インターン二日目が始まった。
「おはようございます。創さん。ご機嫌いかがですか?」
百姉さんが笑いながら尋ねてきた。目元が腫れている。
「あっ…いえ、大丈夫です。百姉さんも…」
言いかけて止めた。きっと『大丈夫』しか返ってこないから。
終さんとナガンさんが、妙に距離を取りながらやってきた。
「さてさて…今日は機密情報の扱い方をレクチャーするわ。」
「…昨日よりは平和に終わるだろう。だが、気は抜くなよ。」
きっとあの後、説教をしたのだろう。気まずいのはお互い同じようだ。
「…と言いたいが、ハンドレット。少し話がある。」
ナガンさんに呼ばれて少し話をする。
「あらあら、寝取られちゃったわね百ちゃん?」
「創さんは浮気なんかしませんわ。頼りにしていますもの。」
妙な会話をする二人を放っておいて、ナガンさんは話してくれた。
「辛いときほど頼りになる人物を頼れないんだ。
そういう時は、手を差し伸べろ。
本当に頼りになるなら、その手を取るはずだ。」
ナガンさんが何を言いたいのか、よくわかった。
「…もちろんです。そういう経験がありますから。」
終姉さんに案内されて取調室に到着した。
一般的な取調室とは違い、外から見えず、窓もついていない。
「公安一の人気スポットね。カメラとかついていないから…
部屋で起きたことは部屋にいる人間にしか分から」
「折角だ。二人で体験してこい。…妙なことはするなよ?」
ナガンさんに押されて、僕と百姉さんが取調室に閉じ込められる。
百姉さんと二人きりになる。今しかない。
僕は覚悟を決めて百姉さんに話しかける。
「百姉さん…本当に『大丈夫』ですか…?」
百姉さんは昨日と同じく笑ってない笑顔で答えた。
「『大丈夫』ですよ。創さん。慣れましたから。」
間違いない。絶対に『大丈夫』じゃない。
「創さんも早く慣れたほうがいい」
「そんなのおかしいよ百姉さん。あんな光景を見て、すぐ慣れる方がおかしいよ。」
僕は百姉さんの言葉を遮って否定する。
「目の前で人が死んで、それをすぐ受け入れて、普段通りなんて…
そんなの絶対おかしいよ!僕だって受け入れられなかったんだよ!?」
「受け入れることができなければヒーローなど続けられません!
創さんは私と一緒にヒーローになるのではなかったのですか!?」
僕の言葉の勢いに合わせて、百姉さんも反論してきた。
「違う!百姉さんは受け入れられていないよ!強がっているだけだ!」
「私は受け入れられましたわ!だからこうやってここに」
「だったらなんで誰にも知られないように泣いたんだ!
受け入れたのなら泣いたことぐらい知られたっていいはずだ!」
よく泣く僕だからわかる。あの目の腫れは泣いた証拠だ。
「そ、それは…ヒーローは人前で泣くものでは」
「だったら僕の前で泣いた百姉さんはヒーローじゃないって言いたいの!?
そんな訳ないよ!百姉さんはいつも、いつまでも僕のヒーローだ!」
僕の目から涙がこぼれる。それでも、止める訳にはいかない。
「僕は、何回百姉さんに助けられたか分からないし、
これからも何回助けてもらうか分からない!
だって、百姉さんは僕の『頼れるヒーロー』だから!」
「は、創さん…でも、それでも私は」
「百姉さんも僕を頼ってよ!辛かったら辛いって言ってよ!
一人で抱えきれないものがあったら僕も支えるから!
それでも支え切れなかったらみんなで支えるから!
だから、まずは僕を頼ってよ!百姉さんのためなら何でもできると思うから!」
僕は大泣きしながら、百姉さんに向かって手を差し伸べる。
「…本当に『大丈夫』なら…この手を払って。
そしたら、もう、何も言わないから…」
お願いします。どうかこの手を握ってください。払われたら僕は
「…創さん…助けてください…」
百姉さんは泣きながら僕の手に縋りついた。
「悪人だからと人の命を簡単に奪って…!
人の死を受け入れなければヒーローはできないと言われて…!
