殲滅戦争 作:Libro
地に伏せた王女が傷ついた首を必死に上げ、見上げる。
視線の先には自身を殴り飛ばし近衛騎士を殺して周った男。
誕生日に母に貰った真っ白なドレスは自身と近衛騎士たちの血で赤くそまり、唯一の希望だった騎士団長も殺されてしまった。
やはりこんなことはするべきではなかったのだと、遅い後悔をする。
勇者召喚。
異界より飛来した魔王に対抗するべく神々が人に与えた奇跡の術。
魔力を使い行使する魔術・魔法と違い世界を創りだした神の力によってなされる術法。
隣国のクリセルダからの要請と神託に後押しされ実行したのが間違いなのだ。
如何にどんな正当な理由があろうと。
どんなにこれが世界を救うための手段だとしても。
どこか遠いところで平和に暮らしている者を戦争に巻き込む等、してはならない愚行だったのだ。
そうして自身の愚かさを呪った哀れな少女は
自身の頭を踏みつぶす
血で染まった靴に踏みつぶされた。
「……で、なんだこいつら」
王女を殺した男──召喚された勇者になるはずの者は、足元に転がる死体を見て呟いた。
「人間……か? けど、俺を勇者だなんだと言ってたし敵だよな……」
顎に指をあてながら考える。
男の名は
顔はワイルド系とでも呼称すべきか。少なくとも不細工でばないが、イケメンというほど整っている訳ではない。
「取り合ず……魔法使い探すか……」
いや、魔術師か? とぶつぶつ言いながら歩いてゆく。
不破泰二は自ら望んでこの地に来たわけではない。
いつも通りの大学の帰り道、白い光に包まれたと思ったらどこか神聖さを感じさせる女──本人曰く女神が「どうか異世界を救ってほしい」と。
無論そんなのは断った。
だが女神はしぶとく、どれだけ断っても異世界に送ろうとし……
最後に無理やり異世界に送ったのだ。
女神とやらが世界を救えというのなら。
その逆をしよう。
世界を救うべき力で──世界を滅ぼそう。
異世界に送られた男はそう決意し、『勇者』と
それ以上の理由はない。
あってはならない。
「で、ここは何処だ」
不破泰二が呟いた。
何があったのか思い出そうと頭も捻る。
(……この光景を見るに自称女神は本物だったか?)
前の自分なら出来なかっただろうと考える。
碌に鍛えていもいない体で鎧を纏った人間を殴り飛ばし、人間を縦に引き裂く。
明らかにこれまでのーー否。人間の力を越えている。
女神。
いつも通りバイトに出かけようとドアを開けた瞬間。不破泰二は見知らぬ地に居た。
真っ白な。白以外に何もない空間。
そこには巨大な……百メートルはあろうかという巨大な体を持つ女が居た。
これまで見たことの無い程に美人。
グラビアアイドルや世界的に有名な美人。それらすべてを凌駕する美。
"美という概念の具現化"と言われても納得できる程の者。
その者は言った。「異世界を救ってください」と。
無論断った、全力で。
何で異世界を救わないといけない。俺は学生だ、もっと他の奴に頼めーーと。
そうしたことを叫べも聞き入れられず、気づけばこの地に居た。
「んで、このクソ女が勇者とか言ったんだったが」
足で軽く蹴り、うつ伏せの状態からひっくり返した。
頭部は綺麗に潰れ、眼球がころころと転がっている。
しゃがみ、観察をする。
(皮膚の色。眼球、爪、髪――全部人間に近い……いや人間そのものか?)
素手で女の服を裂き、腹も裂く。
ぐちゃぐちゃと内臓を弄り、肺や心臓を取り出し観察しながら考える。
まずはここは何処か?不明。自称女神の言うことを信じるならば異世界。
何を目標にすべきか?地球への帰還。家族の元に帰らなければ。突如自分が消えたら心配性の母はどうなる。
なら何をするか?虐殺。全員殺して踏みつぶし、地球への帰還方法を得るべきだ。
「……これは人間と同じと思った方がいい、か?けど魔法とか使えるっぽいのに人間と同じなのはなんでだ?」
まぁいいか、と疑問を抱きながら立ち上がる。
自身が殺した死体を避け、部屋から出た。
ビービーという音に顔をしかめながら不破泰二は人間を殺すべく扉を開ける。
「……壮観だな」
広い。
車なら二台ほど横並びで通れそうな程に広い。
しかしながら調達品の類は無く、ただただただ広いだけ。
カーペットすら敷かれていない無機質な廊下。
「さて、他の人間はーー」
「止まれ! 何者だ!」
都合がいいろ顔を歪める。
視線を向ければそこには不破よりも全身鎧を纏った大きい男。先ほど居た部屋にいた者と同じ鋼鉄でできた鎧だ。
胸には騎士団の紋章である剣が描かれている。
「貴様!魔族か?」
騎士が叫び、腰に挿された剣を抜く。
「"死ね"よゴミ共が……」
憤怒に顔を歪め、言い放つ。
先ほど殺した騎士と同じように殺そうと拳を構えた。
不破泰二に日本での戦闘経験は一切ない。
精々が授業で数度柔道などと嗜んだ程度。
故全くなっていない構え。素人以下の物だ。
しかし不破が相手に襲い掛かる前に異変が起こる。
「……ごぶっ」
「あ?」
騎士は兼を強く握ったまま地に伏す。
全身鎧を着ているというのに金属音はならず、ただどさりと音が鳴る。
なんだ、と不破が注視してみると鎧の隙間から血が流れている。
血の量からして恐らく全身から。傷ができた程度で流れる量ではない。
「この世界の住人は死ねって言えば死ぬのか……?」
今の現象が全くの意味不明で理解できていない不破は、全くもって的外れなことを考える。
よっと、立ち上がれば音が響く。
不破が出した音ではなく、廊下中からビービーという機械のエラー音じみた音が鳴り響く。
音源はどこだろうか、と耳を澄ますも聞こえることはない。
まぁ、どうでもいいかと歩き出す。
何があろうとこの世界の住人を皆殺しにするだけなのだから。