殲滅戦争 作:Libro
魔物。世界の敵。
世界を欲してやまない邪悪なる神々が創り出した尖兵であり、世界を汚す者達。
死せば灰となり世界に魔という毒を残して消える。
生命ではない。その為生殖機能や食事などはしない。ただ邪悪な神々の命令に従い人を襲い、喰らう怪物。
善なる神々が創り出した我等定命の者を模して造られた。ゴブリンやオーガがいい例だろう。緑色の皮膚などをしているが人型──つまり神が創った人類の不出来な模造品に過ぎない。
そして魔族。魔物の上位種とされる。共通するのは人型ということだ。
私たち人間を模して邪悪なる神々が作ったともされるが詳細は分からない。
ただ中には角が生えただけの物や獣人と似たような姿をしている為視認するだけでは魔族と人の違いは判らない。
だが魔族は人を襲う。そのように創られたのだから彼らは意味も無く魔族を襲うのだ。もしも街に居れば魔族は襲い掛かってくる。後先考えずに。
故街中に潜んでいるなどという恐怖を抱く必要は無い。
──『神々の創成期』より抜粋。著者『アンドレア・フィレロ・バトロ・ログ』
迷宮。あるいはダンジョンと呼称される地は神々が地上に居た頃の名残。
それは善なる神の物か、あるいは邪悪なる神の物かは定かではない。
わかるのは今の神代──地上が楽園だった時代の力が眠っているということだ。
真実を知るのは恐らく冒険王ただ一人。ただかの者はもう居ない。
そもそも知っているのかすら怪しいが、全ての迷宮を踏破したという冒険王ならば何か知っていただろう。
既にこの世に居ないのが残念でならない。
──『冒険王の足跡』より抜粋。著者『アビ―・エレン』
「……なんだこれ」
瓦礫の山の上。
崩落した家や道路の瓦礫が重なり奇跡的に山になった上で不破は本を読んでいた。
ゴーレムに集めさせた本。
『彼を知り己を知れば百戦殆からず』
何も情報が無いまま戦いに行くのは得策ではないと、多少反省をした。
この瓦礫の山もそう。今の自分に何が出来るのか把握するために人多り暴れた結果だ。
「……まぁいいか」
念のため残しておくか、と木箱の中に読み終えた本を入れる。
既に幾つもの本を読み終えているのか箱の中には十数個の本が入っている。
『サルでもわかる魔法の使い方~実際に猿に教えないでください、命の危機が生じます~』という無駄に長い本は不破にとって非常にためになる本であった。
魔法の原理の解説に簡単な魔法の詠唱文。
何故迷宮都市で魔法を乱用した時に喉が潰れたのかをこの本で把握した。
更に魔術。魔力をただ放つだけでなく力として扱う方法も理解した。
魔術と魔法は完全に別物。この本ではほんの少し触れただけのそれを、何気なく発動させてみる。
「──こうか」
何時ぞや死にかけた時に魔力を放ったように、『感覚で』魔力を行使する。
(今更だがこれが魔力か。完全に無意識──手足の延長のように使えるな、クソが)
不破泰二は元々魔力などという架空の力を扱うことは出来ない。
それなのに呼吸をするように──それが出来て当たり前のように使えたのは"女神"の力かと今更ながら把握する。
怒りと狂気に飲まれ、勢いに任せ突き進のをやめ、立ち止まった不破は自分が何なのか再確認する。
オリンピック選手も真っ青な人外の身体能力。他者の意思を完全に理解できる意思疎通能力。無限の魔力。
これらが女神に与えられた力。
会得した──推定
何かしらの変身能力と眷属製造。
不破の周囲に黒い球体が生み出される。
歪な──粘土を雑に丸く捏ねたような球体だ。
一つだけでなく、二つ。三つと次々と生み出す。
「面白いな」
"自分が魔法を使っている"という事実に、不破は感動する。
使っているのは魔法ではなく魔術だし、そもそも魔法事態これまで乱用していたが冷静になれば面白く感じる。
元々不破はゲーム等は余りしないが、それでもファンタジー系の映画や漫画は嗜む。
そういった作品のキャラクターのように超常を行使する──なんと面白いことか。
腕を振り落とし、球体を前方に向かって射出する。
超高速──弾丸の如き速度で放たれたそれは家々を消し飛ばし、瓦礫も残さず消し飛ばした。
「……凄いな」
今なら誰にも負ける気がしない──という精神を落ち着かせる。
まずはやるべきことをやるべきだ、と意識を切り替えた。
「よし、眷属乱造すっぞ」
最近独り言が増えたな、と思いつつ力を試す。
異形の体がもつ権能の一つ。眷属製造。
詳細はある程度分かっているが。
