芸術的で文化的な異世界生活を目指して   作:生しょうゆ

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第15話 めちゃくちゃ怒られた

 

 

 

「ワイエス教授に会ったのか! 目を掛けられたか? まあお前の事だ、才能を見せて声くらいは掛けられただろう。あの人は気難しいことで有名だがな、その分、偉大な魔術師として帝国内外から尊敬されているんだぜ? 俺も出来るならワイエス教授に師事したかったなぁ……。あの人の専門は火魔術だけどよ」

「その人に入学試験でぶっ殺され掛けたんですけどね」

「ゲヒャヒャ! ジョット君のジョークは今日もつまらねーな! ジョート君だな!」

「これ精神的苦痛への慰謝料と学院からの正式な謝罪文です」

「エッヘッヘ! 悪戯にしちゃあ手が込んでってマジのマジでマジ文書じゃねーか!!!」

 

 ジーニス先生は文書を開いて叫んだ。唾が飛びそうだから止めて欲しい。それは保存魔術を掛けて、これから永久に学院から賠償金をせしめるための証拠となるのだから。

 

「いや、えっ、ちょっ、えぇ……? 何やったのお前……マジで何しやがったのお前!?」

「いや、だから突然その教授が殺しに掛かってきたんですよ。気が狂ってますよあのジジイは」

「かのアルシュケ・ワイエス教授がそんな乱痴気を起こすわけがねーだろ! いや文書に書いてある!? 『全面的にワイエス氏及び学院側に非があり』!? 何がどうなってんの!?」

「こっちが聞きたいですよそれは。ひょっとしてボケたんじゃないですか?」

「そんな認めたくない事実が一番マシだという事実!!!」

 

 先生は文書を持ちながら身体を捻ったり喚いたりと大忙しである。そしてぜえはあ言いながらようやく返された。さて保存保存と。

 

「ま、まあ、お前に非がないんだったら良かっ……いや別に良くはないんだが……ともかく! 詳しい話は学院からの使者が来るだろうから、その時にするか。ご両親への説明が面倒臭そうだが……」

「家の両親、魔術師が凄いことは知っていても、どんな魔術師が凄いかは全く知らないので、多分怒るでしょうね。入学に反対したら俺が反対しますが」

「お前もお前で殺されかけたってのにブレねえよなぁ……」

「何せ関わらなければ良いだけですからね! それに賠償金だって取れるでしょうし、俺はタダで無敵のカードを手に入れたようなものですよ!」

「学院側は謝るべき相手を見誤ったかもしれんな……」

 

 まあ、そんな薔薇色の未来は期待するに留めておくとして、重要なのは今の話である。

 

 試験が終わり、今は一月の中旬である。合格者発表は二月の中旬であり、そこから入学の準備を進めるとしても、あと二ヶ月と半分ほどは時間が空くのだ。

 

 この時間に、俺は是非ともやっておかなければならないことがある。それは、学生生活へと向けた心の準備である。

 

「即ち、ゴミみたいな学生生活へ向けて、余暇時間をたっぷり使って心の栄養を補給しておかなければならないんです! 金はありますし、遊びますよ俺は!」

「今までもだいぶ遊んでいたけどな……。つか奴隷の購入云々はどうすんの?」

「もう伯爵が紹介してくれるって人に全てを賭けましょう。何度足を運んでも碌なのが居ないのには飽き飽きですよ」

 

 そもそもだいぶ条件が厳しい感があるのだ。まず大前提としてリイン以上の才覚を持っていて、次に反逆の意思が薄く、戦闘に慣れているか、忌避感がないこと。

 

 それに加えて自活能力があることが望ましい。俺も朝八時に起床するという学生的な苦役に苛まれるのだから、四六時中面倒を見るわけには行かない。大体、自活能力がなければ、放っておいても金を稼いでくれるという大前提を達成できないのだ。

 

 なので、理想的な条件としては、ビジネスライクな付き合いが出来る二十代~三十代の元傭兵とか、鉱山送りになりかけている少年から青年男性などである。

 

 個人的な欲望としては、美少女奴隷を集めて目の保養にも! というのもあるが、現実には厳しいだろう。だって美少女だと他の冒険者に絡まれそうだし、世間擦れしていなくて世話が面倒臭そうだし。

