芸術的で文化的な異世界生活を目指して   作:生しょうゆ

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第52話 戯曲ファウスト

 

 

 

「えっ、これ何語ですか?」というのがノアによる第一の感想だった。

 

 舞台の幕が開き、役者が扮す老ファウスト博士が出てきたところまでは良かったのだが、彼が歌い始めたところで首を傾げ始め、歌い終わる頃にはこの一言である。

 

「フランス語だよ、ノア」

「えっ、もう一度言いますが何語ですか?」

「異世界のマイナー言語ね。元はドイツ語っていう、これもマイナーな言語なのだけれど、それをフランス語にしたものよ」

「な、なんでそんな面倒臭い事を……? そして何故、そんなものをそのままの形で……?」

 

 そんなもの呼ばわりとは中々に酷い言い草だが、何故なのかはいまいち俺にもよく分からん。シャルル・グノーがフランス人なのかドイツ人なのかも俺は知らない。フランス語で書いたのだからフランス人だろうとは思うが。

 

 しかし、異世界の音楽が異世界の言語のままで歌われている理由は明瞭だろう。

 

 翻訳の問題は、何時だって完全性の問題に帰結する。原文を分かりやすいように訳す事は、大衆に広めるには有用だが、原文の意図や芸術性は損なわれ、代替した単語によっては意味を履き違えてしまうこともあるだろう。

 

 ましてそれが音楽ならば、原曲のリズム、押韻の美しさを完膚なきまでに破壊する。故に翻訳を行うには、翻訳先の言語と、何よりも翻訳元の言語に精通している必要があるのだが、生憎、英語に比べてフランス語は資料が少ないのだ。

 

 というか異世界言語を翻訳するプロセスとして、フランス語なり各地の言語なりを異世界の共通言語と目されている英語で翻訳し、その翻訳した英語をウルド語に翻訳する必要があるのだから、当然に意味も文脈もぐちゃぐちゃになる。

 

 故に翻訳は行われず、意味を理解しないままに歌われているのだ。舞台上で歌う役者もまた、その歌うところの意味を完全には理解していない。作曲者の顔も、彼や彼女が生きていた時代も理解していない。

 

 それでも客を集め、人々の心に訴えかけるものがあるのは、音楽に言語を越える共通性があると言えようが、それ以上に、この世界における異世界への態度を示しているだろう。

 

 何せ、それらはどう足掻いても流入してくるからだ。

 

 鎖国をしようにも、抑えるべき港というものが見つからない。異世界からの物品は漂着物として社会の海岸に流れ着く。唐突にして街中に、海中に、土の中に現れる。そんな偶発的な現象をどうして人の手で押し留める事が出来るだろうか。ましてや、その現象は既に常識的なものとなってしまっている。

 

 聖書の記述によるならば、異世界の物品は古くから多大な影響を与え続けている。その時代にも既に共産主義と無神論はあったのだ。しかし、カントの『純粋理性批判』が今日も奇書として扱われているように、人々はその意味を完全には理解していない。理解しないままに、社会に組み込まれてしまっている。

 

 これは、一種の柔軟性と呼ぶべきだろうか。文化も時代も世界も異なる知識が流れ込む社会は、人々に、分からないものを分からないまま、有用な部分だけを取り入れようとする態度を生み出させた。それこそ、グノーの歌曲がフランス語のままで歌われているように。

 

 勿論、その流入に反応して、或いは反発して、国風文化を生み出そうとする気運もあるが、逆説的に、そういった流入が社会に強い影響を与えていることは確かだろう。

 

「言うほど明瞭じゃなかったですね……なんか頭の中がこんがらがってきましたよ……」

 

 ノアがますます訳が分からないとばかりに呟いた。

 

「ええと、なんでしたっけ? 社会が悪いんですか? ううん……」

「十分に理解しなくても音楽は見事だということだ。ほら、デュエットが始まったぞ」

「なんか赤色のハゲの人が出てきましたね……ハゲの人はなんで出てきたんですか……? 意味分かんないんですけど……」

 

