殲滅戦争   作:Libro

30 / 87
第30話

 時は少し遡る。

不破泰二が名をディロンと改めた後。ディロンは戦力を確認するために上空へと飛び立っていた。

 

「……こんなものか?」

 

 空から綺麗に平らにしたラ・ヌゾの森の一部を見下ろす。。

 その眼下には多数の魔物。

 サイクロップスにオークに人狼。ゴブリンという森に居た魔物を適当に集めただけの軍勢。

 この魔物達はディロンを視認すると同時に跪いて忠誠を誓った者達だ。

 滑空し、彼らの前にディロンが降り立つと騎士が王に忠誠を誓う様に魔物達が膝を付く。

 ディロンの真横の地面が膨れ上がりそこから魔族が一体現れる。

 

 現れたのは植物の塊だ。

 蔓が集まり人の形をとっている。

 と言っても擬人化しているわけではない。ただ植物が不器用な藁人形のごとく形を整えているだけだ。

 蔓でできた中にはこれまで殺してきたのであろう動物の眼球が浮いている。

 植物人間(ラオプ)。という魔族の一種である彼は同じように跪ついた。

 

「魔神様……どうか我らに命令を」

 

(どーしよう)

 

 それを見て魔神は。困惑する。

 これまで作ってきた≪不可解な者≫(アンノウンズ)に知性はなくただの手駒に過ぎなかった。

 だからこうして喋り問いかけられればどう返答すればいいか困る。

 ディロン──不破泰二は元は日本の学生だ。

 帰宅部で先輩後輩の関係はなく。アルバイトなどをしたことはあれど部下等を持ったことはない。

 どういう返答が正しいのかわからず。とりあえずゲームの悪役っぽく返答する。

 

「……今集まった駒は幾つだ?」

「はい、オークが四十にゴブリンが三十、ワームと人狼が十、サイクロップスが三十ございます」

「そうか」

 

 合計百ちょいという微妙な数だが充分だと判断する。

 人狼やサイクロップスは下手な≪不可解な者≫(アンノウンズ)百体を上回る能力を持つ。

 ここが地球ならともかく。物理法則等が碌に仕事をしない異世界ならば万の雑兵よりも十の精鋭が勝るのだから。

 しかしそれを加味したうえでもこの数は非常に少ない。

 この森全土からかき集めてこの数だ。先に適当に送った者を考えても二百行くか行かないかという数。

 これはエルフに管理されていたからこそともいえる。

 不浄の地からは無限に魔物が湧き出しその魔物によって更に汚され魔物が湧き出る……そのような負の連鎖が起こるがこの森ではエルフ達が魔物を見つけ次第殲滅し続けた為。この程度の数になってしまっている。

 この森の広大さから考えて数千から数万は居ても可笑しくは無かったが……エルフとウディの力が凄まじかった。

 

「先に送った奴らはどうなった?」

 

 先に送った……トーベンを首魁とし送り込んだ魔物達。

 魔物を回収していたディロンが山の方まで飛び。発見した洞窟に放り込んだのだ。

 

「も、申し訳ありません……指示された通り魔物達を送ったのですが……洞窟に入るまでは知覚できたのですが、それ以降わかりません」

 

 このラオプという魔族はエルフに似た知覚能力を有する。

 エルフが森に潜む魔物を探知できるように。ラオプもまた探知できるのだ。

 エルフが『森』という環境なら難なく探知できるがラオプは植物に自身の魔力を注ぐ必要があるなどと制約は多いが。

 

「まぁいい、適当に放り込んだだけだしな……感覚的にトーベンは生きてるから、問題なかろう」

 

 だがそれだけだ。

 配下とはある程度繋がりを元に生きてるかどこら辺にいるかしかわからない。

 

(こういう時電話とかあればな)

 

 そう思うがそもそも会話できる知性無かったなと、肩を落とした。

 

 

 

 ■

 

そして時は戻る。

トーベン達一行が第一のドワーフの都市を破壊した後。

 

「──こちらです、衛兵長」

「うむ」

 

 無人の街を欠けるドワーフが二人。

 最も外の世界に近い街。かつてはエルフや人間がやってきていた街は誰一人いないがらんどうの街となった。

 無惨にも家が壊され。街を支える柱が数本壊された街並を見れば悔しさと切なさを感じさせる。

 

「これは……」

 

 なんだこれは? 

