"創造"と"想像"   作:神剣狩刃

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第47話 差し伸べる手は誰もが持っているから

僕の予想通り、終姉さんはフレンチクルーラーとアイスミルクを持ってきた。

「それじゃあ、早速始めるわ。青山くん、あなたが内通者でしょ?」

さっきまでの怯えた態度はどこかへ行き、いつもの終姉さんが先陣を切った。

「…はい、僕がAFOに情報を与えていました。」

青山さんは涙を流しながらあっさりと白状した。

 

全員が衝撃を受ける中、終姉さんは軽く笑っていた。

「家族のためでしょ?じゃなきゃ仲間を売るなんてできる子じゃないもの。」

「…僕のことを知っているんですか…?」

僕も不思議だった。終姉さんと青山さんは今日初めて会ったはずなのに。

 

「緑谷くんもなかなかいい子だったわ。そんな緑谷くんと仲が良いんでしょ?

だったら性根が悪いわけないじゃない。かなりの事情があったはずよ。

金や名誉なんかじゃない、もっと大切なもの…家族しかないわ。」

終姉さんの推理力は常軌を逸している。

 

「事情が事情だから罪に問われないと思うわ。いい弁護士見つけてあげる。

これからの学校生活は青春を楽しみなさい。就職に困ったら公安」

「僕を問い詰めないんですか…?」

僕も青山さんを問い詰めるつもりはないが、聞きたいことはたくさんある。

終姉さんはまたも軽く笑って答える。

 

「君はAFOに情報を与えて、AFOに自由を与えられた…

AFOの事なんてほとんど知らないでしょ?だから問い詰めるだけ無駄よ。

あたしがAFOだったら、よく分からない子供に自分の情報は与えないわ。」

終姉さんには何が見えているのだろう。

 

「…でも、なんでAFOと関わりを持ったのかは気になるわね。

普通に生きていたらあんなのと関わりたいと思えないわ?」

「僕は…普通じゃなかったんです…」

青山さんはその経緯を口にした。

 

青山さんは生まれた時、"無個性"だった。

"普通"から外れないように、両親がAFOから"個性"をもらった。

体質に合わない"個性"でも、両親が大切に育ててくれた。

AFOの指示に従わなければ、その両親が殺されてしまう。

そのために1-Aの皆を裏切ってきた。

罪悪感から逃げるように気丈に振舞っていた。

 

「青山優雅は…根っからの…クズの敵だ。」

その言葉に、誰も何も言え

「だったら大切な人の為に何人も殺してきたあたしは何?

クズ?外道?人じゃない?そんな奴は…ヒーローではないと言いたいの?」

終姉さんが明らかに苛立っている。

 

「大人ぶってんじゃないわよクソガキ!

どんな手段でも自分の思いで人を守れたらヒーローなのよ!」

終姉さんが持っていたグラスが砕け散る。

 

「あたしのヒーローは何人も人を殺している!

それでも正義を、いいえ、あたしを守ってくれたわ!

その人がヒーローじゃないって言いたいの!?

あたしがヒーローじゃないというのは許せても…

その人をヒーローじゃないというのはあたしが許せないわ!」

終姉さんが泣いている。初めて見る顔だった。

 

「終、そういう話では」

「そういう話なのよ!大した被害も出していないのに、

敵面してヒーローを語るこいつが許せないのよ!」

ナガンさんでも止められないほどに、終姉さんは感情的になっている。

 

「あんたはあんたの意志で家族を守れたでしょ!?

傷ついた人はいても、死んだ人を出さずに家族を守れたでしょ!?