 ノアにハゲの人呼ばわりされた役者、彼が扮する悪魔メフィストフェレスと老ファウストの会遇こそ、ファウスト第一幕の主体である。ここから歌劇ファウストは始まっていくのだが、ノアは全く劇に入っていけない様子だった。

 

「……ブレイク君。貴方の劇場好きは知っていますけど、何も知らない人を放り込んで、それでさあ感動しろというのは酷ですわよ」

「ううん。確かにこのままでは知らない爺とハゲが何やら言っているだけになるな。仕方がない。ノア、簡単にあらすじを説明しよう。マルガレーテ、また扇子を借りるな」

「扇ですわ」

「別にどっちでも良いだろ」

 

 人目を気にしてぱっと広げれば「やっと私の番ですね!」とノアが顔を近づけていた。憧れていたらしい。高貴っぽいからかな。

 

 では、猛烈に煩雑に省略してあらすじを説明しよう。

 

 主人公となるのは老学者ファウスト。彼は知識の限界を悟って自殺を試みるが、外から聞こえた賛美歌に自殺を止める。そこに悪魔メフィストフェレスが現れる。メフィストは「青春が欲しい」というファウストの望みに彼を若返らせ、死後に魂を受け渡す契約を行う。

 

 で、ファウストはグレートヒェン(マルガレーテの愛称)という素朴で清楚な娘に恋をして、すったもんだの末に彼女は妊娠する。それでグレートヒェンの兄、ヴァランタンはファウストと決闘するが、メフィストの魔術で敗北してしまう。そして彼は「マルグリート、呪われよ!」と言い放ち、妹の目の前で死ぬのだった。

 

 加えてファウストがグレートヒェンを捨ててしまったものだから、彼女は気が狂って自分の子供を殺し、その罪で投獄。ファウストは今更助けに行くが、グレートヒェンはそれを拒絶し、処刑される。

 

 で、メフィストは「裁きだ!」と喜ぶのだが、上から「救われた!」と声が入り、続いて「キリストは蘇られた」とコーラスが捧げられて、幕は閉じる。おしまい。

 

「……まあ、そんなところかな。どう?」

 

 言い終えて、俺は聞いた。ノアは真っ直ぐに俺を見つめながら聞いていたが、そのまま真っ直ぐに彼女は言った。

 

「はい! 率直に言って『はあ?』って感じの話ですね! 全く理解が出来ません!」

「だ、だろうな……」

 

 俺自身、言っている途中から自分でも『こいつクズ過ぎるだろ』ってなってたからな。それで謎に『救われた』だの言われ、そうして終わるものだから、ノアにしてみれば最初から最後まで意味不明だろう。

 

「あ、それと『時よ止まれ、お前は美しい』って台詞はどこに出てくるんですか? それっぽいのどこにもありませんでしたが」

「なんでそれだけ知ってんの……? いや、出ないよ。その台詞は」

「えっ、どうしてです?」

「歌劇ファウストの方では削られたから」

「……そうですか!」

「あっ待って興味をなくさないでノア……」

 

 しかし舞台は容赦なく進み、それと反比例してノアの顔は白けていく。「なんか必死でしたね」というのが、舞台の幕が下りた後、発せられた感想だった。

 

 

 

「なんか必死でしたねって……なんか必死でしたねって……流石に酷すぎるだろ……」

「だって意味不明の理屈ですったもんだしているんですよ。感情移入が出来ませんからそれくらいしか出てきませんよ」

「そ、それでも音楽は……音楽は良かっただろ……? 流石に音楽くらいは……」

 

 閉幕の後、劇場を出、俺達は茶を喫していた。ノアの感想は変わることなく辛辣であるし、ユラウは「まあまあだったわ」とどうでも良さそうに言っている。

 

 そしてマルガレーテは落ち着かぬ様子で辺りを眺め、新たに掛けたサングラスを頻りに気にしていた。

 

「どうしたマルガレーテ。茶葉も茶菓子も中々のものだろう。おまけに給仕も付いて、さながら落ち着きのある高級喫茶店といった具合だ」

「……その、さながら、という部分に大いなる欺瞞を覚えるのですけどね、私」

「ああん!? 何が不満なんだいアンタ!」

「……ここがスラム街にある、ということですわ。その、オーナー様……?」

 