 

 街が破壊された。ただそれだけだ。

 魔物とて視覚はあるし聴覚はある。

 ならばドワーフを見つけるのはそう難しくなく。更には魔物の中には嗅覚にすぐれた人狼もいたという。

 なのに何故、魔物はドワーフを襲わず街を破壊した? 

 

 魔物は本質的に人を襲う。だからこそ襲われないということはわからない。

 だが、衛兵長にはたった一つだけ心当たりがある。

 

(魔王、か?)

 

 魔王。

 魔族の中で最も力強く。賢く。畏怖される者。

 邪神が放つ眷属である魔族の将軍格の存在だ。

 それは単騎で国家と戦争ができる……つまりA級相当の化物と伝えられる存在だ。

 そして魔王は。魔物を使役する能力を持つ。

 他の魔族も魔物を使役できるが魔王の場合はそこから発展する。

 邪神がより多くの力を注ぎ作り上げらる存在である魔王は魔物を手足のごとく操る。

 ディロンのようにただ指示を下すだけでなく。コンマ一秒のラグなく何処に居ようが指示をだせ。魔物が現在何をしているのか把握できるという指揮するものならば喉から手が出るほどの欲してやまない能力だ。

 それならば説明が付く。

 魔王の戦略の一環として街を破壊したというのならば、ギリギリ。

 だがやはり、他の衛兵から話を聞くと疑問が勝る。

 

 なんなのか、答えが出ないと頭を悩ませれば。地震が起こる。

 ほんの少し。人なら気づきもしないような小さな揺れだ。

 

「…………な、んだ」

 

 恐怖。

 焦燥。恐怖。圧力。

 言いようのない感情に。この場のドワーフ全員が陥る。

 そしてみる、見てしまう。

 

 今まさに。壊れた城門を潜り抜ける異形の軍を。

 声が出ない。否出してはいけない。

 

 現れたのはやはり魔物の軍だ。

 オーク。ゴブリン。人狼にワームという。ドワーフが見たというのと同じ者達。

 ただ先と違うのはオークたちが神輿を担いでいるところだ。

 担がれた神輿には。男が一人。

 黒い体に。黒い髪。

 眼球は生物的機能はないのか。ドワーフ達はエルフや旅人の話からしか聞いたことのない星空が浮かんでいる。

 オークよりは小さいが。それでも二メートルを超える巨体。

『自分こそが王だ』と主張するように肘をついている。

 なによりも恐ろしいのは。その身から放つ魔力。

 人間は勿論。魔族ですら放てない魔力を放っている。

 膨大な魔力はそれだけで威圧となり。地面を揺らし世界を汚す。

 近づこうものなら心弱きものなら発狂死。体弱い者はそれだけで絶命するだろう。

 

 オークに担がれた男──ディロンは城門を潜り。そのままトーベン達が向かった先へ優雅に向かった。

 

 

 それを見ていたドワーフが、ぷはぁっ、と息を吐く。

 

「……なんだ、あの化け物」

「わ、わからん……あれこそが話に聞く魔王……いや、邪神じゃないのか?」

「邪神では無かろう……あえて言うなら魔神とかじゃないのか?」

 

 ドワーフ達は顔を見合わせ──これからどうするか、頭を悩ませた。

 

 

 

 

 ■

 

「"止まれ"」

 

 魔法として放った言葉が今だ遠くにいるトーベンに届き。行動を止まらせる。

 生き残ったワーム数体と先兵として送った人狼も止まりワームが壊した坑道から崩れ落ちる瓦礫も止まる。

 そうして止まったまま数分後。彼らを止めた主がやってくる。

 

「あー……"動いていいぞ"」

 

 再度魔法を放たれ行動を再開する。

 

「あ、一回止まっとけ」

 

 今度は魔法ではなく単純な命令として言い放つ。

 

「……で、これからどうする?」

 

 現状のディロンたちの目的は魔族との合流だ。

 ケントニス・ヴィッセンが最後に言い放った言葉通り。ドワーフ達が住まう山脈にやってきた。

 が、ここからどうすればいいかわからない。

 

(確か……魔族に会いに行けとか言ってたよな)

 

「おい」

「はっ」

 

 森から連れてきたラオプに聞くことにする。

 

「ここに魔族が居ると聞いたんだが……何処に居る?」

「……も、申し訳ありません、魔族たちはこの山脈の向こう側にいると──」

「……は?」

 

