殲滅戦争   作:Libro

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第36話

「……圧巻だな」

 

 ディロンが眼下を進軍する軍を見て呟く。

 

「我ら魔族総数八千にディロン様の配下が加わった者達による全軍進軍です。それも当然かと」

 

 もはやただの従者のように動く魔王の言葉にそれもそうかと軽く返す。

 総数八千六百四十。魔族は全て戦闘員だ。

 戦えない者等おらず。外見こそ老人や幼児の者がいるが外見だけ。その実戦闘能力は変わらない。

 魔族の都市に居るものすべてが兵士。

 先ほどまでいた都市にはもはや誰も残っていない。全ての魔族がディロンに従い忠誠を誓った。

 

 この規模の進軍となれば考えるのは兵站だ。

 武器に食料。魔道具にマジックアイテムその他もろもろ。

 それはどうなっているのか、ディロンは気になり訪ねる。

 

「数はいいが、兵站はどうなっている? この数だと武器は?」

 

 その質問に魔王が答える。

 

「魔族は肉体そのものが強靭。武具などは爪や牙で代用できます」

「……便利だな」

 

 死ねば灰となって消えるのならば死体の処理はいらず。食事をしないのならば排泄物など出るわけがない。

 生命なら必要な繁殖行為等もそもそもその機能が無いため兵士に発散させる必要もない。

 しかし感情や自我はある為その場その場で臨機応変に対応できる。

 兵士として考えればこれほど最高の者達はいないだろう。

 

「……ん?」

 

 地面が揺れる。

 震度にして三か四程度の揺れだが兵士が揺れ進軍が一時止まる。

 

「──チッ、どうやらドワーフ達は既に気づいたようです」

「例のアーティファクトか、面倒な」

 

 ユーカリの地図によって居場所がバレたのだろう。

 

「被害は?」

「直接死んだのは七十程度ですが、奴ら坑道事破壊してきたので通路が防がれました」

「……面倒だな」

 

 流石に八千を超える軍となると纏まって移動などできない。

 更には山の中という狭苦しい場所なら猶更。故部隊を数百に分けることで進軍をしていた。

 魔王が有する配下との連絡ができるからこその強引な侵攻作戦。

 

「瓦礫を消し飛ばすか?」

「……いや、それをすると崩落してここら一帯が埋まる可能性がある。

 お前と魔王ならば問題ないだろうが他が死ぬ」

 

 そこに肉の塊のままついてきたケントニス・ヴィッセンの端末が答える。

 

「……はぁ、面倒だな」

 

 やはりどうしても取れる手段は、『あらゆる奇襲を受けながら突き進む』しかないらしい。

 

 

 

 ■

 

「……あれが正門か」

 

 あれから百回近く襲撃を受けた。

 おかげで八千もいた配下は削られ続け。残り二千程度にまで落ちた。

 いや、よくここまで持った方だと言うべきか。

 なにしろドワーフ側にこちらの動きがすべて筒抜け。かつ地形も相手側は全て知っている。

 何処をどう破壊すれば自分たちに被害無く敵に損害を与えられるのか全て知っている上での奇襲だ。

 直接的な魔術攻撃に火薬による爆弾。物理的ブービートラップや崩れやすい地形への誘導等。その他もろもろ。

 それらを受けながらの愚直なまでの進軍──時間が掛かり、軍の数が大いに減ったが問題はない。

 

 何故なら魔族にはディロンがいる。

 

 彼一人でドワーフを皆殺しにできる。それほどの力を有するのだから。

 極端な話ドワーフを殺し尽くすだけならば軍を指揮する必要すらない。

 適当に山で暴れまわり山事ドワーフを消し飛ばせば済む話だ。

 今のディロンの魔術・魔法は道中ケントニスに指導され技術が上がっている。

 今ならば反動を受けることなく都市一つ文字通りに『消す』ことが可能な程に。

 しかし、それでも進軍したのはユーカリの地図以外にも理由があるからだ。

 ディロンの目的は元の世界への帰還唯一つ。

 神への嫌がらせとしてこの世界の人類を滅ぼしたくはあるがそちらはあくまでもおまけに過ぎず。できないならできないで別にどうでもいいことに過ぎない。

 

 かつて、ドワーフという種族はこの山脈には存在しなかった。

 人類未踏の地であるこの山脈にドワーフが幾つも都市を築きエルフの向こう側の防衛線となることは叶わなかった。

 しかし、古代の遺産(アーティファクト)がそれを変えた。

 

 かつて、とあるドワーフが居た。

 何処にでもいるごく普通のドワーフだった。

 血統が特別でも、変異したドワーフという訳でも、思想が変わっていたわけでもないごく普通のドワーフだ。

 だが、かのドワーフは『運がよかった』

 

 たまたま、迷宮の古代の遺産(アーティファクト)が欲しくて。

 たまたま、依頼を出したのが『のちの冒険王』で。

 たまたま、エルフの友人がいたというだけの──ドワーフに過ぎなかった。

 

 そして、ただのドワーフは手に入れた。

 全てを切り裂く魔剣を。

 魔を用いた攻撃を無効化する盾を。

 状態異常を完全に無効化する仮面を。

 大量の物資を一度に移動できる道具を。

 あらゆる魔法を収めた本を。

 異世界の知識で作られた移動手段を。

 

 そうしてドワーフは山へ向かった。

 まだ見ぬ鉱脈を求めて。

 そのドワーフは冒険王が『この大陸から離れるから』とドワーフにユーカリの地図を渡した。

 その地図を使い、ただのドワーフは開拓団の団長となった。

 

 それこそがこの山脈に根付くドワーフの始まり。

 

 今となっては幾つかの古代の遺産(アーティファクト)が機能を停止し。幾つかに分かれた都市とは連絡すらままならくなってしまったドワーフ達の始祖。

 

 つまり、ドワーフ達は持っているのだ。

 山のように古代の遺産(アーティファクト)を。ディロンが喉から手が出る程に欲してやまない、力を、元の世界に帰るための手段の一つを。

 

 

 だからディロンは攻め滅ぼす。

 もっと他にもやりようがあっても、もっと穏便な(まともな)手段は幾らでもあるというのに。

 苛まれることもなく──ディロン達魔王軍はついにドワーフの首都にまでやってきた。

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