殲滅戦争 作:Libro
「蛆虫が! 嬲り殺して縊り殺してくれる!」
自身の計画を邪魔された不破は怒りに任せ叫ぶ。
体から魔力を放出し、世界を汚す。
邪神が生まれた地から引き出す力。
魔力は邪悪なる神々が持ち込んだ世界を汚す力。汚染し、世界を歪める力。
脆弱な生命は許容量を超えた魔力に耐え切れない。エルフ達は魔力に圧倒され、地に伏せる。
草木は枯れ、灰となり風に吹かれて消えていく。
善なる神々の祝福があってこそ定命の者は魔力を行使できる。ならばその神々の力を越えた魔力に当てられれば出来ることは無い。
「邪魔です」
不破の耳にも届く。シンとした声が響いた。
巨大な──不破の体を優に上回る巨木の根が、不破を押し出した。
それに逆らうことできず。防御も出来ないまま不破は里の外にはじき出された。
「──間に合ったか」
ルドルフ地に伏した状態から立ち上がり、呟いた。
見上げて遠くを見れば不破と援護に来た者が戦闘を開始している。
植物的にあり得ない東京タワーをも超えるサイズの根。一つ一つは人より三回り程大きい程度。木々が何百。あるいは何千という触手となり不破を襲う。
不破は木の根に対し殴る、蹴るや光線──ただ圧倒的速度で魔力を弾丸上に放つなどで迎撃する。
「……む」
自己治癒の魔術で傷を治そうとした時。ルドルフの頭上から雫が落ちてくる。
それを異形の肉体の処理能力で把握した不破が見ていた。
(ちっ! 他者治癒の魔術──他の存在に干渉する魔術を俺と戦いながらするだと?!)
今の不破泰二はある程度の魔術に関する知識を持つ。自身の力で地球に帰れないか知る為にも王都の本を読み漁った故。
その知識が他者治癒は最高難易度だと教えてくれる。できるモノ等世界で片手で数えられる程度にしかいない限られた技術。
魔術の本質は"自分が正しい"と思い込むこと。だが他者への魔術的干渉はそうもいかない。
魔術が使えない唯の一般人や才能無き者ならある程度簡単に済むだろう。だが同じく魔術が使える者となるとその才能が邪魔をする。
"1+1=4"が正解と主張する者に"1+1=3"という理論を押し付ける。それが他者干渉の魔術。
既に出来上がったプログラミングに別言語のプログラムを入れるようなモノ。実行させるにも高難易度。
対し世界は真っ白。一度プログラムを入れて実行させれば世界の修正力で元に──真っ白になる。
無理矢理実行させるだけならばそう難易度の高いことではない。だが無理矢理にすれば喰らった者はただでは済まない力。
だからこそ善なる神々の治癒の奇跡や錬金術師が作り出す治療のポーションに需要があると本に書かれいた。ならば目の前の男はなんだと不破は憤慨した。
「──族長、これでいいのですか?」
「サリエンか……だが、仕方がないことだ」
ルドルフの背後の木の上から降りてきた疲労を隠せていないサリエンにルドルフは答える。
サリエンの顔は疑念と嫌悪が隠せていない。
いや、サリエン以外の他のエルフ達もそうだ。誰も彼もが嫌悪を抱いている。
その嫌悪を向ける先は救援に来た者──青い髪を備えたエルフ擬きだ。
誰かがはっきりとエルフ擬きと呟く。
それを隣の者が咎めるが口だけだ。悪いことだと思ってはいない。
誰もがこの里に居る……いや。この森に住まうエルフ全員が彼をエルフではないと蔑む。
そう──助けに来てくれた者はエルフではない。
木の根の上からエルフ以上の
エルフが本来持つ種族特性を何一つ持たず。かといって外見が人に似ている訳でもない。
エルフ以上の寿命と人を思わせる超越者じみた魔術行使能力。
エルフのような容姿と人でもない力を有する存在。
人でも亜人でもなければ魔族でもない。別種の何か。
それが彼──ウディという存在だ。
■
『──お父様、子供拾った!』
『子供拾ったって、猫かなに……エルフの子じゃないか!』
ウディはある日とある
まだ
活発な女の子なのに男のような服と口調で森を駆けるハイエルフの幼い子に拾われて。
『──もう大人になったの? 早いわね!』
『馬鹿な……これほど早く大人になるなど……エルフでも……人でもあり得ない』
ウディはたったの半年で
この大人というのは思考能力や性成熟したというだけではない。
本当に体が成長しこの時点で今の時代と同じ──身長180cm程の長身になった。
拾われた時は女の子と同じぐらいか。もしくはそれよりも小さいぐらいだったのに。
変わったのは身長だけではない。思考能力も性的能力も筋力も、全てが成体とかした。
