殲滅戦争   作:Libro

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第37話

「狼狽えるな!」

 

 将軍の声が響く。

 

「相手は疲弊している! あんなものみかけ」

 

 ぐしゃり。

 

 声を上げた将軍が、突っ込んできたディロンに消し飛ばされる。

 ただのテレフォンパンチに過ぎないそれはダイラ将軍の全身を消し飛ばし。余波で控えていた兵士と冒険者を消し飛ばす。

 ただの通常攻撃、ただの余波。

 魔神という超越者になった者の一撃はただ拳を振るうだけで暴風を撒き散らす。

 人だった物の四肢が舞い。臓物が周囲に降り注ぐ。

 余波で吹き飛ばされたただの破片に過ぎないそれらが人に直撃すれば同じように四肢が吹き飛び、頭部に当たれば破裂して死に至る。

 

「征け」

 

 たった一言。放つだけで異形の魔族たちが進軍する。

 人型のカエルが。角と翼の生えた大男が。紫色の肌をした者が。豚の顔をした者が。

 異形が進軍し、兵士と冒険者に衝突する。

 

「舐めるな! 魔族共!」

「ここは我らの国! 侵略者は消え失せろ!」

 

 しかし流石は何十年と魔王軍の侵攻を防ぎ続けた軍隊と言ったところか。

 一瞬で総指揮官が死に、軍の一部が消し飛ばされたというのにこの即断即決は大したものだ。

 

 ドワーフの斧が魔族を両断しカエル型の魔族が長い舌を伸ばし、冒険者を掴み丸のみにする。

 赤く角の生えた魔族がその拳で兵士を殴り殺した瞬間、背後から魔術を放たれ消し飛ばされる。

 

 戦力的には、魔族側が完全に負けている。

 如何に魔王の力で力が上がっていようと、数と質で負けている以上魔族の敗北は必須だ。

 

「トーベン」

 

 ただそれも、『強力な個』が居なければの話だが。

 

「たましいぃぃぃぃぃちょうだぁぁぁい!」

 

 空から異形が叫び、降ってくる。

 着地する場所にいた数十の兵士が突如絶命しどさりと骸となって倒れる。

 

 幾千の魂の集合体、トーベン。

 兵士では抗いようのない絶望が降ってきた。

 

「──はぁ!」

 

 キン、と金属の音が響く。

 トーベンが雑に振るった斧と、獣のような女の拳がぶつかった音だ。

 

「あとは任せる」

 

 そう言い残し、ディロンは飛び去った。

 

 

 ■

 

 

 

「ひひひひひぃぃぃぃ」

 

 バックステップし、奇妙な声を上げる怪物から女──シーラが離れる。

 強力な個に対抗できるのはまた、強力な個だ。

 

 数より質が基本の異世界ではランクが一つ違うだけで戦いというものは成立しない。

 例えれば、Cランクの冒険者千人とBランクの冒険者。

 本気の殺し合いをすれば、どちらが勝つか──単純に考えるだけならば、それはBランクの冒険者が勝つ。

 無論なんでもありで魔法に呪術と古代の遺産(アーティファクト)と全てを出し切った上での戦いだ。

 流石にこれがCランク数万となればBランクの冒険者と言えど勝ち目は薄い。

 そう、ただ薄いだけ、勝てるには勝ててしまうのである。

『どんな手段を用いてでも相手を殺す』と覚悟を決め揺るがぬ意思を持った死兵数万が居てようやくBランク一人殺しうる程度。

 例えるならば災害か、ミサイルか。

 ゲームでレベルが十も違えば数があろうと勝ち目が無いように。ファンタジーの世界ではそれがまかり通るのだ。

 

 ならばトーベンに勝てるのはシーラ・ヴェネただ一人。

 

 トーベン。嘆きの魂の集合体。

 ドアイラクに押しつぶされたエルフの魂を集めて作り上げられた≪不可解な者≫(アンノウンズ)の最上位個体の一人であるトーベンはランクにしてB相当の能力を持つ。

 そのBランクの中でも上位に入るだろう。

 

