殲滅戦争   作:Libro

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第18話

 ぴきり、と地面に罅が入った。

 卵から雛が生まれるように。歪に綺麗に罅が入るのを不破が視認する。

 地面、とはいってもそこは闇に浸食された大地だ。

 並大抵の手段では傷一つ付くことの無い場所に罅が入ったと言うことに不破は一瞬硬直する。

 

「──あ?」

 

 その一瞬で罅から木の根が飛び出す。

 精々人を超える程度の木の根がぐるりと動き不破を絡めとる。

 ばしりと掴まれた不破は腕力で破壊しようと藻掻くがそれよりも早く木の根が動く。

 

「おい、ま──」

 

 ぐるんと盛大に木の根が一回転。

 更に回転の勢いで木の根側が拘束を解く。

 結果野球ボールを投げるかのように綺麗に不破は空に放り出される。

 

 不破が地面から離れることにより広がっていた闇が徐々に消えていく。

 その闇から湧き出ていた≪不可解な者≫(アンノウンズ)も生まれるのが止まり上半身だけ出ていたような者は体が崩壊し消えていく。

 

「ガァァァ!」

 

 不破が叫びながら背中から翼を生やし滞空する。

 パタパタと羽を動かし自身が先ほどまでいた場所に顔を向ける。

 それが悪かった。

 

「はぁ?!」

 

 不破が気づいた時にはもう遅い。今度は不破と同程度のサイズしかない木の根の先端が性格に横から飛んできた。

 防ぐことも避けることもできず素直に不破は攻撃を受けてしまう。

 喉が裂ける程に叫びながら不破が押し出されていく。

 まるで気分はジョットコースターの乗客か。自身ではどうにもできない。更に先端しかないはずの木の根が蠢き成長し不破を拘束する。

 

 そのまま木の根から風が吹き出し不破を遠くまで吹き飛ばす。

 ソニックブームを撒き散らし。森へ多大な被害を出しながら飛ぶこと数分。不破が力業で拘束を破壊する。

 大きく、歓迎するかのように両腕を開いた衝撃で木が破壊され余波で空の雲が吹き飛ぶ。

 それと同時に翼を開くが羽ばたき空を飛ぶよりも早く重力に囚われ地に落ちる。

 

 ドボンと水音が響く。

 遥か上空橋の上から川に飛び込むよりも大きい音と水しぶきを上げながら川の中に不破が落ちる。

 

 直ぐに翼を動かし川の水を吹き飛ばす。

 水中だというのにそのことを感じさせず普段と同じように翼がバサバサと動く。

 空を飛ぶために翼を動かすのではなくただ川を吹き飛ばすためだけの翼。

 一瞬で不破を中心に川が吹き飛び飛び散った川水が森へ降り注がれる。

 森が大雨でも振ったかのように地面が濡れ。突然の水に木々が歓喜する。

 ばさばさと翼を動かし付着した水を吹き飛ばしながら上昇。空に浮かぶ。

 

「来たか、エルフ!」

 

 不破がこれまでにないほどに顔を歪め。歓喜に振るえる。

 般若の顔、というのはこういうのを言うのだろう。

 口を大きく開け歯が牙となり外へ突き出る。

 顔からは梅干しの様に血管が浮き出て黒い顔が赤くなっている。

 本来血管がある場所以外に血管が浮き出ているのは不破が人間ではない証明か。

 しかし怒りに満ちたように見える外見に反しその心は満たされている。

 ようやく見つけた元の世界。地球への帰還への手掛かりなのだから。

 空からゆっくりと。不破よりも上空に飛んでいたウディが降りてくる。

 その身に纏うのは風だ。

 まるで台風のように風を身に纏いウディを中心に回転している。

 ウディ自体は回転することない。風だけが舞う様は妖精のようにも見える。

 

「──あなたは何故。こんなことをするのですか?」

「……あ?」

 

 不意に、ウディが口を開き不破に問いかける。

 何故こんなことをするのかと。

 

 純粋たる疑問。

 不破がこの地に攻めて来てからずっと考えていたこと。

 

 ルドルフは『魔族だから』と思考を停止し考えることなかった疑問。

 いや、この場合はルドルフが正しいと言える。

 何故なら魔族とて本質は魔物と変わらない。

 邪悪なる神々(ゼーベ)の眷属であり尖兵である魔族は『定命の者への敵意』を常に有している。

 むしろ人間を襲わないと死ぬようなそのように作られている者達だ。

 代表的なのは不死者(アンデッド)だろうか。

 死を司るアオス・シュテルベン・レーベンという邪神の眷属であるアンデッドは生ある者を憎み恨んでいる。

 生きている者を自身と同じ死者へ変えんと憎悪で動く魔族だ。

 

