殲滅戦争   作:Libro

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第33話

(──長かった、実に長かった)

 

 あれから約一年。ディロンは長い長い時間をかけて山を突き進んだ。

 下手に地面を壊す訳にもいかず。数に任せたローラー作戦と異形の体による超スピード探索をもってしてのごり押し探索である。

 食事や休息などが要らないという人外としての能力フル活用で一年もかかるのは流石は大陸を分断する山脈と言ったところか。

 

「……何者だ?」

 

 魔族──デンは警戒し槍を構える。

 

 デンが立つ位置はドワーフの都市がある方面──つまり魔族が来る方角ではない。

 仮に魔族等が来るのならばデンの背後から来るはずである。

 ならば、この男は何なのか? 

 

 第一に、人間ではない。容姿が人から離れすぎている。

 であれば亜人。鱗が生えているとなれば蜥蜴人や蛇人等の爬虫類ベースの者たちが該当する。しかし彼らとて鱗がぽつぽつと生えている訳ではない。

蜥蜴人等はそのまま蜥蜴を人型にしたーーつまり人間の顔や眼を持っていないはず。

 では、いったい何なのか? 

 

「……おい、聞いているのか?」

 

 ディロンは長に会わせろというのが聞こえていなかったのか、と少し見当違いなことを考える。

 

それに対しデンもまた反応に困り相手についてまずは聞いてみる。

 

「あー、あ……お前はなんだ?」

 

「…………魔族だが」

 

 魔族は混乱する。

 魔族たちは幾つか特殊能力を持つ。

 例えば自己再生──一定以下の損傷ならば再生できる力。

 例えば暗視という暗闇でも見渡せる力。

 無論、こういった特殊能力はある程度あるが実際に戦闘に関われる力というと少なかったりする。

 自己再生とえど魔力を大量に消費する為戦闘中には使えないし。暗視とてドワーフやエルフも持っている。

 そのような特殊な力を幾つも持つ魔族は、『同胞がわかる』という力を持つ。

 視認しなければ発動しないが魔族は相手が同じ魔族なのかどうかがわかるのだ。

 流石に後天的に魔族になったのかどうかまではわからないが。少なくとも魔物と魔族の違いぐらいなら判断できる。

 しかしながら目の前の男。ディロンが何なのかデンにはわからなかった。

人間の匂いはせず。かといって魔族と分かる訳でも無い。

 

そして何よりも。目の前の男に『跪きたくなる』

 まるでそうするのが正しいように。忠誠を誓いたくなる。

 

「……少し待って──ください、上司を呼んできますので」

「……わかった」

 

 ちらりとデンは横目に同僚の同じタイプの魔族を見る。

 重く頷き、同僚は壁の向こう側に走っていった。

 

 

 数分後。

 ぎぎぃ、と軋む音をたてながら鉄の扉が開く。

 先ほどの豚顔の魔族と共に、一人やってくる。

 

「──へぇ、ほんとうにきた」

 

 現れたのは妖艶な美女。金髪碧眼に瞳孔が開いている。

 薄着というよりは下着しかつけていないという強気な姿。

 頭部からは山羊の角。背中からは蝙蝠の翼。尻からは尻尾が生え、先端はハートマーク状という厭らしい姿。

 俗にいう『サキュバス』に近い姿の魔族。

 別にこの者がサキュバスという訳ではない。この世界の『サキュバス』はこのような姿をしていない。

 

「お前が上司か? 俺は──」

「ディロン、でしょう」

 

 ディロンが名乗る前に女魔族は答えた。

 少し、驚愕に目を開くがすぐにおさめ一つの可能性に思い至る。

 

「ケントニス・ヴィッセン、か?」

 

「できれば様をつけてほしいですね」

 

 ケントニス・ヴィッセン。

 ラ・ヌゾにてディロンに道先を示した邪神。

 そして魔族とは邪神の眷属。

 なるほどな、ディロンは納得する。

 魔族の創造主なのだから連絡ぐらい出来るのだろう。

 

「ではこちらへ、ディロン様」

 

 手招きされ、ディロンは扉の向こうへ進む。

 軋む音をたてながら、鉄の扉が閉じた。

 

 

「……この光っている石はなんだ?」

「これは魔灯鉱と言いまして、魔力に反応して光る鉱石です」

 

 ディロンと女魔族、二人が歩く中何となくディロンは会話をする。

 

「……お前を造ったのは、ケントニスなのか?」

「いえ、ケントニス・ヴィッセン様ではありません」

「あん? じゃあ誰だ?」

「え~と……私は自然に生まれたので、創造主がいる。という訳ではないんです」

「何? そうなのか」

 

 この世界の魔族は幾つか種類がある。

 魔物が後天的に知性を得て魔族になった者。

 最初から魔族として創造されたもの。

 

 前者はゴブリンやオーク、トロールやラオプ等の自力で知恵。あるいは知識を得た者。

 最初から魔族として創造されたのはアンデッド等の元から知性を持つーー人間などを素体に作られた魔族。あるいは邪神が力を注ぎ作り上げた特注品。

 

 では、どうやって魔物や魔族が生まれるのか? 

