殲滅戦争   作:Libro

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第27話

「おーい、飲んでるか!」

 

 私服姿のドワーフの声が酒場に木霊した。

 この場では誰もが酒を飲み、歌い。笑っている。

 地中にあるからかジョッキも椅子も机も全てが石性だ。

 灯りは魔石を燃料にしたルーン性の灯火だけであり松明を使った明かりはない。

 厨房にある調理器具類も。火を使うようなものはなくこちらもルーンによるマジックアイテムだ。

 魔石を燃料に電熱を発生するように作られたマジックアイテムは火が無くとも熱を生み出す。

 それによって提供される料理は鹿肉や狼の肉。山菜の天ぷら等々。

 地中にあるというのに少々メニューが偏っているのを除けば地上と変わらぬメニューの酒場。

 ここにいるのはほぼドワーフだ。

 ほぼといったように何人かはドワーフ以外──エルフや人間が多少混じっている。

 ただドワーフ以外もここ数年ずっと暮らしてきたせいか慣れてしまっているが。

 

「ええい、お前らはいいなぁ! 仕事終わりで飲んだくれれて!」

「わははは! 夜勤になった運の無さを恨め!」

 

 ドワーフの一人が指をさして笑い、どんまいどんまいと笑う。

 

 

 

 

 ドワーフ。

 子供程度しかない背丈に膝まで届く程の髭を持つ種族。

 男女ともにその特徴は変わらず。老化で見た目が変わるエルフと違い外見は死ぬまで変わらない種族。

 寿命は百二十年程と普通の人より長いがエルフよりは短い。

 だが老化で能力が減衰するエルフなどと違い死ぬ寸前まで能力が減衰しないという能力を持つ。

 炉の産声を上げ。金づちと共に死ぬ──そう詠われる種族だ。

 獣人のような夜目が聞いたりするが最大の特徴はなんと言っても鍛冶能力。

 エルフが森を味方にする能力を持つのと同様にドワーフは鍛冶に特化した種族的能力を有する。

 この場合人間が死ぬまで鍛錬してたどり着く鍛冶の極致を数度金づちを振るうだけで会得できる能力。更に最大の特徴はドワーフが創った武器は通常よりも強くなるところだ。

 

 この強くなる、というのは単に物理的な能力ではない。概念的な能力だ。

 "ドワーフが鍛錬した"というだけでその武具は人間の鍛冶師が作り出すどんな武器よりも優れる。

 鉄の刃がアダマンタイトを──物理的な強度では最高度の物質を切り裂き。皮の鎧は鉄の矢を弾く。

 人間の鍛冶師が叶うことないドワーフ最大の武器だ。

 だがドワーフは魔術にすぐれず。戦士にも向かない。

 無論鍛えればある程度戦えるし魔術も魔法も使えるようにはなるが──人間の魔術師にはもちろん。エルフにもかなわない。

 だからこそ鍛冶だけならば何物にも負けない。どんな名工であろうと"ドワーフではない"というだけで鍛冶の力はドワーフに劣る。

 

 そんなドワーフにあたってこの者。ギレスは鍛冶師ではなく兵士になった。

 志した理由はよくあるもの。少年だった時に街中で魔物に襲われ。助けてくれたのが兵士だったという。それだけのことだ。

 

 たったそれだけで、助けたドワーフが誰だがわからずその者も助けたことなど忘れているだろうが……それでも。ギレスには大事な思い出だ。

 

 酒場を抜け。漏れ聞こえる笑い声を背にギレスは歩く。

 出てきた建物も目に映る建物も全てが小さい。

 背丈が子供程度しかないドワーフの建物は人間が使うことを想定していない。

 一部酒場や宿等のドワーフ以外が使うこともある建物は大きいが。

 

 はぁ、と小さなため息を尽きながらギレスは歩く。

 重装鎧を身に纏い。己の身長よりも大きい戦斧を背負った上自身の体の半分もある程のバックパックを肩にかけながらも重さをまるで感じさずに歩く。

 

 真っ直ぐと、街中を進む。

 ルーンが刻まれ発光する街灯は地球の一昔前──近代文明を思わせる。

 家々は全て石できており綺麗な正方形という豆腐のような家だ。

 窓もガラスもあるが何処を見ても木が使われていることはない。

 地下だと木を手に入れる方法が非常に少なく貴重な物だからか。

 

 空をふと見上げる。

 人やエルフが拝む青空はなく。石の天井が見えるだけだ。

 その石を支えるように街中らから数十の石の柱が伸び支えているのが見える。

 

 視線を戻せば他の家や酒場から笑い声が聞こえたり怒声が聞こえるが全て無視し歩を進める。

 城門。と言っても大きな扉があるだけの場所にたどり着く。

 ルーンが刻まれた扉に触れ魔力を込める。

 

 ギィーと門が軋み。地面に吸い込まれる。

 

