芸術的で文化的な異世界生活を目指して   作:生しょうゆ

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第34話 美の証明

 

 

 

「まあ、立ち話は疲れるだろう」とメイヴン先輩は俺達を十号館に案内した。そこは特殊な教室棟である。普通の生徒には開け放たれず、セキュリティも他の教室等に比べて厳重だ。

 

 重い鋼鉄製の門に、鍵型の魔道具を差し込み、メイヴン先輩は中に入った。俺達は付かず離れず進んでいく。そうしなければ侵入者扱いで警報が鳴ってしまうだろう。

 

「というかなんでマルガレーテも付いてきているんだ?」

「……私も興味があったもの。それとも私はお邪魔かしら。なら席を外しますが」

「まあ、ぼくは別に気にしないよ」

 

 そう言ってメイヴン先輩は階段を上った。先輩がそう言うのならば、俺も気にしない。

 

 門を潜った後、目の前にあったのは階段である。三階建ての内部は吹き抜けの構造になっており、一階から三階までの階段が真っ直ぐに伸びている。そこから各階毎に、四角形を描くように廊下が伸びていた。

 

 各階毎に、等間隔に扉が設置され、その上部には銅製のネームプレートが設置されている。その内には『マヒト・メイルリード』という見慣れた担任教授の名や、『カギョウ・ムラタキ』と、つい先程別れた名前もあった。『アルシュケ・ワイエス』という見たくもない名前もあったが。

 

 やがてメイヴン先輩は一室の前で立ち止まった。その扉の上部には『クラウスト・メイヴン』と彫られている。

 

 そう、十号館というのは研究室だ。主に教授が使用する場所で、生徒の立ち入りが許可されることはまずない。

 

 しかし先輩は、功績を打ち立てる以前よりその優秀さを評価され、生徒の身で個人の研究室を与えられていたと聞いた。それ程の人物である。

 

 メイヴン先輩は、十号館を開けたのとは別の鍵で扉を開け、「さ、どうぞ」と内に俺達を招き入れた。

 

 魔術灯が灯された室内は窓一つなく、代わりとばかりに鉱石が壁という壁を埋め尽くしている。その内には整然と揃えられた本棚や、書きかけの論文らしきものが置かれた机があった。そしてベッドまである。

 

 先輩は論文を片付けつつ椅子に座って杖を振った。直ちに石が湧き上がり、椅子の形を成していく。

 

 見事なものだ。その技量に俺は舌を巻いた。これは単に石を出現させる魔術ではない。何故と言うに、それは美術品と見紛うほどに精密だ。背もたれから手すりまで継ぎ目一つなく、緩やかなカーブを描きながら装飾まで刻まれている。

 

「それで、ぼくの研究についての話だったね、ジョット君」

 

 メイヴン先輩は膝に肘を乗せ、ぐっと屈んだ姿勢で俺を見つめた。青色の瞳が無機質に輝いている。

 

 俺は椅子に座り、真正面からその瞳と相対した。

 

「だけど、何について聞きたいんだい? 研究の意図? それとも結果から予測される経済効果? それともまさか、今この場でぼくにオリハルコンを作って欲しい、なんて言うつもりじゃないだろうね」

「そうです。作って欲しいんですよ、先輩のオリハルコンを」

「……君はもっと、聡明だと思っていたが」

 

「買い被っていたかな」とメイヴン先輩は言い、厭うように俺を見て、自らの杖を取り出した。

 

 それは彼の代名詞を物語るように、総オリハルコン製の杖である。持ち手には竜種の牙だろうか。素材を流麗に加工したものが取り付けられている。

 

 先輩は自らの杖をじっと見つめつつ言った。

 

「ぼくが杖を振る前に出て行ってくれると嬉しいな。君のような手合いが多すぎてうんざりしていた所なんだ。帝国学院の質も落ちたね。まさかあれを論文として読まず、お金が出てくる"魔法の呪文"として読む人達がこんなに居たなんて」

「……私も失望したわ、ブレイク君。貴方は不真面目で性根が歪んでいるけれど、そんな下世話な、下手な……格好悪い真似はしないと思っていたのだけれど」

「まあ、そう言わないで下さいよ」

 

