芸術的で文化的な異世界生活を目指して   作:生しょうゆ

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第14話 戦争受験

 

 

 

 俺は杖を振り、脳内に術式を思い描いた。単に属性に沿った現象を起こすのではなく、規定の呪文を唱え上げて魔術の形を成す。

 

 実際、基礎魔術など魔術ではない。何故ってそれは術ではない。術とは決められた形であり方式である。基礎からの基礎とも呼べる下級魔術からが、本当の魔術師が操る物だ。

 

 そして、そんな物はとっくに覚えている。

 

「火矢、水流、風剣、土盾。光破、闇渦」

 

 火の矢を水流で消火し、水を風の剣で吹き飛ばして、土の盾で受け止める。残った土塊を光で弾き、闇の渦で消滅させる。

 

 以上である。下級呪文と言っても様々な種類があるが、立つ鳥跡を濁さずとも言うし、綺麗さっぱりに終わらせた。

 

 さあ、どうだろうか。五人の表情を窺う。感嘆の眼である。気分が良いな。さあ、これで……。

 

「次、中級魔術を属性順に」

 

 と思ったらまたジジイが注文を付けてきた。何だこいつは。

 

「……あのですねえ、ワイエス教授。彼はこの時点で入学の基準を超えていますよ」

「黙れ」

「黙れって……貴方ねえ。何を見たいのか知りませんが、もう良いじゃないですか。入学後に話せば良いでしょうに」

 

 壮年の男が呆れたようにそう言った。よし。これで実技は合格決定である。なのでもう付き合う義理もないのでは?

 

 しかし、今度は老婦人が声を上げた。柔和な笑みで、これまた柔和な声である。

 

「まあ良いじゃないですか、ワイエス教授の好きにさせてあげましょう。だってまだ時間が有り余っているじゃないですか! 他の受験者の平均時間と比べても、まだまだ」

「その時間も含めての試験……っとと。……確かに、そうではありますがね」

「ですので、後三十分だけ、というのは如何かしら。ワイエス教授も、それでよろしくて?」

「それで良い。さっさと始めろ」

 

 話が勝手に纏まりやがった。ざわめきが広がる。妙に視線が俺に集う。

 

「ジョット・ブレイクか……」

「詐欺って話は?」

「公爵家のご令嬢が……」

 

 どうでも良い噂話が立ち上がっては消えていく。いや、やっぱりどうでも良くない。俺は自分が他人を舐めるのは良いが、舐められるのは嫌いなのだ。

 

 なので付き合ってやるとしよう。ほら、天使と悪魔も言っている。『ジジイに一泡吹かせてやろうぜ!』『この年から老人介護とは、福祉の精神に目覚めたのかな?』悪魔の方は今すぐ黙れ。

 

「……では、始めますよ」

「早くやれ。早く!」

 

 うるさいなこのジジイ。言われた通りちゃっちゃと済ましてやる。

 

「炎柱、水蛇、風鎌、鉄塊、光雷、闇蛭」

 

 天井まで吹き上がる炎の柱に、無数の水流が絡み付いて押し留め、弱ったところを風の鎌で切り裂いていく。

 

 その魔力の残りを包み上げるように鉄の箱を構築し、その上から雷にて破壊して、沸き立つ光輝をぬたぬたと這う闇で侵して吸い取ってこれで終わり!

 

「さあ、終わりましたよ!」

「次、上級魔術。時間はまだあるだろう。早くやれ」

「ああもう分かりましたよ!」

 

 もう誰も止める気は無いようで、最早声さえ掛けてくれない。唯一、壮年の男だけが懐中時計の蓋を開いている。一応は時間を気にしながらも、その眼はじっとこちらを見つめ続けている。

 

「炎溶、水龍、嵐風、厳山、光線、夜闇!」

 

 噴き出した火砕流を瞬時に龍を象った水で蒸発させ、嵐の顕現を以て粉々にする。荒れ切った魔術の残滓の上から山一つを落下させ、沈黙したところをレーザービームで切り裂いて、どす黒い深淵を召喚して全て溶かし込んでもう本当に終わり!

 

「少しブレがあったな。まだ時間はある。だが速く! 別の上級魔術を! 速くだ!」

「このクソジジイ!」

 

 今更止めたら、期待と感嘆の目で見つめてくる観客達を裏切ってしまい、俺の評判に傷が付くだろうが! そしてブレがあるのは当たり前だろうがこちとら入学前だぞこの野郎!

 

「炎龍、水龍、風龍、土龍! 光龍、闇龍!」龍を象った六属性の魔術が中空に霧散して砕け散る。ジジイは叫ぶ。「一系統とは芸がないのか! 速く! もっと速くだ!」

 

「融解、氷鬼、風「速くだ! もっと速く! 詠唱など止めろ!」「うるさいなクソジジイ!」溶かし尽くす高熱を氷の大腕で押し潰し、大竜巻で壊して、元在った状態に再構築し、光の大剣と闇の大剣を対消滅させる!