 鋼鉄の塊そのものと言える扉が地面に潜り。城門の向こう側は土と石が丸見えのろくに整備されていない道だ。

 ある程度ギレスが進めば自動的に門が盛り上がり。閉まる。

 街からの微かな光も届かなくなり完全な闇となったがギレスには関係ない。

 ドワーフは暗視の種族能力を持つため闇の中でも昼間の様に見える。

 街中に明かりがあるのは外観と数少ないドワーフ以外の者の為だ。

 

 長い、長い暗闇の中ギレスは歩く。

 人が五人程なら横並びで歩けるほどの横幅に同じく上にも五人肩車できる程の空間。

 縦横約八メートル程度の広さの長い道だ。

 この道はドワーフが鉱山から採掘するために掘ったモノの一つだ。

 これ以外にもドワーフが掘ったり。戦闘の余波でできたり。魔物が岩を食って掘り進めたモノをドワーフ達は再利用している。

 この山──麓にエルフの森が広がる山脈。アンチカヴァジは標高九千メートルという巨大な山だ。

 南北を別けるように──実際に大陸の端から端まで──ごく一部を除けば繋がっていると断言できる山脈。

 その山をアリの巣のように突き進んだ通路はもはや当のドワーフ達ですら把握できないものだ。

 好き勝手に掘り進む魔物。昔の採掘時に置いた探知阻害のマジックアイテムなどが重なり誰も把握できない迷宮となった。

 その迷宮に幾つか作られた都市や要塞の一つこそが先ほどの酒場があった都市だ。

 この都市間は独立しており特にこれといった王朝等もない。

 かつては首都が存在していたともいうが現在では各都市との交流は絶たれている。

 管理しに人を送っても途中で魔物に食われるか餓死するのが大半だ。

 言うならば都市国家群ともいえるだろう。

 

 無言のままギレスが進むうちに要塞が見えてくる。

 要塞というには歪な形をした建物。巨大な壁そのもの。

 通路を防ぐように建てられた建物は巨大な城門以外すべて石生だ。

 城門だけは他の家々などと違い木製という奇妙な物だ。

 

 その横にある小さな扉をギレスは開ける。

 扉は城門と違い石性。かなりの重量があるが苦にもならず動く。

 ギィ、という扉が軋む音が部屋に響き中に居た者が反応する。

 

「おお! ギレス、来たか!」

 

 カード遊びに乗じていた一人が椅子を蹴って立ち上がり。ギレスの前まで駆け寄る。

 

「なんじゃ、マーベ。酒臭いぞ」

「酒臭いのはお前もじゃろう! ……そうじゃなく、金! 金を貸してくれんか!」

 

 両手をすり合わせ、ギレスと同じような格好をしたドワーフが懇願する。

 

「また賭け事でスッたのか! 程々にしとけと言ったろう!」

 

 ふん、と鼻息を鳴らし無視をする。

 

「ワハハハハ! 諦めい!」

 

 カードで賭け事をしていたもう一人のドワーフが笑い。机の上に置かれたマーベの財布を引っ手繰る。

 賭け事はポーカ──ートランプを使ったゲームだ。

 異世界からの来訪者が広めた遊びはこのドワーフの国にまで届いている。

 

「全く、賭け事も程々に──」

 

 賭け事が悪いとは言わないが、限度があるだろうとギレスが諫めようとした時。地面が揺れる。

 底から揺れるのではない。外から──横から力を加えられ揺れる。

 

「なんじゃ?」

「魔物が暴れたか?」

 

 先ほどまで言い争っていた二人が立ち上がり警戒する。

 普段は喧嘩などばかりしているが流石に緊急事態となればそれもやめる。

 

「……外からじゃ、確認するぞ」

 

 要塞を進み上の階へと進んでいく。

 階段を上った先は幾つかの小窓と大きなバリスタが二丁。

 ドワーフの身長を上回り。人間の成人男性をも超えるサイズのバリスタだ。

 横には矢という名の砲弾そのものが置かれている。

 鋼鉄の塊そのもの。ドワーフは矢と呼称するだけの地球の戦車が使う砲弾だ。

 形状は地球の砲弾そのもの。だがルーンが刻まれているのが違う点だろう。

 ルーンの効果により普通の砲弾よりも早く飛び。威力も増す代物だ。一発打つごとに家が一軒建つ金が消える成金砲弾ともいえるが。

 

「なんじゃありゃ」

 

 小窓から顔を出し。要塞の向こう側を除いていたマーベが呟く。

 ワシにも見せろ、とギレスが横から顔を出し除く。

 

 そこには異形がいた。

 

 

 巨大な通路を埋めるような人型の巨体。

 地面に擦り──されど音が鳴らず。地面に傷一つ付けない戦斧。

 幾千もの顔だけが集まり人型の異形を形どる化け物

 紫色の顔は嘆きと怒りの表情を浮かべ。嗚咽を漏らす。

 

 魔神の眷属として作られし≪不可解な者≫(アンノウンズ)の最上位存在。

 記憶と記録を司る邪神に名を与えられしもの。

 

「ヒャハハハハハア!!!」

 

 トーベン。

 嘆きの魂の集合体が。ドワーフ達を同胞(死者)にすべくやってきた。

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