芸術的で文化的な異世界生活を目指して   作:生しょうゆ

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第37話 宝探し

 

 

 

 マルガレーテが取り出した本は聖書だった。キリスト教ではない。この世界における一神教の聖書である。

 

 俺も一応の概要は把握しているが、大して詳しいわけではない。というのは、両親が信仰熱心でなかったためである。そして何故、両親が信仰熱心でないのかと言えば、この国を治める皇帝が信仰熱心でないためである。

 

 それでも南方は信仰の情熱が高いので、教養として身に付けているようであるが、俺は興味を持たなかったので、未だに詩歌の一つも諳んじられない。

 

 南方と西方では当然のように聖書の文句が会話中に引用されるらしいが、そんな長くてくどくどしい一文を覚えるのは面倒だったのだ。『だからお前は商人に向いていないんだ』『商人どころか社会人に向いていないね』と兄二人には言われたが。

 

「まあ、俺は一般的帝国人の範疇に収まる程度ということだ。だから神秘主義者のように聖書から暗号を取り出すことは出来ないぞ」

「安心して。そちらには期待していないわ。何せ今までも何度かそちらに当たってみたもの。人によって解釈がころころ変わる程度だったけどね」

「と言うと、その手掛かりというのは聖書の一文か?」

「そういうこと」

 

 言ってマルガレーテは古めかしい聖書を開き、その内の一文を指し示した。その下部にはインクで線が引かれており、誰の目にも強調している物と見て取れる。

 

「……『主は言われた。『光ありて闇あり、闇ありて光ある。空ありて土あり、海ありて陸ある。何人も一つにはなりえない。』人々は言った。『あなたは、こんなことをするからには、ただ一人おられる方ではないのか』主は言われた。『わたしは二つある。まもなく、わたしが向こうからやって来る。』主はアリヤの方角を指し示した。それが約束の地であった。』……伝道記、第16章19節より」

「長えー」

 

 しかし聞いたことはある文であった。文中にあるアリヤとは、今は教会の総本山が建っている聖地である。

 

 宗教の話をしよう。この世界では全ての人間が同じ宗教を信仰している。何故ならば、神は実在するからである。その伝道の歴史こそが目の前にある聖書だった。

 

 この世界が混沌にあった頃、神は大陸最南端から出発し、世界中をその足で歩いたという。そしてややこしいのだが、全く同じ神が大陸最北端から出発し、同じく歩き回ったらしい。

 

 で、その神がアリヤの地で一つになり(意味不明)、全てのものに祝福を与え(意味不明)、人の世を去ったとか何とか。

 

 そのために神は『掻き混ぜるもの』だとか『耕すもの』だとか『原因なるもの』だとか呼ばれている。これだけなら単純だが、ここに勇者だとか魔王だとか異世界だとかが絡まるから死ぬほど面倒臭い。

 

 まあ、そんな事はどうだって良いのだ。それよりも目の前のお宝である。一見して単なる古臭い聖書にしか見えないが。

 

「この線はね、元の持ち主が付けたものだったのよ。彼女は家を去る前に、学院に残した物があると仄めかしたらしいわ。その手掛かりがこれだって」

「家? ひょっとして公爵様のお家騒動かい」

「その通り。今から大体五十年前の話ね。彼女の名前はグノウ・アルケシア。優れた土魔術の使い手だったらしいわ」

「グノウ!? あのグノウか!?」

「あら、ひょっとして知っているの?」

 

 ひょっとしなくても知っている。それは魔術師ではなく、優れた彫刻家の名前だ。

 

 彼女は、先程の聖書に出てくる女神をモチーフにした作品を少数残している。その見事なる様は、今も皇帝のコレクションに数えられているという点だけでは説明しきれないだろう。

 

 伸び出でる腕の形の優美さは同時代の作品の追随を許さず、その先に花開いた五指の連なりは実に繊細かつ伸びやかで、美術史的に見ても高い評価を得ている。

 

 だが、何よりも彼女の名声を決定付けるのは、その作品数があまりに少なく、若くして行方不明になったという伝説だろう。名声の絶頂期に唐突に彼女は姿を消し、以来その作品は若いのにも関わらず、途方もない価格で取引されているのだ。

