マキナさんとナガンさんに連れられて僕と百姉さんは現場に到着する。
「流石に殺しの手伝いをしろなんて言わないわ。」
「それを言い出したら本気で止めるからなマキナ。」
口では冗談を言っている二人だが、目が全く笑っていない。
終姉さんからもらった資料に目を通す。
標的の人物『サワギ・オーコス』は秘密裏にテロの準備をしているという。
捕まえるにしても証拠がなく、しかしテロの決起までは時間がない。
それでも、死んでいい人間かどうか僕にはわからなかった。
「は、話し合って解決しても」
「このテロが起こったら死傷者は2桁じゃすまないわ。
その死傷者の関係者にあんたが納得のいく話ができるならやめるわ。」
終姉さんにそう言われたら、僕は黙るしかなかった。
「…人を助けて解決できるヒーローはいくらでもいる。
だが、人を殺して解決できるヒーローは限られている…」
ナガンさんがライフルを構えながら呟いた。
「殺すことは誰にでもできても…
殺した事実を耐えれる人間は少ないからでしょうか。」
「流石百ちゃ…クリエイティね。正解よ。ポイント+10点。」
そしてその時が来た。
「『想像せよ。』『オーコスは頭を銃弾で貫かれる。』」
終姉さんが宣言すると同時に、ナガンさんのライフルが火を噴く。
「しっかり見てなさい。人が殺されるところを。」
終姉さんに言われ、僕と百姉さんはゴーグルでオーコスを見つめる。
銃弾で打ち抜かれたオーコスはそのまま吹っ飛び、路地裏へと消えた。
僕の意に反して、残酷なものではなかった。てっきり頭がはじけ飛ぶかと思っていた。
「…私はてっきり、頭がはじけ飛ぶものかと…」
百姉さんも同じ考えだったようだ。少し安心した顔をしている。
「そんな派手に殺すわけないでしょ。目立たないようにひっそりとやるのよ。」
「もっとも…『事故の印象を付ける』ために派手にやることはあるがな。」
終姉さんとナガンさんは、何事もなかったかのように次の現場へ案内を始める。
「さて…次は事故を演出して殺すわ。スプラッターな瞬間を見るから…
覚悟とエチケット袋の準備をしておきなさい。」
次の標的『鉄火捌』は敵に武器を売る裏商人だ。
「武器を持って歩いているなら…いつ『暴発』してもおかしくないわよね?」
終姉さんが標的をゴーグル越しにとらえたようだ。
「『想像せよ。』『捌は爆発する。』」
捌の足元に手榴弾が転がる。すでにピンが抜かれていた。
瞬間、爆発音が響き渡る。そして、バラバラになった捌が地面に広がる。
「うっ…!ぐっ…!」
あまりの光景に胃液がこみあげてくる。僕はなんとか堪えれた。
「うっ…すみません…!」
けど、百姉さんは駄目だった。横からあまり聞いてはいけない音が聞こえる。
「だからドーナツとアイスミルクにしたのよ。これが辛い物だったら悲惨よ?」
「吐くならましなものを吐かせると…もっと別の方向で気遣ってやれ。」
二人は平然としている。経験が人をこうするのだろうか。
少なくとも、今の僕と百姉さんにはまねできない。
帰りの車の中、百姉さんはガタガタ震えていた。
あんな光景を見ておいて、平常を保っていられる人間の方がおかしい。
「大丈夫ですよ、百姉さ」
「大丈夫なわけないでしょ。追いつめられてる人間への言葉は選んだ方がいいわ。」
終姉さんが僕の言葉を遮った。
「今、百ちゃんは自信を無くしている、というかあたしがなくさせたけど。」
あまりにも非常識な発言に僕は終姉さんに敵意を向けた。
「何でこんなことをするんですか!?」
「あんたたちは今一人のプロとして立っているのよ?
プロがたった一人の死を見ただけで働けなくなりましたなんて言える?」
そう言う話じゃない。
「自信を無くさせるなら実力で圧倒すればいいじゃないですか!?
なんでわざわざこんな残酷な場面を見せて」
「敵はこうしてくるわ。余裕のない奴は平然と殺しを選んでいるのよ。」
この時、僕は思った。終姉さんはまともじゃないと。
この人の基準は善人じゃなくて、悪人なんだと。
そもそもこの人は善人じゃなくて、善行をしている悪人なんだと。
公安に戻って終姉さんは開口一番こう告げた。
「今日起きた事は極秘よ。関係者以外に言ってはいけないし、相談もダメ。
レポートに書くなんてもってのほか。課題が減ってよかったわね。」
何で終姉さんはこんな態度を取れるのだろう?
人を殺し、殺しの現場を見せて人の心を砕いたというのに。
「…マキナ。もう少し言葉を選べ。相手はまだ学生」
「学生書があれば現実を見なくていいなら、偽造してでも手に入れるわ?」
ナガンさんの忠告もむなしく、終姉さんはどこかに去って行った。
「…すまない。確かに、奴が言っていることは正論だ。
だが、正論なら何でも言って良い訳ではない。後できつく言って」
「いえ…終さんの言う通りですわ…」
百姉さんは力なく呟いた。
「これで止まってしまうようなら…ヒーローにふさわしくないですから…」
そして、百姉さんはとんでもないことを言った。
「オーコスさんと捌さんの死体…ありますか?見学したいです…」
「…無理をするな。今日でそこまでやる必要は」
「早く慣れないといけませんから。お願いします。」
僕は思わず百姉さんの手を握った。
「今日はもういいよ!二人でいろいろ話し合って整理して」
百姉さんが僕の手を握り返した。
「大丈夫です。創さんがいますから。」
その顔は、笑っていたけど、笑っていなかった。
僕は百姉さんが帰ってくるまで待っていた。
流石に一緒に死体を見る気にはなれなかった。
少なくとも、『今の百姉さん』と見る気にはなれなかった。
どうすればいいんだろう。何を言えばいいんだろう。
『追いつめられてる人間への言葉は選んだ方がいいわ。』
『大丈夫です。創さんがいますから。』
何を言えば、今の百姉さんを助けられるのだろう。
僕の中で答えが出ないまま、百姉さんがナガンさんと一緒に帰ってきた。
「も、百姉さん…どうだった?」
何を聞いているんだ。そんなことを聞いてもし『大丈夫』なんて返ってきたら
「大丈夫です。一度吐いてしまいましたが…少し慣れました。」
返ってきたら、僕はそれに頷くしかない。だから、頷いてしまった。
こうして、僕と百姉さんのとんでもないインターンの初日が終わった。
「終!あの発言はなんだ!?いくらなんでもひどすぎるぞ!?」
分かっている。あたしだって本心からあんなこと言っているんじゃない。
「あのまま創と八百万に何かあったらどう責任を取るつもりだ!?」
その時は何でもする。この手で火伊那さんを殺せと言われてもやる。
「何か言ったらどう…だ…」
「大丈夫よ。人から強く言われるのは、慣れているから。」
だって、もう失いたくないから。次失ったら立ち直れないから。
だったら、あたしの体と心が壊れてもいいから。
それで、あの二人が守れるなら私はどうなってもいいから。
「…泣くほど辛いなら無理にしなくても」
「辛いことしなきゃ、成長しないでしょ?」
あたしもまだまだね。こんなことで泣くなんて。
本当にいかれていますね終姉さん…書いていて楽しいです。
次回、創君と百姉さんが一線を越えます。