"創造"と"想像"   作:神剣狩刃

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第54話 マイフェアレディー・エンゲージ

どこをどう走ったか覚えていない。ひたすらに走った。

火伊那さんにひどいことを言って。でも、心のどこかではそう思っていて。

火伊那さんを愛すれば朧のことを忘れられると思って。

でも、結局忘れられなくて、火伊那さんは火伊那さんでしかなくて。

愛しているのはそうだけど、その理由が汚くて。

 

「助けてよ…誰か…誰か助けて…」

誰も居るはずないのに、助けを求める。

「最初からそう言ってください。終姉さん。」

「いえ…最初からそうでしたわね。終さん。」

するはずのない声に、あたしは驚いて顔を見上げる。

 

公安の情報網はすごくて、あっという間に終姉さんの場所を突き止めた。

「私が行くのはもう少し後だ。…ハンドレットとクリエイティ、終を頼む。」

僕と終姉さんは急いでその場所に行った。

人通りのない空き地の物陰で終姉さんは座り込んでいた。

 

「今思えば…終さんはずっと助けを求めていたのですね。」

「我儘で横暴だけど…強がっていたんですね。」

誰の前でもあんな態度を取っていた。それは、終姉さんがそういう人だからじゃない。

そういう面もあるかもしれないが、唯一見せられるSOSだったのだ。

 

「何を言っているのよ…強がってる?あたしは本当に強いのよ?

我儘で横暴?強いのだから当然じゃない?」

終姉さんは泣きながら笑っている。

「あんた達に心配されなくても…あたしは大丈夫よ。

ちょっと顔なじみを殺しただけだわ。すぐに戻って」

 

「そんな顔で大丈夫と言って、本当に大丈夫なわけありません。」

「終さん、自分の顔を鏡で見てください。」

百姉さんが鏡を作り出す。

「大丈夫って言ってるでしょ!」

終姉さんはその鏡を拳でたたき割った。

 

「あたしに文句を言いたいなら…あたしより上だと証明しなさい!

あたしは自分よりも弱い奴の言うことなんか聞かない!」

「なら証明してみせます!僕達は、終姉さんよりも強いと!」

「姉弟喧嘩とちょっと早めの姉妹喧嘩です!」

今度は、僕達が終姉さんに教える番だ。

 

僕は黒い鎧を纏って終姉さんに接近する。

「百姉さんは後方支援をお願いします!」

「任せてください!しっかり支えますわ!」

百姉さんが距離を取ってくれた。色々"想像"して

 

「作戦を口に出すバカには負けないわ!」

終姉さんは軽々と僕を飛び越して、百姉さんに向かっていく。

「『想像せよ』!」

「『黒よ、捕らえろ』!」

「『八百万はワイヤーに捕らえられる』!」

終姉さんに向かって撃ちだしたワイヤーが、百姉さんを捕らえる。

 

「遠慮なくいくわ!」

終姉さんが空中で拳を構える。

「『黒よ、引き寄せろ(シュバルツ・シーエン)』!」

僕は百姉さんをワイヤーで引き寄せてから、ワイヤーを消す。

 

「すべて見切れますか!」

百姉さんが大量の鉄のブーメランを"創造"し、終姉さんに向けて投げる。

「殺傷力のない攻撃なんて、喰らってもいいのよ!」

終姉さんはブーメランの中を突っ切って、百姉さんに迫る。

 

「ならもう一度投げて」

「遅いわ!」

終姉さんの蹴りが、百姉さんの脇腹を捕らえる。

「加減が難しいのよ、骨を折らないようにするのは!」

「いえ…これで避けられますわ…!」

百姉さんが受け身を取りながら吹っ飛ぶ。

 

「電磁砲!射出!」

僕は構えていた電磁砲を終姉さんに向けて放つ。

「くっ…!殺す気かしら…!」

その弾は終姉さんの頬をかすめた。

「流石に殺せないわよね!あんたじゃ人は殺せない!」

 

「誰かを殺すことは出来なくても、誰かを助けることはできる!」

僕は弾につけていたワイヤーを引っ張る。

「小賢しいわね!だあああ!」

終姉さんは回し蹴りで戻ってきた弾を砕く。

 

「弾が本命ではありません…!わざわざ鉄製にしたのには意味があります…!」

強力な磁石で作った弾に引き寄せられて、ブーメランが終姉さんに向かう。

「同じ手を二度も喰らうものですか!」

終姉さんは向かってきたブーメランを掴み、僕に向けて投げてきた。

「もう一度磁石で」

 