 

 そんな夢はより遠くの将来のために大事に仕舞っておくとしよう。俺の夢は、二、三人の美少女を囲って不労所得で毎日遊ぶ生活である。人数が多いと苦労しそうだし……。

 

「まあ、そんな話は置いておいて……パーッと使いましょうよ! 俺、旅行に行きたかったんですよね。南の方は見慣れていますが、西の方に入ったことないですし。噂の教会総本山にも行ってみたいし……」

「旅行ってなると結構嵩むがなあ……馬車も用立てなきゃならんし、護衛も付けなきゃならんぞ?」

「ああ、そこは既に話を付けてます。伯爵が馬車を、護衛はリインさんが担当してくれるとの事で」

「えっ、前から話を進めてたの? ……となると、お、俺は……?」

 

 先生はショックを受けたように自分自身を指差した。仲間外れにされていてちょっと悲しかったようである。

 

 だが、俺が先生を仲間外れにするはずがない。勿論旅行のパーティーには入れている。

 

「先生には盛り上げ役と観光案内に徹して貰いましょう。そういうの得意そうじゃないですか」

「お、おう! 得意得意! いやー楽しみだな入学旅行!」

「あと、費用は自分で出して下さいね。伯爵もリインさんも、お友達料金でも結構高かったんですから」

「お金取るのね……? お前もあいつらも……」

 

 先生が言うとおりである。入学祝いとしてタダで引き受けてくれたって良いだろうに、『タダより高いものはないよ、ジョット君』『そうですよ! だからこんな怪しい男の紹介を受けるのは止めなさい』と、金勘定に対してはドライなのだった。

 

 

 

 さて、その数日後。俺の総資産である金貨15枚を袋に詰め、先生、伯爵、リインと共に往来を歩いていた。旅行計画について、実際の資金を勘案しながら相談する腹積もりである。

 

 ちなみに、貯金が減っているのは趣味に使ったためである。オペラ観劇にバレエ鑑賞に飲食店巡り、闘技場や将棋会館や道具店に画廊などを出入りしていると、金がいくらあっても足りなくなるのだ。

 

「まあ、伯爵から紹介して貰う予定の人のために、そこそこは残しておくつもりですが……この分だと、そこまで派手な旅行は出来そうにありませんね」

「金貨を何枚も使うような旅行も大概だと思うがね。学生の……おっと、学生以前の身ではな」

「若い内からの贅沢は身を滅ぼしますよ、ジョット君! それで、どこに行きます? 古戦場跡地なんかよくありません? 遺跡探索もしたりして……」

「うーん、リインさんにしては中々魅力的な提案ですね」

「ぎゃは。褒めているのか貶しているのかどっちかにして下さいね」

 

 古代の遺跡にランタンを持って踏み入り、金銀財宝を探すのは浪漫である。ダンジョンの事を言っているわけではない。あれは迷宮とも呼ばれる生きた魔術機構であり、是非とも倦厭したい危険地帯だ。

 

 稀に、古代遺跡からダンジョンに繋がっていることもあるが、そんな事になったら一目散に逃げ出して発見報告からの報奨金を受け取るだけなので、リインの提案も悪くはないだろう。

 

「取りあえず、行ってみたいのは教会総本山ですね。お土産も買うとして、やっぱり貧乏旅行になりそうですよ」

「名高き神の国に行っちゃったら、そこのモスキートマンが塵になっちゃいませんか? ぎゃは」

「生憎、私の食卓には銀食器が並び、夏期には保養地で水泳もする。ジョット君も夏休みには如何かね? 友達でも誘って……おっと、失敬」

「何が失敬なんですか伯爵」

「お前に友達が出来るわけがねえって未来を予知してくれたのさ。名高き吸血鬼の魔眼でな」

 

 大市場を行きながら先生はそうギャハギャハ笑い、伯爵とリインは「生憎、私に予言は出来ない。これは単純な推理だよ」「名推理ですね! リンゴが赤くなると言っているようなものですが!」と大変失礼なことを言ってくれる。そんなわけがあるか。元の世界でも一人ぐらいは友人がいたものである。

 