 そんな目を向けないで欲しい。何故なら俺の目的は、オリハルコンをただで貰って売り飛ばそうなんて安易な考えでは決してないのだから。

 

 俺は懐から一欠片の鉱石を取り出した。先輩の目が更に嫌そうに細まる。

 

「今度は真贋でケチを付けようという腹かい? そんな、本物のオリハルコンなんて見せ付けてさ。確かにぼくのオリハルコンは人工物だ。生成過程も一般に語られているものとは程遠いだろう。だがね……」

「メイヴン先輩のオリハルコンとは、金と銅、霊木が根ざした土塊を錬金釜に溶かし、属性魔術を段階的に、複合的に投射した結果、生成される金属の事です。それはその性質、比重、密度の如何に至るまで、全て本物のオリハルコンと同一」

「……へえ」

「……でしょう? ちゃんと帝国魔術研究所及び宮廷魔術師にも本物と同様のものと認められている」

 

「論文くらい読んでますよ」と俺が言えば、メイヴン先輩は眉を少し動かした。それでも硬い表情は崩れない。思った以上に人間不信になっているようだ。

 

 噂は聞いていたのだ。ただでさえ優れた功績だというのに、それが莫大な利益を生み出すものだから、メイヴン先輩は常に人に集られるようになっていると。

 

 しかも集っているのは論文すら読まない馬鹿達だ。何故ならば、論文にはその生成方法など最初から明記されているのである。金と銅はともかく、霊木の力を宿した土は入手困難な素材だが、それを論文通りの手順に従って錬金すれば、同じ結果が得られる。それが論文というものだろう。

 

 しかし馬鹿達はオリハルコンという言葉だけに目が眩み、それが簡単に得られる物と勘違いしている。それこそ魔術ではない"魔法"のように。

 

 この世界で"魔法"とは、魔術的ではない超常現象を指す言葉だ。それこそ無属性魔術など魔法の筆頭だろう。

 

 しかしメイヴン先輩のオリハルコンとは、瞬間移動や時間操作といったおとぎ話ではない。先人が積み上げた遺産があり、その上に花開いたのが新しい時代のオリハルコンなのだ。

 

「元々、その三素材がオリハルコンの生成において有力視されていたとは聞いています。先輩の功績とは、厳密に言えば『オリハルコンの生成』ではなく、『素材を破綻なく結晶化させたこと』でしょう。いや、それ即ち『オリハルコンの生成』とも呼べますがね」

「……じゃあ、ぼくがオリハルコンを生成するに至るのに、最も重要な発見はなんだったかな?」

「その前に、そもそもオリハルコンとは何か、という話になりますが」

 

 俺はマルガレーテを横目で見つつ言った。別に拒みはしなかったが、話について来られているだろうか。ずっと難しい顔を浮かべている。

 

「オリハルコンは古代より武具として、魔道具の素材として、或いは権威の象徴として珍重されてきました。それは鋼より軽く、鋼より硬く、魔力をよく含む。結晶化したものは青く輝き、武具とすれば龍の鱗さえも容易く切り裂く。この話の主題としては、『魔力をよく含む』というのが肝ですね」

「続けて」

「先人は性質の近い金に魔力を投射することでオリハルコンへの変化を試みてきましたが、尽く失敗に終わりました。と言うのも、金も魔力をよく含みますが、それは含むだけですから。許容量を超えても溢れるだけで、オリハルコンへと変化することはなかった」

 

 先輩はじっと俺を見つめている。マルガレーテは何かを思い出すように宙に視線を向けている。

 

「時代が進み、錬金術が発達するようになって、先程言ったような『そもそもオリハルコンとは何か?』という議論が活発化するようになりました。その結果分かったのがその組成や剛性、密度といった特性です。それは金と似通った性質を示しながらも、魔力をより含み、金より軽く、金より丈夫」