「こっちへの攻撃は防げるかしら!」

終姉さんはいくつかのブーメランを百姉さんに向けて投げた。

「先の言葉…返させてもらいますわ!」

百姉さんはすでにスナイパーライフルを終姉さんに向けて構えていた。

「『想像せよ』!『創は頭を銃で撃たれる』!」

終姉さんは投げた勢いで、僕の方に振り返った。

 

銃声と共に僕の頭に強い衝撃が走る。

「愛する人をその手で傷付けっ…!?」

ほぼ同時に終姉さんの頭に銃弾が当たる。

「跳弾ですわ…貴女なら頭を狙うと思いましたもの。」

「狙う場所が分かれば…反射させるのも簡単です…!"被想像"…!」

 

終姉さんはふらついたが、倒れるまではいかなかった。

「ま、まだよ…!私は負けてな」

「もうよせ、終。お前の負けだ。」

僕はナガンさんの姿で、終姉さんに近づく。

「っ!その姿であたしに近づくな!」

 

終姉さんのパンチを避ける。動揺のせいか、かなりぶれたパンチだった。

「お前は強くない。いい加減認め」

「その声でしゃべるなあ!」

いや、パンチはしているが、当てるつもりがないように見える。

 

きっと終姉さんは…なら、このまま続ける。

「弱い自分を受け入れろ。まずはそこから」

「黙れ黙れ黙れ!火伊那さんはそんなこと言わない!」

どの蹴りも僕をかすめる事すらない。

 

「だったらこの手を振り払ってみろ。そしたら黙ろう。」

僕は手を差し伸べる。

「舐めるんじゃないわよ!こんな手なんて!」

終姉さんは思い切り蹴り上げた。

 

「…この手を傷つけたら…握れなくなるかもしれないじゃない…」

終姉さんの蹴りは、空を切った。

 

「もしかしたら…本当の火伊那さんかもしれないじゃない…

だったら傷付けたり…まして手を振り払うなんてできるわけないじゃない…」

 

終姉さんは本当に頭がいい。

そのせいで、『ふらついた一瞬で本物と変わった』可能性を思いついてしまったのだ。

 

「ねえ…答えてよ…!本物なの!?偽物なの!?」

終姉さんが揺らいだ。ここでたたみかける。

「それはお前が決めることだ。本当に強いなら…自分を信じれるはずだ。」

終姉さんは座り込んで泣き出した。

「無理よ…だって…あたし、弱いから…強がるしかできないから…」

 

終姉さんは大泣きしながら思いを打ち明けた。

「朧を失ってからずっとそうだった…思い通りにならなくて…

『自分が弱いから思い通りにならない』って思って…

それが受け入れられなくて…自分を取り戻しても受け入れられなくて…」

 

「でも、火伊那さんは私の手を握ってくれたの…

だから私は一瞬でも強いんだって思うことができたの…

でも、『本当は強がっているだけ』って思われるのが怖くて…

だから我儘に横暴にふるまって、結果を出すしかなくて…

たまに甘えて心を保たせて…たまに怒ってもらって安心して…」

 

「そんな私を受け入れてくれたのに…!あたし酷いこと言って…!

朧の代わりになんてなるわけないのに…!

火伊那さんは火伊那さんだっていうのに…!

あたしが唯一弱い自分を打ち明けられる人だったのに…!」

 

「なら最初からそう言え。余計な心配をかけさせるな。」

待機していたナガンさんがやっと出てきた。

「火伊那さん…!」

終姉さんはナガンさんに向かって左手を伸ばした。

 

「…気付いてやれなくてすまなかった。

私は終が強い奴だとばかり思っていたが…違ったんだな。」

ナガンさんが終姉さんにゆっくり近づいていく。

「私がいなければ壊れてしまうほどに…弱かったんだな。」

ナガンさんが終姉さんの左手を握る。

 

「かいな、さん…!」

「でも…大丈夫だ。私がいる。」

その言葉と共に、ナガンさんは終姉さんの左手の薬指に指輪をはめた。

「この、指輪って…!」

「落とし物だぞ、『私の大切な人』。」

ナガンさんが終姉さんの左手に口づけをした。

 

「かいなさあああん!!!ごめんなさあああい!!!」

終姉さんが大泣きしてナガンさんに抱きつく。

「全く…帰ったら説教だぞ。」

ナガンさんは愛おしそうに終姉さんの頭を撫でていた。

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