殲滅戦争   作:Libro

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第17話

 不破泰二は考える。この状況からエルフを捕縛する方法を。神殿への情報を得る方法を。

 考えた結果はローラー作戦。無限に作れる雑兵を使い森を埋め尽くす。

 そうすれば神殿かエルフか。どちらかぐらいは見つけれるだろう──不破は考えるのを辞めた。

 

 たかが一万では足りない。作るならば何百、何千という軍勢。

 材料が──人間の負の感情や残留思念。魂等が無くてはより強力な者は作れない。だが数ならば用意できる。

 不破は配下の製造に全力を注いだ。

 

 

 

 

 

 

 不破が配下の製造に時間をかける間。エルフ達は逃げ出した。

 脇目もふらず。いざという時の避難地へ。迫りくる異形の軍に背を向けて。

 

 

 

 

 

 エルフの森。最奥地。

 ラ・ヌゾの奥の奥。山脈にほど近い場所。

 そこに、森全土のエルフが集っていた。

 

 均一に。いっそ不自然なまでに揃えられた石生の建物。

 外見は古代のローマ神殿に近い。

 いくつもの柱が均等に置かれ屋根を支えている。

 全て石生だがすべてにルーン文字が刻まれており物理的・魔法的両方への防御能力を有している。

 四方の屋根には東には狼。西に梟。南に虎。北に蛇が描かれている。

 これらはこの神殿を作った者の種族を表している。

 そう、この神殿を造ったのはエルフではなく獣人。

 遥か昔。あるいは神話の時代に獣人がエルフと共に暮らしていた時代に創られたモノ。

 それを何千年と……ウディが維持しづづけているのがこの神殿になる。

 

「皆さん。無事ですか」

 

 その言葉に避難所のエルフ達が静まり返った。

 先ほどまでいろいろとこれからの方針について話し合っていたエルフも。はしゃぐ少ない子供たちも。

 静寂の中ルドルフがとある像を見つめながら振り返らずに答える。

 

「無事だよ。そちらは?」

 

 ──不破がクアトロを襲撃してから約一時間。

 全てのエルフはこの避難所にやってきた。

 クアトロだけでない。他の里のエルフ達全員。

 この森ラ・ヌゾにはクアトロも含め合計八つ里がある。

 エルフ最大の里であるクアトロ。娯楽に特化したバトロ。戦士が最も多いレガン──等。

 その里の全員。大人から子供まで総数千四百強程のエルフ全員が一同に集う。

 

 

 柱を抜け。入ればそこには何もない空間。

 装飾品一つないこの場所にはエルフ以外には認識できないように作られた地下への階段がある。

 そこを抜ければ目の前には大きな神像が佇んでいる。

 

 頭部は鹿。胸部は狼で毛皮に覆われている像。

 残りは人間そのもの。矢筒を背負い右手に剣を。左手に弓を持っている。

 下半身は布だけ。靴も履いておらず、今にも動きだしそうなほどに精巧に作られた像。

 この神像は主に獣人。狩人たちに信仰される神──オルカ―ン・ハイレンだ。

 エルフの長身を持っても見上げる程に大きく作られた像をルドルフが見つめている。

 

「森を治し破壊された森は元に戻りました。が……」

 

 珍しくウディは言いよどむ。

 その雰囲気を感じ取ったのかルドルフが振り返り、ウディの眼を見やる。

 ウディがため息を尽き、言う。

 

「敵は……倒せませんでした」

「なんだと?」

 

「事実です」

 

 きっぱりと、だがバツが悪そうにウディは答える。

 これまで、ウディが倒せなかったもの等いない。

 

 強力な魔獣が現れても。魔族が策を講じて来ても。幾千の魔物が攻めて来ても。

 これまで無事だったのはウディの功績が大きい。

 無論他のエルフ達とて何もしていないわけではない。むしろエルフ達だけで解決したことの方が多い。

 だからこそウディが解決できないということはどうしようもないことだとルドルフは恐怖する。

 

「本気を出せば森が亡くなってしまう……ですので、皆さんには──」

 

「他の雑魚掃除すりゃいいんだな?!」

 

 ウディの声を遮るように上から声が聞こえる。

 神像を大きく超えるように跳躍し膝をついて着地する。

 金の髪を靡かせ女のエルフが顔を上げる。

 

「サザンカ……静かにできないのか」

 

