芸術的で文化的な異世界生活を目指して   作:生しょうゆ

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第64話 正しいとか正しくないとか

 

 

 

 馬車に乗せられて俺達は道を進んだ。外は幕に覆われて見えないが、西都と東都を繋ぐ橋に差し掛かったのだろう。潮風の臭いが鼻を突いた。

 

 ノアは大佐の言った通り、すっかり気落ちしていた。それ以上ですらあった。じっと掌を見つめ、蒼白の顔に何やらぶつぶつと呟いている。これは思っていた以上にまずいだろうと何度も話しかけたが、駄目だった。

 

 彼女は俺が話しかけた途端、小さく悲鳴を上げて頭を抱えて亀のように丸まった。脇目も振らず、場所も選ばず、小さくなって震えている。

 

 良くないな。非常に良くない。しかし、話せないのなら、俺と話すことが苦痛になるのなら、時間が癒やしてくれることを待つしかない。

 

「お前はどうだ、ユラウ」

 

 俺は狭い馬車の中、思い詰めた表情を浮かべるユラウに言った。

 

「……まあ、持ち直したわよ」

「そうか」

「寧ろ、ごめんなさい。そして大丈夫かしら。お父様と相対して」

「大丈夫だ。何ともない」

 

 俺は言った。実際には喉元を過ぎていないが、俺以上の問題が目の前にある。なら大丈夫と言うしかないだろう。

 

 馬車はガタゴト揺れて、暫くの後に止まった。「どうぞ」と幕が開けられる。夜の曇りを撥ね除けて、宮殿の輝かしき青色が近くに見えた。ここはもう貴族が暮らす区域、その中でも一等立派なアルケシア公爵屋敷の門前だった。

 

「アルケシア公爵によろしくと、少将から」

 

 御者台に座っていた大尉が俺に言う。「それと」彼は声を潜めて言った。

 

「何に代えても、私達が君達を守る。今度はどうか私達に任せてくれ」

「……一つ聞きたいんですが、貴方って、どうして軍に入ったんです?」

「大佐は立派な人だ。自分の間違いを理解しながらも正義を掲げようとしている。そう思っただけだよ」

「貴方も犠牲を許容しますか」

「許容しないことが理想だったよ」

 

 そうか。そういうものかな。徹底するということは。

 

 門が開けられる。俺達を出迎えたのはローベンとマルガレーテだった。彼女は奇妙な表情を浮かべていた。安堵したような、苦虫を噛み潰したかのような、文句を言うような。そういった渾然としたものを飲み込むようにして彼女は言った。

 

「ご無事で、何よりでしたわよ。皆様方」

「まあ、うん」

「あの後、何が……」

「あ」

 

 よろよろと、ノアが呟いた。「ごめんなさい」マルガレーテが素早く差し込むように言った。

 

「皆様、お疲れのようですわね。申し訳ないのですが、お父様は館を発ってしまいました。ですので今暫くごゆるりと過ごされるのがよろしいかと」

「まあ、そうだろうな。きっと忙しいだろう」

「ええ、とても」

 

 マルガレーテは俺達を応接間と思しき広い部屋に案内した。公爵家の応接室は、軍部のそれに比べて余りに広く、その広いところに小さな机を設えているのだから落ち着かない。部屋の装飾がようやく眼に入ったが、白と金、そして青色が随所に配置された内装は、横目に見るだけで目が回りそうだった。

 

 給仕さんが茶を運んできて、俺達はそれを飲んだ。やけに甘かった。その甘さがマルガレーテの心遣いを示しているようにも思われた。

 

 菓子はなく、ただゆっくりと茶を含む。誰も何も言わず、静かな時間が流れていく。

 

 ノアはずっと視線を床に落としていて、茶にも碌に手を付けず、時折マルガレーテが促して口に含むだけだった。ユラウもまた沈黙し、遠くを見るように視線を彼方へと向けている。

 

