緑谷さんは青山さんの奇行について話してくれた。
妙に距離を詰めてきた事、『知っているよ☆』というメッセージがあった事、
青山さんも"個性"と体が合ってない事、それで仲良くなった事…
「超怪しいじゃない。創、百ちゃん、青山くんから聞き出しなさい。」
終姉さんが無茶ぶりを言う。
「いや、どうやって聞き出せば…」
「いきなり『内通者ですか?』と聞く訳にはいきませんからね…」
終姉さんがチッチと舌と指を鳴らす。
「まずは青山くんの言動を見るのよ。
仕草、目線、声音、発言、態度…ありとあらゆるものを見なさい。
もし彼が内通者だったら、相当追い詰められてるはずよ。」
確かに、大切な仲間を敵に売るなんて簡単にできないだろう。
そうしざるを得ない状況に追い込まれていると考えるべきだ。
それでも、許されざる行為をしているのだから、心へのダメージは相当なはずだ。
心のダメージが大きい人間は、必ずいつもと違う様子が出てくる。
人が変わったり、無理に強がったり…それを見極める必要がある。
「もし、ぼろを出さないようだったら…
『AFOが意識不明である』ということをちらつかせるといいわ。」
僕達にとっても衝撃の事実だったけど、
「えっ!?AFOって意識不明なんですか!?」
緑谷さんが一番驚いていた。
「オールマイトから聞いてないの?あたしのおかげで意識不明なのよ。」
「私も奴の頭に弾丸を撃ち込んだ。…私のせいでもある。」
「本当は殺したかったけど…流石に意識を奪うのが限界だったわね。」
「殺していたら騒ぎになっていただろうからな…
それが良いか悪いかは今でも不明だが。」
裏切った先の相手が自分に手出しをできないなら、打ち明けるのは簡単だ。
青山さんからしてみたらまだ投獄されただけで、手出し不可能とは思えない。
だったら、内通者がバレないようにふるまっている可能性はまだ高い。
学校に戻った僕と百姉さんは青山さんに話しかけた。
「あのー、青山さん。最近何か困っていることはないかな?」
青山さんはフレンチを食べながら考えている。
「んー…ネビルレーザーの腹痛かな☆
体に合ってないからしょうがないけど…困っているのは事実さ☆」
青山さんの顔は特に何も動いてない。
「腹痛に困っているのでしたら腸内環境を整える事が大切です。
食物繊維を多くとり、発酵食品も積極的に摂るようにするといいですわ。」
「ありがとう、マダム☆食物繊維に気を付けてみるよ☆」
発酵食品はチーズで間に合っているか…いや、そうじゃなくて。
「あー、いや、それは大変だよね…でも、"個性"の悩みじゃなくて、
人間関係的なところでの悩みとかないかなーって…」
青山さんのナイフがピタッと止まる。
「…一緒にフレンチを楽しめる仲間が欲しいかな☆」
青山さんの顔が真顔になった。
「フレンチでしたら私とご一緒しませんか?今度、私の家にご招待しますわ。」
「僕も百姉さんにマナーは教えてもらったから楽しめるよ。どうかな?」
青山さんは笑いながら答えた。
「大丈夫だよ☆僕はマナーが完璧じゃないからね☆」
『無理に笑いながら』『大丈夫』、これがSOSだ。
僕は百姉さんと顔を見合わせ、意を決する。
「…青山さん。僕と百姉さんは公安でインターンをやっている。」
「知ってるよ☆いろいろ知りたいけど…教えてもらうのは無理だろうね☆」
「その中で、何を話しても外に伝わらない取調室がありましたわ。」
「…何に使うのかは想像しないことにするよ☆怖いからね☆」
流石にこれぐらいじゃ本音を明かさないか。もう少し踏み込もう。
「僕の想像なんだけど…青山さんは人には言えない何かで困っていると思う。」
「誰しもそういう悩みはあるさ☆君たちだってあるだろう?☆」
「だからこそ、誰かに…信頼できる誰かに言う必要がりますわ。」
