殲滅戦争   作:Libro

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第22話

「……ここはどーこ?」

 

 何もない真っ白な空間で男はそう呟いた。

 いや、男と言うにはまだ若く。かといって青年というには幼さが残る者だ。

 高校二年生の青少年は今起こっていることを認識できずに慌てる。

 何かないかと見渡せば何故か落ちているバッグが一つ。

 アクセサリーや装飾一つない。実用性のみを追求したバッグだが彼には見覚えはない。

 もしや死んだのかと体をまさぐりポケットから現代人なら誰しもが持つ携帯電話を使う。

 横のボタンを押せば画面が光り。正常に動くことを示している。

 

「……いやネット繋がるんかい」

 

 指を動かし動画サイトを開けば動画が表示され。押せば普通に動画が再生される。

 

(こういう時ネット繋がらないモノじゃないの?)

 

 ますます意味が解らないと。これはバッグに何かあるのかと近づこうとすると声がかかる。

 

「……あら?」

 

「ん?」

 

 声の方に振り向く。

 そこに居たのは同じ制服を着た高校生だ。

 自身が通う学校の女子の制服。背中に弓を背負っていることが弓道部であることを示している。

 モデル顔負けの手足が長く。出るとこは出ているプロポーション。

 新聞に載ったことさえある人物の名は。

 

「え~と……出雲さん?」

 

 出雲大和。

 彼と同じ高校に通う高校一年生であり。立場的には後輩にあたる女。

 

「──藤原さんですよね?」

 

「うん、そうだけど……あー、出雲さんが、ここに?」

 

「いえ、私も気づいたらここにいたので……藤原さんは?」

 

「……いや、俺もここで目が覚めて何が何だかわからないのよ……」

 

 出雲がバッグを拾い中身を漁る。

 これは出雲さんのだったのか。と妙に納得し手掛かりが消えたと落胆する。

 

「とりあえず、通報を……」

 

「無駄ですよ」

 

 警察か親か。ネットが繋がるなら誰かに助けを求めようと携帯を弄ると声がかかる。

 

「無駄って、どういう意味だ?」

 

「いえ、どういう訳かこの場所。ネットには繋がりますが"誰かに助けを求める"ことはできません」

 

 はぁ、と何を言ってるのかと無視し携帯を弄る。

 電話をかければすべて届かない。SNSには書き込めず動画のコメントは打てない。

 

 操作を受け付けない訳じゃない。自分の指が勝手に動くわけでもなくただ『できませんでした』と返される。

 

「……ほんとだ」

 

「さて、どうしますか?」

 

「どうするって、言われても……ていうか、さっきまで何してたんだ?」

 

 急に現れた出雲の方が怪しいのでは──? 

 と考えるが出雲は特に隠すことなく解答する。

 

「いえ、出口がないかと十分ほど真っ直ぐ歩いていました」

「……十分も、真っ直ぐ?」

 

「えぇ、戻ろうとした瞬間。直ぐにこの場所に戻されましたが」

 

 

 意味が解らない、と二人して肩をすくめる。

 

 

 八方ふさがり。どうしようもないのでは。

 そもそもこんなことをする奴は何がしたいのかと──そう考えた瞬間。空から声が聞こえてくる。

 

『始めまして』

 

 鋭い女の声。ソプラノボイス──聞く者に安心感を与える声。

 ばっと、声の方に二人とも振り返った。

 そこに居たのは。

 

「こんにちは、私の名は──」

 

 女神だ。

 二人とも、そう思った。

 翼があるわけでも、輪っかがあるわけでもない。何かしら天使の様な格好をしている訳でもない。

 人知を超えた美貌──そうとしか形容できないもの。

 

 赤い髪が炎のように揺らめいている。その瞳には青い炎が浮かんでいるのはどういう原理か。

 鎧、というにはいささか守る場所が少ない鎧擬きを纏っている。

 胸と腰。手足以外はすべて丸出しの姿は健康に悪そうで体に自信が無い者でないと着用できないだろう。

 事実、この者は美しい。

 人外の美某。白い肌。

 だが橋すら持てそうな筋肉が印象を変える。

 それこそ二人がこれまで見てきたモデルやアイドル。それらよりも美しい。

 現実に存在するからこその肉の美と存在しえない──絵画や彫刻にも似た空想の美が共立している。

 

 その人外の美を見た二人は──

 

「ふん!」

 

 バチンと乾いた音が響く。

 その音に藤原がビビり、正気を取り戻す。

 後ずさり。何があったかと警戒を強める。

 見れば強く出雲が自分自身に向かってビンタをした後が見える。

 頬が赤く染まっていて、痛そうだなと藤原は思う。

 

