殲滅戦争 作:Libro
ドワーフが住まいし山脈。
人の領域からかけ離れた奥深く。
ぽつぽつと暗闇の中でも魔力に反応し光る
そのようなほの暗い闇の奥。不自然な人工物があった。
例えるならば壁。洞窟を封鎖するように作られた壁は大きな鉄製の扉。
そして門を守るかのように異形の者が二人──あるいは二体。
そのような見張りがいるのならばあるべき休憩所もなく。ただただ扉があるだけの場所。
「……暇だなぁ」
「だな」
はぁ、と異形──豚顔の者達がため息をつく。
豚がそのまま立ち上がった異様な姿。
ピンク色の皮膚に緑色の眼球。
足こそ蹄があるが腕は人間の物と遜色なく。指が五本ある。
その手には槍が掲げられているが新品同様。傷一つない物だ
成人男性より二回り程大きく。腹が中年男性の様に突き出た者。
重装兵鎧を腹を抑えて纏っているが槍と同じく使われた形跡が一切ない。新品の物。
オークが後天的に魔族化した者である彼らの片方。デンは何度目かわからぬため息をつく。
「……暇だ」
「そう繰り返すな、こっちも暇になる」
元から暇だろう、という言葉を飲み込みデンはため息をつく。
彼が魔族となり魔王軍に参入してはや三ヵ月。
やることはこの暗い暗い洞窟の奥での見張り兵である。
魔王軍、という言葉の響きに憧れて所属したのは間違いだったかとデンは嘆く。
──魔王軍。
名の通り『魔王』をトップとした軍である。
何時現れたのか。デンにはわからない。
少なくとも自力で魔族化したデンが生まれるより何年も前に魔王が現れた。
魔王はこれまでバラバラに動いていた魔族をまとめ上げ魔物の統率を取り始めた。
人が生み出した『軍』という組織形態を参考に魔族たちは魔王を旗印に立ち上がった。
『今こそ我ら魔族の悲願を果たす時。人類を滅ぼすのだ』と。
が、そこで止まった。
『人間を皆殺しにする』という夢はこの山脈にて止まってしまったのだ。
この山脈の東側。人類未踏の領域は魔族の領域だ。
ぽつぽつと隠れるように人の集落はあるが。国家と呼べる程纏まってはいない。
更にはこの領域は荒野。神の奇跡が無ければ草一本生えない死の大地。そのような場所では人はまともに生きていけない。幾つか村……十数人程度の集落が数個あるだけ。
だからこそここを抜け山を越え。より多くの人間を滅ぼさんと人の国へ乗り出し攻め滅ぼそうとした。
しかし、ドワーフによって阻止された。
この山は元からドワーフが住まう。
一体いつから居たのかまではわからないが少なくともデンが知る限りではドワーフはこの山を完全に掌握している。ならば何千年も前からいるのだろうと空想する。
「……魔獣でも作って、消したらいかんのかな」
「できねぇからこうなってんだろうよ」
魔獣。
魔に属する存在の中でも取り分けて強力な存在。膨大な魔力をその身に受けることで変異する獣。
魔獣の最低ランクはB……下手な国なら滅ぼせる力を持つ。
しかしながら欠点は幾つかある。
まず一つ。魔獣は邪神にも作ることはできない。
いや正確にはできるが千体作ろうとして一体だけでも作れればいいだろう。
それだけ任意に作るのは非常に難しい存在だ。
魔『獣』とは即ち獣が魔によって変異した存在を指す。膨大な魔力をその身に取り込み制御できなくなったのが魔獣。
その一撃は山をも砕くほどに強靭。その足は千里の距離を一歩で踏破する。
しかしながら欠点がある。
まず第一に力を制御できないということ。
もし魔獣が戦おうものなら戦術もクソもない。自分の体が崩壊するほどの一撃を馬鹿みたいに放つ。
その分威力も強力ではあるが相手を倒すより自身が崩壊するのが早いだろう。
第二に、寿命が短い。
魔とは本来害になる。
人間や動植物は神の加護で魔に適応しているが魔獣はその力が及ばない程に魔を取り込む。
結果肉体の寿命を縮める。魔獣後の命は精々持って三日かそこらだろう。
長く、長く見積もっても半月もあるかどうか……どうやって使えと言うのか。
「……山を越えて、海を通ればいいんじゃないか?」
ハッと、何かに気づいたかのようにデンが呟く。
はは、と相棒の魔族が返答をする。
「それ、前に聞いたことあるよ」
「結果は?」
すぅ、と息をのみ、答える。
「不可能、だってさ」
海。
海とは即ち海神メーア・ヘルシャーの領域だ。
『海を司る』海神は、その知覚能力もすさまじい。
例に挙げるのならばエルフだが、彼らと同じように海神もまた海の魔の存在を知覚できる。
下手に海を渡ろうものならかの神か。もしくは神の眷属に即座に発覚し善なる神の眷属にに倒されるだろう。
もしくは神の眷属でも魔物でもない一般的な
山を登ろうとすれば精霊に砕かれ。
海を渡ろうとすれば怪物か神に殺され。
山を掘り進めばドワーフに倒され迷宮に惑う。
「……ままならんな」
「だな」
このまま暇な見張りをするだけかと再びため息をついた時。何か音が聞こえる。
コツ、コツと何かが踏まれるような音だ。
「何か……聞こえないか?」
「あん?」
二人して黙り。その『何か』の音を聞こうと意識を集中する。
コツ、コツと音は段々と大きくなり狭い通路だからか音が反響し始める。
「──ようやく、見つけたぞ」
暗闇の中見たことの無い男が現れる。
如何に魔灯鉱という光源があっても。本当に多少光る程度では視界は通常確保できない。
この魔族も暗視の力を持つが彼らは下位……下から数えた方が早い程度には弱い。彼らでは昼の様に見渡せる程の力は持っていない。
だがそれでもある程度は暗闇の中でも視界は確保できる。
でなければ灯りも持たず監視等できないからだ。
無論灯りを持たないのはドワーフ等の定命の者達にバレないように。というする意味のない配慮だが──
「魔族、お前たちの長に合わせろ」
黒い体に、暗闇よりも暗い髪。
人間の体からぽつぽつと鱗の生えた異形の姿。
魔族たちにとっても見慣れぬ星空を浮かばせる瞳を持つディロンはついに魔族と合流した。