 マルガレーテは落ち着いていた。落ち着きを振る舞って、この場を優しく取り纏めようとしていた。給仕さんに掛ける言葉も柔らかなもので、それを受けた彼ら彼女らの礼節も、扉の開閉にさえ物音を立てぬ様であった。

 

「これから」

 

 慎重に、決して強く言わぬように気を付けながら俺は言った。三人の視線が俺に向けられる。

 

「これから、どうなるんだろうか。俺達は」

「何も心配しなくて良いですわよ」

 

 マルガレーテが、俺の意を汲んだように少しの沈黙を挟んで言った。

 

「お父様はきっと上手くやってくれますわ。これ以上、貴方達が何かに巻き込まれることはありません。それで良いでしょう」

「戦争は起きるかな」

「さて……。起きるにしても、それは遠い世界の話ですわ。準備に時間も掛かるでしょうし、ひょっとしたら話し合いで解決するかもしれません。いずれにせよ、私達にはもう関係のない話ですわよ」

「でも、私は」

 

 ふと、ユラウが言った。両手でカップを抱えたまま、視線をその底に落として語る。

 

「私は……きっと、このままじゃいられないわ。人間でもないし、吸血鬼でもないんだから、このままずっとここには居られない。公爵様に迷惑を掛けるわけにもいかないでしょう」

「そんな事はありませんわよ。お父様はグノウ大叔母様の話を聞きたがっていましたわ。ですから、ユラウさんも安心して留まって下さいまし」

「そうかしら……でも……」

 

 じっとカップの底を覗き、そこに向けて呟くようにユラウは言った。

 

「何よりも、私が分からないのは……どうしてお父様が、あんな風に変わってしまったのか」

 

 変わった。

 

 ユラウが今まで語ってきた父親像は、確かに対面したクラウンの印象とは異なっていた。

 

 彼女の口振りからすれば、彼は人間を見下す事なく、寧ろ両者を調和させることに腐心していたように思う。その結実は、ユラウという形で現れている。

 

 ならば、それが変わったのは何が理由なのだろうか。

 

「それとも、お父様は変わってなんかいないのかもね」

 

 溜息を吐くように言った。

 

「お父様は、お母様とは別の目的で私を生みだしたのかも。吸血鬼の象徴として、私を」

「それは、おかしな話だろう。それなら人間と混じる必要なんかない」

「そうね。でも、そうと考えなければ、私には分からないのよ。仮にお父様が、変わらず私を愛しているのなら、どうしてあんなことをしたのか。そして今も、しようとしているのか」

 

「私は、お父様の真意が知りたい」とユラウは言った。

 

「お父様が、何を思っているのか。私をどう扱おうとしているのか。それが知りたいの」

 

 それは……どうやって。

 

 そんな事を言わなくてもユラウには分かっているようだった。だからじっと器の底を見つめている。現実に、ただ文句を言うことしか出来ないことを歯噛みするように、彼女は唇を噛んでいる。

 

「……私が、もっと強ければ」

 

 ふと、か細い声でノアが言った。

 

「本当に、ごめんなさい。ユラウちゃん。私は……本当に役立たずで、何も出来ませんでした。浮かれて、ジョットさんの声も聞かずに、意固地になって、足を引っ張って……」

「それは違う。ノア、君は頑張った。あんなのに勝てるわけがなかったんだ」

「それは……分かっていますよ。でも、でも、ですよ。ジョットさん」

 

 そこでノアは顔を上げ、くすんだ金色の眼で俺を見つめた。

 

 焦燥が顔色に現れている。ユラウの肌よりずっと白く、強ばった顔でノアは言う。

 

「私はやっぱり、役立たずでした。ジョットさんの期待に応えられませんでした。私はね、思い上がっていたんですよ。貴方に望まれた私なら、きっとどんなことでも出来るんだって。でも……」

 

 ノアは口端を震えさせ、本当に嫌そうにしながら、尚も言った。

 

