殲滅戦争   作:Libro

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第25話

 練兵場。

 王城──戦乱後に再建された城の庭。

 元々は草木が生い茂り、鼻が咲く庭園だった場所は今は騎士の鍛錬場となっている。

 草の代わりに砂が。木の代わりに案山子の人形が置かれている。

 学校のグラウンドよりは狭い程度──非常に広い場所をたった一人で独占する者が居た。

 

 藁人形に剣を振るうことなく、ただ一人で剣を振るい続けている。

 入り口から程近い場所でただひたずらに何十。あるいは何百と。

 

 そうして時が立ち、一人の男が練兵場にやってきて、男に声をかけた。

 

「精がでますなぁ! 勇者殿!」

 

 駆けられた声に剣を振っていた男は素振りを止めた。

 

「ガレスさん……」

 

 ふぅ、と息もい切れていないのに息を付き。男は剣を下げた。

 太陽の光が反射し剣に男の──この世界の住人ではあり得ない容姿を映し出す。

 故郷に居た頃ではあり得ない。実物を見る機会すらない武器を腰に下げるということに今だ違和感を持ちながらしまう。

 格好もまた。故郷にいる頃では考えられないものだ。

 全身鎧という、コスプレでも早々しない格好だ。

 ただし装飾の類は少なく。胸元にこの国の国旗である人の手と剣が描かれているのみ。

 更には全身鎧の割には装甲が薄いからか重量をあまり感じないようになっている。

 もしくはチートのせいだろうかと考えれば、ガレスがバツの悪そうな顔をする。

 

「と、お邪魔でしたかな?」

「いえ……そろそろ休憩しようかと思っていたので」

 

 つい癖でタオルで顔を拭いてしまう。

 汗一つ書いてないというのに。

(これが……勇者の力)

 日本で剣を振るっていたころは考えられない力だと、男は──藤原玲一は考える。

 

「そろそろここに──いや、()()()()には慣れましたかな?」

「いやぁ、まだまだです……ここにきてまだ三日ですし」

 

 この世界。かつて藤原は地球に住まう一般人に過ぎなかった。

 不破泰二と同じく。日本からやってきた『勇者』。

 与えられただけの力に戸惑い見知らぬ地で暮らすこと早三日目。

 元々藤原は剣道を嗜んでおりルーティンということで、朝の修練場を借り剣を振るっていた。

 日本と違うのは振るうのは竹刀ではなく真剣。更に自身はいくら振るっても疲れないことだ。

 千振ろうと万回振ろうと──尽きない無尽蔵の体力。

 努力して得た力ではないのに顔がだらしなく歪んでしまいそうになるのを気合で抑える。

 しかもこれでまだ『全盛期』ではないのだから何処まで強くなれるのか。少しの不安と多大な歓喜に襲われる。

 

「ガハハハッ! まぁ無理もありますまい。別の世界の住人なのですから──ところで藤原様。『冒険者ギルド』はご存じですか?」

「あー、はい……少し聞いています」

 

 冒険者ギルド──

 ファンタジー作品なら必ずあると言ってもいい。ファンタジーの権化だ。

 

「えぇ、近々藤原様に冒険者登録をしてもらおう。という話が上がっていましてね」

「……勇者が、冒険者に?」

「ふむ、藤原様は冒険者の成り立ちについてご存じですかな?」

「……すみません、知りません……なんか。『魔物を倒す』組織ということしか……」

「それさえ知っているのなら結構! では、私が詳細を説明しましょう!」

 

 気分がよくなったのか。上機嫌でガレスは話始める。

 

 冒険者ギルド──その歴史は神話の時代にまで遡る。

 遥か昔。神が幾百も存在し地上に邪神が蔓延っていた時代。

 魔神王率いる邪神の軍勢が『この世界』の外からやってきた時代だ。

 人と神々の楽園が崩壊し。世界に『死』『恐怖』『疫病』『快楽』『悪夢』『狂気』等。世界にとっての害が生まれた時代に冒険者ギルドは生まれた。

 ある日。神々が争う中。女が言った。

『世界の命運をかけた戦いを、神々に任せきっていいのか』と。

 人間はこの時代では。神々に守られるだけの脆弱な存在だった。

 いや人間だけでない。当時神が創った獣人もエルフも。神々の争い(ラグナロク)においては無力な存在だった。

 

