殲滅戦争   作:Libro

11 / 87
第11話

 平原を駆ける軍が居た。

 総数凡そ一万。夜の闇のように暗い軍勢だ。

 獣──大型の狼や虎、熊などの一般的な動物以外に二足歩行する蜥蜴や巨大な翼を持って飛行する蝙蝠の様な怪物──ティラノサウルスとプテラノドンという、恐竜が混じっている。

 毛の先から眼球に至るまで、全てが黒。闇がそのまま獣の形を取ったようにも思える。

 軍の中心にいるのは巨大な半球状のゴーレム。

 獣と同じ色をし、遥か巨大──ティラノサウルスなどよりも大きい。

 五十メートル程の巨大な卵型。卵をそのまま横にし、手を付けたような状態だ。

 直径二メートル、長さは凡そ三十メートル程の巨大な手が横から幾つも蠅歩いている。

 胴体だけの歪な蜘蛛──とでも言うべきか。名はスティーア。不破専用の移動用ゴーレムだ。

 その上には玉座。玉座に座るは不破泰二。

 スティーアを守るように手足が歪に膨らんだ人型のゴーレムが数百。

 

 自分こそが王だと主張するように軍の守れ、玉座の上で本を読む。

 

 冒険者。アドベンチャー。

 ただし探索等をするのではなく、対魔物用の戦士としての意味合いが強いだろう。

 ランクは全部で六。

 A B C D E F

 Fが最下位でAが最高。

 冒険者全体の総数で言えばDランクが最も多く、メジャーだ。

 しかしこれはここ数年──『仮面乃人』の改革が大きい。

 少し前は実力者という区分が大きく、強ければだれでもBやAランクに成れていた。

 しかし仮面乃人の改革に魔物の定義の変更。冒険者ギルドの再構成。

 それらによって今では実力と知識を兼ね添え無ければランクが上がらなくなった。

 BランクやAランクは最高位。それこそAランクは現状誰も居ない最高位ランクとなってしまった。

 またランクの格付けも重要だ。一昔前はただの実力の指数に過ぎなかったが今では。

 Aランク……国家滅亡。あるいは世界の終わり。

 Bランク……国家の危機。あるいは滅亡。

 Cランク……大都市の滅亡。あるいは危機。

 Dランク……中~小都市滅亡。あるいは危機。

 Cランク……村や都市の危機。

 E以下……雑魚。雑兵。普段目にするのはこのランクが非常に多い。

 となっている。

 魔物で普段目にするゴブリンやオーク、ウルフ等はEランクに該当する。

 それこそCランクなんてものは悪魔や魔族等の上位存在のみ。前はオークもEランクだったのだが。

 私の様な長命種にとってはこの改革は辛い。時代の変化について行けなさそうだ。

 

 ──『誰でもなれる冒険者』著者。『アンドレア・フィレロ・バトロ・ログ』

 

「……ふーん。あの女ランクなんだったかな」

 

 ふと、本を読み終えた不破が呟いた。

 読書はいい。作ったのが拉致軟禁するゴミムシということを除けば情報の塊だ。

 王都にあった本の一つ。十数個しかない本。

 娯楽と情報収集の一環として持ってきた本だ。

 ほぼほぼ移動ばかりなので半分以上読み終えてしまったが。

 本を横の木箱に置き、気づく。

 ずっと本を見ていて気づけなかったが、人工的な灯り──人の村を見つける。

 遥か先、十数キロ先に木製の家々が並ぶ地が見える。

 

「行くか」

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 村人が一か所に集まっている。

 まだ太陽が頭上に登り普段なら草むしりなどの農作業に勤しむ時間に。

 