 

「いや、語るわね……。見たことがあるの? 中々世に出る物でもないでしょう」

「家の輸送技術は信頼が厚くてね。皇帝からの贈り物として南方に輸出したことがある。価値が高いとは言っても流石に若い作品だからな。しかし俺は一目見ただけで感激して触っ……てはいない。流石に」

「……触ったわね、貴方」

 

 まあ過去のことは水に流すとして、しかしこれが本当ならとんでもない話になるだろう。

 

 名工グノウが残した未発表作品を発見したとなれば、美術界も財政界も大騒ぎだ。すぐに鑑定に引き出され莫大な値段が付けられる。きっと、先日俺が稼いだ金額を十倍にした以上のものになるはずだ。

 

「どうして今まで黙っていたんだ! 俺とマルガレーテの仲じゃないか!」

「いや、グノウが私の家だって事は有名な話でしょう。そこで価値が上がっている点もあるのだし」

「そこは気が付かなかった。君とあの女神像が結びつかなかったんだな」

「それどういう意味?」

 

 まあこの発言も水に流すとして。しかし、どうして今更こんな物を出してきたのだろうか。こんな重いものを毎日持ち歩いているわけではないだろう。

 

「……まあ、それは。先日信じがたいことを見てしまったものだから、ちょっと試してみようかと思いまして」

「ああ、君が俺に期待しているのは、目に見えないものが見えるかどうかか」

「そういうこと。未だに信じがたいけどね」

 

 メイヴン先輩と話した際、彼女も察してはいたらしい。ただ、それがあまりに信じがたいので、首を傾げていたということか。

 

 しかし言葉にしなかった以上、公爵令嬢として彼女は突いてこないと思ったのだが、どういう心境の変化だろうか。

 

「……家には言っていないけど、まあ、無礼ですわね」と、マルガレーテは沈んだ顔で言う。

 

「でも、こう、何というか……貴方の目を通して、貴方が見るものを……乙女心よ。分かって下さる?」

「分からん」

「でしょうね。聞いた私が馬鹿でしたわ」

 

 マルガレーテの言葉は一々迂遠が過ぎる。これが貴族社会の流儀ならば一生そこでは生きていけないだろう。

 

 ともかく、俺達は次の教室に落ち着き、彼女の期待通りに"眼"を開いた。しかし、見えたものは期待外れでしかなかった。

 

「……一応、跡はある。線が引かれた部分は、インクと同じように、水の魔術で痕跡が残るように湿らせたんだろう。それが見えない文字の役割を果たしている」

「本当!? それで、他には?」

「ない」

「ない? ないの? 他のページは?」

 

 そう言われ、パラパラと捲ってみるが、他には何も書かれていない。魔力の痕跡だけでなく、インクでの文字も同じである。

 

 他にも表紙の裏を覗こうとしたり、天地や小口を確認してみても何もない。本を水平にし、目を皿のようにして見つめてみても、これといった手掛かりはない。

 

「何をやっているんだい君達。それが金稼ぎの種にでもなるのかい?」

「それは分からんな、トレージ」

「あら、ワイエス君」

 

 後ろから覗き込んできたのはトレージである。一年の必修の授業なのでここに居るのは当然だが、丁度別の視点が欲しかったところだった。

 

「この本は宝の地図かも知れない。それを念頭に置いて、暗号を探してみてくれ」

「ゲームか。面白い。今度はきつねそばを奢ってくれ」

「ワイエス君……油揚げも丸呑みするの……?」

「喉をスポンジで洗うようで楽しいじゃないか」

 

 気味が悪いことを言いながら、トレージは眼鏡を押し上げ、パラパラとページを捲った。色々と覗き見、試した後、彼は「ふん」と溜息を吐いて言った。

 

「ヒント」

「だってさ」

「……それは、グノウという私の親戚が、五十年前の学院に残した物の手掛かりとして置いていかれたらしいわ。それが何なのかは分からないけれど」

 

 一応は周囲を気にし、声を潜めながらマルガレーテは言った。それを聞いてトレージはまたしても「ふん」と眼鏡を押し上げる。

 

