殲滅戦争   作:Libro

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第13話

「でっけぇ川」

 

 不破泰二が呟いた。

 不破がスティーアの上から見れば大規模な川が広がっている。

 確実に地球上ではあり得ない形を成した川は気持ちが悪いぐらいに真っ直ぐと伸びている。

 坂等も無く、ただ真っすぐに、ペンで線を引いたように真っ直ぐと川が流れている。

 だが勢いが凄まじい。ただの人や魔物ならば一度足を入れれば流され、体がバラバラになる程の勢い。

 その向こう側にはマングローブの林。ただしマングローブも非常に大きい。

 通常のサイズ──地球の物の凡そ四倍から八倍。不破泰二のその手の知識は足りないが大きいとは思う。

 真面に進むことは出来ない。ならば真面に進まなければいいと部下に命令を下す。

 

「ドアイラク」

 

 不破がドアイラクに命令を下し、前に出させる。

 他の≪不可解な者≫(アンノウンズ)を押しのけ、堂々と歩いて行く。

 一歩進めば体が川に入る。そこまで進んだところで不破が呟いた。

 

「やれ」

 

 何百メートルと距離は離れているが口での命令を受理し。ドアイラクの首の一つが動き出す。

 動いたのはピエロの顔。常に笑顔のまま、何があっても表情が変わらぬ首が動く。

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 楽しいなぁ楽しいなぁ! 楽しいなぁ! 楽しいなぁ!!!」

 

 

 ピエロのメイクを施された顔が笑う、哂う、嗤う。

 耳が裂ける程の叫びの後。遅れるようにドアイラクの前から大爆発を起こす。

 超爆撃。高熱の塊ともいえる。

 ドアイラクの眼前で発生した炎は一秒もかからず広がり、熱を周囲に与える。

 熱波となり不破や他の≪不可解な者≫(アンノウンズ)の表面を焼き爆発に近かった者達は焼け落ちて死ぬ。

 数百メートル離れているはずの不破ですら表面が焼かれる威力。川の向こう側に生える木々もまた熱波で炭となり、一部待燃えて火事となる。

 川はもはや消滅。川の中ならいるだろう生命の気配すらない。

 

 瞬き一つする間もなく。川が消し飛んだ。

 

 そこに住んでいた生物も植物も水も消滅。

 そこに川があったのだという事実の痕跡一つなく。爆破が起こったのに硝煙一つない虚無。

 思い出したかのように遅れて川の水が流れ。轟音を鳴らす。

 これほどの大河。数分で流れだけなら元に戻りそうだがその前にドアイラクが再び動く。

 

「度し難い度し難い度し難い何故こうなのだ不快不快不快不快」

 

 

 老人が嘆き、首を鳴らす。

 ぐわんぐわんと脊髄でできた首を揺らし鳴らすのは見るモノを不快にさせる。

 

 地面が揺れ、盛り上がる。

 器用に≪不可解な者≫(アンノウンズ)達の所には一切影響を与えず。ドアイラクが地面を操作する。

 

 歪に盛り上がり、土を零しながら濁流を防ぐように土の壁が出来上がる。

 超広範囲の地面操作。

 それによって川がせき止められ。川が蠢く。

 尋常じゃない速度で水がぶつかり、土の壁を抉ろうと傷がつく。

 自然の力というのは凄まじい。だが軍が渡り切れるほどの時間は持つと不破は命令を下した。

 

 ドアイラクを先頭に再び進軍を再開する。

 ドアイラクを守るように人型の≪不可解な者≫(アンノウンズ)が歩き次に獣型の≪不可解な者≫(アンノウンズ)が動く。

 全てが動き出した後スティーアが動き。他の者を潰さないよう注意しながら進む。

 

 壁を超える水しぶきが飛ぶが無視して進軍。

 水が≪不可解な者≫(アンノウンズ)やスティーア。不破にもかかり不快感を募らせるが渡るまでの辛抱と我慢。

 凡そ一時間。軍がようやく川の向こう側にたどり着いた。

 

 ドアイラクが地面を操作しバリアフリーに緩やかな坂を作り。進軍しやすいようにする。

 それをドアイラクが筆頭に登り切った後にはマングローブ林が目の前に。最低でもドアイラク以上──五メートルを超える木々だ。

 中には百メートルにも届きそうな木がありこの数が進むには苦労するだろう。

 

「征け」

 

 不破が命令を下し≪不可解な者≫(アンノウンズ)が進軍する。

 げたげたと下品な笑い声を上げ≪不可解な者≫(アンノウンズ)が動いてゆく。

 木々をなぎ倒し、踏みつぶす。

 野生の獣が征く手を阻むがただの獣。異形には敵わず骸となる。

 まさに魔の行軍。死を齎す軍勢。

 

 全てを踏みつぶす行軍。これなら問題ないだろうと不破が跳躍しスティーアの元まで戻る。

 瞬間移動と見間違えるほどの速度で戻ればたった一体だけスティーアが大人しく待機していた。

 

 不破が戻ると同時に足を動かしゆっくりと歩いて行く。

 もはや軍は遠くに行ったが目的は蹂躙ではない。思念を飛ばしバラバラに動くように指令を下す。

 命令は勿論エルフの捜索。

 約千程の数を四方に捜索する用命令を下し。受理した≪不可解な者≫《アンノウンズ》が歩き。翼を持つ者は空へ飛びあがる。

 広大な森だが数が居る。これならば自分が動く必要は無いだろうと不破は楽観する。

 

(≪不可解な者≫《アンノウンズ》がエルフどもを見つけるまで時間がかかるな……俺も行くか?)