 村の文明レベルは非常に高く見える。

 木を支えにレンガでできた家には木窓。流石にガラス等はないがそれでも歪んでいたりすることはない整った家々。

 村の中心部には井戸にはなく。変わりにルーン文字で作られたマジックアイテムである手押しポンプが設置されている。

 水を出やすくするマジックアイテムではなく水を生成するマジックアイテム。村人全員の生活用水と畑用の水ならば余裕で生成できるマジックアイテム。

 村の周囲には柵とバリゲードがあり入り口には二つの木製の櫓。

 単なる柵ではない。魔術が付与された柵だ。下手な魔物の突進なら跳ね返す力を持つ。

 櫓もただあるわけではなく二つの櫓を地点とし村全体に結界を張っている。

 こちらは物理攻撃への耐性や魔法的な力の防壁。及び魔物を防ぐ結界だ。

 そこまで強くはないが例えCランクの魔物でも侵入を数分防ぐことぐらいならばできる。

 櫓の上にはドッグタグをつけた魔術師と武装しただけの弓を持った村人がそれぞれの櫓に待機している。

 

 その入り口前には魔術師と同じようなドッグタグをつけた剣士と剣や農具を手にした農夫たち。

 中には女性もいるが子供は居ない。

 

 中にはトラクターのような──ロータリという耕すためのパーツと人が乗る部分しかない。木製の浮遊している魔道具に乗った者もいる。

 

 完全武装した村人がこの場に約五十名。

 なぜこんなに集まっているのか──それは村に常駐している冒険者が魔物の軍勢を発見したからだ。

 総数は不明。最低でも千以上。

 ならばどうすると村長と冒険者で会議し、結果は迎撃。

 何故これほど集まっているのか、何故魔物避けの結界を無視し村に来るのか──疑問は尽きないがそれ以外に選択肢がない。

 村の外は非常に危険。魔物が跋扈する危険地帯。

 避難は人数的に不可能。

 村での生活は危険と隣り合わせ。魔物の襲撃等珍しくもないこと。

 そういった事態に対応するため冒険者ギルドが常時依頼を張り出し冒険者が在中している。

 だが冒険者が居ると言っても村人全員が避難した場合全員を守ることなど不可能。

 そもそも避難先となれば街か別の村。だが移動する際に魔物に食われるのは必然。

 村人に残されたのはほんの少しの可能性に賭けた迎撃のみ。

 如何に現実的でなくても、それ以外生き残るすべは無い。

 戦えない老人や子供は村の倉庫に避難し戦える若い者達は女も男も関係なく待ち構えている。

 大丈夫だ、今回も無事に終わる。何度か襲撃があったが問題なく倒せてた──と、村長が村人の士気の維持の為叫んだ。

 襲撃があったと言ってもこの規模は無い。魔物避けの結界がある以上魔物は早々来ず、来たとしても一体か二体程度のはぐれ程度。

 

「来ました!」

 

 櫓の上の魔術師が叫んだ。

 魔術師が杖で示した先には幾千の魔物の軍隊。

 巨大な人型の魔物──不破が作り出しだゴーレム兵だ。

 

 四足でカタカタと動き村に向かって歩いてくる。

 その数は魔術師の目算では百にも届く。

 実に驚異的だが。どうにかできない数じゃないと魔術師が自身を奮い立たせる。

 

「ファイヤーボール!」

 

 魔法てはなく魔術なので叫ぶ必要は無いが解りやすく叫ぶ。

 魔術師の杖の先から小さなピンポン玉程度の火球が生まれゴーレム兵に飛んでいく。

 矢よりも早く飛び。先頭のゴーレムにぶつかり爆発を起こす。

 爆発し業火と共に他のゴーレムを巻き込む。

 花火の様に強く光り煙だけを残して火球が消える。

 

 しかし火球の後にはほぼ無傷のゴーレムたち。

 唯一、直撃したゴーレムだけ強く表面を焼かれているがそれだけだ。

 歩みが遅くなることもなく。四足で不気味に歩いてくる。

 

「ま、まだだ!」

 

 今度は叫ぶこともなくいくつもの火球をぶつけていく。

 多少狙いがずれ。あらぬ方向へ飛ぶが数が数だ。

 一見外れたように見えても爆発による範囲には入っておりダメージは蓄積されていく。

 

「化け物共が!」

 

