殲滅戦争   作:Libro

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第35話

「……そもそも聞きたいんだが、ドワーフ共を滅ぼす必要はあるのか?」

 

 先ほどと同じ会議室。

 ただし、魔王が座っていた玉座にはディロンが座り。その隣にはケントニス・ヴィッセンの端末である肉人形が浮遊している。

 変わりにそれこそが当然であるかのように魔王がディロンが座っていたごく普通の椅子に座っている。

 

「ふむ、結論から言うのならば『必要は無い』」

「──ですが、『わざわざ滅ぼすメリット』があるのです」

 

 ケントニスの声を遮り、魔王が話し出す。

 

 

 ドワーフ達が有する古代の遺物(アーティファクト)

 その名は『ユーカリの地図』

 かつて冒険王が所持していた古代の遺物(アーティファクト)の一つであり、今はドワーフの王が所有しているという古代の遺物(アーティファクト)

 効果は地図の名の通り地図としての機能を持つ。

 ただし、その機能はいくつもある。

 マッピングした場所の情報の常時更新──何かしら地形が変わったりすれば即座に反映される。

 存在感知──一度マッピングした場所にいる人間も亜人も魔物であってもその位置がわかる。

 

 つまり、こちらの動きは筒抜けなのだ。

 流石に個人まで判断することはできず魔物か人か亜人か判別できる程度だが。

 しかし魔族が軍を動かせば即座に対応できる程には正確。

 

 そう、山を越えれないもう一つの原因。

 軍を動かせば、踏破前にドワーフ達の奇襲にあって殲滅される。

 

 ユーカリの地図は探知阻害のマジックアイテム等も無効化し常時更新される。

 如何に対策を施そうと。意味がない。

 

 そしてその機能は、引き続けられる。

 

 冒険王が所持していたというユーカリの地図。

 何時、何処のタイミングで所持したのかは不明だが冒険王はこの大陸を踏破した唯一の存在。

 最悪の場合このユーカリの地図は()()()()()()の情報が込められている可能性が高い。

 人間が何処にいるのか。隠れ家が。地形が──全てが収められている。

 敵に居ればなんと厄介で、そして手に入れればどれほど素晴らしいか。

 

 敵に見つけられずに進軍し。奇襲をかけることも、奇襲されやすい地形においても敵の接近が先にわかる。

 情報通信というモノがほぼないこの世界においてこの地図の有能性は計り知れない。

 

 それがあるからこそ魔王はこれに対処しざる負えない。

 無視して進軍するにもできず。魔王一人で山を越えたところで配下が無い魔王は弱すぎて話にならず。運よく人の領域で軍を構成でもしようものならユーカリの地図でバレる。

 

 もしもこの地図を、魔王が手にすれば──人間の勝ち目は、限りなく薄くなる。

 

 ただの人間と魔物の能力は余りにも違う。

 単純な戦闘能力に限らず魔物は食事や睡眠が不要という生物ではないが故の強さを持つ。

 不眠不休で動く疲れ知らずの兵隊が。こちらの動きをすべて把握し戦略を持って襲ってくる。

 なんと恐ろしいことか。

 

「……なるほどな」

 

 その説明を受けたディロンは、仰々しく頷く。

 しかしながらディロンにその手の知識や有能性は理解できない為『なんかヤバいんだな』程度の認識だが。

 元が現代日本の、戦争系のSLG等もやったことがない以上仕方がないことでもあるが。

 

「で、それを手にするためにはどうすればいい?」

「なに、簡単なことだ──何も考えず、ドワーフ達の王都を攻め落としに行こう」

 

 にぃ、と口を歪めて笑い。

 

「それはいい、早速攻め落とそう」

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 さて、魔王は何故ドワーフの王都を攻め落とせなかったのか。

 理由は単純『戦力不足』である。

 どんな作戦も戦略もユーカリの地図がある以上無意味と化す。

 ならばどんな無能でもできる正面突破しかない。

 あらゆる奇襲を受け続けながらなんとか耐えての正面突破──なんと悲しいことか。

 

 そして、魔王の戦闘能力は非常に低い。

 単純なランクならばC程度……大きく見積もってもBないかどうかである。

 無論Cランクでも下手な街等なら亡ぼせるし。小国なら深刻な被害を与えられる。

 が、それだけだ。

 