「聞かない名前だね。察するにそれは公爵家の煩雑なお家騒動に起因するものかい? だとすれば是非とも関わり合いになりたくないものだが」

「何を言っているんだトレージ! グノウと言えば著名な彫刻家だ。これは正真正銘お宝探しだぜ」

「……まあ、お家騒動的な面もない事はないのだけれど」

「ない事はないのかよ」

 

「と言っても、全ては五十年前の事ですわ」とマルガレーテは肩を竦めた。

 

「今更何かを持ち出したとしても、全ては過去のこと。グノウは子も残さなかったのですから、今への影響も大したことはないでしょう」

「そりゃあそうだ。安心して読み解いてくれよトレージ」

「……いや、これは含みある言葉だろう。大したことはないとしても、影響はあると彼女は言っている。それはなんだい?」

「まあ、この場で話すべき事ではありませんわ」

「そしてこの時間に話すことでもないね。あー……三人組の……上手い言葉が思い付かないな……君達」

 

 ぎょっとして顔を上げればメイルリード教授が立っていた。「私を無視するとは良い度胸……あー、違うな。別に怒ってもないし良い度胸でもないし……」と気怠げな顔でぶつぶつと呟いている。

 

「まあ、そういった相談は授業外でやってくれ。君達にこれから始まる魔術式学基礎の授業が必要だとは思えないが、流石にね」

「これはメイルリード教授。誠にごめんなさい」

「ブレイク君、言葉遣い! おほほ……ごめんあそばせ……教授のお時間を邪魔してしまい……」

「いや、君達が何を企もうとどうでも良いが、監督責任を問われるのは嫌だからな……」

「そりゃあそうですね。気を付けます」

 

 マルガレーテはメイルリード教授の無責任さに軽く引いていたが、俺はそろそろこの学院の教授陣にも慣れてきた。放任極まるその態度は過ごす分には居心地が良い。真面目にフォローを求める学生には酷だろうが、そういうのはきっと教授ではない職員の仕事だろう。

 

「見ざる聞かざる言わざる……」と猫背で呟き、教授は教壇に立った。そうして気怠く授業が始まった。

 

 

 

「思い付いた」とトレージが言ったので、放課後、俺達は図書館に集まった。

 

 どうやら彼は授業の合間も考えていたらしい。そこかしこに重苦しい本棚が並ぶ図書館の中、宗教関連の書籍が収められた一角に至ると、彼は聖書が並べられた棚を指して言った。

 

「そのグノウなる人物が何をしたかったのかは知れないが、学院に物を残したとわざわざ言っているのなら、学院にヒントがあると考えて然るべきだろう」

「えっ、この中から探すのか? 一冊一冊を取り出して何か書かれてないかを?」

「なに、ここは教会学院ではないのだから数は少ない。それに君には実に便利で摩訶不思議、現代魔術における反則である眼があるだろう」

「そんなに便利な物じゃないんだけどな……」

 

 試しに眼を開いて見てみれば、どの聖書も背表紙がぼうっと光って判別が付かん。製本に魔術が使われている証左である。その強弱によってある程度の年代の区別は付くが、特筆すべき何かは見て取れない。

 

「あら、思ったより万能ではないのね。ブレイク君の眼というのは」

「挑戦的なことを言うじゃないか。だったら全力を出してやろう。キエエエエエエ!」

「何その声……というかここ図書館ですわよ!」

 

 出ちゃうものは仕方がないだろう。それにお陰で見つかった。マルガレーテが持つ古めかしい聖書よりもっと古い、恐らくはグノウが残した時には既にあった聖書の中、仄かに輝く一文を俺は発見した。

 

 それを取り出して、線が引かれた部分と同じ箇所を開いてみれば、そこには褪色した貸出カードが差し込まれている。この聖書の物ではないようだ。第一この古く重い本は禁帯出である。

 

「ふん。これは答えではなく次のヒントかな。『ファウスト』の貸出カード……。確かにグノウ・アルケシアとある。しかしこの本は確か、異世界の伝説だったかな?」

「ああ。帝国劇場でも演じられているオペラの元ネタだ。しかし、これはヒントではなく答えだよ」

「と言うと?」

「81415」

 