 はぁ、という目の前の存在のため息が聞こえ視線を戻す。

 

「……そう警戒しないでくれ、私は神──名を、シュヴェーアトという」

 

「……神様が何の用ですか?」

 

「ああ、実は──」

 

 

 

 それは、まるで出来の悪いライトノベルのようだった。

 

 自分が異世界の神。

 地球とは違う別の世界。関りの無いはずの神。

 その世界に魔王が現れたから倒して欲しい──と。

 自分が倒せるものなら倒したいが、諸事情で倒せない。

 だから君たちに倒してほしい、と。

 

「馬鹿馬鹿しいですね」

 

 と、出雲がバッサリ拒否する。

 

「なんで別世界の住人を雇用する必要が? 神というのは全能の存在では? 

 そもそも世界を創り出したとされる神が、自分の創造物一つ制御できないというのは? 

 というか神の分際で人間に頼る等神失格では? 

 そもそもあなたが神という証明は? これまでの現象は全て科学で説明できうるものに過ぎないですし──」

 

(わぁーお、ヘイトスピーチ)

 

 しかしながら事実。

 何故本当に神だというのなら、たかが人間如きに頼る必要がある? 何故頼む必要がある? 

 あらゆる要素で矛盾を孕んでいる。

 何故魔王を倒すのに異世界人を雇用する? 神ならばその力で消し飛ばせばいい。

 何故異世界人に説明などする? 何故人間如きに説明をする? 神が娯楽か何かならば問答無用で異世界に送り込めばいい。

 何故神が人間に理解できる程度の存在に成り下がっている? 神とは世界法則を越えた何かだ。人間如きでは想像すら許されないモノ。それがなぜ人間に理解できる程度に収まっている? 

 出雲はそう考える。実家が神社というある程度神という概念に対し身近であった為。

 それに対しシュヴェーアトは反論する。

 

「……私が神という証明が欲しいのだな?」

 

「えぜ、出せるモノなら出してみて」

 

 出雲が言い切る前に、変化が起こる。

 

「なっ……!」

 

 真っ白な空間が見慣れた場所に変わる。

 そこは彼がいつも通う場所であり。思い出深い場所。

 全国紙に乗りテレビにさえ出たこともある──高校。

 

 もう夕方だからか学校には人影もないが──それでもこれは彼らの見慣れた学校そのものだ。

 

「……これぐらいなら。まだ現代の技術でも──」

 

「疑い深いな……ならこれはどうだ?」

 

 次々と、映像が変わっていく。

 外国の首都。戦争のど真ん中。人類未踏の深海。彼らの家──

 

 そもそもカメラを設置できない。あるいは設置したところで破壊か撤去される。

 CGにしては出来が過ぎる上。藤原達しか知りえないような情報も混ざっている。

 そんな場所をいくつも見せられ、出雲はようやく納得した。

 

「えぇ、認めましょう。あなたが神──あるいは、今の人類の技術では不可能な技術を有していることを」

 

「納得してくれたか」

 

 はぁ、とシュヴェーアトがため息をつく。

 

「あー、ちょっといいか?」

 

 これまでの映像を見せられながら、考えていた藤原が今度は問う。

 それに対しシュヴェーアトはこれ以上何をすれば……? と疲労を顔に出そうになるが、引っ込める。

 

「あー、俺たちに魔王を倒して欲しいって言ったが……なんで俺たちなんだ?」

 

 何か特別な才能でもあったのか、とほんの少しの期待を込めて藤原が問いかける。

 それに対しシュヴェーアトは難なく答える。

 

「理由は一つ、君たちが戦える技術を持っているからだ」

 

 と。

 

「え~と……それだけ?」

 

「それだけだな」

 

 バッサリと、藤原の期待を切り捨てる。

 心の何処かで、日本じゃ役に立たない特殊能力でも持っていたのか──そんな期待をしていたがどうやら現実はそこまで甘くないらしい。

 

「ふむ、戦える技術といいましたが、具体的には?」

 

「……藤原君は剣を、出雲さんは弓を使えるだろう?」

 

 理由はそれだけ。それ以外はない。

 そう戦女神は断言した。

 

「質問いいですか?」

「どうぞ」

 

 出雲の問いにもはや脊髄で答える。

 

「その魔王とやらを倒して欲しいと言いましたが。報酬はあるのですか? 

