殲滅戦争   作:Libro

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第39話

「誰もいないな」

 

 居住区に侵入したディロンが呟いた。

 真四角の家や商店が並ぶ大都市。

 何もない平原を全力疾走で駆けるようにはいかず、移動するには空を飛んだ方がいいだろう場所を、あえて徒歩で移動する。

 

「ふむ、住人は全て避難しているようだが──我らの目的には関係ない」

「そうか」

 

 ケントニスの声を聞き流し、街を見ながらゆっくりと歩く。

 アスファルトで舗装された道路に信号機。

 街路樹の傍には自動車型のゴーレムが止まり、店らしき建物の中にはショーウィンドウに商品が展示されている。

 しかしながら電柱や電線の類は無く、地中にでも埋めたのか、そもそも存在しないのか。

 

「……どういうことだ?」

「ふむ、前に来た転生者が日本の知識を与えたのだろう……結果、この都市は日本に近くなったという訳だ」

「クソだな日本人、文化侵略にためらいがないのか?」

 

 同じ日本人であり文化侵略どころでは済まない所業を成しているディロンが自身を棚に上げて軽蔑する。

 

「というか、だ──日本人は何故異世界に来ている? お前たちが送ってきているのか?」

「正解だ、異世界における太陽系第三惑星地球──我々ゼーベもハイリヒも把握し、たまに勧誘している

 ディロン、貴様もゲームをするだろう? それと同じだ、異世界人というプレイヤーをボードに落とし、遊んでいるというだけだ」

「……例えは悪いがわかった、お前クソだな」

「まぁ、それ以外にもこの世界には我々は直接顕現できない、できたとしてもこのように会話できる程度の木偶人形を置くだけ──その点、異世界人ならばある程度強力な力を与え幾つかやらせたいこともできる」

「ふぅん、ならば文化侵略を許容すると?」

「侵略、というのは少々言い方が悪いな、日本の過去──明治初期には外国からの使者によって文明開化し、生活様式が変わっただろう? それと同じだ、規模が世界の壁があるというだけさ」

「……あぁ、そういう考えた方もできるのか」

「と言ってもこの都市は少々日本の要素が強すぎるな──ああ、いや、この都市はそれだけで完結している、日本の知識を受け入れすぎたな? 恐らく三百年程前、この地に転生者が来たな……ふぅむ、大方フルヒトか? いや、ヴァーンの奴やも──」

「おい」

 

 ぐいっと、浮遊し進み始めたケントニスを引っ張り、後ろに跳躍する。

 

 直後、丁度ケントニスが居たところに巨兵が現れる。

 盛大に土煙を撒き散らし、巨体が顔を上げた。

 

「なんだこいつは」

 

 ディロンの疑問に対し、ケントニスが減った体を再生させながら答える。

 

「ふむ、見たところ古代の遺産(アーティファクト)だなドワーフが改造でもしたのだろう」

 

 ディロンが土煙を腕を振るい吹き飛ばす。

 軽くなでるように振るったはずのそれは暴風を起こし、周囲のガラスを割り家々に罅を打ち込み、巨兵を足止めする。

 

 現れた巨兵はサイクロップスに酷似している。

 鉄の体とでも言うべきか。人間をすべて鉄で作ったらこうなるだろうなという歪な存在だ。

 関節も何もかもが鉄の塊であり歯車や球体を使うことによる柔軟性がない。

 鉄塊が粘土の様に人の形になった──そういうのが正しいだろう。

 頭部は巨大なカメラを思わせる単眼が一つのみ、耳も口も無い。

 

「"敵正反応確認""排除"」

 

 抑揚のない作られた機械音声を発し、顔を上げディロンを視界に収める。

 

 古代の遺産(アーティファクト)の城よりドワーフが発掘した古代のゴーレムの一つ。

 名をシュッツ──ドワーフが保有する戦力の一つ。

 

「"実行"」

 

 口も無いのに言葉を発し、単眼に紫色の光が集まる。

 人の親指程の光の塊が集い、大きな──シュッツの頭部を上回る光球となった。

 

「レーザーか!」

 