 恐る恐るといった風にマルガレーテは言った。対してオーナー様と呼ばれたランダマおばちゃんは気を良くするでもなく「また客にならない客を連れてきて!」と怒っている。

 

 そう、ここはスラム街はど真ん中にしてランダマおばちゃん経営のメイド喫茶もどきである。最初は当然、劇場近くの手頃な場所に腰を落ち着けようと思ったのだが、生憎の満席が相次ぎ、もう探すのが面倒になったので、確実に空いているであろうここを選んだのだ。

 

「いや、あの……ドレス姿から着替えたとはいえ、流石にこの様な場所では落ち着けませんわよ……。物音の一つ一つが恐ろしいですわ……」

「刺激的で良いじゃないか。そういうアクティビティだと思ってみろよ」

「貴方さっきは落ち着きのある高級喫茶店云々言っていませんでした?」

「どちらも体験できるとはお得だな」

「この、おゴミ野郎……」

 

 と、全く貴族のお嬢様らしくない罵倒を聞かなかったことにして。

 

「で、どうだノア。物語はともかく、曲に感じ入る部分はあったか」

 

 ノアは「ううん」と少し考えて言った。

 

「あの、広場での歌……なんて言うのか分かりませんが……ハゲの人が歌っていた……」

「第二幕『金の子牛のロンド』か? メフィストがグレートヒェンの兄、ヴァランタンに喧嘩をふっかける歌」

「ああ、多分それですね。あれは酷く、派手でした」

 

 随分と率直な物言いだが、まあ確かに派手ではある。「そう思えば、色々と綺麗ではありましたねえ」と今更ながらにノアは言う。

 

「あれは旅に出る場面だったのでしょうか……? めいめい杯を持って、大いに騒いでいるところに、立派なお髭を生やした人が『マルグリート』と何度も歌っていましたね。食事や飲み物もちゃんと用意されて、実際に飲み食いをしているようでした」

「あれは出征の場面だよ。兄は戦争に行っていたから妹の事情を知らずにいたんだ」

「そんな賑やかな場面に、突然金色の牛の像が上から落下してくるものですから驚きましたよ……。しかも確かに落下したというのに、音も衝撃もありませんでした」

「舞台芸術の妙だな。魔術の有効活用だよ。帝国劇場において、魔術師は舞台装置として扱われるのさ」

 

 この点においては、元の世界の舞台装置を遥かに凌駕していると言って良いだろう。何せ、消えるべきものは瞬間に消え、現れるべきものは瞬間に現れるからだ。

 

 元の世界において、オペラだけでなくミュージカル、歌舞伎なども含めた舞台芸術を、初見では上手く飲み込めない理由はここにあるだろう。魔術なき世界において、幻想的な世界を生み出そうとする時、そこにはどうしても嘘が見えてしまう。超人的な飛躍はワイヤーロープを必要とするし、流水や炎は色鮮やかな布で表現される。そしてその消失と出現は、どう足掻いても舞台袖から現れて消えるのだ。

 

 しかし、それらは舞台上においては現実として扱われる。役者は本物の炎のようにそれを恐るし、布を操る操り手は居ないものとして扱われる。人形劇にはそれが顕著だろう。人形浄瑠璃において役者となるのは物言わぬ人形の方で、操り手は全身を黒布で覆い、黒子という居ないものになるのだ。

 

 それは観客と演者の両方が飲み込んだ約束事で、この約束事を知らないからこそ、初めて見る人の眼に、舞台というものは酷く滑稽なものとして映るのだろう。

 

 しかし、この世界の舞台では、幻想の世界は幻想の力を以て表現される。魔術である。炎に操り手は必要なく、怪物を模した舞台装置だって中の人要らずに動き出す。

 

 そこに最早、約束事など必要ない。幻想は限りなく現実と接近し、観客は手の届く先に世界そのものを感じ取るだろう。

 

