殲滅戦争 作:Libro
不破が拳を握る。
手が砕けるのではないか。そう心配するレベルで強く、硬く握る。
そのまま無造作に正拳突きを放つ。
振りぬかれた拳が音を置き去りにし後から音が響く。
風が舞い。木の破片や灰が巻き上がる。
巨大な風が城壁にぶつかり。豆腐のように壁を破壊する。
対侵入者用の防衛手段として置かれたバリスタもバルコニーも関係ない。
拳上に破壊され。見るも無残な意味の無い木片となった。
本来ならエルフを守るはずの木々やバリスタは暴風に巻かれエルフ達に降り注ぐ。
「総員! 矢を放て!」
だがエルフ達はそのことに動揺することなく。冷静に降り注ぐ木片を避け。防ぎ。不破に向かって矢を放つ。
いくつかの矢は瓦礫への迎撃となりエルフ達には傷一つ付くことはない。
上空への攻撃と同じように一本たりとも外れることなく正確に。仲間が放った矢と被ることなく向かっていく。
「煩わしい」
腕を横に振るう。ただそれだけで風が荒れ狂い暴風が舞う。
放たれた矢が一本の例外もなく吹き飛んだ。
エルフの戦士たちが上から正確に弓を構え何時でも打てるよう待機している。
いくつもの。乱雑に育て上げられた木々と橋が不破の視界を遮りエルフ達が何処にいるかわからせない。
不面倒だ。不破がそう呟くと同時に鋼鉄の矢が不破の眉間に着弾する。
視界には入る。認識はできた。だか体が間に合わない。今だ異形の肉体に慣れてないが故受けてしまう。
しかしも硬い金属音を鳴らし弾かれるだけに終わる。異形の肉体は世界最古の
矢の着弾を気にせず不破は歩く。背後に
その歩みを遮るように上からエルフの男が降りた。
自由落下。ただ垂直に落ちたようにしか不破には見えなかったが不自然な風と共に地面に緩やかに。
エルフの中でも老齢で戦線を引いて久しい者。里長というエルフ達のトップ。──ルドルフだ。
その緑眼を持って。不破を強く睨んでいる。
「魔族! この地に何の用だ!」
何の用だ、と叫ぶも答えが返ってこないことはルドルフにもわかっている。突如現れた異形の存在。魔物を従える者。
エルフの──この世界に生きる者ならば誰もが知っている。魔物や魔族は人を、神々によって造られた者達を襲う。
それに意味などない。水を熱せば蒸発するのと同じ世界の摂理。
だが魔族は会話が成立する。ならば時間稼ぎ程度人はなると、切り札がが来るまでの僅かな時間を稼ぐだけの会話。
ルドルフの姿を見た不破はにぃと顔を歪め、歓喜する。すぐにそれを抑えるように咳ばらいをし話し出す。
「要件はただ一つ、神の社に用がある」
「神殿に用があるだと?」
不破の言葉は相手にとってわかりやすく伝えれる。
不破はこの世界の言葉を分かっていない。会話が出来るのは"意思"を伝え、受け取れるからだ。
ことわざ等も不破にとってわかりやすい様に翻訳されて伝わる。故不破の"神の社"という言葉はルドルフには"神殿"という言葉に翻訳された。
そして何故とルドルフは疑問を抱く。
自身の問いに答えが返ってくるとは思っておらず。またその答えも想像していたものとは的外れだったが故に。
魔族にとって神殿というのは侵入不可の場。
下手に侵入しようものなら神の力で弾かれ。運良く侵入できたとしても神官に存在を消される。
神殿は特に神の力が強い。聖なる力に魔族は非常に弱い以上侵入や破壊という物は優先事項ではない。
今行って何になる。ルドルフはその問いの答えを持たない。
「大人しく神社だがなんかに案内すれば、これ以上は何もしないが?」
不破が大きく手を開き、役者のように言葉を話す。
それに対しルドルフは鼻を鳴らし。手を掲げる。
相手の狙いはわからない。だが森を焼き、異形の軍を率いる明らかな邪悪。ならば滅するのみ。
「愚問、お前のような魔族を神殿に連れていくものか!」
自身を奮い立たせるためにもルドルフは叫ぶ。
「──ならば力づくでことを成そう」
「──同胞たちよ! 我らの誇りにかけて! 敵を討て!」
不破が両手を開き、不破の後ろから
ルドルフが手を下ろし。上からエルフの矢が降り注ぐ。
「RUKYA-!」
巨大なティラノサウルスが。猿を模した巨兵が。人型のゴーレム達が。その数約一万。
異形の怪物達が城壁を破り侵入する様は地獄から悪魔が攻めてくる様を想像させる。
幾千の異形が叫び。エルフ達を蹂躙せんと襲い掛かる。
しかしエルフがただやられると言うことはない。地を這う
これがまだ飛行型が居れば違ったかもしれないが残ったのは空を飛べない者達。
しかし
この里のエルフの戦力は凡そ三百。
種族として全員──老人や子供以外──戦える者だからこその戦力だ。
一人一人は確実に
これにドアライクという超級の
そう。数という目で見れば
いわばプログラミングされたNPC等に近い。命令されれば実行する。ただそれだけの雑兵。自己判断能力が一切ない。
そこをエルフは突く。矢と魔術を用いただ暴れるだけの
「やはり雑兵にしかならんか」
不破が半場わかっていたことだが、とぼやき腕を構える。
そこに、一本の矢が空を走った。
エルフが使う矢にしては異質。人が放てるとは思えない鋼鉄の矢。
それが風切り音を鳴らすこともなく正確に不破の眉間に飛んでいく。
ガン、と鈍い金属音。