 その数字が、魔力の痕跡として表紙の裏に書かれていた。トレージとマルガレーテは首を傾げている。

 

「合計すると19ね。線が引かれた一文は第16章19節。それのことかしら? 堂々巡りだけど」

「乗算では160になる。これは第16章を示しているのか? なんだ。この文を示しているだけか?」

「えっ、本当だ。数学的にも導けるようになってたのか。はえー」

「何を感心しているのよ。それで、答えは?」

 

 マルガレーテがせっついてきたので「場所を示す数字だろう。8号館1階4号教室。15は分からんが」と俺は言った。まあ推測でしかないが。

 

「これはヒントを残す際のメモ書きだろう。貸出カードを探っていけば在処に辿り着くのが作成者の意図だろうが、そんなまどろっこしいことをしていられん」

「はあ。ちなみに本来の回答は何なのかしら?」

「恐らく本の冊数だ。年代的にこの聖書は古い順から八冊目だろう」

 

 魔力的な見え方で当たりを付ければ大体そんなところである。そして一応ファウストの棚も見に行ったが、意味はなかった。貸出カードが存在しなかったのである。

 

「五十年の間に捨てられてしまったんだろうか。通常の方法では辿り着けないじゃないか。それこそジョットの眼でもない限り」

「ヒントというか、遊びでしかなかったんじゃないか? 誰かに見つけて欲しかったら、こんなまどろっこしい事はしないだろう」

 

 まあ、五十年前の貸し出し履歴を見れば分かるかも知れないが、そんな昔の記録が残っているだろうか。正当な方法としては、聖書の裏に書かれた文字を発見することにあるだろう。

 

 しかし、水の魔術で残された文字を発見するには、火の魔術で炙り出す必要がある。グノウは反神論を掲げていたのか、或いは涜神趣味があったのだろうか? その割には女神を題材にした作品を多数残しているが。

 

 ともかく見つかったのなら行ってみることにしよう。時間的にも人がいない放課後と都合が良い。

 

 8号館1階4号教室は何てことはない普通の教室である。しかし残りの15とは何のことか。その答えは眼を開いた先にあった。

 

「なるほど、15番目の席の足下に魔力の輝きがある。あそこに何かを隠したな!」

「貴方は謙遜するけれど、大概無法ですわねその眼」

「そして何より便利だね。宝探しをする場合は特に」

 

 言ってトレージも床に触れた。コツコツと杖で板張りの隙間を探り、「ふうん」と感心したように言った。

 

「確かグノウは卓越した土魔術の使い手だったと言ったね。なるほど、確かに凄まじい。誰にも露見しないようにしながらも、この先に部屋を作っているようだね。あると確信していなければ見つからないような代物だ」

「あるか。なら開けるか?」

「問題なくね」

 

 俺達は机と椅子を退けた。トレージは床板に杖を突き立て数節の呪文を唱えた。すると見る間に床板は捲り上がり、地下への階段が現れる。

 

 音はしなかった。元より放課後に広大な校舎を歩く物好きはいないが、気を遣っておくに越したことはない。風に音を遮らせて「どうだ?」と二人に聞く。

 

「光を飛ばして見たけれど、一見して何の変哲もない地下室ね。大きさは丁度この教室と同じくらい?」

「何の変哲もないというか、がらんどうだね。ただ一点を除いて」

 

 トレージは地下室に入り、階段の正面、無機質な石壁に触れた。杖を当ててじっと睨む。そこだけが殺風景な地下室の中において異常だった。

 

「構造を把握した時点で分かっていたが、ここだけが認識できない。恐らくはこの先に本命の部屋があるのだろうが、何とも見事な隠し方だ」

「……当然のようにやっているけれど、それ確か、結構な技術ではなかったかしら?」

「錬金術と魔術式を学ぶためには必須の技能だ。嫌でも四年生には学ぶ事になる。まあ規模は違うだろうが」

「どれどれ」

 

 試しに俺も探ってみたが、どうにも奇妙な感覚だった。不定形で安定しない。ダンジョンの神経をより不安定にしたかのような、それでいて生きてはいないという。作為ある不安定がそこにはあった。