 魔術師の隣の櫓の狩人が叫び、矢を放つ。

 村一番の狩人の筋力で放たれた矢は近づいてきたゴーレムの頭部を正確に射貫く。

 鉄の矢じりとゴーレムの頭がぶつかりゴーレムの方が圧し負ける。

 頭部を中心に後転し綺麗に倒れる。

 それに狩人が喜ぶのも束の間。直ぐにゴーレムが体を動かし前転しまたも動き出す。

 よく見れば小さな。よく見なければわからない程度の傷ができているだけだった。

 

 魔術師が魔術を放ち。狩人が懸命に矢を放つがなんの意味もない。

 多少の無いよりはまし程度のダメージがゴーレムに蓄積し。魔術師と狩人は疲労がたまる。

 

 それに気づいた剣士が叫ぶ。

 このままだと駄目だと腰にさした剣を抜き天に掲げる。

 

「剣を取れ! 戦えるものは俺に続け!」

「俺たちの村を守るんだ!」

「「オオォォォー!!」」

 

 平凡な村から人間の声が響く。

 剣士が村から飛び出て村の眼と鼻の先──十数メートルまで近づいてきたゴーレムに突進する。

 三十秒程でゴーレムと剣士が衝突し。遅れるように武装した村人が剣を持って走る。

 

 しかし悲しいかな。持ったのはたったの数秒だった。

 

「あ」

 

 ぐちゃり、とゴーレムの腕が振るわれ剣士の頭がトマトの様に潰れる。

 それを皮切りに村人がゴーレムに踏みつぶされ。腕を振るわれ死んでいく。

 中には諦めて農具を捨て逃げようとする者もいるが逃げようと背を向けた瞬間ゴーレムが腕を振るい縦に潰される。

 

「畜生! 畜生! 畜生!」

「来るな! 来るな化け物!」

 

 魔術師が杖を放り投げ。狩人が弓と矢をゴーレムに投げつける。

 しかしその程度では止まらずゴーレムが櫓に登っていく。

 虫が食べ物にたかるように。ゴーレムが仲間であるゴーレムを足場に登っていく。

 そうして登っていけば当然櫓も揺れる。

 最後にゴーレムが魔術師の所まで登ったところで限界がきて櫓が後ろに倒れる。

 

「あ」

 

 すぽんと魔術師が櫓から放り出される。

 空を飛ぶ魔道具を持たず。魔術も使えない魔術師は故郷の──両親の顔を思い出しながら地面に打ち付けられた。

 

 体中が痛む。腕が曲がってはいけない方に曲がっている。

 腹部からは肋骨が飛び出て血が噴き出している。

 

 まだ魔術師は生きている。

 下を噛んだせいか。魔法の詠唱もできない。

 魔術を発動できる程魔力は回復しておらずただ打ち上げられた魚の様に止まっている。

 頭は動かせないが向きがよかったのか。狩人がいる方の櫓が見える。

 

 見れば魔術師の時と同じようにゴーレムが集り櫓が倒れた。

 土煙を上げ木をばら撒き散っていく。

 見れば狩人の方は木に巻き込まれ潰されて死んでいる。元の原型を残さず肉片となって。

 

 ガラスが割れる音が村中に響く。

 結界の要であった櫓が倒れたことで結界が割れたのだ。

 これでもうゴーレムは村に苦もなく入れる。

 入り口にたかっていたゴーレムが後ろのゴーレムに倒され村に雪崩れ込む。

 

 

(いやだ、いやだ、だれかたすけて──)

 

 

 魔術師は声を出すこともできず、ゴーレムに踏みつぶされた。

 

 

 

 

「……雑魚しかいなかったか」

 

 村の上空。

 雲より少し低い程度の場所に不破が滞空している。

 背中から翼を生やし。鳥と言うのはこういう気分なのかと暢気に人が死ぬ様を悪趣味に観察していた。

 不破が顔を地面に向ければゴーレムが村に入り込んだのが見える。

 ゴーレムや≪不可解な者≫(アンノウンズ)とは繋がりがあり今どこにいるかぐらいはわかるが、今何をしているのかはわからない。

 視界の共有とか出来たら楽なんだけどな、と地面に落下していく。

 高速で足から地面に着地する寸前に再度浮遊。砂ぼこりが舞う。

 だが地面にクレーターなどができることはなく綺麗に着地する。

 物理法則に全力で喧嘩売った所業だが気にせず歩き始める。

 