「現実には、貴方が私を守ってくれた。私が守るはずだった貴方が、私を。それがね、私、嫌だったんですよ。身勝手にもそう思ったんです。だってそれは、見捨てられたようなものじゃないですか。私なんて期待外れだったって、そう言われたような。……身勝手にも、そう思いました」

「違う。それは違うぞ、ノア」

 

 俺は思わず強く言った。「っ」とノアの身体が強ばる。身体を守るように肩が上がる。「ああ、いや」と落ち着かせるように言い、俺は続ける。

 

「違うんだ、ノア。それは違う。俺は君を見捨ててなんかいない。君が気にしているのはあれだ、あの時言った通りのことなんだろう。自分の価値が損なわれると。自分というものが俺による価値に依存しているから、自分というものが酷く矮小に見えるんだろう。しかし、俺も言った通りだ。あの時は隣に立って欲しくなかった。前にもだ。君は美しくあるべきだ。君は世界で最も尊く、そんな程度で傷付かないで欲しい」

「それは、ジョット君」

「ああそうだ。傲慢だ。人間に対する態度じゃない。しかしあの時ばかりは正しかっただろう。そしてこれからも正しくなる。俺の願望と現実とに折り合いを付けるのなら、ノアにとってもそれは幸福だ。つまり人間に、子供に対するものとして正しい態度を行うという事だよ。俺は反省する。君はこれから、何も無理して英雄を目指さなくても……」

「ジョット君」

 

 ユラウは首を振った。「あの大佐に、何を吹き込まれたか知らないけれど」と、彼女は眉根を顰めて言った。

 

「人間に対する正しさとか、そういうのはどうでも良いのよ。たとえ世界には間違っていたって、一人にとって正しければそれで良いの」

「……それで上手く行かなかったから言っているんだろう」

「上手く行かなかったのはノアちゃんじゃなくて貴方の方よ。醜悪さだとか、罪悪感だとかを、貴方が勝手に抱えているだけ」

「……俺の方が?」

 

 それは……予想だにしない言葉だった。

 

 俺が勝手に罪悪感を抱えているだけだと? 俺が過ちを悔いることは正しくないのか。それは人道に適っているというのに。相手を慮り、自分の影響を鑑みるという点では、まさしくユラウの言葉を参考に反省したというのに。

 

「ねえ、ノアちゃん」とユラウは言った。

 

「私達、立場としては似ていると思う。どっちも誰かのために生きている。誰かの理念に適うことに、喜びを抱いて生きている。……だからね、私だって身勝手に、こう思ってしまうのよ」

 

 ユラウは俺を見つめ、敢えて突き放すように言った。

 

「醜悪さも、罪悪感も、それを解消しようとすることは、貴方が楽になりたいだけでしょう」

 

 それは……。…………。

 

「貴方がノアちゃんを本当に子供だと思うのなら、守るべきだと思うのなら、口に出す必要なんてない。選択の自由なんて与えずに、ずっと夢だけを見せれば良い。それがノアちゃんにとっての幸せでしょう」

「……それは」

「貴方の真摯さは、優しさなんかじゃない。それはただ、貴方が楽になりたいだけ。……それが一番、気持ち悪いと私は思う」

「止めて下さい」

 

 ノアが言った。ユラウが口を閉じた。

 

「分かってますよ。私には分かってます。ようやく分かったんですよ。ジョットさんが私に何を期待しているのか。それは人間として立派である事なんでしょう。あの時、意固地にならずに、粛々と逃走に徹することが出来るような、そういう人間的な強さを求めていたんでしょう。だから単なる冒険者としてではなくて、文字だったり、演劇だったり、魔術だったり、そういうものを教えようとしたんでしょう。私が何も知らない、単に力だけを持った人間ではなくて、本当に立派な人間になる事をジョットさんは望んでいたんでしょう?」

 

 ノアは訥々と語る。自らの内側へと深く踏み入っていくように、じっと床を見つめながら言う。

 