『ウディは……いつも変わらないね』
だが、成長したのはそれまでだった。
これ以上背が伸びることも。髪が伸びることも。魔力量が増えることもなく。
背が縮むことも。衰えることもなかった。
老化することさえなく。
記憶が薄れることもなく。全てを覚えていて。
ウディを拾った、千年生きれるハイエルフの女の子が大人になって、老婆になって、墓に入っても。
それから女の子の子供が大人になって老人になってまた墓に入っても。
このラ・ヌラから
ウディはずっと──変わらないままだった。
■
「クソ虫がァ!」
不破が叫びながら腕を振るう。
だたそれだけのことで暴風が巻き起こる。
最初に振るった矢を打ち落とすために
木片一つ残らない圧倒的な暴力。
それを目にしながら自身の魔術を持って造り上げた木の根の上からウディは他のエルフ達に思考を回す。
(みんなは癒した、死傷者なし、後はこの人を倒すだけ──なんだけど)
倒せない。
ウディの、長い、長い、一万年近く生きてきた生の中でこれほどの人物に合うのは初めてでこれ以上に合うのは絶対にないと言い切れる程の化物。
背中から蝙蝠のような被膜の付いた翼を生やした不破が翼から風を起こしウディが放つ風の刃の魔術や地面から盛り上がる木々を破壊し迎撃する。
(倒す方法が──思いつかない)
「"消えろ"!」
不破が魔法を発動し不破を中心にすべてが消えていく。
迫ってきていた木の根も風の刃も。空気中の分子ごと纏めてが消える。
消滅の概念を与える魔法によってなされる一撃だ。あらゆる防御能力は意味をなさない。
そもそもが物理的に馬鹿みたいにでかい木という時点で早々傷つくことがない物をウディが魔術で強化することで更に硬く強靭になっていたものだが。
だからこそ不破も直撃を喰らえばただでは済まないと思ってしまっているのだろう。
──そう思ってしまっている。実際には直撃を喰らったところで大したダメージを負うことはない。
不破は異形の肉体は超越者としての力を与える。確かに痣が出来る程度の傷は負うだろう。だがその程度。
並大抵の者ならば押しつぶされる力であろうと今の不破には意味が無い。
そしてウディは悩む。不破を倒す方法が思いつかないと。
(本気出したら、みんな死んじゃうな……)
ウディの本気はこんなものではない。
それこそ全力を出せばその余波でこの森全土が軽く吹き飛ぶ。
だからこそ手を抜かざる負えない。本気を出せば彼が守りたいこの森もエルフも消えてしまうから。
そして本気を出せないのは不破も同じ。
不破泰二の目的がエルフの捕縛とそれによる神殿の捜索である以上手掛かりであるエルフを殺してしまうような事態は極力避けたい。
極力力を抑えながらウディが杖を振るう。
シャラン、と綺麗な音色を響かせながら虚空から生えてきた木の根が不破を襲う。
一つや二つではない。何千という数えるのも馬鹿らしくなる数の木の根。
サイズも尋常ではなく一つ一つがクアトロ──エルフの里を覆いつくしてなお余りあるモノだ。
メートル換算して凡そ三百キロ程。
これは日本の東京から名古屋までの距離を上回るサイズになる。
「煩わしい!」
不破が叫び大きく翼を動かし羽ばたきながら迎撃するが迎撃で減る木の根よりも増えていく木の根が勝る。
拳を振るい壊すよりも増殖スピードの方が圧倒的に早い。
それを舌打しながら今度は逃げるために翼を動かし。空を縦横無尽に駆け回る。
蝙蝠でも鳩でも到底不可能な一回転からの下降。と思えば斜め上に上昇──等。
重力に全力で喧嘩を売る所業はただ空を飛ぶという行為にソニックブームを巻き起こす。
そもそも素で動いているそれが初速でマッハを越えているのを飛行というただ一つの動作に神経を回せばどうなるか。
答えは余波で森が消し飛ぶ、だ。
轟音と共に地面が裂ける。
木の根がしっかりと大地を支えていたはずだがそんなのは関係ないと地面が陥没。木々が揺れ土が舞う。
遥か遠くまでスプーンで抉ったかのように地面が削れ、隕石でも落ちたのかと地面が陥没する。
ウディの動体視力でなければ視認できない超高速移動は森を破壊して回る。
地面が抉れ飛び交い、エルフ達に降り注ぎそうになるのをウディは魔術で守護する。
「とんでもないな!」
ウディが叫び新しく地面から木の根を生やし攻撃ではなく防御に回す。
不破が巻き起こす暴風による被害を減らすべく動かされた木の根は目論見通り動き。森を守るかのようにうごめき枝分かれしながらドーム状に里を包み込む。
(ちっ! ジリ貧か!)