 村の中には人っ子一人居ない。

 日本で見たような農具等を目にするがそんなこともあるかと不破は深く考えずに歩く。

 

 不破が村を襲うのはこれが初めてではない。実に六度目になる。

 最初はドアイラクを先頭にぶつけ性能実験もかねて襲撃した。

 そしてドアイラクが急に大きく叫び謎の大爆発を起こし村を丸ごと消し飛ばした。

 もう一度村を消し飛ばさないように命令したら女の泣き声が響き大雨を起こし村を流した。

 諦めてドアイラク以外の≪不可解な者≫(アンノウンズ)を送ったら勢い余って村人を全員食い殺した。

 中には草食の獣もいたが関係ないようでバリバリ食ってた。

 最後に殺すとは言え。求めてるのは情報だ。

 それを知るための戦いで村人全員殺すのは流石に問題しかない。

 いや、何人か腕が食われたりしただけの奴もいたが問おうにも意識がはっきりせず。不破の問いに答えられない者が大半だった。

 

 何度も何度も失敗した。

 村を襲う等以前の不破泰二なら考えなかったが。害虫駆除と思い何度もした。

 

 そうして今回はゴーレムを率いた。

 これでも失敗するなら諦めてもう都市でも襲撃しようと考えていたが今回は成功出来てよかったと歓喜する。

 経験上こういった村では戦えない者を隔離するはずだと避難先を探す。

 

 耳を澄ます。意識を耳に集中すれば、声が聞こえる。

 女の声。

 不破が意識すれば子供の声も聞こえてくる。村の何処かで戦えない者が避難をしているらしい。

 大丈夫、お父さんが悪い奴らを倒してくれるからねと老婆の声がするのを聞き、不破は笑った。

 

(何処までも他人便り。自分で何かする気も無いカス共が)

 音の先を求め、不破が歩く。

 数分で大きな倉庫を見つけた。他の建物と同じくレンガの建物。

 大きな。ゴーレムさえも入れそうな扉に触れた。

 

 何度も村を襲撃しいくつか実験をした結果新しい──というか既に使えてた能力を発現する。

 扉に魔力を込める。ゴーレムにする訳ではなく、ただ膨大な魔力を注ぐ。

 

 たったの数秒で扉が灰になって崩れ中にいる人間が悲鳴を上げる。

 膨大な魔力を無機物に注げば崩壊すると不破は最近わかった。

 

 ただ不破はわかってないがこれは演出的な能力。

 単に物質に許容量を超えた魔力を込めれば壊れるだけ、という魔法でも魔術ですらない唯の現象。

 不破自身が放つ魔力が膨大だから数秒で崩壊するが他の魔術師などはこうはいかない。

 そもそもこんなのするなら殴るなどで破壊した方が早いし手間もかからない。更に魔道具や魔術で守られたモノには通じない、という全くもって使えない力。

 

 ただこういう場面では効果覿面らしく蔵の中、人間が泣いた。

 奥には小さな子供。年は六から十二程度の者で男女関係なく詰められている。

 中には年の小さい者が声を上げて泣き。兄らしき者が慰めている。

 

「あんた、ここに何の用だい?」

 

 一歩、老婆が前に出る。

 凡そ七十代ぐらいだろうか。

 腰が少し曲がっているが正常に年を取ればこうなるだろうという外見と貫録を出している。

 

 相手はただの魔物や魔族ではない。まして山賊という雰囲気でもない。

 相手が魔物か魔族なら問答無用──蔵事破壊されていたず。

 老婆は正確に魔物や魔族という物を知っている。故侵入してきたにもかかわらず即座に殺しに来なかった者──不破に疑問を抱き、生き残れる可能性を模索した。

 

「話が早くて助かる、いくつか聞きたいことがあってな」

 

「聞きたいこと? こんな田舎に何を聞きに来たんだい?」

 