「それがようやく分かって、とても嬉しいんです。貴方は本当に、私を大切に思っていた。ずっと不思議だったんですよ。礼節とか、教養とか、そういうものが必要なら、どうして私を選んだんだって。それこそリインさんやマルガレーテさん、ユラウちゃんの方がずっと立派なんじゃないかって。私である意味はあるのかって。でも、違ったんですね。貴方は本当に、私に期待してくれていた。私が何よりも素晴らしくあるようにしてくれていた。……だから」

 

 ノアは顔を上げ、俺を見つめた。逸らすことは出来なかった。黄金の瞳は底深く、吸い込まれるような灰暗さを湛えている。

 

「だから、正しいとか、正しくないとか、そういうことはどうでも良いんです。ジョットさんがそれを嫌だと言うのなら、そんな事が関係ないくらい私は立派でありたい。そんなものは下らない事だって、笑い飛ばせるくらい、私は貴方にとって素晴らしいものでありたい。ずっと貴方の隣に、前に、貴方が憧れる先に立って、貴方にとっての全てでありたい」

 

 ノアは真っ直ぐに言った。

 

「私は貴方が好きなんです。それをどうか、理屈じゃなくて、感情だって分かって下さい」

 

 俺は。

 

「でも」とノアがさっと眼を逸らした。瞳には輝くものが見えていた。身体を守るように縮こまらせ、彼女はか細い声で言った。

 

「私は、今の私は、どうしても勇気が出てこないんです。あの恐ろしい吸血鬼。私が何も出来なかったところに、ジョットさんが飛び込んでいったあの景色に、私はずっと足が竦んでいる。それが、それが何よりも苦しいんです。ジョットさん。私はね、貴方のために戦えなかったことが本当に悔しかった。なのに貴方は言うんですよ。自分こそが間違っていたって。そんな風に言わせてしまったこと自体が死にたくなるくらい苦しいのに、私はどうしても、今になっても、勇気が出ないんです」

「それは、君は」

「子供なんて、言わないで下さいよ。これからなんて言わないで。私にはね、今しか見えないんです。その今が、何よりも苦しい。……ねえ、ユラウちゃん」

「……なあに?」

 

 ノアは眼を逸らしたまま、深く悔いるように言う。

 

「ユラウちゃんは、私と似ていると言ったけど、きっとユラウちゃんの方が苦しいですよね。だってユラウちゃんは、信じられていないから。戦争なんて、そんな恐ろしいことをしようなんて、どうしてそうなるのか、私には何も分かりません。考えたくもないんです。でも、ユラウちゃんは頭が良いから、どうしても考えてしまうんですね。それが、本当に苦しいはずなのに」

「それは……ありがとう。そう思ってくれて」

 

 ユラウは笑みを繕ってそう言った。「でも」と、そこで笑みは消えた。

 

「でもね、私、賢くなんてないわ。私、頭でっかちで、本の中身だけを頭に詰め込んで、本当に大事なことは何一つとして出来なかった。……あの時、お父様に何かを言うべきだった。どうしてと、そう聞くことが出来れば」

 

 懺悔するように彼女は言う。俺に眼を向ける。

 

「私は臆病で、意気地無しで、馬鹿だった。私は馬鹿だ。こうして考えているだけで、何も出来ない。出来ないことに安心すらしているのよ。私には何も出来ないから、何も知る必要なんてないんだって。……ごめんね、ジョット君。あんなことを言って」

「……何が」

「一番気持ち悪いのは、私。何も出来ないことに安心している私。どこまで行っても中途半端な私」

 

 ユラウはそこで口を噤み、顔を伏せた。

 

 ああ、酷く天井が重く感じる。

 

 沈黙は、最早何によっても緩和されることがなかった。それ自体が罪であるかのように重くのし掛かっていた。

 

 何をすべきか。

 

 俺には分かっていた。しかし、出来るのかと問い質す自分が居る。自分がユラウと同じく、中途半端であるという事は分かっているだろう。そこに安心し、安寧を求めている自分が居るということも。

 

 だから俺は、"眼"を開いた。ノアを見た。見ようとしなかったものを見た。

 