 

 どうするべきかと不破が頭を悩ませたとき。

 

「あ?」

 

 

 何かが動く。葉っぱが揺れる音。

 木が倒れて葉を鳴らす音ではない。何か生き物が鳴らすような音。

 直ぐに不破が顔を向けるがそこには何もいない。いやいなくなったと言うべきか。

 

「……気のせいか?」

 

 まぁいいかと、不破は視線を元に戻した。

 早く元の世界に帰らなければと、不破は急ぐ。

 

 

 

 

 

 ■

 

(なんだあれなんだあれなんだあれなんだあれ)

 

 頭が回らない。

 頭が動かずとも訓練され実践を積んだアリシャの体は無意識に動く。

 

 地が割れるような轟音を聞きアリシャは森を駆け抜けた。

 その先には見たこともないマモノの軍勢と不気味な気配を醸し出す大男。

 

 異形の軍が森をなぎ倒し、蹂躙する場面をアリシャは運がいいのか悪いのか目撃してしまっていた。

 

 しばし放心し、何があったのだと頭を動かす前に不破が≪不可解な者≫(アンノウンズ)に指示を出したところでようやくアリシャは心を取り戻し一目散に逃げだしたのだ。

 

(とにかく、お祖父ちゃんに伝えなきゃ!)

 

 一目散に森の木々の間を跳躍し、飛び回る。

 まるで木がアリシャを受け入れるように木が蠢きアリシャが飛び立った後は元の位置に戻る。

 これこそがエルフの種族特性。

 特殊技能(スキル)・種族能力・固有魔術、様々な呼び方をされることもある能力。

 

 エルフという肉体に宿る種族特性。ハリネズミの針や蛇のピット機関等の生物として生まれ持つ力。

 

 生まれついて保有する能力。エルフ達は森の加護と呼ぶ。

 その名の通り森に愛され森を愛し。森がエルフ達の手助けをする力。

 

 これがあるからこそエルフは森の中では強く人の中では弱い。

 エルフはこれ以外にも魔術や弓への適性を生まれついて有している。

 その分人とは違い上昇できる会得できる能力に限りがある為一定以上強くなれない。

 これは亜人種全般に言える特性だ。

 例えるなら獣人。彼らも生まれついて耳と鼻がよく。ハウリングや一時的な自己強化などの特殊能力を有する。

 

 これが人間ならば生まれついての能力などなく才能の壁が大きい。

 弱者は生まれついて永遠に弱者だが強者はそれこそ神々に次ぐ程強くなれる。

 

 アリシャが七時間かけて踏破した森をたったの一時間で帰る。

 全力で走り少ない魔力で肉体能力を向上させいつかのように里の入り口をこじ開けて突入する。

 足が腫れ三半規管やその他内臓に負荷がかかり耳から血が流れ始めたがアリシャは気にせず走る。

 バリスタ等の迎撃装置を壊さないように跳躍しひと跳びでホールを抜け里の中に入る。

 更に跳躍。里内の家の上に乗る。

 

 息があれ。呼吸が乱れるのを落ち着かせながら里中を見渡しアリシャはルドルフを探す。

 幸いにもルドルフは直ぐに見つかった。訓練場という数少ない地面にある里の施設の一つだ。

 その中でルドルフが他のまだ若いエルフ達を指導している。

 

「お祖父ちゃん!」

 

 族長と。外行きの言い方を忘れアリシャが叫ぶ。

 それに気づいたルドルフが顔を向けると同時にアリシャが地面に着地する。

 

 それを見た他のエルフがなんだなんだと弓を使うのを辞めてアリシャを注視する。

 

「どうしたアリシャ。何があったのだ?」

 

 お祖父ちゃんと外で呼ばれたにも関わらずそれを注意することもなくルドルフがアリシャに駆け寄る。

 

「直ぐに避難──いや、迎撃の用意! 大河の向こうから、魔物が攻めてくる!」

「なんだと? どういうことだ? 魔族か?」

「そういうのはわかんない! わかんないけど、魔物が来る!」

 

 孫の必至な叫びにルドルフは察し、直ぐに動く。

 

「訓練はこれまでだ! 全員緊急配置につけ!」

 

 

 

 

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)が攻めてくるまで、あとわずか。

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