闇が王都全土を包むように広がる。
そうした後。闇から更に闇が盛り上がってくる。
球体上に闇が浮かんでくる。
幻想的である。だがどう見ても悪魔の所業で生理的な嫌悪感を感じる。
全てサイズが違うのを除けば綺麗な球体だ。
子供ぐらいに小さいのもあれば建物よりも大きいのもある。
最低一メートル。最大五十メートルと言ったところか。
それが一つ、割れる。
闇が割れ中から出たのは真っ黒な狼だ。
狼をそのまま黒く染めたようなフォルム。眼も牙も黒い。
ここまで黒いと黒を狼にしたように思えるがちゃんと牙も毛も一つ一つある。
一つ割れたのを皮切りにどんどん割れていく。
割れるとまるで最初からそこに居たかのように。様々な獣が姿を現す。
先ほどと同じ狼。手のひらサイズの鼠。豹。虎。クマ。
中にはゾウやなんでいるのかよくわからないティラノサウルスやプテラノドンらしきモノもいる。
恐竜系統も黒く染まっており、外見だけで大体わかる程度だが。
全ての球体が消えると不破の足元から広がっていた闇が一瞬で消える。
適当に動物を集めてみたような集団。
どれも共通するのは真っ黒なフォルムと不破に近づくと頭を下げ忠誠を示している。
どういう訳か。ゴーレムと同じく何かしらの繋がりを感じる。
言葉では言い表せれない奇妙な感覚だ。
例えるなら手に握ったペンや箸のようなもの。実際に体が繋がっている訳ではないが手足の延長のように不破は感じる。
同時に便利な手駒だなと不破は笑うがどうも戦力的に不安を覚える。
どれもこれも元の動物と同等──もしくはそれよりマシ程度の力しか不破は感じ取れない。
無論ティラノサウルスや虎等は普通の人間より強いだろう。しかし冒険者を相手にするのならどうしても不安を覚える。
不破は思い出す。アンファングに攻め入った時を。
あの時は誰も彼も適当に追い立てた魔物を雑兵のように蹴散らしていた。
そしてその魔物達は今生まれたこの動物達を軽く上回る。
一部の例外……ティラノサウルスや象等のよくわからないのを除くが。その数は少ない。
つまりこの程度の兵では攻め落とせないと不破は考える。
もっと強いのを造れないか?
不破がそう考えた瞬間。何体かの動物が消える。
消えたのは全て小動物だ。
雀。鴉。鼠……人間より弱そうな動物が破裂していく。
消えた動物は墨のような液体に戻り不破に向かってくる。
それと同時に動物ではない別の何かが集まることも感じ取る。
残留思念とも。負の感情とも言えるそれを感じ。不機嫌そうに顔を歪める。
これは殺した奴らの思念か、と。
この王都で死んだ一般人や冒険者。貴族に騎士たち。
抗うこともできず無様に無意味に死んだ者の欠片とでも言うべきものが集っていく。
そうしたモノが不破の前で一塊に集う。
人間の顔にも見えるそれは時折悲鳴を上げ。泣いている。
塊に手を突っ込みゴーレムを造るのと同じように魔力を込める。
すると──
塊が巨大な。これまで見たこともないような大きさにまで膨らむ。
破裂寸前の風船みたいだなと不破が思った瞬間破裂する。
他の者が生まれた時と違い破裂によって散った闇が地面に散る。
水音一つ立てず散った闇がべちゃべちゃと集まっていく。
不定形に蠢く液体が集まり大きさを変えながら形を変えていく。
蠢く液体は最終的に象のような形になった。
五メートルの巨体。
造形が象に似ている。というだけで象とは違う。
人の腕の骨をいくつかくっつけたような尻尾。
胴体は骨を土台に。所々突き出るように骨が飛び出ている。
その骨を守るように黒い液体が集まり。守っている。
最も変わっているのは頭部。
本来象の顔があるべき場所は何もなくぽっかりと消えてしまっている。
消えた頭部があるべき場所からは人の脊髄のようなものが生え途中から三股に分かれている。
怒りに打ち震えている白髪を携えた初老の男。
常に泣きすすり悲鳴を上げている長髪の女。
ピエロのようなメイクを施され笑い続けている男。
人の泣き声と笑い声が共鳴し。形容しがたい曲を奏でる。
生命から外れた。生きてもおらず死んでもいない異形の怪物が誕生した。
「……言葉わかるか?」
「不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ」
「悲しい……悲しい……どうしていつも私ばかり……」
「ひゃひゃはひゃひゃひゃ!!!」
三つの頭部がそれぞれ独立して声を出す。
しかし不破の声に反応したのか。音に反応しただけなのか。