 魔族は所詮邪神に造られた存在に過ぎない。善なる神々が作った存在である定命の者を憎むモノ。

 だからこそルドルフは疑問を抱けなかった。モノを落せば地に落ちるのと同じ。世界の摂理だと疑問を抱く余地が無かった。

 これまでこの地に魔族が攻めてきたことは何度もある。

 そのたびに、ウディや他のエルフ達に邪魔されてきた。

 流石に魔族とて無能ではない。知性を獲得した者達は策を練る。

 しかしウディは疑問を抱いた。

 ウディはある程度魔族側の戦力を把握している。

 これはルドルフが一応は戦力として数え。そこから情報を伝えられていただけに過ぎないが──それでも多少は把握する。

 魔族との戦争の最前線はドワーフ達。彼らが山脈にて迎え撃っている。

 その大半は山脈にて打ち取られ、時折数十程度魔族が来る程度だったはずと。

 故にこそわかる。魔族側にこれほどの戦力は無かったと。

 そもそも一万に及ぶ軍が、一体どこから湧いたというのか。

 魔族が作られた存在と言えど何処からともなく湧いてくるわけじゃない。

 下級の魔物ならば勝手に湧くがより強い者は邪神が直接干渉して作る。或いは狂信者達が儀式によって奇跡を使うことでこの世界に来ることはある。

 だからこそどこらともなく魔物が湧き出たのに疑問を抱く。何処にそんな──邪神が直悦干渉できるような地があったと。

 更に不破が来たのは人の領域魔族がほぼいない平和な土地。疑問は尽きない。

 

 仮にこの、不破が急に邪神の世界からこの世界に降りてきたのだとしてもいきなりエルフを襲う理由が見当たらない。

 まだドワーフは無事だ。ドワーフを無視しエルフだけを狙う理由がわからない。

 だからこその質問。だが答えはウディが予想すらしていなかったものになった。

 

「無論、元の世界に帰るためだ」

 

 と、不破が堂々とウディに向かって答える。

 口を開け、放心するウディを直視していないのか興奮して理性が消えたのか不破はまくしたてる。

 

「俺の願いはただ一つ、元の世界──地球の! 日本へ! 帰る! ただそれ一つだ! 

 それが叶うのならば、それ以外はどうでもいい!」

 

「お前たちは神殿とやらを持っているんだろう? それで元の世界に俺を返せるのだろう? 

 なんでも神とやらの力らしいが、それで俺を元の世界へ返せ、返せよ

 なぁ!」

 

 急に怒鳴り声をあげ、ウディが正気に戻る。

 元の世界。地球。

 何度か聞いたことのある言葉。一万年以上生きているウディはそれらについて他のエルフより多少は詳しい。

 多少程度──邪神たちの世界でもこの世界でもない何処か。かつて遭遇した冒険王より効いただけの、また聞きのまた聞き程度の知識。

 

「……そのような理由で、襲ったと?」

 

 ふざけるな──とウディは憤慨する。

 この世界に来たのはお前たちの意思だろうと。今更この世界に来て憤怒に塗れるというのか。

 ウディは不破の事情を知らない。不破がこの世界に無理やり来させられたと知らない。

 だからこそ、地雷を踏みぬいた。

 

「この世界に自らの意思で来たくせに──今更元の世界に帰りたいと駄々をこねるのですか」

 

「……あぁ?!」

 

 不破が魔力を放出する。

 怒りに任せ魔力を引き出し、体を異形へと変貌させる。

 空が闇に染まり、魔術を行使し世界を破壊する。

 

「てめぇこそ何言ってんだクソボケがぁ! 俺がこんな肥溜めみたいな蛆が湧く腐った場所に自ら来ただぁ?! こっちを馬鹿にするのもいい加減にしろよ拉致軟禁してくるゴミ虫共が!」

 

「な、にを──」

 

 

 ウディの知識はまた聞きのまた聞き程度。正確に地球のことを知っている訳ではない。

 偶々ウディが──冒険王が遭遇した異世界人がそうだったのかもしれないと、今更ながら気づいた。

 

 

 不破が空の闇よりも暗い無限の魔力を放つ。

 魔力は元来世界にとっての害。毒物。それを無理やり善なる神の力で生命に害を及ぼさない程度にして使えるようにしただけの物。

 ならば善なる神の力を上回る魔力を放てばそれは世界を汚染する。

 川に住む微生物が死に、魚が腐敗し川を腐らせる。木々が枯れて空を舞う鳥が地に落ち、ぐじゅぐじゅと不快な音と共に崩壊し骨も残らない。

 ただ魔力を解放する。ただそれだけで世界の命を削り取る存在。

 魔族でも、魔人でもない異質なる存在。

 

 それに対し、ウディは太陽のように輝く魔力を放ち衝突する。

 魔力は本来世界を汚す力。だというのにウディが放つ力は木々を癒し死にかけた動植物を治す力。

 その異質さに不破は驚くも──知ったことかと更に魔力を解放する。

 

 不破は何もかも自分の思い通りに動かないことに腹を立てる。異世界人風情が図に乗るなといきがる。

 そうして考えるのを放棄して、不破はウディの眼前まで跳躍した。

 

 一瞬。一秒に満たない刹那で距離を縮められたことにウディが驚愕し、一手遅れる。

 その事を気にもせず、不破はウディの顔面を全力で殴った。

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