「金色の像が落下してきて……金貨が地面から溢れ出てきました。それまでの素朴で賑やかな席が、どこもかしこも下品な金色に塗りたくられて、その中に赤色の悪魔が歌っていたのです」

 

 ノアは思い出すように虚空を見つめて語る。

 

「歌に合わせ、人々は金貨に手を伸ばして踊るようになって……あれは酷く派手で、恐ろしくもありました」

「メフィストフェレスが如何に悪魔的であるか、それをよくよく示した一幕だろう。その後にヴァランタンの十字架で追い払われてしまうのも、この舞台における悪魔というものを示している」

「だから、その金色は下品なのね」

 

 ふと、ユラウが言った。皮肉っぽく笑っている。

 

「皇帝の金色とは違って、ごてごてとした、光を拒絶するような金色。こう思えば、あの色彩は確かに見事ね」

「そんなに褒めることですの?」

「金色というのは光を前提に置いた言い方ですもの。あれはずっと色が濃くて暗かった。意図して光を遠ざけていたのよ。それが偽物の金である事を示すために」

「金に本物も偽物もあるのでしょうか……? でも、一番理解できなかったのは主役の人でしたけどね」

 

 ふうふうと紅茶を冷ましながらノアが言った。ちょっと怒っているようですらある。

 

「あの人、結局何がしたかったんですか? 恋人になりたかったのならどうして捨てるんです。そして、どうして助けに来るんです? 訳が分かりませんよ。マルガレーテさんが……」

 

 そこでノアは気が付いたようにマルガレーテを見た。慌てて言う。

 

「ああいや、こちらのマルガレーテさんの事を言っているわけではないんですが……彼女が可哀想じゃないですか」

「別に気にしなくて良いですわよ。……でも、そうね。ちょっと、思っていたのとは違ったかも」

「なんだ、君も内容を知らずに来たのか?」

 

 まあ確かに、知っていたら見るはずもないだろう。自分と同じ名前の女が、劇中では男に靡いて男に捨てられ、兄には『呪われよ』と言われた挙げ句、自分の子供を殺して処刑されるのだ。

 

 これは悲劇も悲劇だろう。同じ名前である事に喜ぶような人生ではない。寧ろマルガレーテの父親の神経を疑うほどである。いや、別に珍しい名前って訳ではないのだが。

 

「いえ、一応は知っていましたのよ。帝国劇場ではない場所で一度鑑賞を。でも、話の筋は随分と異なりましたわ」

 

 マルガレーテが言うには、帝国劇場ではない場所、というか彼女の実家において行われた演劇ではずっと幸せに終わったのだという。

 

 ファウストは、一度はグレートヒェンを捨てたものの、神の愛によってメフィストの奸計に打ち勝ち、真実の愛とやらを手にする。グレートヒェンも子供を殺すような真似はせず、どころか肉体関係を否定するような描写を入れて、真実純粋な愛を獲得するのだ。

 

「今思うと、随分改変されたものだったのね、あれ。まあ、私の誕生日の余興に開かれたものだったから、当たり前なのでしょうけれど」

「同名のヒロインを配置するにしても悲劇じゃ首が飛ぶからな。その辺りは仕方がないだろう」

「その程度で飛ばしませんわよ。貴方は貴族を何だと思っていて?」

 

 マルガレーテは何時ものように言って、ふと思案するように呟いた。

 

「……それに、演目を指定したのはお父様でしたもの。寧ろ、少し不満げではありましたわ」

「あら、御当主自らが」

 

 ユラウが言って、俺に視線を投げ掛けた。

 

「随分と、気に入っているのね。碌な末路でもないでしょうに」

 

 それはグノウの影響か、どうか。

 

 ユラウはマルガレーテに向け微笑む。

 

「でも、知ってる? 結局、ファウストはグレートヒェンによって救われるのよ。歌劇にはなっていない第二部、その結末においてね」

「あんなのが救われる必要ってあるんですか?」

 

 ノアはファウストに酷く辛辣だった。しかし、ユラウは気にした様子もなく言う。

 

