殲滅戦争   作:Libro

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第38話

 触れれば即死のクソゲーを強要してくる敵に対し、どうすればいいのか? 

 

「ひひひひひぃぃぃぃ」

 

 シーアは全力で跳躍。振り落とされる斧を回避する。

 答えは単純──当たらなければいい。

 何度もトーベンが斧を振るい、それをシーアが余裕をもってかわす。

 上、右、下。

 上下左右全方向から自在に振るわれる戦斧。

 物理的な質量を持たず、振るうことによる勢いなどがないからこそできる攻撃。それをシーアは容易く避ける。

 如何にドワーフの都市──閉じられた世界でもBランク冒険者。一国最強を名乗る実力者であるシーアにとっては能力任せの一撃など容易く避けれる一撃。

 

 トーベンに技術も経験も無い。つい先日創られた存在であるトーベンは能力こそ多少シーアを上回るが経験で埋められる程度。

 それこそドアイラクの様に実力差も何もない、超広範囲攻撃でもできれば話は別だがトーベンには無い。

 

 斧では意味がないとようやく悟り、トーベンが左腕を振るう。

 それをシーア派またも後ろの大きく飛び回避する。

 

「──ッ!」

 

 シーアは着地した勢いのまま、両足に力を込めて突撃しようとするが寸前で辞め、トーベンを注視する。

「なぁぁぁぁんでぇぇぇぇぇぇ!」

 

 とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、なりふり構わず腕を赤子のよるに振り回し始めた。

 

「やっば!」

 

 先ほどまでのある程度予測できる攻撃と違い、なりふり構わず異形の身体能力──体が無いから厳密には違うが──で暴れられると対処できない。

 

 これがただの魔物が暴れているだけならばどうとでもできるが、相手は触れれば即死。

 シーアは物理に特化した戦士──魔術等は使えない。

 

(恐らくレイス系。注意を引き付けた後で魔術で掃射すればいい)

 

 横目で見ればドワーフや他の冒険者は幾体も魔族と魔物を倒していっている。

 そのうちの一人、丁度魔物を倒し終えたドワーフが杖を掲げて走ってくるのを視認する。

 

「どけぇぇい!」

 

 ドワーフが杖を掲げて叫んだ。

 声を聴いたシーラは咄嗟にローリングで横に逃げ、背後から迫るドワーフの魔術の炎を回避する。

 サッカーボール程度の炎の塊はトーベンの鼻先で止まると膨張し、トーベンを炎の渦に包み込む。

 

「ああああ!」

 

 トーベンが泣き叫ぶ。

 表情を見れば幾つもの顔が涙をぽろぽろと流している。

 

「うっしゃぁ! これで終わりよ!」

 

 数秒間炎に包まれる。

 

 レイス系──実態を持たない存在。アンデッドに分類されるモノ。

 ゴーストとも呼ばれる者達は物理攻撃を無効化する代わりに魔力を用いた攻撃に非常に弱い。

 マジックアイテムや単純な魔術等で当てることが出来れば一撃で倒せる程度。

 

「ま、相手のボス級と言えど──」

 

 これなら倒せるだろう、というシーアの楽観した言葉は発せれなかった。

 数秒間、炎に包まれたはずのトーベンは炎によるダメージ等ないかのように変わらずそこに立っていた。

 

 嘆きの魂の集合体、トーベン。

 ドワーフの魔術では傷一つ付かないのだと主張するように笑い、斧を振るい炎を吹き飛ばした。

 

(ちっ! 流石にボス級──魔族が率いてきた中でも異質なだけはある!)

 

 明らかにトーベンは他の魔物や魔族とは造形が違いすぎる。

 生命に似た姿を持つ魔族と違い、トーベンだけは人間の顔の集合体という異質な姿。

 単に姿が違うだけでなく、相応の力も持っているだろうとは予測していたが甘かったとシーアは自身を叱責する。

 

 明らかに肥大化している。

 ドワーフが与えた炎の魔術など意味が無いかのように、顔の数と体の大きさが増大している。

 

「他の奴らは!」

「順次討伐が終わっとる! 時機に終わる!」

 

 シーラの問いに、名も知らぬドワーフが答えた。

 聴覚を澄ませばあちこちで魔族の断末魔と、それに呼応する勝利の雄たけびが聞こえる。

 魔族は脅威ではある。だが対処できない災害という訳ではない。

 ある程度の戦力が整えば倒せてしまうただのその程度の存在に過ぎない。

 

「きひぃぃぃぃひひひ」

 

 だが、トーベンは違う。

 魔神が作り上げた眷属は、幾千の魔族に勝る上位存在。

 地を蹴り、跳躍。体を大きく見せるようにトーベンが広がり、シーアたちよりはるか向こうへと跳んだ。

 

「えっ」

 

 偶々、その場に居た冒険者に重なるようにトーベンが着地した。

 

「──え」

 

