殲滅戦争   作:Libro

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第26話

 深い深い森の中。

 獣の──生き物の気配一つない中。二つの異形が共に歩く。

 片方は黒い肌に異形の眼球を持つ者。不破泰二。

 片方はピンク色の肉塊。ぐちゃぐちゃと蠢く触手の塊であるケントニス・ヴィッセン──の端末。

 

「──で、具体的にどうすればいいんだ?」

 

 森の中を歩きながら不破が問いかけた。

 

「ふむ、魔族と魔物は所謂兵士……お前が扱う≪不可解な者≫(アンノウンズ)と違い、知性があり。魔術を扱うことができる」

 

「……悪かったな、≪不可解な者≫(アンノウンズ)魔術使えなくて」

 

「まぁ、一部の例外。お前がドアイラクと名付けたアレ等は魔術を行使していたがね

 と言っても強力な魔術を使えていたのはドアイラクのみ。他の≪不可解な者≫(アンノウンズ)は使えても低威力の──……話がずれたな。

 我々はこの世界からはじき出されている故に『本体』で顕現するためには特定の手順を踏まねばならない」

 

「……はじき出されている? お前今いるじゃん」

 

「これはただの端末に過ぎない……ともかく、本体で顕現するためにはこの大陸を使った儀式魔法を成す必要があるが……不破泰二」

 

「なんだ?」

 

「この大陸に住まう者を全て殺す覚悟はあるかね?」

 

「ある。元の世界に帰れるなら万でも億でも京でも。殺し尽くす」

 

「ふふ……即答か。頼もしい……では──」

 

 邪神が語り。魔人が聞く。

 邪神の計画は魔人にとっては魅力的であり──

 この世界の住人に。絶望が降り注ぐものであった。

 

 ■

 

 何もない荒野。虚無。

 つい先ほどまで──たった数時間前にはここに森があったのだと言っても誰も信じないであろう荒野の中心。

 何もない中。異形の獣が座り込んでいた。

 脊髄だけの首と三つの人間の顔を併せ持つドアイラクである。

 体は傷つき、三つのうち一つの首は破壊されている。

 

「……随分ひどくやられたな」

 

 思ったよりもエルフが強かったのか、と不破がエルフに対する評価を改め、ドアイラクに力を注ぐ。

 

「名を変えよう」

 

 そうしてドアイラクがゆっくりと、眼には見える程度の速度で修復される中ケントニスが唐突に提案する。

 

「……名前を変える? なんでまた」

 

「名前、というのは重要な要因(ファクター)になる。魔法における詠唱……つまり人の言葉という物はそれだけで力となる。

 それにお前の名は日本──善なる神々(ハイリヒ)に連なる者だと聞く者が聞けばわかる

 一部の神の権能や魔法を用いればお前が日本のから来た者だとわかってしまう……そうなると善なる神々(ハイリヒ)にバレ──」

 

 善なる神々(ハイリヒ)という名が出た瞬間不破は顔を歪める。

 それはやべぇ。とも面倒くさいともとれるものだった。

 

「……すまん。善なる神々(ハイリヒ)とやらには既にバレてる」

 

「は?」

 

 不破は大人しく先ほど神殿であった神と会話内容を大人しく話す。

 そのことにケントニスは頭を抱えたくなるが──まだどうにかなる、と持ち直す。

 

「まぁ……お前が日本人とバレたのは。まぁいいだろう……外の世界から来た者なのだから。いずれバレることだしな……もっと後でバラしたかったが──さて。名を変えよう

 名は『ディロン』……古き言葉で"終わり"を意味する」

 

「ディロン……ディロンねぇ……まぁ、親からもらった名で暴れるよりマシだな」

 

 名を受けた不破──否。ディロンは己をそう定義した。

 

「ドアイラクだけじゃ駄目だな──もう一つ、作るか」

 

 今回の件でディロンは反省した。

 確かにドアイラクは強いがディロンには及ばない。

 ウディのような超越者級にも遠く及ばない。

 ドアイラク以外にも強力な駒がいる。そう判断したディロンはここで死したエルフ達の残滓を使い、新しく駒を作る。

 バチバチと手のひらから魔力を放出し黒い球体上に変化する。

 球体は周囲の残留思念。魂の欠片。魔力を吸い込んでいき──耐えきれなくなり球体が破裂する。

 

「アヒャヒャヒャヒャ!」

 

 幾つもの顔が湧き出て笑い出す。

 顔だけの存在──魂の集合体だとケントニスは判断する。

 幾千の顔だけの亡霊が集まり人の姿を形どる。

 本来頭部があるべき場所にはない。頭だけ綺麗に取られた大男と言ったところだ。

 紫色の亡霊が集い。巨大な戦斧となる。

 嘆き。笑い。泣き叫ぶ異形の怪物。

 