 聞けば。

 魔族側の本拠地はこの山脈の向こう側。何もない荒野にあるという。

 その荒野から人間の領域に攻め入る為にこの山を絶賛攻略している最中とのこと。

 

「ミスったじゃねぇか」

 

 はぁ、とディロンはため息をつく。

(わざわざこの山攻略する必要なかったじゃねぇかボケがよ)

 

「面倒だが、一回こいつらを戻してこの山を登らせるか」

「それは無理です、魔神様」

 

 即座に、魔族から否定される。

 

「……なんでだ?」

「この山には精霊が住まうからです」

 

「……あん? 精霊?」

「はい──」

 

「あーまて、精霊って存在から説明頼む」

 

 

 かしこまりました、と魔族が一礼する。

 

「精霊というのは善なる神々(ハイリヒ)が作り出した眷属です 我らの神である邪悪なる神々(ゼーベ)

 の眷属が我ら魔族、善なる神々(ハイリヒ)の眷属が精霊と認識してもらえれば……」

 

「なるほど、で何で無理なんだ」

 

「はい、精霊は善なる神々(ハイリヒ)からの命令を忠実に守りこの山を極寒の地に変えています。

 その吹雪は虫も生存できず。並大抵の者なら足を踏み入れるだけで体が凍り付き死ぬほどです。

 魔神様なら大丈夫でしょうが……他の者達はそうは行きません」

 

 

 ──それこそが、魔族がエルフの森までたどり着けない理由だ。

 この山脈には精霊が住まう。

 精霊とはそれ即ち世界の調停者、造物主が生み出した管理者。

 故にその力は他の存在とは一線を画す。

 下手な魔物や魔族は勿論、魔王ですらこの山を越えることはできない。

 ……いや、正確には可能。

 上位種の魔族や魔物ならばこの山を乗り越えることそのものは可能。

 だがそれは実力と運に大きく左右される。

 まず精霊に発見されるかどうか。この山にいるのは精霊一体のみ。流石にこの規模の山全てを把握している訳ではない──と言ってもこの山全土を凍土に蓋うのは可能だが。

 次に雪崩やクレバスなどによる事故死。

 自然の摂理など知ったことかと二十四時間三百六十五日降り注ぐ豪雪は地形を歪める。

 下手に歩けばクレバスに落ちて死に。雪崩に巻き込まれて死ぬ。

 更には豪雪そのものが厄介だ。精霊という神の眷属が起こす豪雪は触れるだけで魔に属する存在に傷を与える。

 故に雪に触れても死ななく。かつ運がよくないと登山は不可能だ。

 と言っても上位の魔物や魔族はこの程度のことでは死なず。死ぬとしたら精霊に接触するぐらいのものだ。

 精霊は最低でもBランク……つまり単機で国一つ滅ぼしうる存在だ。

 その精霊の中でもこの大陸を別ける山脈全てを凍土に変え豪雪を絶やさぬ存在となればAランクかそれ以上となる。

 それに接触せず。精霊の力に耐え山を越えるものとなるが……実は何度か送られている。

 

 上位の存在とは言うが魔王側にはこの山を越える存在を()()()()()からだ。

 それこそが今代の魔王の力でもあるが──それはさておき。

 ならなぜ魔王が進軍できていないのかというと、ラ・ヌゾのエルフ達だ。

 流石に雪に耐えれると言っても何日も神の力にさらされ続ければ弱体化する。

 結果エルフ達に倒され……より強い者はウディによって倒されてきた。

 その結果、魔王側は『山の中を進軍する』という選択肢を取ったのだ。

 ただ、それ以外にもう一つ理由があるが……

 

「……なるほどね」

 

 その一連の話を聞き終わったディロンが、はぁとため息をつく。

 

(どうする……俺一人ならいいが……)

 

 チラリ、と連れてきた魔物とトーベンを見る。

 

(こいつらは無理だな)

 

 魔神の予想は正しい。

 事実この山脈を越えられるのはディロン唯一人だろう。

 他の魔物は雪にやられ。トーベンも魔法的な攻撃にはめっぽう弱いため死ぬ。

 例外はドアイラクぐらいのものだが……あれは全てを破壊して突き進むぐらいしかない。

 そうなれば合流すべき魔族たちが消し飛ぶだろう。

 

 ならば、取れる手段は? 

 

「……地道に進むしかない、か」

 

 ディロンは大きくため息を尽き、進軍を始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。