 先ほど感じた恐怖はどこへやら。ため息をつきながらルドルフが対応する。

 やってきたエルフの名はサザンカ・リボジョ・バトロ・グラ。

 バトロというクアトロの里の隣にあたる里の長だ。

 

「いやー? 私にしては静かにしてるほうだろ!」

 

 自分で言うことではないだろと思いはするもだれも突っ込まない。

 えへん。とエルフにしては大きい胸を張り主張する。

 長たちの中では最も若く。そしてエルフ達の中で最強を自称する者。

 アリシャ──クアトロ最強の者に匹敵。あるいは上回る存在。

 といってもエリ府……亜人種の能力は生まれながらに決まっている。その枠組みから抜け出すことは出来ない以上アリシャとサザンカの差は技術や経験で埋め稀る程度の差。

 団栗の背比べに近い。だがその僅かな差が勝敗を分けることもある為油断は出来ない。

 

「なにやってんだ」

 

「ふげぇ!」

 

 ぽすん、とサザンカの頭が殴られる。

 殴ったのは同じ里出身。かつ彼女の夫という地位に就く男のエルフ。

 

「痛いじゃないか!」

 

「緊急事態にアホするあんたが悪い」

 

 狩にも一つの里の長に気軽に話す彼もプライベートでの彼女との関係性。及び里内での立場というのが見受けられる。

 

「……夫婦漫才はそれぐらいにしてくれないかね?」

 

「「漫才じゃない!」」

 

 二人して同時に反論する。

 しかし『夫婦』という言葉は否定されない。

 男の方が顔を赤らめるが気にせずルドルフは話を進める。

 

「森が騒めいている……恐らく敵は新しく戦力を投入してきた」

 森の騒めき……エルフが持つ種族特性の一つだ。

 森という限られた範囲においてのみエルフは知覚能力を有する。

 クアトロでの戦いにおいて戦士たちが≪不可解な者≫(アンノウンズ)相手に優位に立てた理由の一つでもある。

 エルフは森に愛され森を愛する。森の中で動こうとすれば森が蠢きエルフの手助けをするように森に異常が発生すれば森はエルフに伝える。

 今まさにルドルフは不破が配下を乱造しているのを森から受け取った。

 

「私たちがそれに対処するか?」

 

「あぁ……私たちはそれに対処。彼には魔族に対処してもらう」

 

「ん、わかった……ウディはそれでいいのか?」

 

 決定事項だと断定していうルドルフに対しサザンカはウディにその意思を問う。

 これこそが彼女の美徳であり。欠点でもある。

 誰もが、この森に住まうエルフ全員毛嫌いするモノに対しごく普通に対応する──

 ただそれだけで。他の者達が彼女に対し嫌悪をあらわにする。

 彼女はそれを気にせずごく普通に振舞っている。

 何と素敵で馬鹿らしい考えか。自己中心的で自身の行動が自分以外に不利益をもたらすと考えない。一つの都市の長として考えるなら破綻した思考。

 

 ウディは全てのエルフから嫌われている。

 何故か──"エルフ擬き"だから。

 限りなくエルフに近い造形をし、されどエルフではあり得ない力を行使する。

 超広範囲へ影響を及ぼす魔術。何千年も生きれる寿命。

 エルフの平均寿命は三百年程度。才なき人間よりは長い程度の寿命。

 しかしウディは記録にある限りで何千年も生きている。人間の最大の寿命──英雄や超越者と称される者達──でさえ千年程度。

 なのにウディは千年以上生きている。更にエルフの領域を超えた力を持つ。何者なのか。疑問と恐怖を抱く。

 

 その者に対し里長という地位ある者が他のエルフに対するように対応する。それは他の里長やエルフ達から嫌悪感を抱く。

 無論抱くのは感情のみ。行動に移すような真似をする者はいない。しかしそれは今が戦時下である以上下手な行動はそのまま自分たちの首を絞めるだけになるが故。

 戦争が終わっても尚同じ対応をすればどうなるか──サザンカはそこまで考えがついているのか。ルドルフは疑問を抱いた。

 

「えぇ、しいて言うならば──」

 

 ■

 

 

 会議は終わりルドルフは一人歩く。

 広大なただただ広いだけの場所を歩き。ある人物を探す。

 以外にも直ぐに見つかる。

 目当ての人物は地べたに座り。他の者達──狩人たちと話している。

 

「アリシャ」

「族長!」

 