 

「もう良いだろ!」「黙れ! 時間がない! 速く速く速くに!」炎! 大海! 嵐!「そらそこだ! 遅れたぞ! 速く速くだ速くッ!」「くたばれ!」岩石流! 拡散光線! 大いなる夜の眠り!

 

「さあどうだ!」

 

 ジジイは凄まじい目で俺を睨み付け、ニヤリと笑った。

 

「クソッタレがッ! 儂が相手になってやるッ!」

「はあっ!?」

 

 ジジイは突然叫びだし、机を飛び越して杖を抜いた。黄金の短杖をこちらに突き付け、「あと十分しかないだろうが! このボケカスがッ!」と意味不明なことを叫びながら魔術を行使した。

 

 顕現するのは真っ黒な炎の輪である。それは二重に三重に、いや四に五に六にと瞬間に増加し、同時に超高速で閃光が狙い撃たれる!

 

 何とか防ごうと魔術を放つも何故か効かない。なんで? 炎の柱も水の龍も浸食されるように飲まれていく。あっ、これ死ぬ?

 

「なに考えているんですかアンタ!? 止めて下さいよ! 止めろボケジジイ!」

「黙れ黙れ黙れ! こいつを今この場で殺してやる! 殺して儂の弟子にするのだ!」

「殺しちゃってどうするのよ貴方……」

 

 死ぬかと思ったその瞬間、流石に壮年男と老婦人の手が入ってきた。後ろから羽交い締めにされ、魔術の行使が途中で止まる。発動途中だった黒い炎は霧散し、ドームの中には平穏が戻った。

 

 流石に床にへたり込んで、俺はぜえはあ息をした。何だこのジジイ。本気で気が狂ってるのか。

 

「い、生きてる……! 死ぬかと思った……全属性での壁魔術が間に合わなければ……」

「そら! そら! どうだ! このクソガキ、儂の魔術を防いでみせたわ! これを見たか!」

「見ましたよ! だからなんだといや凄まじいですけどね! だけどアンタは何が何でどうなって気でも狂いましたか!?」

「クソッタレ貴族共からクソ特権を剥がし取ってこいつに与えろ! クソ皇帝にクソをクソだと伝えてこい! ゲシャシャシャシャ!」

「く、狂ってる……!」

 

 瘋癲老人は取り押さえられ、笑いながら何処かへと連れ去られていった。後に残ったのはドン引きする目だけである。ジジイと俺へのな。

 

 まあ、非常に不満ではあるが、気持ちは分かる。入学試験の水準を大幅に超え、ともすれば成人した魔術師以上の実力を持つ俺に向けられるのは、畏怖と混乱と驚愕の目しかあり得ないだろう。

 

 ……いや、やっぱり気持ちが良いな。ちょっと最高って気分だ。どう? お前らの常識を遥かに超えた天才がここに居るんだけど。

 

 スマイルでも浮かべて人気を取るかと笑ってみれば、「ひえっ」「ぎゃっ」という声が返ってきた。青ざめた顔で嘔吐する奴も居た。酷くない?

 

「ふっ……いいさ。この反応も中々に……」

「ジョット・ブレイク君。少し良いですか?」

「はい? なんでしょうか」

 

 職員らしき人が近寄ってきて、俺に声を掛けてきた。おっ何、俺の天才について賞賛の言葉でもくれる?

 

「申し訳ありませんが……即刻、試験会場から退出し、指定の教室に入って下さい。このままでは試験にならないので……」

「あ、はい」

「心理カウンセラーも付けますから……本当に申し訳ありません……ワイエス教授の蛮行を止められず……」

「は、はあ……」

 

 平身低頭の職員さんに連れられて、俺は教室に入り、そこで謝罪の言葉と共に二三の質問を投げ掛けられた。

 

「異常なまでに研ぎ澄まされているよね。教育的虐待とか受けてない? 大丈夫? 先生は誰かな。……えっ、ジーニス・フルンゼ? えぇ……?」

「変な魔法薬とか投与されてないかな。いや、飲み物じゃなくても何か変な石を当てられたりとか。ない? ほんと? 嘘吐いたら分かる……から本当なの? 本気で?」

「ブレイク商会……は問題なし。だとすれば、やはりアイツが……? いや、才能……? いや、あの守銭奴の教育でこれが……? 本当に……?」

「あのハゲどんだけ信用がないんですか?」

 

 まあ俺にとっては先生なので、名誉挽回のために少しばかり熱弁を振るってやると、「うわ同類だ」「この年でこれとか、かわいそ……」「儂らには救えぬものじゃ」との大変失礼な声が返って来た。

 

 おうその可哀想なのが成績ぶっ千切りでここに入学するんだぞ。身の程を弁えたまえよ。

 

 いや、人格テストの面接があったら落ちそうだけどね。

 

 

 

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