「良い説明だけど、これでは歴史だよ、ジョット君?」

「ええ、ここまでは歴史です。……では、その違いは何か? と言う話になってきます。オリハルコンを生み出すために必要な物は何か? 錬金術師達は、まずオリハルコンが自然に発生する環境に目を付けました。即ち『霊木』が繁るような、『魔力』に満ちた深山。この環境によって、金と銅がオリハルコンへと変化するのではないのかと」

 

「そして事実、その推論は正しかった」そう言って俺はメイヴン先輩を見つめた。彼は少しばかり笑みを見せ、「それで?」と言った。

 

「結局、質問には答えていないよ。ぼくの発見の中で、最も重要な事はなんだい?」

「人工的に自然界の魔力反応を再現したことです」

 

 俺が言い切ると、先輩は笑みを見せた。

 

「特殊な条件下にある土に土魔術を付与し、腐敗させ、土塊に火魔術を用いながら混合させる。それを闇魔術の重力圧縮の下に融解させ、同じく融解させた金銅と混合。重力圧縮を続けながら自然冷却させていけば、その表面に僅かにオリハルコンが結晶する。……合っていますか?」

「合っているよ。ちゃんと読んできたんだね。ただ、物凄く大雑把だけど」

 

 それは仕方ないという物である。あんな細かな数式や魔力操作を空で言えるわけがない。しかし、それでもメイヴン先輩の態度は変わった。

 

 彼は再び柔らかく笑い出し、背を椅子に預けて語った。

 

「そう、ぼくの発見はまさしく『発見』だった。それは既に自然界に存在するものだからね。だから『作ってくれ』なんて言われても困るんだよ。そんな余分な素材はないし、何より作成には莫大な魔力が必要になるんだ。個人の魔力量では決して賄えないような量がね」

「自然法則を理論的に証明することは偉業ですよ」

「確かにそうだ。君はよく分かってくれる。だけど、それが自然界に既に存在するって事が重要だとぼくは思うんだ」

「それは何故?」

「だって、美しい法則が自然に存在するって事は、世界が美しいという証明になるじゃないか」

 

 メイヴン先輩は本当に美しいものを見るように、俺の手の内のオリハルコンを見つめた。なるほどね。

 

「先輩はロマンチストですね」

「芸術家肌と言ってくれよ。ロマンや空想じゃなくて鑑賞と賛美さ。きっと、君と一緒だ」

 

「遅れたが、お茶を出そう」と言って先輩は席を立ち、小さな釜に湯を沸かした。それを見つつ、マルガレーテが難しい顔をして言った。

 

「ブレイク君……あのクラウスト・メイヴンについていけるのね。意外……いえ、凄い、わね。本当に……」

「なに、難しい理論には付いていけない程度だ。精々概略を理解するのが精一杯だ」

「……そう、謙遜しないで欲しいわ。私にはまるで分からなかったもの」

「まあ、学部の一年生に理解しろというのが無理な話だとぼくは思うよ。ジョット君がおかしいだけさ」

 

 そう言ってメイヴン先輩が茶を出してくれた。同時に椅子の手すりが自然に変化し、カップを置く小さな机となる。盆を抱え、杖も使わずにこれか。

 

「俺以上におかしいのが先輩ですがね。一年生で理解できることが異常なら、五年生で世界の常識を変えることは何と言えば良いんです?」

「何も言わなくて良いのさ。無言の受容だけがぼくの望む賞賛だ。美しい法則が、歪められることなく世界に広まっていく。世界に新しく美が刻まれるんだ」

「素晴らしい考え方です」

 

 俺の言葉に、先輩はにこやかに「それで?」と言った。

 

「結局、ジョット君は何が聞きたいんだい? ぼくにオリハルコンを作ってくれって、まあ単純に欲しいって訳じゃないのは今の会話で分かったけど」

「先輩のオリハルコンをこの目で見たかったんですよ。この目で見て、本物と比較してみたかったんです」

「それはまた、どうして」

「俺の研究のためにですね。正確には、研究して特許を取るためです」

「その研究テーマは?」

 

 俺は少しばかり居住まいを正して言った。

 

「『魔力』とは何か」

「へえ!」

 

 面白そうに先輩は眼を細めた。対してマルガレーテはよく分かってないように首を傾げた。

 