「なに、大したことじゃない──エルフについてしらないか?」

 

「……エルフ……だって?」

 

「あぁ、エルフが何処に居るのか知りたい、森に居るのか山にいるのか、東西南北何処にいるのか

 それを知れば直ぐに帰ろう」

 

 老婆は思案する。

 何故こんな田舎に聞きに来たのかと。

 本来こういった情報を知りたいなら街でも襲撃するのが定石だ。

 田舎に等襲撃する価値はない。魔族が農村を襲うにしても意味がない。

 短期的に考えるならば麦や食料が減るが神官や魔術師による農業系の魔術。あるいは奇跡を使えば畑などいくら焼かれても直ぐに蘇る。

 

 ならば何を求めているかと思えばエルフなんて聞こうという。目的がわからない。

 

 

 無論不破とてエルフについて知っていると本気では思っていない。

 これは単なる練習。

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)とゴーレムを使った都市への侵攻への。

 

 碌に何も考えず都市に行けば負けるだけ。ならばこうやって練習すれ、多少は勝率は上がるはず、という希望的観測を多大に含めた寸法。

 エルフに関する情報はそれのおまけ。何か知ってたら儲けもの程度の考えに過ぎない。

 

「エルフ……ね……ちょうどいい、わたしゃ知ってるよ」

 

「何?」

 

 老婆が不敵に笑い。不破が驚愕する。

 まさかあったらいいな程度のモノが、こんなに早く──といっても村六個目だが──見つかるとは。

 

 不思議と不破は老婆の言葉に嘘はないと判断した。

 これまた不破自身理解できない転移特典(チート)の一つだ。

 

 不破泰二に与えられたチートの一つ。

 全意思疎通。意志ある存在と意思疎通が可能になる力。

 

 全意思疎通はこの世界の言葉がわかる要因。

 正確には意思を読み取る力だ。それこそ子供の落書きだろうがミミズがのたうち回ったような文でもそれに意思が込めらているのならば読み取れる。

 副次的な効果で暗号文やモールス信号等の知識がないとわからない物でも込められた意思を理解し、把握できる。

 言葉を理解するのではなく、"意思"を正確無比に読み取る力。相手が何を伝えたいのか全てわかる。

 言葉ではなく意思を傍受する能力。

 ただし疎通とあるようにこちらの意思が隠されず伝わるので自分も嘘を言っても相手に意思が伝わる為嘘をついても意味がない。

 

「エルフは何処に居る?」

 不破が魔力を無意識に放ちながら問い、それに老婆が答える。

「エルフは西の森、ドワーフが住まう山脈のふもとの大森林にいる」

 

(エルフ、それにドワーフか)

 実にファンタジーらしいな──と歓喜し、即座に"いやこいつら異世界人拉致するカスだ"と自身を言い聞かせた。

 

「正確な位置は地図を見なければわからないからね……確か村長の家に地図があったはずだ。取ってきてもいいかい?」

 老婆が不破に近づく。

 堂々とした歩みで、不破から目を動かさず真っ直ぐに見つめている。

 

「何、逃げたりはしないさ……地図を取ってくるだけさね」

 

 軽い調子で老婆が不破の隣を通ろうとし

 

「嘘だな」

 

 不破が殴り飛ばした。

 ぐちゃっと。壁に老婆の血が飛び散る。

 上半身丸ごと吹き飛ばされ微かに残った内臓が飛沫し。血の匂いで倉庫が染まる。

 遅れて下半身が血の海の上に倒れる。

 

 老婆の下半身が倒れるのと同時に子供の悲鳴が上がる。

 それを皮切りに幾人かの子供が逃げ出そうとするが逃がしてやるほど不破は甘くない。

 

 一瞬で動き。まだ年若い少女の顔面を掴む。

 そこで一度止まり、少女をぶん投げる。

 逃げようと動いた子供たちに暴風と共にぶつかり。仲良く肉塊になる。

 零れた臓腑と脳みそが合わさり。形容しがたい匂いを放つ。

 