「んん…もしかして惚気話かい?☆僕でよければ付き合うよ☆」
はぐらかし方が不自然だ。遠ざけようとしている。疑惑が確信に変わった。
僕は青山さんに向けて手を差し伸べる。
「青山さんが何かに困っているのは僕にはわかる。
困っている人がいるのに目を背けることはできない。
だから、この手を差し伸べるよ。必要なかったら払ってほしい。」
「創さんはとても頼りになる方です。
ともに泣き、ともに笑い、支え合ってくれる方です。
私も…共にヒーローを目指す仲間として、青山さんの力になりたいです。
ですから、まずは公安で話すだけでもお願いします。」
百姉さんの支援が入る。
「…やっぱり惚気話じゃないか☆フレンチのチェイサーには重」
「AFOは意識不明でとても動ける状況じゃないそうです。」
切り札を使う。
「…この話ができる人間が公安にいます。性格はあれですけど、
とんでもない実力を持った人間がいます。…AFOを殺害できるほど。」
終姉さんだったら間違いなくできるだろう。
青山さんが僕の手を握った。
「…公安でもフレンチは食べれるかい?」
「…ドーナツとアイスミルクになるかもしれません。」
「一応相談してみますわ。」
終姉さんのことだからフレンチクルーラーを用意すると思う。
終姉さんに手配をしてもらって三人で公安にやってきた。
「はぁい、ムッシュ青山…早く中に入って。」
異様にガクガクしているバスローブ姿の終姉さんが出迎えた。
「あの…ナガンさんは?」
「それも含めて中で話すわ…」
中に入ると明らかに怒っていますと言う感じのナガンさんがいた。
「よくできたなマキナ…次は分かっているな?」
終姉さんはすっかり怯え切って縮こまっている。
「はい…取調室へ案内します…」
道中の公安の人が明らかに気まずそうにしている。
流石に気になりすぎる。僕はナガンさんに聞くことにした。
「あの…終姉さんは何をやらかしたんですか?」
「浮気だ。私がいながら若い女に手を出したんだ。」
それはナガンさんもここまで怒るだろう。
「人の趣味嗜好は色々ありますが、いくら何でも節操がなさすぎますわ…」
百姉さんの言うとおりだ。結婚したら他の人を見る必要はないだろう。
「しかも…敵連合の一員に手を出した。
相手が警察に言えないことを良いことに、かなり激しいことをやっていた。
どうしようもないだろう?」
僕と百姉さんは全く同じ言葉が出てきた。
「最低だ…」「最低ですわ…」
それしか言えない。人としてどうかと思う。
「そのことを寝言でほざきやがったんだ…!
『トガちゃん若くてモチモチぴちぴちだ』と…!
だから公安全員の前でお仕置きしてやったんだ…!」
『寝言でやるのは理不尽じゃないか?』と思ったが
一緒の部屋で寝ているのに、そんな寝言がでたら怒り心頭だろう。
「絶対に許せませんわ…!そうですよね、創さん…!?」
その通りですけど、目が怖いです、百姉さん…僕はそんなことしませんから。
「ところでどんなお仕置きを」
「銃を口から突っ込んでやった。かなり奥までな。」
そんな事されたら…僕だったら上から下から色々出るだろう。
だから終姉さんはバスローブ姿でガクガクしているし、
周りの人は気まずそうにしているのか。
ナガンさんが終姉さんの手綱を握れる理由が分かった気がする。
五人で取り調べ室に入り、今回はナガンさんが幕を切り落とす。
「ふざけた取り調べをしたら…またやるからな、マキナ?」
「二度としません…ドーナツとアイスミルクも自分で持ってきます…」
「ならよろしい。早く準備しろ。」
ドーナツとアイスミルクはいいんだ…ラインがよく分からない。
終姉さんがヤバい人なのは当然ですが、
終姉さんに対してのナガンさんもなかなかヤバいですね。