「寧ろ、救われるための話なのよ。原作ではね」

 

 ユラウはカップを置き、ファウスト第一部と第二部のあらすじを話し始めた。

 

 第一部の大まかなあらすじは歌劇と同じだ。自殺しようとしたファウストが、外から聞こえた賛美歌に自殺を止める。そして現れたメフィストと契約し、グレートヒェンを誑かして彼女を妊娠させる。それに激昂した兄ヴァランタンは殺され、気の狂った彼女は子供を殺し、投獄、処刑。救出に来たファウストをグレートヒェンが拒絶するのも、上から「救われた」との声がするのも同じである。

 

 違う点を上げるとすれば、ファウストの態度だろうか。彼は「青春が欲しい」ために契約するのではなく、徹底的な探求者として描かれている。哲学も法律学も医学も、果ては魔法まで極めようとした彼は、しかし、知識を探求するものが往々にしてそうなるように、老いると共に探求そのものに疲れ果て、人生、生命、肉体を煩雑であると切り捨て、それが故に自殺しようとする。

 

「止まれ、お前は美しい」という台詞も、これがためにあるのだろう。その言葉を吐くのは、彼が探求を止めた時だ。満足した時だ。『己がもうこれで満足というように持って行けたら、己を快楽で誑し騙しおおせたなら──その時は己の負けだ。』とあるように、この台詞は、ファウスト自身が契約の条件として提示したものである。グノーによるファウストは、グレートヒェン悲劇を中心に据えたために、その台詞は削除されたのだろう。

 

 そして第二部は、それまでの話とは趣がまるで異なってくる。

 

 第二部の舞台となるのは、ファウストが生きている16世紀のドイツではなく、あまりに現実離れした世界だ。パリスやヘレネー、スフィンクスにケイローン、その他ギリシア神話の神々に怪物など、キリスト教的世界観からも離れ、ファウストは遍歴を重ねていく。どころかそのヘレネーを妻として、ファウストは息子、エウポリオーンをもうけることになる。

 

 しかしエウポリオーンは死に、それと共にファウストは再び自らの時代に帰ってくる。彼は皇帝(神聖ローマ皇帝)のために戦い、海辺に領地を得るのだが、そこでやることと言えば、『海を埋め立てる』という途方もない大事業なのだ。

 

 それは彼の志す探求の精神を、己の内側だけでなく、外側へと拡張しようとする試みだろう。無意味に繰り返す波は、まさしく人生の、生活の、或いは世界のそのものの煩雑さを示し、それを知的努力によって埋め立てることは、自らの精神を体現する理想郷を生み出そうという試みに他ならない。

 

 故に、ファウストは言った。色々とすったもんだあって盲目になった彼が、メフィストに命令して土を掘らせていたその時に、『己は自由な土地に、自由な民と共に生きたい。』と。『そういう瞬間に向って、己は呼びかけたい、』と。

 

「時よ止まれ、お前は美しい」という言葉は、そのために発せられたものである。

 

 しかし、メフィストは最初からファウストを絡め取るために現れたのである。ファウストが聞いていたのは土掘りの音ではあったが、それはファウスト自身の墓を掘る音であった。

 

 が、ここでまた神が出てくる。神というか天使だが。彼らはファウストの魂を天界に持ち去って、『絶えず努力して励む者を、われらは救うことができる』と言う。

 

 そして『その上、この方には、天上の愛が手を差しのべています。』と天使が示す先、天界の住人に混じってグレートヒェンが姿を現わす。彼女の助力によってファウストが救済されたことを示し、物語は終わる。

 

「以上。あらすじ終わり。どうかしら。何か間違っているところは?」

 

 ユラウが息を吐き、紅茶を一口飲んでから言った。対して俺達は言った。

 

「読んだことないから分からんな」

「読んだことないから分かりません!」

「無知を晒すようでお恥ずかしいのですが……右に同じですわ」

「そ、そう……」

 

 ユラウは苦笑を浮かべた。早口とまでは行かないが、急に詳しい説明を始められたものだから軽く引いてしまった。そんなに好きかい。

 

 

 

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