殲滅戦争 作:Libro
王の間。
そう呼ぶにふさわしい地。
単純な壁や天井。床の建材一つ一つが超高級品──美と実用性を兼ね備えた物。
そこに王が居た。
外見年齢としては五十代程。白髪交じりに頭皮に服の上からでも鍛え上げられているとわかる肉体。
頬杖をつき、悠々と構える姿は王として長年君臨してきた貫録だけでなく、戦う者としての威圧をも与える。
服装。王冠。全てが王という地位に相応しい豪華な代物。
周囲には王を護衛する為の騎士十数人。
全員が魔道具性の鎧と武具をもち、一人として同じ格好の者は居ない。
ビキニアーマー。全身鎧に軽装鎧だけの者。
単純な戦闘力ならば冒険者にも引けを取らないと自負する一団。
そして金がかかっていると一目でわかる──宝石や金を用いて装飾された服を纏った者が数人。
宰相や大臣と言った国の頭脳。その服装に相応しいだけの功績と力を持った者たち。
そんな中。場違いな者が二人、頭を垂れている。
片方は地に頭が付くのではないか、と不安になる程に下げている獣人。服装もまたラフ──上半身がほぼ出ているという強気な格好。
もう片方は女の戦士。国の住人ではあり得ない髪色と肌を持つ者。
戦士と同じようにビキニアーマーを纏っているがその力はこの場の全員殺し尽くして余りあるという世界最強の戦士の称号を持つ。
獣人が委縮するのに対し女は何ともないように振る舞う。
そして女が語る。自身が戦った者を。たった一人で何百という魔物を使役し都市を──国を滅ぼした者の存在を。
そうして女だけが語り、他の者は口を閉ざし数分。女が語り終え、王が口を開いた。
「──それが、お前たちが見てきたモノか」
「はい、閣下」
重圧。
王の発する言葉はそれだけで力を持つ。魔法でも魔術でもない唯の声が。
単純な戦闘経験。積んできた人生の重み。武王と周辺国に知られる王はそれだけで歴戦の冒険者を威圧する。
「あい分かった。おぬし等には冒険者ギルドから特別報酬を出すよう伝えよう──」
■
「して、どう思う?」
冒険者が退室した後。玉座から王が臣下に問いかけた。
大国クリセルダ。クンラフの隣国に位置する国。
湖の上に浮かぶ島に建てられた城──二百年前に改装された城にて国の重鎮たちが集まっている。
宰相。神官長。財務大臣──等々。
考えるのは頭を使う者達。騎士などは考えても言葉にはしない。
「魔人……ですが。国一つ滅ぼすならB級──眷属作成などの能力を持つならA級に匹敵するでしょう」
おぉ……と幾人から声が出る。
A級ともなれば単機で世界を滅ぼしうる化け物の中の化物だ。
ただの走りや拳一つで大地を抉り。山をも抉る攻撃を通常攻撃として放つ怪物。
そんな怪物が生まれたとなれば世界に与える影響は大きい。
その魔物に対応できるのは同じランクであるA級冒険者──ヴェター・ヴェーステしかいない。
このタオゼントという大陸にはA級の冒険者彼女唯一人しかいない。
無論大陸中を探しまくればA級に匹敵する実力者はいるかもしれない。だが望むだけ無駄。それにそんなことをする時間も予算も無い。
「であれば。我が国がとるべき対応は?」
再び王が問い。宰相が答えた。
「ここは『勇者』様方に、対処してもらうというのは、どうでしょう?」
勇者、その言葉にピクリと王が少し眉を動かす。
反応は劇的で一人声を大きく荒げて反論する。
「駄目だ! 勇者様はまだ子供だ! 魔人なんぞと戦わせるわけにはいかない!」
「子供、といいますが既に十六を超えている。我が国では成人ではないですか」
「魔王を倒すための勇者を魔人を倒すために使えば神罰がくだる!」
「そもそも勇者に国防を任せきっていいと? 。この地は我々が住まう大地。異世界の者に頼りきってどうする!」
宰相が。騎士団長が。財務大臣が。
各々口を開き言葉を交わす。
しかしその言葉には、『勇者』に任せるのは駄目だ──という宰相の言葉を否定するものが多い。
勇者は
ある意味では
神が実在しその影響が強い世界では神の怒りを喰らうのを何よりも恐れる。
神の怒りを喰らった瞬間
だからこそ宰相は神々の力に任せようと、他の者は神の怒りを恐れた。
「沈まれ」
ドン、と静寂が戻ってくる。
かつて武によって王へ駆け上った者──武王の放つ言葉はこの場の誰よりも重い。
それは騎士団長の言葉よりも物理的な圧を伴う。
「勇者に頼る──宰相のその言葉には。余も賛成しよう」
どよめく前に、王が言葉を続ける。
「しかしそれは。勇者たちの言葉を確認してからだ」
「彼らが拒否するようならば──我々だけの力で、解決しよう」
■
城下町。
かつて戦乱に於いて破壊された都市を再建した都市だ。
以前は整備された都市区画があったが今ではなく、あらゆる施設が好きなように建てられている。
教会の隣に牢獄があったり、騎士団の詰所の隣には娼館が建てられている、など。
各々好きなように都市を再建しようとしたためもはや一種の迷宮の様になっている。
クンラフ程の迷宮的な力は無いが。
そんな、十三あるメインストリートの一つを王城に居た冒険者が歩いていた。
その片方──獣人が口を開く。
「あー、ヤバかった……」