 そもそも私たちが魔王を倒す必要性は? また戦闘行為に伴う危険手当等は? そちらの世界で死した場合における私たちの死体。仮に存在するのならば魂等の行方等は──」

 

「あー、先に言うからちょっと待ってくれ」

 

 ごほん、とワザとらしくシュヴェーアトが咳払いをする。

 何処からか虚空にまるで何かがあるように振る舞い。掴む。

 するとそこに現れたのか見えなかっただけなのか──巻物が現る。

 羊皮紙のような中世ファンタジーにありそうな物ではない。忍者が使うような巻物だ。

 時代劇にありそうだと藤原達は思った。

 それをシュヴェーアトは読み上げていく。

 

「まず報酬だが、成功報酬で五億円。失敗で半額の二億五千万円」

 

「「ゴッ?!」」

 

 二人して人間が驚くのに対しシュヴェーアトは冷静に「両方とも非課税だ」と言う。

 

「そして危険手当? 等はそれに含まれるが、現金以外の報酬として我々の世界で得た力。知識等はすべて日本へ帰るさいに問題なく渡そう

 彼女や彼氏、夫婦(めおと)ができた場合でも。問題なく日本で暮らせるように戸籍なども用意する」

 

 すらすらと、シュヴェーアトが読み上げる。

 

「魔王討伐を君たちに任せる理由だが今代の魔王は少し特殊で、君たちでない……異世界人でないと倒せないからだ。

 と言っても命を落とすことはない。我々が最大限の補助をする上万が一亡くなりそうな場合は強制的に日本へ返送する。

 その場合も魔王を討伐する途中で得た全てのモノは問題なく君たちに与えられる。

 ──と、これぐらいかな」

 

 他に質問はあるかとシュヴェーアトは問うが二人は五億と与えられた情報に混乱している。

 しかしやはり。出雲が藤原よりも先に復活し問う。

 

「……魔王を倒すとなれば、相当な年月が必要と思われます

 それによって失われる青春、及び社会的信用はどうするのですか?」

 

「ふむ、それについては二つの解決法がある

 一つは時間をずらし魔王を倒す等で日本へ帰った場合。こちらへ来た直後の時間軸に戻ってくること

 もしくは日本の国王……いや、総理大臣だったかな? 彼に相談し、その分の埋め合わせをしてもらう」

 

(さらっと総理大臣出てきた)

 

「総理大臣、ということはこの件は国も把握していると?」

 

「把握している。といっても国のトップ層だけだが」

 

「……私たちの両親等は?」

 

「説明していないが──望むなら、説明しよう」

 

 ふぅむ、と出雲が頭を悩ませる。

 

(至れり尽くせり──ちょっと怖いですね)

 

 だが、勇者として呼ばれるならばこれぐらいは必要だろう。

 なにしろ命を懸けて世界を救うのだからこの程度の報酬ないとやっていけない。

 命の危機あります。報酬ありません。世界を救って下さい──それで誰が救うというのか。

 むしろ一部の人間は『逆に滅ぼしてくれる』と世界の敵に回るに決まっている。

 

「あー、俺たちが拒否した場合どうなる?」

 

「その場合はこの条件と同じで別の人間に依頼する」

 

(断っても問題ないと)

 

 

 出雲大和も。一般的な日本人だ。

 オタク、と呼ばれるほど小説は読まないが普通に読む。

 有名な魔法使いファンタジーも。最近流行の異世界転移物も多少とはいえ嗜む。

 だからこそ疑問を抱く。この神擬きに従っていいのかと。

 シュヴェーアト。聞いたことの無い神の名。西洋でも東洋でも似たような名前の神は聞いたことがない。

 ここで断れば自分はどうなる? よくて存在の完全抹消。悪くて神の玩具として都合のいいように調整されるか──自分にとって都合のいいように考えるならば神の言葉通り問題は無いのだろう。

 いや。神の言葉を疑っている訳ではない。この神の言葉は信じたくなる神聖さがある。

 

 だからこそ出雲は疑う。この神は何なのか。

 

 無条件で従いたくなり、言葉を疑うことすら許されない──事実隣の藤原は神の言葉に疑問を抱いていない。

 自分だってもう疑問を抱けない。だから自分を疑うことで間接的に神を疑うしかない。それ自体あやふやであいまいな物になっているが。

 しかしながら出雲は高校生。夢に夢見るお年頃。

 神への疑い云々なしに考えるのならば。

 

(行ってみたい──異世界に)

 

 剣と魔法のファンタジー。魔王が存在して魔物が居る世界。

 

 見たことの無い秘境。ダンジョン。日本では──地球では決して経験できないこと。

 

 人並み以上に冒険心を持つ彼女は行ってみたいと心を踊らせる。

 

「俺は行くぜ!」

 

 藤原が叫び同意を示した。

 それに対し、出雲は──

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