまで泣いたのは朧を失った時ぐらいよ。
ひとしきり泣いたあたしはもっと火伊那さんのぬくもりが欲しかった。
「…言葉だけじゃ足りないです…キスしてください…」
「キ、キス!?いや、そういう趣味嗜好を否定するつもりはないが…」
「ダメですか…?」
あたしの涙ながらの懇願に、火伊那さんは屈した。
「わ、わかった…だが、その、私も経験がなくてな…うまくできるか…」
「あたしも初めてです…大丈夫です…」
不慣れな二人の唇が重なる。意外と甘い味がした。
「…こ、これでいいか?」
「…ちょっと安心しました。でも、もっとしたいです…」
しばらく、二人の仲睦まじい時間が続いたわ。
「…キスだけのつもりだったのだが…」
「あたしが満たされたから大丈夫よ、火伊那さん。」
スッキリしたあたしは堂々と言い放ったわ。
「…まあ、これでお前の不安を取り除けたなら何も言わん。」
「また不安になったらよろしくお願いします、火伊那さん。」
火伊那さんは満更でもない顔で頷いてくれたわ。
「…大好きよ。火伊那さん。」
あたしは思い出から覚め、改めて火伊那さんに想いを伝える。
「私もだ、終。お前がいなかったら私は…道を踏み外していた。」
火伊那さんがあたしを助けてくれたように、
あたしが火伊那さんを助けた話もあるけど…
それはまた別の機会にさせてもらうわ。
終姉さんとナガンさんは結構がっつりやってる関係です。