不破の質問を理解できていないのかよくわからず叫び続けると数分で何も言わなくなった。
すぅー、と不破が空を仰ぐ。
感じる魔力から恐らくめちゃくちゃ強いと言うことはわかる。更に繋がりも感じるので、支配下にあることもわかる。
しかし意思の疎通はできそうにない。
せっかく人の頭部があるんだから会話ぐらいできろやと不破は思うも魔物にそれを求めるべきじゃないかと嘆く。
「おい」
「不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快」
「ナンデナンデナンデナンデナンデ」
「愉快愉快愉快」
やはり会話は無理そうだと諦めそうになるがめげずに不破は話しかける。
「お前、名前は?」
「不要不要不要不要」
「頂戴頂戴頂戴頂戴」
「なんでもいい! 楽しければいい! 楽しければ! 楽しければ! 楽しければ! 楽しければ!」
──要するにないらしい。
しかし名前が無いと言うのは不便だ。
唯の捨て駒として消費するのならばともかく。そういった使い方をすれば身を滅ぼす。
軍として指揮する際一々なんだっけと考えるリソースを割きたくもない。
ならば、自身の戒めを兼ねて名前でも付けようかと考えるがいい名前は思いつかない。
数分経ってようやく、名前が思いつく。
「お前の名は『ドアイラク』──なんてどうだ?」
ドアイラク。
読めばわかるように喜怒哀楽からもじっただけだ。
常に怒り。嘆き。歓喜する異形の怪物。
ネーミングセンスはない方と自負している。これが日本ならネットで調べたりできるんだがな、と思う。
「不快不要無意味無理解」
「悲しい……悲しい……」
「ありがてぇ! ありがてぇ!」
口ではこういうが思念が伝わり許容されたことはわかる。
内心不服に思ってるかもしれないがそこまでは不破には分らない。
「そうだな──他の奴らは
「「オオオォォォー!!!」」
巨大な叫び。
幾千を超える魔物の群が一斉に叫ぶ。
鼓膜が破れるような。雷鳴にも似た叫びに流石に不破もちょっとたじろぐ。
しかしこれで問題はなくなった。
アンファングを攻め落としに行った時のことを不破は思い出す。
あの時は適当に造ったゴーレム兵と追い立てた魔物だけで充分だと思った。
数と言うのは最大の力だ。
たった一人の軍人でも一般人百人には勝てないように。地球では数こそが最も力を持つ。
しかしここは異世界。地球の法則など通じえない。
ただの街にあれだけの戦力があったのだ。他の街もあれだけの戦力があると考えるべきと不破は思案する。
この世界は文字通りの一騎当千の英雄が跋扈する世紀末。
たった一人で戦況を変えるのが何十人といるのだから警戒するだけ損はないはずだと。
実際にはそんなことはそうそうないが不破はそれでも考える。
ちょっと足りないかな。と思い足元に魔力を注ぎ今度は魔物ではなくゴーレムを生成する。
軽く作ろうとしただけだが街全土の瓦礫が集いより数と質が上がる。
王都に戻って最初に造ったゴーレムの様にデッサン人形のような者達だ。
瓦礫の山だった王都が更地に代わり代わりに
どれくらいの勢力になったか確認するために不破が飛び上がる。
背中の肩甲骨から蝙蝠を思わせる被膜が付いた翼で羽ばたき。滞空する。
下を見れば強化された視力と演算能力で数を把握する。
中型の獣
大型。キリンや象等何故か明らか平均より大きいゴリラや猿などの五メートルを超える獣を中心にしたのが六千。
翼を持つ──巨大な蝙蝠やプテラノドン等の飛行型の二メートル程度の
人型のゴーレム兵が四千。
合計一万三千と言う大軍。
前にできた軍が合計で八千。進軍中に倍にまで膨れ上がったのを考えるとここからでも増強はできるだろう。
翼を収納し地上に降りる。
そのまま地面に魔力を込め。不破がゴーレムを造りだす。
足元が突起し膨れ上がる。平坦になった地面が円形状に膨れ上がっていく。
揺れる地面をものともせず不破は不動に立ち続ける。
円形の端から八本の蜘蛛のような足が生え・立ち上がる。
円盤状に出来上がったゴーレム。
最初と違い地面の身を材料にし謎に黒く染まったゴーレム。
更に不破の服と同じく至る所から時折口が生え、突き出た牙を動かす。
ゴーレムが器用に体の一部を変形させ玉座を作る。単に真っ黒で装飾一つない簡素なものだ。
その上に不破が座り命令を下す。
「全軍突撃……まずは人を探すぞ」
異形の軍の産声が。空の彼方まで響いた。