「……どこが?」
「全部だよ、全部!」
獣人の冒険者が女の冒険者に向かって怒鳴った。
その事に町人は誰も気にしない。今も男の娘の男娼が私を取り合わないでと叫び見知らぬおっさんを殴っている。
この程度の叫び声や言い合いはこの都市では日常茶飯事だ。
「つーか、なんで国王と会って平然としてるんだお前は……!」
「あー、まぁ……慣れ?」
「慣れる程国王と会ってるのかお前は」
獣人──ヴァンのツッコミに女戦士であるヴェターは何とも言えない顔になった。
あっている、のではなく会っていたが正しいと心の中で言い返すだけにした。
「しかしあれが『武王』か……生で見ると、違うな」
武王──その名の通り武を持って王へと成り上がった者。
かつてこのクリセルダで内乱が起こった際当時『英雄』と呼ばれる者と共に国を邪神の魔の手から取り戻した英雄だ。
本名をマーテル・クリセルダ・ヴァレー・レイゲルフという。
当時死を司る邪神が顕現した際に当時の反乱軍も騎士団も冒険者たちも。全てを統括し、共に戦ったという生きた伝説。
戦う者ならば誰しもが憧れる人物に会えたことにヴァンは歓喜している。
「まぁ、伝説の生き証人──というか伝説そのものだからねぇ……」
二百年前。この国クリセルダでは内乱が起こった。
当時の王の叔父でもあった公爵が国に反旗を翻しそれに連なるように幾人もの貴族も離反。
万を超える反乱軍が誕生した。
それだけならどうにかなったかもしれないが──反乱軍には元冒険者。かつ高ランクだった者達が複数所属。
単純な兵士の数だけならば国側が勝っていたが高ランクの冒険者に比肩しうる兵士は国にはいなかった。
戦争においては数より質が勝る世界。
簡潔に言えば子供が百人とマシンガンを持った軍人五人。それだけの戦力差が反乱軍と国にはあった。
それだけ国が民を大事にしていなかったという証明にもなり得るが──それはさておき。
結果として一時期王都も攻め落とされた。事態は反乱軍の勝利。新しい政府の誕生かと思われた。
しかしそこから奇跡の大逆転。それを起こしたのが『武王』であり。当代の『英雄』だった。
その『内乱』事態も
だがフルヒトの目的は内乱を起こすことではなく
その計画も『英雄』によって不完全な状態で現世に呼び出され──不完全のまま英雄によって倒された。
これは当時の者達によって『ドリットの戦乱』とも邪神の遊戯とも──幾つもの呼び名がある。歴史の一ページに刻まされた大事件。
この時世界を救った英雄はどうなったか定かではない。
冒険王と同じく別の大陸へ渡ったとも。邪神と相打ちになったとも。武王と不倫して子供ができたから逃げた──などと、憶測が交わうばかりでどうなったか明言されていない。
エルフの戦士だった、ドワーフの魔術師だった──等々、種族も性別も正確に伝わっていない。
英雄と戦友であった武王も口を閉ざしている為誰もわからない世界の秘密だ。
「んでよぉ、ヴェター……ヴェター?」
「んっ?! な、何かしら」
あの若い子がああなるなんて──そんな昔のことを思い出していれば上の空だったヴェターを心配するようにヴァンが声をかける。
「どうしたんだ、珍しい……」
「あはは、何でも無いわ」
懐かしの戦友──今では『武王』と呼ばれるほどの人物の過去の姿を思い浮かべていたヴェターは反応に送れる。
それを何でもない、と返す。
「そうか……んでよぉ、お前、どう思う?」
「ん? 何が?」
「魔人が生きてるのか、だよ」
魔人。
二月前迷宮都市アンファングにてヴェターが打倒した存在。
当時の迷宮都市の戦力では勝り。ヴェターが一対一で戦い打倒した化け物の中の化物。
最高級の武具を纏いこの地の人間ではあり得ない容姿をしたもの。
この日ヴァンとヴェターは数少ないクンラフ滅亡の詳細について知っている者として招集されたのだ。
「生きてるわ──絶対に」
武王に報告する際。ヴェターは一つ嘘をついた。
それは『魔人に逃げられた』という嘘。
実際には魔人は地下の崩落に巻き込まれて消えたのだが──ヴェターは、『まだ生きている』と強く確信を持ち。警戒させるためにこの嘘をついた。
「ここだけの話。迷宮都市に送った冒険者が帰ってこなかったらしいわ……」
「へぇ……」
「しかも、Bランクの冒険者パーティが、よ」
「んなっ……!」
(Bランク──俺と同じランクが?!)
Bランク。
平均して一国に三つ程しかパーティがいない最高位の冒険者だ。
更に上にAランクが存在するが──実質的な最高位はBランクになる。
Aランクともなれば単騎で人類文明を破壊しうる化け物。
それにたいしBランクは国の危機を救える力を持つ存在。
吟遊詩人が詠う英雄や冒険者というのはこのランクのモノが最も多い。
その冒険者が帰ってこない──というのはヴァンに強い衝撃を与えた。
「なるほどね……じゃあ、これからどうするんだ?」
「えぇ、そうね──」
ヴェターが言いよどむ。
今日のヴェターは少し変だな、と思う。流石に王にあって気おくれでもしたのか。
だが付き合いの長いヴァンにもこの言葉は予測できなかった。
「ヴァン、私冒険者やめるわ」
「…………は?」