「……ごめんなさい。それは深遠なテーマなのかしら? 魔力とは、私達が日常に触れ、扱っているもの。魔力とは魔力。そうじゃなくって?」

「そうではあるけど、それだけでは言い表せないよ。だろう?」

「そうですね」

 

 俺は茶を喫しつつ言った。良い茶葉を使っている。入れ方も上手いな。普通に美味しい。

 

「確かにマルガレーテの言ったとおり、魔力とは魔力です。トートロジーではなく、そうとしか呼べないのです。勿論、先輩には説明するまでもないことでしょうが」

「うん。だって誰も分かっていないからね。それがどこから来てどこへ行くのか。何故ぼく達は魔力を活用して魔術を使えるのか。何故、魔力は様々な現象を発生させることが出来るのか」

「そして何故、魔力そのものを操る事が出来ないのか……」

 

 この世界が元の世界と決定的に異なる点は、魔力が存在する事だろう。

 

 寧ろそれこそが全ての差異の原因に思えてならない。何故と言うに、我ら人間は全て直立二足歩行を行い、それによる腰痛という致命的欠陥まで備えている。世界が異なれば席巻する霊長の姿形さえ異なることもあるだろうに、この二つの世界において人間という生物は容姿さえ似通っている。

 

 この類似は偶然の物か。いいや、両者は転生者という存在を、そうでなくても時折流れ着く漂流物によって何らかの関係を暗示している。或いは世界は二つだけではないのかもしれないが、それでも魔力ある世界と魔力なき世界の間に相互の関係があることは疑念の余地がない。

 

 ならば、その有無を決定付けた事象とは何か。さながら宇宙開闢のビッグバンのように、決定的な何かがかつて起こったのだろうか。しかしビッグバンの推察が天体観測技術の発展を待ったように、我々は未だにそこへ向ける目すら持たない。即ち魔力そのものを観測する技術がない。魔力そのものを操る術さえ持たない。生命そのものを操る事が出来ないように。

 

 魔力とは何か、という疑問は、哲学的な意味ですらなく、魔術師、いいやこの世界における知的生命体の永遠の課題である。

 

 初めの疑問にして段階的な不思議。そして未知にして深淵。元の世界において、生命とは何かという問いが哲学的意味以上に科学的な問いだったように、魔力とは何かという問いは、極めて魔術的な──学術的な──問いなのだ。

 

 しかし、多くの人々は普通、その様な事を意識していない。生命に同じく、魔力を当然のものと認識している。寧ろ生命と魔力を混同しているとも言えるだろう。

 

 だからこそ、マルガレーテは「いえ、いえ」と受け入れがたいように言う。

 

「私達は操っているでしょう。魔力を、それこそ魔術を使うときに。寧ろ、その習熟こそが魔術師の大成と呼べるのではなくって?」

「それは魔力そのものじゃないよ。人体を経由して出力される魔力には、必ず属性という物が付随しているんだ。魔石や魔術式に魔力を込めるときだってそうだ。ぼく達は無意識に、それぞれ生来に得意とした属性を使っているんだよ」

「自然界に溢れる魔力だってそうだ。環境によって属性は変化する。その濃い薄いはあるが、必ず火水風土光闇の六つに分類される」

「だからこそ、無属性魔術なんて物はおとぎ話なんだね。寧ろおとぎ話だからこそ、無という無意味なものを割り振ったのかもしれない」

 

 そう言われ、マルガレーテは沈黙した。深く考え込むように眉間に皺を寄せた。そうして「ああ」と一転して笑みを浮かべて言った。

 

「うん。全然分からないわ」

「だろうな。まあ、だからこそ俺は先輩のオリハルコンと自然のオリハルコンを比較して、その魔力の状態を観察したかったのですが」

「あーもう置いていくのね。ええそうね。置いていって下さって構いませんわよ」

「なんだふて腐れたように」

「ふて腐れているのよ。情けない事に」

「……まあ、いいや。とにかく……先輩は、その名声を獲得した『特定の魔力変化による自然金と自然銅および深魔力含有土を活用した複合鉱石の生成』という論文とは別に、『オリハルコン生成過程における魔力反応の推移』という論文を書いていますよね」