だったらあんたはヒーローなのよクソガキ!!!」

まるで子供の癇癪のような、でも確かな一言は全員の胸に刺さった。

 

「僕が…ヒーロー…分からないよ…」

青山さんは呆然としている。

「…青山、私の昔話をしよう。

あいつの言っていることが少しは分かるはずだ。」

ナガンさんは、大泣きする終姉さんを見ながら話した。

 

私と終はコンビを組んで様々な悪人を消してきた。

公安の秘匿命令で、日の下に晒さず、闇に消していった。

ヒーローへの信頼を維持するべくひたすらに従っていった。

 

ある日、子供たちに握手を求められて手を伸ばしたんだ。

その時、自分の手が血に染まって見えて、その手を引いてしまった。

そして思ったんだ。『この正義は偽りだ』と。

 

疲れていた私は、ふと終に思いをこぼしたんだ。

「終…正義って何だろうな…」

終はいつものようにドーナツを食べながら答えた。

「なんでしょうね?自分の思い通りにすることじゃないですか?」

 

その自己中心的な答えに、私は思わず笑ってしまった。

「ふっ、それじゃあ…今、正義を守れているか、終?」

ドーナツを牛乳で流した終が幸せそうに答えた。

「はい。こうやって火伊那さんと一緒にドーナツ食べれてますから。

…火伊那さん、ドーナツ食べられないぐらい疲れているんですか?」

 

眩しかった。純粋すぎた。ここまで手を汚した私には不釣り合い

「今日は私の手作りの特別な焼きドーナツなんですよ。

折角だから食べさせてあげますよ。はい、あーん。」

いつの間にか空いていた私の口に、終がドーナツをねじ込んできた。

私は驚いて、ドーナツを口から離してしまった。

 

「危ない!…セーフ。改めて…火伊那さん、あーん。」

ドーナツを空中で拾った終が、再びドーナツを口にねじ込む。

受け入れないと面倒だと思い、私はドーナツを咀嚼した。

味がしない。よく分からない。

 

「おいしいですか?火伊那さん?」

「…おいしいよ。終が食べさせて」

「おいしいわけないじゃないですか。砂糖入れてないんですから。

火伊那さん、本当に大丈夫ですか?何かあったんじゃないんですか?」

 

終を心配させまいと、私は無理に笑って言った。

「大丈夫だ。ちょっと仕事の疲れが」

「そんな顔で大丈夫って言って、本当に大丈夫な人はいません。

火伊那さん、私でよければ何でも言ってください。」

終はこの時から洞察力がすごかったんだ。

 

「いや、本当に疲れているだけなんだ。」

「私、火伊那さんが大好きなんです。嘘をつかないでください。」

「私だって終が大好きだ。嘘はつかな」

終が手を拭いて、差し伸べてきた。

 

「本当に大丈夫なら、この手を握ってください。」

 

私はその手に手を伸ばしたが、その手を握れなか

「…なんだ、大丈夫じゃないですか。心配して損しました。」

終が私の手を掴んでいた。温かくてキレイだった。

 

私はその手を振りほどこうとした。

「っ!離せ終!この手はお前が握っては」

「私、火伊那さんの手、大好きです。ずっと握っていたいです。」

終は力強く、でも、消して傷付けないように私の手を握っていた。

 

「火伊那さんは私を助けてくれたんです。私のヒーローなんです。

頼れるヒーローの手は握っていたいんです。ずっと握っていたいです。」

私は終の手を振り払うのをやめた。

 

「だから…大丈夫ですよ。『私の大切な人(マイフェアレディ)』。」

終が私の手に口づけをした。

 

それを皮切りに、私の目から何かが溢れた。

「…終…!私は…私は間違っていないよな…!」

終は優しく笑いながら応えてくれた。

「間違っていません。世界中の誰が何を言おうと…

『機械仕掛けの神』が正しいと言いますから。」

機械というには温かすぎる胸で、私は子供になった。

 

「…こんな私でも、あんなあいつでも、ヒーローになれる。

だから君も…ヒーローになれる。」

青山さんは大粒の涙をこぼしている。

「でも、でも…!僕を信じる人なんか…!」

 

僕と百姉さんは同時に動いていた。

「僕が」「私が」

「手を差し伸べるよ。」「手を差し伸べますわ。」

誰かに手を差し伸べることが、ヒーローの第一歩だから。

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