 ばたり、と何も言わず倒れた仲間を見た者が、間抜けな声を漏らす。

 剣を掲げていたはずの者は何も言わずに地に伏せ、「高かったんだぞ」とぼやいていた剣を放り投げている。

 投げ出された体がトーベンの中に残るも、気にせずに声を上げる。

 

「あっはははははは!」

 

 物理的に存在している訳ではない腕は容易くその形を変え、細長くなった腕を鞭のようにしならせ振るう。

 元は一メートルもなかったであろう腕は何百──キロには届かない程度にまで伸び冒険者や兵士に当たる。

 本来ならばなるはずの風切り音も衝撃波も起こらず振るわれた。

 

「……嘘だろ」

 

 脂汗をたらたらと流しながら、シーラと共にトーベンを追い走ってきたドワーフが呟く。

 この汗は全力疾走の汗などではない、理解できないものを見てしまった冷や汗。

 

 どさどさと、不幸にも腕に当たってしまった者達が倒れていく。

 共に語り合ったドワーフが、飲み比べをしてかった冒険者が、同じ釜の飯を食った仲間が。

 何もできずに、死んだ。

 ただ腕を振るっただけで何百という者が、精鋭であるはずの戦士たちが死んだ。

 触れただけで相手を殺す──そのような力はシーアは知らない。

 仮に触れた相手を問答無用で殺せるのならば、遠距離攻撃手段を持たないシーアでは倒せない。

 そもそも相手は魔術に耐え、再生もした。倒せるようなモノではない。

 

「──化け物が」

 

 シーアが呟きを終えると共に、轟音が響いた。

 ほんの少し、トーベンから視線をずらす。

 街中──遥か遠く。城の方角。

 そこに、怪物の群が居る。

 巨大な単眼の巨兵と、それに群がる人型──ゴブリンやオークと言った魔物の群。

 更に向こうには巨兵を上回り、城よりも大きい──百メートルを超えるのではと思える怪物が街を破壊している。

 それをシーアは認識する。してしまった。

 

(このままじゃ街が滅ぶ! はやくこいつを倒して街に向かわなけきゃ──!)

 

 

 恐怖を抑え、己を鼓舞するための声を叫びシーラが突進しようとするも、肩を掴まれ止められた。

 

「よせ! お前じゃ勝てん!」

「貴方に何が──」

 

「あれはゴーストか何かだ! 戦士のお前じゃ勝ち目がない!」

 

「じゃああなたたちに勝てるの?! あの怪物を!」

 

 トーベンが幼子のように笑いながら、その姿が変わっていく。

 ぶくぶくと、肥え太った豚の様に肉体が膨張する。

 水をパンパンに入れた風船のように体が肥大化し、ただでさえ巨大な体が倍以上に大きくなる。

 今死んだ者達の魂を取り込み自身に変えていっているのだ。

 何百ものたった今取り込んだであろう魂が顔だけとなり現れ、泣きわめきだす。

 

「ああ勝てんだろうよ! だからお前は逃げろ! 逃げてより多くの者を生かせ!」

 

「──」

 

 シーアは絶句する。

 ドワーフは既に諦めたのだ。この街を。

 今も巨兵が暴れ、街を破壊して行っている。

 そもそも魔族が攻めに来た時点でドワーフ達は詰んでいた。

 魔族は正確に把握していた。ドワーフの戦力を。それを知った上での進軍──ということは、魔族にはこの戦力差を埋められる何かを得たということ。

 

「今からなら避難民に追いつけるだろう? そっちを守ってくれ!」

 

 から笑い。無理をしてドワーフが笑った。

 既に半場この街の放棄は始まっている。そこにシーラが加わればより多くを生かせるとドワーフは主張した。

 それに対し、シーラもまた軽く笑い、告げる。

 

「終わったら、酒、飲みましょ」

 

「ああ、そん時は秘蔵の酒を出してやる」

 

 ドワーフが豪快に笑い、斧を掲げると同時にシーラは走り出した。

 

「炉の炎を受けてみよ!」

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

(クソ! クソ! クソ!)

 

 心の中で悪態をつきながら、シーラは全力で走り出す。

 背を低く保ち、獣の様に作物地帯を駆ける。

 戦場を駆けながら周囲を見れば魔族はほぼ全滅状態だ。

 数千程度の魔族ならば鍛え上げられた騎士と冒険者がいれば、対処できる。

 魔族といっても冒険者はCランクと定義するが、実際にはそれ以下の雑兵も多い。確かに知性と技術を兼ね合わせる魔族は脅威。だがドワーフにはこの都市が──古代の遺産(アーティファクト)が大量にある。

 遥か古代より続く都市。そこの移住したドワーフは古代の遺産(アーティファクト)の解析によりただの魔道具よりはるかに強力な道具の量産に成功している。

 だからこそドワーフは魔族の侵攻を抑えられた。だがそれでもBランク等の魔族となれば一体で殲滅されるが──魔族とて強力なのはそう容易く生まれることは無い。

 