 

 マルガレーテは「なにそれ。禁呪?」と薄く笑って言った。禁呪ではない。先輩もまた、マルガレーテの様子に苦笑を浮かべながら言った。

 

「よく目を通しているね。そう、錬金術を学ぶ上で、その問題を避けては通れない。物質は魔力によって反応し、変化を見せる。しかし、その反応する『魔力とは何か』という問題はこれっぽっちも解決していないんだ」

 

「そもそもオリハルコンの、『魔力をよく含む』という特性はどういうことだろうね」と、メイヴン先輩は茶を置いて手を組み、言った。

 

「魔力を含みやすい物質と、そうではない物質の違いとは何か? 金とオリハルコンにどういった組成の違いがあるのかな?」

「魔力を水に、鉱石を木材に置き換えて考えてみればどうでしょうか。水を含みやすい木材は空隙率が高く、多くは透水係数と比例します。そのように、オリハルコンは金に比べ、魔力を含むための気孔が多い、とか」

「そうなると今度は強度の問題が出てくるね。オリハルコンは金より軽いが、金より頑丈だ。仮に気孔が多いのならば、一般に強度も低くなるはずだろう?」

「しかし、たとえば粘土などは透水性が低いにも関わらず、その空隙率は高いですよ。よって粘土は水を多く含むことが出来る一方で、水を排出しにくいのです。ここに強度の問題が関わっていると思えませんか?」

「物質の構造的問題? オリハルコンは魔力を含みやすいのではなく、排出しにくい物質だって事かな? だとすれば、その強度の由来は魔力そのものだということになるね。だけど、だからこそ、ここで再び最初の問題に立ち返ることになる」

 

「魔力とは何か」俺とメイヴン先輩は殆ど同時に言った。

 

「仮説に過ぎないけれど、魔力を含んだ物質に強度の向上が見られるのであれば、『魔力が物質と絡み合っている』か、『魔力そのものに強度がある』の二つが考えられるね」

「後者はない、とは断言できませんね。魔力とは一般に無色無形で触れられるものではありませんが、それだって属性の影響を受けているかもしれません」

「そうなると、『属性とは何か』という問題も入ってくる。……いやほんと、これは果てしない問いだよ。ねえジョット君、本当にそれを求めるのかい?」

「実際には、その前段階ですね」

 

 そうとも、なんの手掛かりもなしに難題を解決しようなんて思っていない。先人達の偉業は目覚ましい物があるが、それでも手掛かりさえ見つけられなかったのが現状だ。

 

 しかし、俺には手掛かりがあった。

 

 俺がこの問題に目を付けたのは、類い稀な能力が、俺の眼に備わっているからである。

 

「俺が目指すのは、『魔力を観測する技術』の開発です。属性に囚われない、純粋な魔力を観測し、測定し、その詳細を検分できるようにする技術、或いは機械の開発です」

「それだって果てしない問いだよ。解決の足がかりなんてどこにもないだろう」

「それがあるんですよ」

 

 そう言って俺は目元を叩いた。同時に"眼"を開き、その瞳でメイヴン先輩を見た。

 

 透き通った流麗な魔力が、絶えず彼の身体を循環している。人体の神経に沿って流れる輝きは一つの美術品として見えていた。

 

 先輩は目を見開き、「まさか、君は」そう言って口に手を当てた。「信じられない……」隠された口元は、弧を描いている。

 

 そう、この"眼"こそが、俺が『魔力とは何か』という疑問を抱くに至った原因であり、その答えを手に入れるのに最も近い道だった。

 

 五歳から十二歳まで受験勉強ばかりをしていたわけではない。そんなものはとっくに終わっていたのだ。

 

 俺達の目標は特許の取得であり、俺の"眼"の解析だった。ジーニス先生はその共同研究者だ。そのために、受験用の知識を遥かに超えたものを身に付ける必要があった。

 

 メイヴン先輩と同じく、『自然法則を理論的に証明する』事こそが、俺のすべき研究なのである。

 

 そして、その果てにこそ、ノアという最上の美をこの世に証明することが出来るだろう。

 

 

 

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