 人間の中でもCランクは強者に分類されるがそれ以上の者達がいる。

 Bランクの冒険者たちだ。

 Bランクの冒険者は平均化すれば一国に三つもパーティが存在する。

 そしてランクというのは『単体での戦闘能力』で決められる。

 一パーティ最低四人とすれば、一国に十二人も魔王よりも強い人間がいるのだ。

 しかもこれはあくまでも最低四人と考えた場合でもある。

 人類全体等で考えれば多くて百人ぐらいは魔王をフルボッコにできるモノがいる計算になる。

 なんと弱いことか。

 

 しかし、魔王には特別な能力が幾つかある。

 一つは配下の完全な支配。

 タイムラグ無しで何時でも連絡可能。かつ配下が何処に居て何をしているのか把握できるという指揮者ならば喉から手が出る程欲しい能力。

 

 二つ目は配下の創造。

 自身の意のままに従う魔物や魔族。はてには魔獣であろうと作り出せる。

 しかしディロンの眷属作成と同じく材料として人間の魂や思念。魔力などを必要とするため乱造はできない。

ディロンとは違い雑に乱造は出来るがその場合は長くは持たずまた力も弱い者しか作れない。

 

 最後に配下の強化。

 魔物。魔族。魔獣。自身が配下と認め相手も配下だと認識すればその能力は強化される。

 劇的なパワーアップという程ではないがそれでも通常の者と比べれば最低でも三割程は強くなる。

 そしてこの能力は配下が弱ければ弱い程効果が増す。

 本来なら弱いはずの魔物の能力が違う。というのはある程度経験がある冒険者などには非常に強いだろう。

だが逆に強い魔物や魔族はそれほど強化されないが。

 

 

 魔王が有する能力は全て配下の強化能力。

 つまるところ指揮特化、単体での戦闘能力は強化しない部下にも負ける。

 

 

 だが、今代の魔王は『存在が特別』だ。

 特殊能力として得ている訳ではない、生まれながらの力。

 

 それは『存在が異質』

 

 魔王は邪神によって造られた訳ではない。

 魔物が知性を得て魔王になった訳でも悪魔が魔王を名乗っている訳ではない。

 では、どうやって生まれたのか?

 

 魔王が誕生したのは混源──すべての魔の元となったこことはちがう別世界。

 具体的にどんな場所なのかはわからない、

 もしかしたら、『混源』の向こう側が存在するのかもしれないが誰も知らない場所だ。

 唯一わかるのはこの混源から魔神王──つまりすべての邪神の元となった者が現れた場所ということだけ。

 ならばここから生まれた魔王が異質であるのは当然と言えよう。

 

 この異質、というのは外見だけではない。

『自身と波長が合う者』以外からの干渉の、完全無効化である。

 

 つまりドワーフの戦士だろうが冒険者だろうがエルフの弓使いだろうが魔王にはかすり傷一つ与えれない。

 そして魔王自身もまた干渉できない。

 魔王が拳を振るっても誰にも当たらないし。当たってもダメージにはならない。

 相互干渉不能なのだ。

 だが自身と波長の合う者ならば話は別。

 波長が合う。つまり同じ魔の存在、魔物や魔族である。

 魔物ならば魔王にダメージを与えれ。魔物になら魔王も干渉できるという訳だ。

 

 だからこそ、同じ()()()()()()ならば干渉が可能だ。

 ディロン──不破泰二や勇者として呼び出された者、あるいは存在としての格が違う神々等。

 もっとも邪悪なる神々は現世に顕現できず。善なる神々は顕現しようものなら他の神々(邪悪なる神々)の顕現を許し現世が地獄絵図となる為顕現しないが。

 

 魔王軍には『強者』が居なかった。

 だがここに、ディロンという圧倒的強者が現れた。

 万の雑兵よりも一の英雄が勝る異世界においてはディロンという最強の戦力は一人で盤面を文字通りひっくり返す。

 更にはディロンが作り出した≪不可解な者≫(アンノウンズ)という追加戦力に魔王に準ずる戦闘力を持つトーベン。

 

 如何にドワーフが。ユーカリの地図という情報戦最強のアイテムを持っていても。

 如何にドワーフが技術で圧倒していようと。

 

『どうしようもない暴力』の前には、どうしようもないのだ。

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