 余程話に熱中していたのかドルフが話しかけるまで気づくことなく声に反応してようやく立ち上がる。

 "おじいちゃん"という身内だからこその言い方ではなく、他の者もいる以上族長と地位で呼称する。

 

「アリシャ……お前には──」

 少し、ルドルフが言いよどむ。

 そのことにアリシャは疑問を抱くが問う前にルドルフが再び口を開く。

 

「アリシャ、お前には人の街へ行ってほしい」

「……はい?」

 

 ルドルフの唐突な物言いにアリシャは混乱する。

 人の街に行って何があるのだろうか。

 今現在『アリシャ』という戦力を無駄に使うことになんの意味があるのだと。アリシャは考える。

 客観的に見ても自身の戦力は高い。ならば敵を減らすのにこれ以上ない程最適の筈。

 

 この森全体でのエルフ最強──ウディは除く──はアリシャとサザンカの二人。

 無論統治や薬学、実戦経験等を考えるとアリシャより上はいる。サザンカなどがいい例だろう。

 だが能力値(ステータス)だけで言うならばアリシャが上回る──団栗の背比べ程度だが。

 唯一足りないのは経験のみ。エルフの間でもそう詠われるほどの個だ。

 

 それを、人の街へ。無駄使いではないか? アリシャはそう思う。

 

「どういうことですか、族長!」

「エルフ全体を考えろ。アリシャ」

 

「間もなく、我々は敵を討つため攻勢に出る

 勝つつもりだが万が一がありうる相手。もしそうなった時の為に人の為。世界の為にこのことを伝える必要がある

 だから、アリシャ、お前は外に出るんだ──」

 

 ■

 

 深い、深い森の中。

 エルフが『正浄の森』と呼ぶ森の中でも数少ない安全地帯をアリシャが駆け抜ける。

 アリシャ以外にもサリエンと他五名。合計七人程が森の木々を飛び回る。

 

「──アリシャ、不満かい?」

 

 サリエンが走りながらアリシャに駆け寄り話しかける。

 背中に大きなバックパックを背負いながら身軽に動けるのは流石はエルフとといったところか。

 他の者達もみな同じバックを背負い動き回っている。

 手にするのは短弓のみ。いざと言う時簡易的に戦える程度の武装。

 唯一この中で最強の戦力であるアリシャだけが合金製の弓と矢を持っている。

 

「不満よ……けれど、ああ言われたら、反論できないじゃない」

 

(あれは……死にに行く眼だった)

 

 あの時エルフ達が避難しこれからについて話あっていた時のルドルフを思い返しそう思う。

 ルドルフは決死の特攻をするつもりだ。

 それも、エルフ全員で。

 

 アリシャのこの考えは間違っていない。

 あれほどの不破を打倒すために全兵力と投入する。それ自体は間違っていないし『万が一』の為に、情報を残すというのもいいだろう。

 

 だがその中には、愛しい我が孫への愛情があった。

 

 残った息子の忘れ形見を守りたいという。祖父の願いが。

 

(本当なら、私も戦いに行きたい、けれど──)

 

 それは、祖父の願いを裏切ることになる。

 だから、アリシャは戦えない。

 アリシャに許されたのは逃げること。一刻も早くこの森を抜け人の街へ行きこの事態を伝えることだ。

 

 これほどの事態になった以上仮にエルフが不破に勝ったとしてもその被害は計り知れない。

 最低でも半減するだろう。

 そして兵というのは早々増えるモノではない。

 これだけの森をたった四千強程度で把握しモノにできた時点でエルフの強大さがわかるがその戦力がなくなればもはやこの地はエルフの領域ではなくなる。

 エルフにも神官はいる。彼らもいなくなれば邪悪なる神々は世界に干渉しやすくなり、より多くの魔物が湧き出る終わった地となる。

 

 だからエルフ達は諦めたのだ。祖霊が眠るこの森を。

 

(私にもっと、力があれば)

 

 変えれたのかもしれない。この現実を。

 アリシャはそう思うが実際にはそんなことはない。

 エルフを代表とする亜人種は保有できる力に限界がある。均一かされた強力な群れとしての力を有する亜人だがその実強力な個というのは生れ出ない。

 故にアリシャがこれ以上強くなれたとしても団栗の背比べ程度の誤差に過ぎないだろう。

 その事実に歯噛みしながらアリシャは走り続けた。

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