ならばこの状況を覆すにはどうするか。
今手を変えても自身が押しつぶされるだけ。
何か手は無いか──自分に……異形の肉体に意識を向け、たった一つの駒を見つけ、不破は顔をゆがめた。
「──ドアァァァァイラァァァァク!!」
不破が叫んだ。
たった一人。エルフを消し飛ばされてはたまらないと待機させた駒。村も川も消し飛ばせる超越者の頂に立つ者。
ドアイラク。異形の風貌を晒す怪物。範囲攻撃超特化の力を持つ現在の不破が持つ最高最大の切り札。
「ああ、ああ、何故こうも不快なのか。何故こうも愚かなのか──!」
老人の顔が喋りながら地面を操作し土を盛り上げ何百メートルという木の根を超えるようにやってくる。
地面を粘土のように盛り上げ足を動かし合わせるように地面が動いていく。
ギリギリ範囲外だったのか。あるいは吹き飛ばされて遠くに居たのか。木の根のドームに一歩一歩土が橋のように蠢き空中を歩いてくる。
空を駆けるように。怒りに満ち溢れながら迫ってくる様は恐怖を駆り立てる。
「ひゃひゃ! 楽しいなぁ! 楽しいなぁ!」
丁度ドームが眼前に迫ったぐらい、今度はピエロのようなメイクを施された男の顔が笑う。
ドームどころか森事消え去る大爆発を起こそうとし──
「ひょほ?!」
ピエロの顔が間抜けな声を出す。
どすり、とこれまでに比べては細い──それでも人間よりは多きい木の根がドアイラクの胴体に突き刺さる。
シャランと、綺麗な鈴の音を鳴らした杖を中心に魔力が迸る。
淡い緑色の光が森を包み込むように広がる。
「あぁ?!」
風が起こる。何処か懐かしさを感じる温かい風だ。
だが効果は尋常ではない。敵対者である不破とドアイラクを吹き飛ばし、皮膚を裂く。
しかし灰やなぎ倒された木々で埋め尽くされたはずの森の地面から草が生え、花が生え、苗木が生えてきて。
たった数秒で苗木が樹木となり。森となる。
そして森が牙を向く。不破とドアイラク両方に自我を持つかのようにその木の枝を、葉っぱを放ってくる。
「そんなのありか!」
魔術というのは何でもありか──自分が何でもありだというのに不破は理不尽に怒る。
「──ちっ!」
怒りで声を上げる前にまたも不破の身長を優に超える東京タワーも真っ青な阿保みたいにでかい木の根が不破を襲う。
突き出された先端を不破が両腕で掴み。魔力を流し込む。
しかしこれだけの物量と術者も相まっていつぞやのように魔力で崩壊させるのはほぼ不可能だ。
何百キロと木の根が不破を押し出しクアトロ──エルフの里から不破を遠ざけていく。
凡そ数分。何百キロも離され木の根が空中からようやく地面に向かい。降ろされることで不破は久しぶりに地面に着地する。
不破が口を大きく広く。
顎が外れそうな──否人間の体だったら外れているレベルで口を開き魔力を込める。
うちから湧き上がる無限の魔力が球体上に集中し黒い光の玉という矛盾したモノが出来上がる。
「"消えろ"」
魔力の玉に魔法を込め。レーザーとして不破の口から放たれる。
扇状に広がった閃光が空のアーチのように成長した木の根を吹き飛ばし治ったばかりの森が消滅する。
問答無用の消滅の魔法。消滅という概念を載せたレーザーはあらゆる防御を無視する。
防ぐ方法等ほぼない。即死に等しい魔法がラ・ヌゾの森を消し飛ばし遠くのドワーフの山脈の頂上部分をも消し飛ばしてようやく光が消える。
「ちっ……意味はないか」
口を開いたまま不破が言う。
邪魔だった巨大な木の根は跡形もなく消え範囲内にもあった森も消えた。
だが消し飛ばしたはずの森が土ごと時間が巻き戻るかのように戻っていっている。
少しずつ着実に。不破と配下が蹂躙したはずの森が不破の努力をあざ笑うかのように。
ただ戻っているのは森の部分だけ。
射線上にあったドームに包まれたはずのクアトロの里と先ほど挙げたドワーフの山脈の頂上部分は戻ることなく消えてしまっている。
そこだけ消しゴムで消したかのようにぽっかりと空白になっている。
ガゴンと機械のような音を鳴らしながら不破が口を閉じる。
(駒は全滅──残ったのはドアイラクだけか)
だがその残ったドアイラクも消耗しきっている。
それこそちょっとした攻撃一つで消滅するレベルに。
更には位置も悪い。不破が吹き飛ばされた場所とドアイラクは丁度真反対にいる。
これでは唯一の配下との連携もろくに取れない。
森を消そうにも先のように森を再生され。配下をけしかけてもただやられるだけ。
肉体に慣れてない以上本気で暴れれば森事エルフも消える。
そこまで考えて不破は諦める。
「全部消そう。いったん」
不破がそう呟くと同時に足元から闇が広がる。
黒いスライムのようなドロドロとしたモノが広がり。森を包むこむ。
その闇から這い上がるように異形の怪物たちが湧き上がる。
王都で量産した時と違い球体から湧くことなく
泥沼から人型の怪物が這いずり上がる。
更に今度はすべが人型。猿やゴリラなどを模したモノしかおらず何故か混じってゴーレムと同じように腕や頭が不気味に肥大化したのもいる。
「ドアイラク──始めろ」
遥か遠くにいるドアイラクに、思念が伝わった。