 残ったのは逃げようもない八歳以下の子供。

 足を振り上げ、蹴り飛ばす。

 余波で風が起こり他の子どもも吹き飛ばされ。壁の染みと化す。

 べちゃりと体がぐちゃぐちゃに曲がり。奇妙なポーズで死んだのはある種滑稽でもある。

 

 これで死んだか、と思えばまだ一人奥にいる。

 光源の無い暗い場所に女が一人。

 普通の視界ならば見つけられないかもしれないが異形の肉体で暗闇でも昼間の様に見える不破には闇など意味をなさい。

 

 不破があえてゆっくりと歩み。女に近づく。

 それに合わせ女が小さく悲鳴を上げる。

 ただ立って逃げようとはせず。倉庫の壁に背をあずけただ怯えている。

 よく見れば腹が大きい。妊娠しているのか。恐らく妊娠半年以上は立っているように不破には見えた。

 

「ま、待ってください! こ、子供がいるんです!」

 

 女が懸命に叫び、懇願する。

 子供がいると。夫がいると無意味に叫ぶ。

 ついに女の目の前までたどり着くが。女はいまだ逃げる素振りがない。

 この体では逃げることもままならないのだろうなぁ、と不破が顔を歪めた。

 

「そうか、それは大変だな」

 

 不破がしゃがみ目線が女と同じ高さになる。

 ゆっくりと、不破が女の腹に触れ、撫でる。

 

「そ、そうです! だから──」

 

「まぁ関係ないが」

 

 ずぶっと女の腹を貫いた。

 女が声にならない悲鳴を上げる。

 不破の腕から羊水が垂れ、不破の腕と女の服を汚す。

 

「これかな?」

 

 にぃと、不破が顔を更に歪めた。

 手に触る柔らかい感触を、潰さないように丁寧につかむ。

 そのまま優しく。胎児の頭を掴み。引っ張る。

 

「ああああああああ!」

 

 女が高い声で叫び涙を流す。

 口からは涎と吐しゃ物が出ており。噛んだのか血も出はじめている。

 

 びちゃっと、羊水と共に胎児が引きずり出された。

 体の形成はほぼ終わっていたのか赤子そのものだ。

 へその緒が繋がっており。母体との繋がりがある。生命誕生の、神聖な瞬間。

 

 母は腹を裂かれ喉が枯れ、死にかけている。

 

「……旨そうだな」

 

 不意に不破が呟く。

 大きな右手にも余るサイズの赤子を直視する。

 

 顔に近づけ。口を大きく開く。

 顎が外れる程に開け赤子を頭部から飲み込む。

 

 ぐちゃりと、口を閉じ噛み砕く。

 へその緒が口を閉じると同時に千切れ。多少不破の口に入る。

 生まれたてで柔らかい肉が不破の口に広がる。

 

 味はよくわからない。ただ旨いということだけはわかる。

 

 例えるならA5ランクの肉かな、と不破は軽く思った。

 

 

 本来の不破泰二にとっては人間を食べるという発想は無い。

 そもそも異形の肉体はそもそも飲食不要だ。故にこれは単なる嗜好品に過ぎない。

 だが、生物──人間に近い存在だ。馬が目の前に吊り下げられた人参を我慢出来ないように、今の不破は目の前にあるのならば欲してしまう。

 

 ぐちゃぐちゃと赤子の肉を粗食し、飲み込んだ。

 

 ヒュー、ヒューといまだ生きている女が音を出した。

 腹を裂かれ、何もしなくても直ぐ死にそうな女に不破は再び手を伸ばす。

 

 顔にそっと手を置き。撫でる。

 今度は喉も裂け。裂けた傍から牙が突き出る。

 まさに異形の存在。人知を超えた化け物。

 

「あ」

 

 少し間抜けな声を出して、女は子と同じ場所に逝った。

 

 

 

 

 ■

 

 

「村長の家はこっちか?」

 

 消えた扉から堂々と不破が出る。

 服には血が付いており。何か食べた後だと一目でわかる。

 

 女も服事食べ。喉を元に戻した不破は考える。

 元の自分は、こんなことをしただろうかと。

 

(いや、絶対にしないな)