「……なんかよくわからんが、まぁいいか」

 

 強そうだしな、とディロンは受け入れる。

 

「名前はどうする?」

 

「あー……何がいいかな」

 

 ディロンは考えるが特にいいモノは思いつかない。

 

「もうレイスとかでいいんじゃないか?」

 

「先も言ったが、名前というのは重要だ……適当につけていいモノではない」

 

「じゃあお前が決めてくれ」

 

 触手を唸らせケントニスは考える。

 ディロンと同じ古の言葉で名付けてもいいが。それだと面白くないと却下し考える。

 数分の思考の後。名付けた名は。

 

「ふむ……"トーベン"というのはどうだ」

 

「ならそれで」

 

 軽くつけられた名だが、亡霊の集合体──トーベンは喜んだのか大人しくなる。

 

「で、俺はどうすればいい?」

 

「まずはこの森の魔物を配下にし……次に、ドワーフ共を殺しに征こう」

 

 

「……そんなことが可能なのか?」

 

「可能だろう……お前ならばな」

 

「ほぉー、そんな能力持ってたのか……」

 

「──まて、ディロン……お前は魔物や魔族についてどの程度知っている?」

 

「……あ? ただの人類の敵だろ」

 

「…………まさかそこまで知らぬとは……」

 

 はぁ、ケントニスが端末に口が無いというのにため息をつく。

 ケントニスはディロンがこの世界に呼び出された時よりその存在を認識している。

 ケントニスが司るは記憶と記録。その権能をもってすればディロンが──不破泰二が地球からこの世界にやってきた時点で把握するなど児戯に等しい。

 だがそれでもケントニスは干渉できることには制限がある。本体で顕現できないように。

 今のうちにお互いの認識の齟齬をなくすべきだ、とケントニスは提案し両者は情報の交換をする。

 

 最初にディロンが『自身が知っている情報』及び自身がしてきたことを説明する。

 異世界に突如呼び出されたこと。勇者だ何だと言ってきてムカついて殺したこと。等々。

 それを聞きケントニスは"こいつ思ったより馬鹿だな? "と呆れるも。口にはしない。

 そしてケントニスはディロンに対して話す。

 

「さて……では、一番重要な我々が何者か.ということについて話そうか」

 

「おう、頼む」

 

 歩きながら──ケントニスは浮遊しながらある場所に向かいだす。

 向かう先についてディロンが訪ねるがケントニスははぐらかし、自身の存在──神について話す。

 

「では我々邪悪なる神々(ゼーベ)が何かということだが──」

 

 ゆっくり、ゆっくりと記憶と記録を司る者は語りだす。

 

「まず我々はこの世界の住人ではない。お前と同じように別世界からの来訪者だ。

 日本人ならばわかりやすいだろう。別の世界からやってきたのだ。

 といっても我らはこの地で生まれた。この地にやってきたのは──人間共が言う神話の時代に我らの父は多数の魔神を率いてこの世界にやってきた」

 

「父とこの世界の神──創造主との力は拮抗していた。だがこの世界の神は唯一神。他に神格が居なかった

 だが父は多数の魔神を率いて攻めてきた。それに対抗するため創世神はその身を削り"数"を用意した

 光と浄化を司るフランメ・ロイヒテン。

 狩りと癒しを司るオルカーン・ハイレン。

 海と支配。命を司るメーア・ヘルシャー。

 他にも多数の神を作り出し、魔神との戦争が起こった。

 そして最大の誤算はこの地に生きる神格無き者。脆弱で取るに足らない者達に過ぎなかった定命の者達との結託。

 それによって父は死に──その死肉から我らが生まれた」

 

「かつてこの世界の創造主が創造主がその力を割いて善なる神々(ハイリヒ)を創り出した様に。

 魔神の王。魔神の創造主である父の肉は裂けられ分けられた。そうして死肉が動き出したのは我等邪悪なる神々(ゼーベ)という訳だ。

 遺骨が元になったのが死を司るアオス・シュテルべン・レーベン。

 その下からは負の感情を司るフルヒト。

 眼球から悪夢を司るアルブ・トラウム。──といった具合にな」

 

「……お前だけ変じゃないか? お前記憶と記録なのに邪神なのか?」

 

 ディロンが問いかけ、話しは終わってないとケントニスが注意する。

 

「私も邪神だよ。父が攻め入った時この世界は楽園だった──楽園とはそれ即ち何もないんだよ

 何もしなくても生きていける。何もしなくては何も生まれない。

 記憶をしなくても生きられる。記録なんてものはしても同じことを無限に書きづづけるだけ──そもそもの発想がない。

 楽園にいるか? そんなものが。

 ディロン。仮にお前が記憶を失い完全な不老不死になって真っ白な部屋に閉じ込められたとしよう。

 その場合記憶するか? 記録をするか? 自分の存在が何もないならば記憶は生まれず。記録という概念もまた生まれることはない」

 