 冒険者のランクでは、C~Aランク感には大きな壁が存在する。

 ランクが一つ違う、ただそれだけで絶対に乗り越えれない壁が生まれる。

 Bランクになりたての者と、長年Cランクで戦ってきた者──戦えば必ず前者が勝つ。

 

 同じランクの間でもある程度差というモノはできる。

『全裸戦士』の名で知られる者や、『探究者』と呼ばれる冒険者等。数が多い以上どうしても同ランクと言えど差はできる。

 

 そして、トーベンは単純な能力で言うのならばBランクの中では中位に位置する。

 これは同じ≪不可解な者≫(アンノウンズ)の最上位存在であるドアイラクがAランクに相当することを考えれば弱いだろう。

 ドアイラク一人でドワーフどころかこの山脈ごと精霊も含めて消し飛ばせるが、トーベンにそれはできないのだから。

 

 だが、だからと言ってトーベンが負けるのが確定した訳ではない。

 

 

「いひぃいひひぃ」

 

 右腕が奇妙にうごめき、斧と一体化する。

 

「たましいぃぃぃぃぃちょうだぁぁぁい!」

 

 跳躍し、斧を振るう。

 

「舐めんな!」

 

 腕を交差させ、防ぐ。

 硬い金属音が響き、弾くことに成功する。

 

(そこまで力は無い!)

 

 ならばこのまま押し切る──その前に、トーベンが再び動く。

 先ほどと同じようの後ろに飛び、腕を変形させる。

 

 助けて、苦しい、どうして──そのような声が聞こえるのを無視し、シーラはトーベンを観る。

 

 何十、あるいは何百メートルというサイズに腕が変形を完了する。

 所々歪に肥大化していたり逆に小さくなっている姿は鞭の様だ。

 肥大化した左腕を鞭のように振るい、薙ぎ払う。

 シーラは真上に跳躍して回避するが他の物はそうはいかない。

 何人か、魔族も兵士もを巻き込みトーベンの腕に飲み込まれる。

 そして知る、トーベンの能力を。

 

「……は?」

 

 どさり、とトーベンの腕を受けた者達が一斉に倒れる。

 傷を受けた訳でも、吹き飛ばされた訳でもなく。ただ倒れる。

 何があった、と意識を集中し、見る。

 魔術と魔道具による補助は、シーラが知りたくない現実を見せてくる。

 

「死んでる……ッ?!」

 

 即死。

 突如心臓発作でも起こったのかとでも問いたくなるほどの突然死。

 先ほどまで元気に斧を振るっていたドワーフが、結婚三年目だと笑っていた禿げた冒険者が、トーベンの仲間であるはずの魔族が、死んでいる。

 外傷は一切なく。病に侵されていた訳でもないというのに突如として死んでいる。

 

 これこそがトーベンの能力、ドアイラクが超広範囲攻撃という固有能力を有するようにトーベンもまた固有能力を持つ。

『魂の吸収』という、対生命においては最強の力。

 

 相手が生きている──正確には魂を持つ者ならば絶対に勝ててしまう力。

 しかしながら、弱点は非常に多い。

 まず相手に魂が無い無機物には一切効果が無い。

 地面や壁、ゴーレムなどには非常に弱い。

 結界や物理的な壁等。ある程度の破壊力こそあるが壊すのに時間がかかる──あるいは、全く傷つけれない程物理的な力は持っていない。

 次に遠距離からの魔術攻撃に弱い。

 超遠距離からの連続攻撃等を喰らえば、トーベンに対処できる力は無い。

 

 だが、この状況でならトーベンは負けない。

 トーベンは非実体の存在であり、トーベンが意図的に調整──物理的な攻撃をしようとしない限り物理的な干渉はされない。

 つまり、兵士と冒険者はトーベン一人で殲滅できる。

 先述した通り物理的な攻撃力は無いためゴーレムは倒せないが、ゴーレムもまたトーベンを倒せない。

 

「魂……ちょうだぁい!」

 

 トーベンは主の命を果たすべく、その腕を振るった。

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