僕と百姉さんの発言を聞いて、終姉さんはにやりと笑う。
「ドーナツとアイスミルク買ってきてくれる?そうしたらインターン、公安で受け入」
とうとう相澤先生が終姉さんの口を捕縛布で塞いだ。
「…創、八百万、ドーナツとアイスミルクを頼む。
俺の財布からいくらでも出していい。あと、応接室に場所を移す。
マイクとミッドナイトが来たらもっと騒がしくなる。」
相澤先生から財布を渡され、百姉さんと購買部に向かった。
僕の"想像"で作った買い物カートでドーナツとアイスミルクを運び、
相澤先生と終姉さんが待つ応接室の扉を開く。
「で、その火伊那さんの抱き心地が最高なのよ。いい匂いするし、モチモチだし」
相澤先生が手慣れた布捌きで、終姉さんから発言権を奪う。
「すまないな、創、八百万。さて…ここからが大変だ。気合い入れろよ。」
僕と百姉さんは終姉さんから公安でのインターンの説明を受ける。
「っあー…公安も人手不足なのよ。実力のあるなら仮免でも大歓迎よ。」
終姉さんは牛乳を勢いよく飲み干して、決めた顔をしている。
「いや…そんな口元に白いひげを作って説明しました感出されても…」
「何も説明にもなっていませんわ。もう少し詳しい説明をしてください。」
「もうドーナツを三つも食いやがって…お前の燃費はどうなってるんだ?」
冗談はさておき、と終姉さんが真剣な顔つきをする。
「正直、創と百ちゃんは実力があっても心がまだ追いついていないの。」
僕と百姉さんはお互いに頼り合っている。技術的な面も精神的な面もだ。
「心の成長は普通の実戦じゃできないのよ。
ただのぬるいインターンじゃなおさらよ。」
「プロと一緒に戦うこともあるインターンがぬるいとでも」
「人の死を日常的に見れるかしら?実戦で最も辛いことを日常的に見れるかしら?」
終姉さんの一言は場の空気を凍らせた。
自分が死ぬことは受け入れられても、
誰かが死ぬことは簡単には受け入れられない。
「二人は真面目でいい子よ。でも、いい子過ぎるのよ。
もし自分の手で人を助けられなかったら…夢を諦めてしまいかねないほどにね。」
もしそんなことがあったら…僕はそうしてしまうかもしれない。
百姉さんも同じような顔をしていた。
「一回の失敗で諦めるようじゃヒーローなんてできないでしょ?
だから、心を強くするためにも公安でインターンをしてほしいのよ。」
真剣な眼差しで終姉さんが見つめてくる。
「貴方達は間違いなく死人をみる。人が死ぬ、いえ、殺される瞬間を見る。
そのうえで…公安でのインターンを望む」
「望みます。」
「望みますわ。」
誰かを助けていく中で、他者の死を避けることはできない。
それを乗り越えて、僕と百姉さんはもっと成長しなきゃいけない。
死者と関わりかねない案件は、公安でなければ経験できないだろう。
僕と百姉さんが断る理由なんてどこにもなかった。
百姉さんがカッと笑う。
「というわけでこの二人は公安で育て上げるわ、相澤。
生徒の任意があった以上、あんたには口出しできないわよ。」
相沢先生がどうしたものかと頭を抱えた。
「公安に行かれるとレポートの要求ができないんだよ…
しっかりやっていましたと言われたら、それ以上は聞けないんだよ…」
教員としては悩ましい部分なのかもしれない。
そしてインターン初日、僕は公安の車に乗って本部に案内された。
入り口でコスチューム姿の百姉さんと出会う。
「お、おはようございます、百姉さん…相変わらず美しいですね…」
「創さんは余裕がありますわね…私も見習わないと…!」
余裕なんかないですよ、百姉さん…思ったことを言ただけで
「朝から見せつけてくれるわね…あたし達も見せつけましょ、火伊那さん。」
「今はナガンと呼べ。…まあ、見せつけてやるのは悪くないかもな。」
終姉さんとダークブルーとピンク色の髪の人がやってきた。
「改めて自己紹介させてもらうわ。あたしは相心終。
ヒーロー名は『機械仕掛けの神』…マキナと呼ぶことを許可しよう。」
「私の名前は筒美火伊那。ヒーロー名は『レディ・ナガン』だ。
ナガンと呼んでくれ。レディの方だと分からないからな。」
左手の薬指にはめてる指輪を見せつけながら自己紹介してくれた。
「まあ…!お二人はそういう関係なのですか…!?」
百姉さんがプリプリしながら近づいていった。
「結婚初夜は激しかったわね…翌日の任務が大変だったわ。」
「まあ!そこまでの関係だったのですか!?」
「体の関係は前からあったがな。お前はいつも強引すぎるんだ。
『結婚しましょ火伊那さん!』と指輪を渡された私の気持ちを考えろ。」
「嬉しかったでしょ?」
「…まあ…否定はしない。だが、もっとムードとか」
「あのー…公安の仕事の説明とかしていただけると…」
長くなりそうだったから僕が先陣を切ることにした。
三人はハッと我に返りそれぞれの立ち位置に戻る。
「ここで話すのもあれね。あたしの部屋で話しましょ。」
終姉さんの部屋に案内される。
黒いスケスケの下着が何着も吊るされていた。
「あっ、ごめん。下着干していたわ。しまうから待ってて。」
僕と百姉さんとナガンさんは終姉さんに部屋を追い出された。
「すみません…僕の姉が…」
「…大丈夫だ。いつもあんな調子だ。お前達も早めに慣れておけ。」
ナガンさんがため息交じりに教えてくれた。
「失礼ですが…終さんはあれで大丈夫なのでしょうか…?」
僕が思っていても、言わなかったことを百姉さんが言ってくれた。
「大丈夫なわけないだろう。…マキナでなかったらな。」
ナガンさんは終姉さんについて少し語ってくれた。
性格や態度は人間としてどうかしているが、実績がありすぎると。
終姉さんのおかげで裏社会にかなりの牽制ができていると。
何より、ナガンさん自身を救ってくれたことがあるからだと。
しばらく経って、終姉さんがドアを開ける。
「お待たせしたわね。ドーナツとアイスミルクで歓迎会よ。」
服をしまうにしては時間がかかると思ったらそういうことだったらしい。
4人でドーナツを食べながら公安の仕事を説明してもらう。
情報収集や機密情報の管理そして…殺人。
「この後2件あるから、1件は見ておきなさい。」
まるで恋バナをしているかのような、そんな軽さでその言葉は跳び出してきた。
「…いきなり見せるのはどうかと思うぞ?
どうやって殺人にいたるまでを説明してからでも」
「どうしてそいつが殺されるかなんて想像がつくでしょ?
それよりも実物を見て早く慣れた方がいいわ。」
終姉さんの眼が本気になった。
「ハンドレット、クリエイティ、エチケット袋を用意しておきなさい。
客観的に人の死を目の当たりにすると…高確率で嘔吐するわ。」
この時、僕は公安で一線を越えるだろうと覚悟した。
前作はこの話数で本編終了でした。
そう考えると今作は長めですね。
というわけでゲロヤバインターン編開幕です。