 

 基本的に魔物の生まれ方は二通りになる。

 一つは邪神が直接創る方法。魔物の殆どは邪神が直接作っている。

 もう一つは、半場自然に──というよりは直接創られた魔物の影響によって生まれる方法だ。

 

 この世界には邪神たちが力を送り込んでいる。

 死を司る邪神ならば『死』を。負を司る邪神ならば『恐怖』といった具合に。

 無論それ以外にも送り込んでいるがそれはさておき。

 

 兎も角こうやって送り込まれた力が形を得たのが『魔物』という存在だ。

 そしてこういった魔物が生まれやすい環境というのは限られる。

 それは人の影響の少ない場所──正確には善なる神を信ずる神官が居ない場所だ。

 街や村。人が住まう場所には神官がおり神官の奇跡によって魔物の発生を防ぐ。

 だから魔物は人気の無い森や荒野。廃墟に生まれる。

 

 そしてその直接送り込まれたのが邪神に創造された魔物であり。この女魔族は直接造られた訳ではない。

 例えるならば波紋、だろうか。

 

 この世界を湖として例えるなら直接送り込まれた魔物が『石』でありその影響で勝手に生まれたのが魔物という『波紋』なのだ。

 そして魔物という石は複数同時的に投げ込まれる。

 死の邪神だったり負の邪神だったり記憶の邪神だったりと。

 石が無造作に投げられ続け。波紋同士が勝手に重なったモノがこの女魔族だ。

 だからある意味ではこの女魔族の創造主は複数いる、ともいえるだろう。

 ただ直接投げつけられた物と違い所詮は勝手にできる波紋だ。その力は弱い。

 

 

「──と、言うわけです」

「なるほど」

 

 その一連の説明を受けたディロンは納得したと顎をさする。

 ある程度ケントニス・ヴィッセンの端末から情報を得たがやはり無知な部分が多い。こうして解説してくれるのは助かると感謝を伝える。

 

「感謝する」

「ありがたき幸せ」

 

 そうして話しているうちに、広い場所に出る。

 着いたのは石性の家々が並ぶ場所だ。

 只々広い場所は無計画に広げたのだろう。上下左右雑に広げられている。

 整備されたドワーフの街と違い無理矢理に。そして適当に造られた場所という感じがする場所だ。

 

 住居には窓枠こそあるがガラスもなく。扉すらない。

 一応先ほどみた魔灯鉱が街灯代わりに設置されているがそれでも薄暗い。

 暗闇を見通せる力を持つディロンは問題ないが夜目が効く程度の下位の魔族では暗さを感じるだろう場所。

 

「ここが、お前たちの拠点か?」

「はい、ここには下位の魔族が居ます」

 

 見れば門番と同じ豚型の魔族。女魔族と同じように翼や角が生えただけの物。二足歩行するカエル等多種多様な者達がいる。

 

「……そういえば気になったんだが、飲食や排泄はどうしているんだ?」

「私たちに食事は必要ありません、ですので排泄等はそもそも行いません」

「それは便利だな」

 

 そうして歩いて行くうちに大きな建物にたどり着く。

 入り口は洞窟にあったのと同じ鉄製の扉だ。

 特に装飾もないがディロンが見上げれるほどに大きい。

 サイクロップスでも難なく通れそうな程に巨大だ。

 あるいはそういった巨大な魔族が通るために大きいのかもしれないが。

 

 

 扉が軋むことなく扉が開く。

 油を指しているのだろう。スムーズに開く。

 

「こちらです」

 

 女魔族に先導され、ディロンは歩く。

 何もない場所。装飾品一つない。

 カーペットもないただの石の廊下を歩く。

 外装とてただの石だった。

 

(……トップが居る場所がこういうのでいいのか?)

 

 見栄ぐらいあるだろうにとディロンは不安を覚える。

 何も本人の趣味などではなく。装飾品というのは来客や部下などに対する威圧にもなる。

『自分はこういった物を用意できる力がある』といういわば一種の示威行為に近い。

 

(と、いうか)

 

 ちらり、と自身より背の低い女魔族を見る。

 最初は少し威圧的だったが途中からまるで従者の様に対応を変えてきた。

 ただこちらを疑っていただけなのかと思ったがどう見ても『そうすることが正しい』という風に動いている。これも魔神の体の影響かとディロンは思考する。

 

「──こちらに、魔王様がおられます」

「そうか」

 

 連れてこられたのは大きな扉の前だ。

 流石にサイクロップス等が入れるほどに大きくはないがそれでもディロン──2メートルを超える男が優に通れるだけのサイズだ。

 ディロンが少し耳を澄ませば中の声が聞こえる。

 一人ではなく複数。何かを話し合っている声が聞こえる。

 

 ギィ、と音を鳴らしながら女魔族が扉を開ける。

 

「魔王様、ディロン様がお付きになられました」

「……そうか」

 

 中に入る。

 広い。

 扉に合わせ。非常に広く作られている。

 大きな円卓。

 数十人は座れるだろう円卓だが。いるのはたった三人。

 

 一人は赤い肌の者。

 軽装鎧を纏い。最低限身を包む程度の鎧を纏っている。

 頭部からは山羊のような角が二本生え。口からは牙が突き出ている。

 

 もう一人は馬の顔をした者。

 頭部だけが馬。体は人間の物という異形だ。

 何故かスーツも着ているが何処かしっくりくる。

 

「では、私はこれで」

 

 そういって女魔族が下がり、部屋から出る。

 

「……さて」

 

 奥に目を向ける。

 一人、明らかに他とは違う椅子に座る者がいる。

 

 まず、顔が無い。

 そもそも生物的な存在ではない。

 緑色の渦。それが幾層も重なっている。

 ぐるぐると回転し。渦が人型となっている。

 

 異形が代名詞の魔族でもことさら異形。

 人型の渦から翼上の渦が背中にあり頭部にも二本の少しだけ突き出た形に渦が角を形どっている。

 

「初めまして、『ディロン』終焉の名を冠する者、私が『魔王』だ」

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