 

 掌を見ながら、歩きだす。

 よくわからない異形の体を手にし。人知を超えた力の代償と考えれば。安いものかもしれない。

 けれども人間を食べるという行為に嫌悪をだかないのだ。

 

 これで人を食ったのはニ度目だが特に何とも思わない。

 再び食べようともしないし感じなかったが飢餓感もない。

 特に尿意も空腹も感じなかったので中々気づけなかったがどうやら食事は不要らしいと。今更不破は気づいた。

 

 例えるならスーパーで安売りの高級肉でも見つけたような物だ。

 懐に余裕があり。肉の気分なら買うがそうでもなければ見向きもしない。好物が一つ増えたようなものに過ぎない。

 

 便利なのでまぁいいかと思考を放棄する。

 

 いくつか家を見つけ。扉を今度は普通に開けて見て回る。

 村長の家にあると言うのは嘘ではないと不破はわかった。

 嘘なのはただ地図を取ってくるという言葉。

 老婆だけ逃げるつもりだったのか助けを呼ぶつもりだったか。今となってはわからないが。

 

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)を使って調べようかと思ったがあれだと家を普通にぶっ壊しそうなのでやめ、自身の足を使う。

 細かい命令は受け付けないのは面倒だと思いながら八件目にしてようやく村長の家を見つける。

 外見ではすべて同じ。標識一つないので気づけなかった。

 村長の家とわかったのは入ってすぐ他の家にはない物があったから。

 本棚。ただし本棚のサイズと本の数があっておらず、スペースを余らせている。

 王都のにある本程作りが良くない──あるいは、経年劣化している本が八冊。

 

 他にも家具や食器等も一目で違うとわかる。

 他の家の食器が木製に対しこの家のはプラスチックのような物が使われている。

 

 ただこの家が裕福なだけかもしれないがと期待しすぎないように家を荒らす。

 そこまで広くもない家を歩き。本棚から本を取る。

 

 内容は絵本。

 タイトルは『世界を創った神様』。

『神々の創世期』と似たようなモノかと不破は思ったが欲している本ではないので放り投げた。

 今度は長い。質のいい丸められた紙を手に取る。

 

 紐で縛られた、上質な羊皮紙。

 

 不破が机の上に広げる。

 

「雑だな」

 

 現代日本の地図──衛星写真などよりは非常に荒い地図。

 全て手書き、線も歪んでおり、正しいのか銅貨すらわからない地図。

 更に書いた者の字が汚かったのか、読みにくい字で地名が書かれている。

 だが不破には関係ない。見たことない言語だろうと子供が即興で創った文字だろうとそれに"意思"があるのならば読み取れる。

 

 この村より更に西。

 この国との境界線にもなっている大河の向こう側に大森林がエルフの森──ラ・ヌラという大森林にエルフがいる。という記述を見つけた。

 

 それ以外にも大きく書かれた国──クリセルダと言う国や不破が滅ぼしたクンラフも乗っている。

 他にも呪われた亡国と書かれた国等。いくつか国が描かれている。どうやらここら一帯の地図だなと不破は認識した。

 何故こんな村にあるのか? と不破は疑問を抱く。

 他の本に何か書いてないか、と本棚から本を取り、捲る。

 文字が霞んでいるがエルフと交易をし、エルフのマジックアイテムを手に入れた──という、帳簿を見つけた。

 

「手にするべきものはこれだけだな」

 

 確認の意を込め、不破が呟いた。

 どん、と地を蹴り跳躍。家の屋根を吹き飛ばす。

 遥か上空──先ほどまで居たのと同じ高度まであがり背中から翼を生やして滑空。

 村の外まで飛び、スティーアに着地。

 不破が座ろうとすればスティーアが意図を読み取り体の玉座上に変形。それに不破が座る。

 

 

「進軍再開──他の都市は無視し、一直線に西へ進むぞ」

 

 

 不破の号令に従い周囲に待機させてた≪不可解な者≫(アンノウンズ)とゴーレムが歩き、飛行型の≪不可解な者≫(アンノウンズ)が飛び立った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。