 だが、それは永遠に続く訳ではない。

 今日強力な魔族が生まれなかったとして明日脅威が生まれない保証はない。

 魔族の領域では邪神の力は増す。容易く魔物は生まれ落ち、魔族は増える。

 それに魔王は魔物の量産に強化能力という、能力を全力で駆使すれば殲滅にこれほど適した能力は無い力らを持っていた。

 だからこそ、人類は勇者を召喚し魔族が力を得る前に殲滅用しようとしていたが──勇者よりも早く、魔族が力を得てしまった。

 これはただそれだけのこと。

 

「ちっ!」

 

 この都市は三層の壁に守られている。

 第一の壁はディロンが吹き飛ばしたドワーフが作り出した中で最も硬い壁だ。

 物理的には勿論、魔術を込められた壁でありこの都市が建設された時最初に造られた物でもある。

 

 次に居住区に続く壁。

 田園地帯を越えた先にある壁の向こうは普段ならば大勢の者が住まう大都市だ。

 十人の割合で言えばドワーフ六割、その他四割といった具合だ、シーラも他の兵士もこの地区に住まう。

 

 最後に城壁。

 他の住人が住める場所ではなく、王族と近衛兵のみが入れる場所だ。

 ごく一部の商人や大臣等しか入れない場所は最も堅牢。

 元からこの地にあったという城は、城そのものが古代の遺産(アーティファクト)なのか、魔術でも物理でも傷がついたことはないという。

 誰かが度胸試しに攻撃しても無傷だったという話があるぐらいだ。

 

 

 

 全力で疾走すること数分。

 本来ならば馬を使っても数日はかかる距離にある門にたどり着く。

 Bランク冒険者であるシーラならば、この程度の距離容易く踏破できる。が、それは相手も同じことだと自身に言い聞かせる。

 田園地帯と居住区を分かつ壁の、数少ない通行手段である門。

 馬が彫刻された門であり、最初の門と同じく魔術的にも防護がかけられている。

 

 そんな、国を守るべき壁が破られている。

 

 まだそう遠くには、口から言葉を漏らし、打ち砕かれた城門の瓦礫を飛び越え、民家の上に乗る。

 真四角の家が並ぶ街を見下ろす。

 雨も雪もない、完全な地下空間だからこそできる家だ。

 生活用水等もマジックアイテムで生成できる上、台風等の自然災害を考える必要が無いからこその家。

 街並みは中世というよりは現代の都会に近いだろう。

 窓もガラスもある、ビルが家屋として成り立っている都市とでも言えばいいか。

 

 すぅ、と息をのみ集中する。

 

「──あっちか」

 

 シーラの問いに答えるように、巨兵が倒れた。

 

「あれは……」

 

 見たこともない物。

 シーラの──国家に一人しかいないBランク冒険者が知らないモノ。

 恐らくは味方だと、魔物と戦う巨兵の群を見たシーラはそう判断する。

 今もシーラでは正しく認識できない魔王が魔物を生み出し、巨兵と争っている。

 

「危険地帯はあっち……なら」

 

 民家から飛び降り、山脈から脱出する道を思案する。

 

(奴らは森から来た、ならエルフ達は全滅したか? どちらにしろ手は借りれない、遠回りになるけど別ルートを探した方がいいか?)

 

 シーラ・ヴェネは何度か山脈から出たことがある、数少ない者の一人だ。

 

 この山脈は生き迷宮、ならばどうやって脱出するか。

 ユーカリの地図──その劣化複製品(デッドコピー)を使えばいい。

 リアルタイムでの情報更新や敵の位置情報が常にわかる、等の機能は無いがこの大陸全土の情報が詰まった地図をシーラは所持している。

 情報の更新こそユーカリの地図そのものが必須だが、それを除いても十分に脅威な代物である。

 だが、だからと言って全員で脱出できるとは限らない。

 常に情報が更新される訳ではない以上、先ほどまで使えた道が使えなくなったり、魔物の奇襲を許してしまうかもしれない。

 百人で山脈から出ようとして、四十人残ればいい方だろうか。

 だがそれでも、このまま全滅させられるよりはいいはずだ。

 

 地面に着地-—というより落下する。

 だが地面には罅一つ付かず、猫が落ちたように衝撃波も発生しない。

 すぐさま全力で走り出し、思考を巡らせる。

 

 ──冒険者としての勘が、痛いほどに訴える、"これは勝てない"と。

 特にあの男──門を破壊した男には絶対に勝てないと悟ってしまっている。

 何百年も無傷で通してきた門を二つも容易く壊し、通常ならば何日もかかる工程を一時間もかからずに踏破する力。

 侮れない、侮ってはいけない連中だ。

 

 どうすれば逃げ切れるか、シーラは考え続けた。

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