「……まぁ。確かにそう言われるとそんなことはないのか。楽園、楽園か……なるほどね」

 

 へぇ、とディロンは納得する。

 なるほど確かに。楽園とはそれ即ち全人類ニートだ。

 ただしこの場合はインターネットも漫画も──娯楽が一切ない状態。

 なれば記憶をする必要が無く記録は生まれない。

 

「そうして父から零れ落ちたのが我々邪悪なる神々(ゼーベ)だ。

 そこから更に我々が生み出した魔に連なる存在こそが魔物。父が──魔神王が魔神を創り出した様に。魔の具現化である邪神たる我々もまたその眷属を創り出した。

 それが魔物。あるいは魔族。

 つまるところ我々は根本的に世界を汚すために存在している訳だが……」

 

「──なるほど、だから俺も魔物を使役できると」

 

「いや、使役できるというよりもそもそも魔物は我々が作り出した存在だ……魔神王である父は、魔神の上位存在だからな……いわば魔神であるお前は我ら邪悪なる神々(ゼーベ)と同じ存在……創造主に従うのは、当然だろう? 

 魔物は全て我々に、魔神王に従うように創った存在だからな」

 

「……その言い方だと俺がその魔神って奴に聞こえるが?」

 

「そうだ、恐らくお前は終末戦争(ラグナロク)において父が率いた魔神……その死体か生き残りだろう。お前が居たアンファングは終末戦争(ラグナロク)においても我らの重要拠点だったからな

 そこに偶々残っていた魔神の体をお前は運よく取り込んだという訳だ」

 

「……あん? そうなのか?」

 

「そうだとも。魔神は善なる神々と戦っていた。数だけならば万に届きうる程に。

 ならばそのうちの一体や二体封印か何かされていたも可笑しくない。

 正にお前は古代の遺産を取り込んだ、という訳か」

 

「……まぁ。よくわからんがわかった」

 

 ディロンはまぁいいかと、思考を放棄した。

 

「……そのうちきちんと講義してる。さて。そろそろつくぞ」

 

「ん?」

 

 特に目的地を知らされてなかったディロンは、眼を開いた。

 着いた先は集落だ。

 森の中。ドアイラクの破壊とディロンとウディの戦闘で運よく破壊されなかった──というよりは遠すぎて余波すら届かなかった場所。

 周囲の木々を適当に切り倒し、ただ地面に打ち込んだだけの小屋未満。天井すらない家擬きが十数軒。

 

 扉も無い。ただ入り口のように木が撃ち込まれてないだけの家から巨体が出てくる。

 ディロン以上の体。ディロンは200cmを越えている。それでなお見上げる程の巨体だ。

 

「グルルルル……」

 

 獣のようなうめき声を緑色の巨体は鳴らした。

 それに呼応するように他の建物から巨体が数体。それよりも小さい子供のような者が数十体ほど湧き出てくる。

 

 エルフのような耳。突き出た牙に大きな腹。

 衣服等なく。大きな体が隠すべきものなくさらけ出しているが生殖器がない怪物。

 手には木をそのまま使いやすいように削っただけの丸太そのもののこん棒。

 

 邪神が創りし魔物の一種。オーク。

 オークに従うように湧き出たのはゴブリン。同じように緑色の体にこん棒を持つ怪物たち。

 子供……百センチと少ししかない小柄な者達。オークと違い長い耳こそないが花が天狗の様に伸びているのが特徴的だ。

 

 ふと、オークがディロンを見つめ──膝を付く。

 そこからオークが。ゴブリン達が膝をついて行く。

 まるで騎士が王に忠誠を誓う様に──魔物は魔神に従った。

 

「やはりな……お前は魔神だったのだ」

 

(いや、従うには従ったが……)

 

 

 ()()()()()()

 ディロンはそう認識した。

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)との繋がりに似たような──まるで違う違和感。

 あるべき場所にあるべきモノが戻った。そう感じたのだ。

 

 例えるなら普段使っている家具や日用品。

 それがないと生活が成り立たないレベルの代物を。取り戻したようなモノ。

 まぁいいかと、問題はなさそうだとディロンが思えば。ケントニスが崩壊する。

 

「ふむ、ここまでか……贄が一人ではこの程度が限界か」

 

 体がぽろぽろと触手から肉が剥がれ零れ落ちていく。

 剥がれ落ちた肉が地面に落ちる前に空中で塵となって消えていく様に。ディロンは驚愕する。

 

「この体に限界が来ただけだ……直ぐに会えるが──ディロン、お前はドワーフの山脈に行け……だが、全員殺すな、ある程度は──」

 

 そこで、ケントニスの端末は灰となって消えた。

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