「言ってくれますね。俺だって都合の良い友達の十や二十ぐらい作れますよ。現にこうして居るじゃないですか」

「ぎゃはっ! 小っ恥ずかしい事を言っているようで、都合の良いとは性格最悪! いや照れ隠しですかねジョット君!」

「恐らく照れ隠しにして本音だな! ちゃんと同い年の友達も作れよジョット君?」

「うぜっ」

 

 先生が何時ものようにバシバシと背中を叩いてくる。と、相談場所であるカフェへと行く前に、ちょっとした知り合いを見つけた。

 

「あっ、奴隷屋のおばさんだ。おーい、おばさーん!」

「君は奴隷商人を八百屋か何かと勘違いしているのかね?」

「恐ろしいことにその通りかもしれんぞ……」

 

 ぐだぐだ言ってくる先生と伯爵を後にして、露店で粗布を買い込んでいる中年女性に俺は声を掛けた。名をランダマと言う彼女は、奴隷市場に店を出している奴隷商人の一人であり、俺の顔馴染みである。

 

 何時ものように早口で、何やら値切っている様子だったランダマおばさんは、俺の声に目を丸くして振り返った。

 

「あんれまあジョット坊ちゃん! こんな所で会うとは奇遇だね。お受験の調子はどうだったかい?」

「余裕を超えた余裕であり、超えすぎて殺し合いになりかけましたね。そちらは?」

「新しく入荷した奴等の為に、毛布だとかタオルだとかを仕入れている最中だよ。そうだ! 良ければ今から見に来ないかい? 活きの良いのが入ったんだよ!」

「おっ、そりゃあいいや! じゃあ先生、ちょっと行ってきますね!」

「何だってテメエはそう奴隷商人と軽口交わせるんだよ……」

 

 先生は呆れたようにそう言った。手慰みにステッキを地面に打ちながら、更に溜息を吐く。

 

「あと何時もながら、この奴隷を野菜と勘違いしているようなババアも何なんだよ。八百屋が事業転換でもしたのか?」

「この薄らハゲはすぐにそういう事を言う! ウチは先祖代々奴隷商人だよ!」

「奴隷商人の割には気風が良すぎるだろ……」

 

 先生は軽く引きながら、しかし「じゃあ先に行ってるから、あんまり遅くなるなよなー」とどうでも良さそうに言った。

 

「まー、それで良いよな? ウチの馬鹿弟子がすまんな。無駄だってのによ」

「護衛は必要ありませんね。どうせすぐに帰ってくるのが常ですから。だって私以上の才覚など早々居ませんから!」

「こういった偶然に惹かれてやって来るのが運命の出会いというものだが……運命にしては、フルンゼ氏が言うように気風が良すぎる。出会うとしても余程の傾き者だろう。私の趣味ではないな」

「随分と好き勝手言ってくれるな……ランダマおばさんの仕入れの目は確かですよ」

「そりゃあそうさ! アタシは奴隷商人続けて30年のベテランだからねえ!」

 

 そう言っておばさんは虎柄のコートで包まれた胸を張る。おばさんって言うかおばちゃんだよな。大阪的な。

 

「では、ちょっと行ってきますので皆さんお待ちを!」

「旅行代は残すんだぞー」

「ぎゃは。大丈夫ですよ。何時ものように全額残ってきますから」

「私が紹介すると言っているのだが、やはり生まれからか、商魂たくましいものだな。虎柄の衣服だけは身につけてくれるなよ」

 

 散々なことを言う三人組を置いて、俺はおばちゃんと連れだって奴隷市場に向かう。

 

 だが実の所、俺もそこまで期待しては居なかった。碌な人材がいないのは毎度のことであったし、何よりランダマおばちゃんが仕入れてくる奴隷は家政婦用の少女が主である。

 

 一度、腰痛の持病を抱える奴隷を原因が魔力の不循環と見抜き、手当てをしたことで気に入られてはいるが、俺の求める条件とは合致しないような商品ばかりだ。

 

 それに今は奴隷云々よりも、これからの楽しい旅行計画に興味が奪われている。ちょっと見てぱっと帰ることになるだろうな。

 

 ……しかし約一時間後、俺は財布の中身をすっからかんにして、悍ましいほどに美しい奴隷の少女と共に、三人にめちゃくちゃ怒られたのだった。

 

 

 

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