 最初は小さな声だった。

 女が一人、戦いに趣き──いつしか、女に賛同する者が現れた。

 その女と戦う者達が世界で初めての『冒険者』となった。

 それを皮切りに幾人もの冒険者が生まれた。

 ドワーフの重戦士。エルフの弓使い。人間のシーフ。獣人の軽戦士。

 

 あらゆる種族が集い、あらゆる職種が集い──生まれたのが冒険者ギルドだ。

 

 冒険者の本質は『魔物を倒す』ことにある。

 故に人の争いには一切かかわらない。

 相手が襲ってくるようならまだしも──そうでないなら、盗賊を殺すことも、政治に関わることもない。

 そしてその女は終末戦争(ラグナロク)が終わった後、善なる神々(ハイリヒ)によって神となった。

 その女の名はシュヴェーアト──藤原と出雲を呼び出した戦女神である。

 

 歴史の授業の様だと藤原は思った。或いは知らないゲームの知らない歴史か。

 

「冒険者って、そんな存在だったんですねぇ」

「人類最初の文明ですからな!」

 

 人にとっての文明。

 それもやはり『冒険者ギルド』になる。

 人類が生まれて初めて。自らの知恵と力を持って造り上げた『文明』だ。

 

 この地の人々は二足の獣ではなく──最初から『衣服』を纏った知恵ある動物として生み出された。

 人々は初めからレンガの家に住まい。鉄の道具を扱い。車輪を持って移動を成した。

 それらはすべて神々が人に与えたものだ。

 遥か昔終末戦争(ラグナロク)が始まる前は人は神の模造品に過ぎなかった。

 世界に混沌が無く。『楽園』だった時代。

 その楽園に魔神王が現れ世界に新しい『概念』が植え付けられたのだ。

 

「で、俺が冒険者になって、何をすれば?」

「まずは、手頃……というと違いますが、魔物との戦闘に慣れてもらいます

 そしていつか、『魔王』を倒していただければ──と」

 

「わかりました、じゃあ、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 ■

 

「ん?」

「あ」

 

 クリセルダ王城、外門。

 大きな木製の扉には幾十のルーンが刻まれている。

 かつてはルーン等刻まれていなかったがドリットの戦乱以降に刻まれたという。比較的新しいルーン。

 

 

 その門の前には一人の女。

 藤原と同じく黒髪黒目というこの国の人間ではあり得ない容姿。軽装鎧──チェインメイルと魔石を溶かし獣の皮に馴染ませた高級防具に身を包んだ人間。

 

 名を出雲大和──藤原と同じ『勇者』だ。

 藤原が腰に剣を下げているのに対し出雲は背中から弓を背負っている。

 更には藤原の剣はこの世界の武器に対し。出雲のは日本の弓ということか。

 ……正確には『日本の弓』をシュヴェーアトの力で強化したものだが。

 

「出雲さんも、冒険者に?」

「えぇ、藤原君も?」

 

 おう、と元気よく返事し──そこに更に威勢のいい声が響く。

 

「は、初めまして勇者様!」

 

 大きな声を出したのは軽装鎧を着た女だ。

 ガシャガシャと金属音を鳴らし少し息が上がっている。

 手足と胸だけにのみ。鋼鉄製の鎧を纏っている。

 他の箇所にはチェインメイルがあるため防御力には問題がないのだろう。

 背中には自身の背よりも長い。質素な槍を背負っている。

 全体的に使い込まれた形跡がないのが全て新品の代物だと主張している。

 

「わ、私リナって言います! 勇者様たちの、案内役を仰せつかってますです!」

 

 若干語彙が怪しいが、まぁ愛嬌だと二人とも受け入れる。

 

「で、では早速案内いたします!」

 

 まるでロボットのように、手足をキビキビ動かすリナに、出雲と藤原はついて行った。

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