眉間に当たる寸前不破が右手でガードし。手のひらで受け止めた。
そのままつかみ適当に後ろに放り投げる。矢が放たれた場所を見るが、そこには何もいない。
「──もらった」
男の声。
透明化し、不破の視界から消えていた男──サリエンが不破の耳元で囁く。
かっこつける訳ではない。意識をそらすための声。
不破が気づいた時にはもう遅い。首元に刃が振るわれる。
エルフ性の木刀だが切れるように鋭く作られている。更に刀身にいくつものルーンが刻まれたマジックアイテム。
効果は全て『切れ味上昇』や『攻撃力上昇』という単純な攻撃力のみを求めたそれはアダマンタイトの刃に匹敵──あるいは上回る力を持つ。
刃が不破の首に当たると同時に、嫌な音が響く。
ぎゃりぎゃりという黒板を爪で引っ掻いたようなただ不快感を煽る音だ。
すっと、刃が不破の首を撫でるだけに終わる。
不快な音を鳴らすだけに終わったことにサリエンが驚愕し。直ぐに退避しようと動くがそれよりも不破の方が早い。
首を斬られたと。一瞬遅れで気づいた不破が腕を振り回しサリエンの頭を掴む。
そのまま地面にたたきつける。サリエンが嗚咽を漏らす。
地面に蜘蛛の巣上に罅が入り。クレーターとなる。
頭を掴まれて叩き落されたせいか脳震盪を起こし直ぐ動くのは無理だろう。
口を切ったのか小さく口元から血が零れているのを除けば外傷はない。
流石はエルフの戦士と言ったところか。不破は妙な所に感心した。
「蛆が……」
大きく動いたせいで屈んだ状態になっていた不破が立ち上がると同時にまたも眼前に矢が迫る。
先と同じように鋼鉄の矢を不破が左手で振り払うと同時に煙が発生する。
魔術性の煙だ。不破にのみ影響を与え他のエルフには何も影響がないそれが不破だけを包み込む。
ほんの一瞬。一秒にすら満たない程度で不破が何かする前でもなく煙が消えると同時に落ちたサリエンも消える。
「……無事? サリエン」
「なん……とか、ね」
アリシャに抱えられ情けなくサリエンは肩を預けている。
外見は精々土が付いた程度で大した怪我もしておらず。普通に戦闘そのものはできるだろう。
体だけを見るならば。
頭でわかってしまった。これには勝てないと。挑んではいけないと。
心を奮い立たせようにも傷ついてしまっている。それをアリシャは見抜いた。
「どうする? アリシャ……ちょっときつそうだけど」
「きつくても、どうにかするわよ」
アリシャとサリエンが話す中。不破は動かない。動けない。
(まだ体に慣れていない……下手に動けばエルフ全員死にそうだ……数匹生かして捕らえるにはどうするか……)
なんと傲慢な思考。
何処までもエルフを。この世界の者達を下に見て自分が絶対的に上だと考えている。なんと言う傲慢。
努力を何もしないで、宝くじを買う努力すらしないで手に入れた力だというのにあからさまにこれまで努力をしてきたエルフ達を見下している。
生まれてから戦士として毎日努力をし、魔物を倒し、狩りを成してきたエルフを見下すその思考は歪んでいる。
棚から牡丹餅。運が良い。宝くじを買う努力すらしてない不破の思考は元から歪んでいる。
──不破泰二は考えない。
自分の心が異形に染まっていることを。
──不破泰二は考えない。
『数匹残っていればいい』という矛盾した思考を。
そもそも目的である神殿を知っているエルフを殺してしまったらどうするのかと。
──不破泰二は考えれない。
「面倒だ……」
不破が考えるのをやめ拳を振り上げる。
もはや後先考えず。全てを破壊しようと拳を上げる。
それに気づいたアリシャが弓を構えるが──それよりも早く状況は動く。
リーン、と風鈴の音が響く。
夏場。家の軒下で聞く風情ある。この場においては異質にも程がある音色。
あちらこちらで戦闘で音が。声が響く中。異質にこの場の全員の耳に聞こえる。
音が大きい訳ではない。静寂の中聞こえる音のようにどうしても意識がそっちに向くかのように。
その音に幾人かのエルフと不破が動きを止め。地面が揺れる。
「……は?」
一瞬。
認識すらできない刹那。
不破が気づいた時には終わっていた。
瞬きをした訳ではない。よそ見をしていた訳でもなく。
気づけばこの地に連れてきたすべての
いや外に置いておいたドアライクだけは残ったが。
「どういうことだぁ!」
不破が叫ぶ。
先ほどまで
マングローブ林の中ではあり得ない。桜の木だ。
桜の木が
貫かれた先の木の枝から花が咲き。満開の桜を咲かせる。
代わりに死した
「──森が騒がしいので来てみたら。こんなことになっているとは」
桜の木々を抜け。一人の男性が歩いてくる。
現れたのは細い男。180cm程の長身。
青髪に青眼。人が本来持つ色素ではあり得ない髪色を備えた者。
服装はオーソドックスな神官服。
しかし十字架などは無い。エンブレムの類も無い質素な物。
手にはこれまた長い銀色の錫杖。柄の先には攻撃用か。槍として使えるように鉄の刃がつけられている。
輪形にはいくつも鈴がつけられており。これが鈴の音の原因だと一目でわかる。
「さて、荒事は苦手なのですが……森を汚す者に。容赦することはありません」
まるで作られた──マネキンや
「ぶ ち 殺 す !」
それに対し不破は汚いだみ声で叫んだ。