 少年の心を多少持っているディロンが目からビームということに歓喜の声を上げると同時にレーザーが放たれる。

 単純な威力だけならば魔族の軍勢を焼き払ってなお余りある威力のレーザーは正確にディロンとケントニス、そして魔王を包みこまんと超高速で放たれる。

 

「邪魔だな」

 

 しかしディロンが蠅でも追い払うかのように腕を振るうことでレーザーが振り払われ、拡散する。

 レーザーが飛び散る、というと少々可笑しいが砂の様に散ったレーザーだったものが周辺の建物に被弾し、家々が壊れていく。

 レーザー、となれば光速で放たれるモノだがシュッツが放ったのは"レーザーに近い何か"である。

 或いはエネルギー砲とでもいいのか、速度で言うのならば精々がマッハ4か5程度。しかし射線上のモノは全て消え去る威力の一撃。

 

 実際にレーザーがディロン達に着弾する前には都市の通路を通過し、地面がヘラで抉ったようにきれいに消え背閉まっている。

 少なくともドアイラクやトーベンですら当たれば即死は間違いない一撃。

 

 

 ディロンがどん、と片足に力を込めて跳躍する。

 恰好を付けた跳躍は正確にシュッツの頭部にまで届く。

 

「死ね」

 

 空中で蹴りを入れ、頭部を吹き飛ばす。

 サッカーボールでも蹴るように気軽に放った蹴りはシュッツの頭部を完全に消し飛ばす。

 首から上が消えさる。

 しかしながら相手はゴーレム、生命の理から外れた存在。

 頭部が完全に破壊されようが核を破壊されない限り動き続ける無機物。

 がしり、と右手でディロンを掴む。

 

「ふん!」

 

 大げさに腕を広げる。

 それだけでゴーレムの腕が破壊され力が伝播しゴーレムの全身が崩壊する。

 余波で周囲の家が消し飛び、周囲一帯が軽く整地される。

 

 魔王がその余波から守るため、雑兵に過ぎない魔物を即座に量産する。

 生まれた傍から魔物が死に、灰となって消えていく。

 異界の住人であるディロンは魔王に干渉できてしまう。

 魔物という肉壁が無ければ、今ので魔王は死んでいたであろう。

 唯の余波で、だ。

 

「凄まじい」

 

 魔王が一言、そう漏らす。

 今のディロンの力は間違いなくA級を越えている。

 そもそもが無限の魔力によるごり押し戦法で手加減されていたとはいえA級の冒険者と正面切ってある程度戦えるだけの力があったのだ。

 そこに異形の肉体というチート能力が合わさった今、もはやディロンより強いのは神々ぐらいだ。

 そして神々はこの世界に干渉できない。

 つまりは世界──地上最強。誰もディロンには敵わない。

 

「ふぅむ、まだ力の制御がなってないな」

 

 そして当の神は、まだまだだと辛い採点をする。

 今も魔王が肉壁に創った魔物に守られなければ死んでいた神は、かつての英雄たちと比較する。

 かつての冒険王も異界の勇者とも戦った──あるいは共闘したことのある者。

 司るは記憶と記録。なればあらゆる世界に最も精通しているのがこの邪神。

 

 確かに力は歴代の英雄にも魔王にも勝る、だが技術がない。

 超高級スポーツカーを雑に乗り回す幼児──それが今のディロンだ。

 できるのは全力でアクセルを踏むかブレーキを踏み向くかの二択。

 ドリフト処かハンドルを握ってすらいない状態だ。

 だがたかがその状態で他の者より優れている。

 

「──む、量産型だったか」

 

 ケントニスの呟きに呼応するように地面から先ほどと同じシュッツが湧き出る。

 家々の壁を破壊し、整備された道路からモグラのように土を掘り返しでてくる。

 その数は百に近い。家々を破壊しディロン達に迫ってくる。

 

「ちっ……魔王、この雑魚共の処理は任せる──こい、ケントニス」

「ふん、乱暴だなぁ」

 

 ディロンはケントニスを掴み、抱きかかえる。

 膝を曲げ、背中から蝙蝠の翼を生やし、広げる。

 

「では行ってくる」

 

 空の彼方へとディロンは飛んで行った。

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