 

「……私としては、発見だけで十分よ。学院に、公爵家に関係する品物があるかもしれないと話を付けて、後日専門家を呼べば良いだけの話ですわ」

「しかしそれでは俺達の苦労が水の泡になってしまう! お宝! 金貨何千枚のお宝! 未発見の作品!」

「苦労というほどの手間でもなかったけどね。しかし、たとえ専門家でもこれが解けるかな?」

 

 言ってトレージは魔術を行使した。何時ぞや見た火と土の混合魔術を壁に放つ。

 

 しかしそれは壁を破壊しなかった。壁は魔術を呑み込み、吐き出すようにして返された。それを如才なく弾いて「これだ」とトレージは言った。

 

「これが最後の防衛装置だろう。単純な土魔術の域を超えて、ダンジョン染みた一種の機構が備えられている。まったく素晴らしい。お手上げだ」

「ならそろそろ引き上げて……」

「いや、俺に任せろ。魔力の流れがあるのなら解析は可能だということだ」

「僕も手伝うよ。今ので表層の魔術式は読み取れたからね」

「……貴方達って、本当に高性能よね」

 

 というかマルガレーテは何を頻りに止めようとしているのだろうか。後ろ暗いところでもあるのか?

 

「いや、単純に見つからないか気にしているだけよ。これって学院の施設破壊だから」

「それだけではないような気がするがなあ?」

「……言ってしまうと、もしこの先に公爵家関連の品物があったとしたら、それを貴方達に見つかるとよろしくない予感が凄いのよね。ある事ないこと言ってお金をせびってきそうでしょう。主にブレイク君が!」

 

 酷いことを言ってくるが、残念なことに事実であった。

 

 しかし、それでも彼女が嫌な顔を浮かべているだけなのは、発見者である俺の面子を尊重しているからだろう。そういう所が実に貴族らしい。

 

「ここまで早く見つかるなんて思ってなかったわ……早過ぎるのよ貴方達……」と後悔するようなことを呟いてはいるが。

 

「まあ、とにかく開けてみようか」

 

 見つかった後の事は見つかった後で考えれば良いのだ。先生の杖を持ってこなかったことが悔やまれるが、ともかく杖を突き立てて内部を探る。

 

「うわあ」と声が漏れた。中に構築されているのはぐちゃぐちゃに絡まったコードのような魔術式である。後付けに後付けを重ねたような構造は、最早製作者にさえ解けないのではないのかと思うような代物だ。

 

「だが、時間をかけていけば可能な筈だ。トレージ、マルガレーテ。俺の代わりに防音の風魔術を頼むぞ」

「時間がかかるのは心配ね……。寮の門限があるから」

「だが、君ならそれまでには終わるだろう? 任せてくれ。まずいことがあったらすぐに言う」

 

 そう頼もしくトレージが言った所で、不意に笑い声が響いた。

 

 地下室からではない。外からだ。狂ったような笑い声を上げて、校舎中に響くような声で奴は言った。

 

「クソ貴族のクソ金髪娘を捜索してこいとはゴミクソ極まる命令もあったものだが、何やら小賢しい事を企んでいるようだな! クソガキとクソッタレ孫よ!」

「ごめん! たった今まずいことが起こった!」

「言われなくても分かっとるわ!」

 

「グシャシャシャシャ!」と何がそんなに楽しいのかワイエス爺は笑っている。しかし教室の扉を蹴り上げても無駄だぞ。元々の施錠の術式の上から防護を重ねたからな。解除には手間がかかるはずだ。

 

「ならば死ね! どんないかがわしい事をしているのか教育的指導をしてやろう!」

「マルガレーテ、一人だけ外に出て説得してくれ頼むから!」

「無茶言わないで下さる!? ってきゃあっ!?」

 

 ドガンと音がして地面が揺れた。あの爺、魔術で扉を吹き飛ばしやがった。「さあ不純異性交遊の名目で指導をしてやる!」と勝手極まる理屈を振り翳してくるが、もっと問題な物が目の前にあった。

 

 衝撃で手元が狂って壁が爆散したのである。

 

 

 

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