だから強がることしかできなくなってしまって…!
それでも悪夢を見て泣いてしまって…!
何をどうしたらいいのか分からなくなってしまって…!」
百姉さんは心を打ち明けてくれた。僕を頼ってくれた。
「百姉さん。僕がいます。だから…『大丈夫』だと思います。」
僕は百姉さんを優しく抱きしめる。
「創さん…そこは『大丈夫だ』と…断言してください…!」
確かにちょっと頼り無い言い方だったかもしれない。
でも、百姉さんは僕の胸で大泣きしている。これでいいと思う。
「…ありがとうございます、創さん。あの時みたいですね。」
百姉さんはにっこりと笑う。いつもの百姉さんに戻ったみたいだ。
「僕も辛かったんですよ?だから…今度は僕が百姉さんを頼ります。」
僕は百姉さんに抱き着く。
「…百姉さん、僕も怖かったです。人の良くないところが見えて…
自分の理解しえない存在が人の理を話していて…すごく怖かったです。」
百姉さんが頭を撫でてくれる。優しくて暖かな手だった。
「大丈夫ですよ、創さん。私がいますから。」
僕は百姉さんに抱かれながら涙を流した。
百姉さんと一緒に部屋から出た。
「随分とスッキリした顔ね。気持ちよかった?」
「おい、終。言葉を選べ。まだ学生だぞ。」
「何言ってるのよ?男女の学生個室に閉じ込めたらヤるで」
「あの!長話をしてすみませんでした!」
終姉さんのよくない話をぶった切る。
「…ヤッた?」
「しませんよ!?インターン先でそんなこ」
「あたしと火伊那さんはそんなことをするためによくここ使うわよ?」
この人が身内であることは一生消えない恥になるだろう。
僕と終姉さんのやりとりの声が大きかったせいか百姉さんが興味を示す。
「あの…『ヤる』とか『そんなこと』とは…」
ヤバい。一番恐れていた事態だ。何をどう説明すれば
「百ちゃん…辛いことがあったら慰めてもらいたいわよね?」
「それはそうですわ。」
「ところで自分で自分を慰めたことがあるかしら?」
「…まあ、自分で出来る範囲では…」
「できれば頼れる人とかに慰めてもらいたいわよね?」
「…そうですわね。できれば創さんに慰めてもらいたいですわ。」
そのニヤニヤした顔は嫌な予感しかしな
「『想像せよ。』『相心創と八百万百は性行為をする。』」
終姉さんからとんでもないことを言われ、取調室に放り込まれる。
「…その、創さん…終さんの"個性"で…」
百姉さんの顔が真っ赤になっている。意識してしまう。いや、そうじゃなくて。
「だ、大丈夫です。終姉さんの"事象"は否定の意志があれば」
「創さんは…私と…その、性行為をしたくないのですか…?」
今、百姉さんが僕と性行為をしたいみたいに聞こえたような気がした。
「えっ、いや、その…したくないわけではないですけど…」
落ち着け僕。いくらバレないからって、違う。そういうことをしていい場所じゃない。
そもそも、そういうことはもっとお付き合いを重ねて結婚して
「私、創さんが大好きなんです。この身を捧げてもいいほどです。
そんな創さんをもっと近くで感じて、安心したいんです…」
そう言われると、どうしようもない。断れなくなる。
「でも、その、避妊とか…」
そうだ。流石に責任どうこうの話になれば百姉さんも分かって
「こ、こうやって誘うのですよね…?」
百姉さんはいつの間にか座り込んで、避妊具を口に咥えていた。
どこで習ったんですか?保健体育でやってませんよね?
「…百姉さん。いい加減にしてください。」
僕は百姉さんの口から避妊具を奪い取る。
「創さん…私は」
百姉さんの唇を奪う。柔らかくて甘い味がした。
「そんな風に誘われたら…僕だって我慢できません。」
僕と百姉さんは公安で一線を越えた。
はい。
シリアスの後にはこういう話がやりたいんですよ…許してください…
ちなみに終姉さんの"個性"の対象は現在一人です。
つまり、最初の百姉さんの発言は…終姉さんのせいにしようとしていましたってことです。