「ああ……」

 

 やっぱり、くすんでいる。

 

 ノアの内部に見えた光。宇宙は小さく収束して、かつての輝きは褪せている。

 

 俺はそれに落胆した。そして何よりも、落胆した自分自身を嫌悪した。

 

 だから見たくなかったんじゃないか。ああ、そうだとも。俺は落胆してしまっている。口ではノアを慮りながら、尚も輝きに眼を焼かれ、それが褪せている事に失望していやがる。

 

 ここまで業が深いかよお前は。こんな俺を、本当にノアは望んでいるというのか。

 

 俺はノアの言葉を信じられない。何せ、俺は俺自身が信じられない。彼女がそう望むような存在が、本当に俺であって良いのかと疑わしくなる。俺はノアが言うような立派な人間なんかじゃない。

 

 しかし、それを口に出すことは、ユラウの言う通りに俺が楽になりたいだけだろう。

 

 なら、俺は出来るのか。俺は俺が思うことが出来るのか。出来るものか。こんな俺が。

 

「ブレイク君」

 

 ふと、マルガレーテが言った。

 

「何に悩んでいるのかは知りませんが、一つ」

「……なんだよ」

「貴方、私に勝ちましたわよ」

「は……?」

 

 急に何を言っているのか、分からなかった。しかし彼女は、その言葉にあらゆる感情を込めるようにして言った。

 

「私は、私が高貴だと信じていますわ。その私に、貴方は魔術でも知識でも勝ち続けていましたのよ。だから、そんな顔は止めなさい。よろしくて?」

「よろしくてって……」

「自分が立派だということを分かりなさい。信じなさいよ。何時ものように、楽観的で馬鹿馬鹿しくありなさいよ。……だから、そうね」

 

 マルガレーテは、わざとらしくふてぶてしい顔を作り、言った。

 

「公爵令嬢として命じますわ。貴方、自分に自信を持ちなさい。断れば無礼討ちですわよ」

 

 呆気に取られた。

 

 そうして、思わず笑みが溢れた。それを言うのか。他ならぬ、君が。

 

「そうか」

 

 俺は笑みを噛み殺して言った。

 

「俺は、そんなに酷い顔をしていたか?」

「ええ、とても。見ていられないくらいに」

「そうか、そうだな」

 

 そうだ。どうにも、俺らしくなかった。

 

 俺は馬鹿なんだ。他人の気持ちも迂遠な言葉も、哲学だって分からない。何時だって軽率に何かに手を出しては手痛いしっぺ返しを食らうのが俺だろう。

 

 だから、俺は言った。

 

「ノア」

「……はい?」

「あの時の俺の行動は、やっぱり間違っていなかったと思う。君の代わりに戦うことは、正しい選択だった」

 

「だが」と彼女が顔を伏せる前に言う。

 

「それは君のためだ。ノア、君の勇気が出ないというのなら、俺が君にそれを与えてやる」

「それは……」

「選手交代だ。俺が君を見るんじゃない。君が俺を見るんだ。君が俺に憧れて、自然とそれを目指すように、俺は素晴らしくなってやる」

 

 俺はユラウに眼を向けた。彼女は呆気に取られたような顔を浮かべていた。

 

「君の父親と俺は戦おう」

「は」

「英雄と、真実の探求。一石二鳥だ。何よりも、格好の状況じゃないか。軍にも帝国の英雄にも先駆けて、最近有名になっただけの学生がそれを成すんだ。名誉は独り占めで、政治は混乱する。誰もが俺に注目する。人間でも吸血鬼でもなく、連邦と国家という枠組みでもなく、俺個人を中心に世界が動くことになるだろう」

 

 その言葉で、空気が一気に軽くなったような気がした。呆気に取られた、ぽかんとした顔を二人は浮かべている。

 

 そうして、マルガレーテは。

 

「やるからには勝ちなさいよ、ブレイク君」

 

 そう言って、満足げに笑っていた。

 

 

 

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