殲滅戦争 作:Libro
人型のそれは、ゆっくりと立ち上がった。
体の大きさはそのまま力に直結する。ただ大きいだけのそれが立ち上がるだけでも衝撃を起こし風が巻き起こる。
純白──大理石の白。
圧倒的な巨大。地下空間ということも相まって頭部が天井にでもあたるのではないかと不安になる。
真っ白な何の装飾も無い鎧を纏い、そのバイザーからは瞳から赤い光が漏れ出した。
体はほぼ人間のそれと造形は変わらない。関節もあるし指も一本一本正確に動く。
だが全身が鎧に覆われているためわかるのは鎧のみ。口があるのかわかりはしない。
その作った当人も扱うものもよくわからない謎の巨兵の頭部。本来ならば脳みそがあるべき場所にドワーフの王はいた。
「さて。あれで死んでくれれば楽だが」
一度も起動も実験もしたことのない。代々王族にのみ口伝で伝わる最終兵器。
神話の時代に作られし不出来な神の模造品──それこそがこの巨兵の正体。
名はスクルプトゥーア。人が神にならんと作り上げた巨神兵。
しかしルイゼンベルグにとって正体が何であっても関係ない。重要なのは侵略者を──ディロンを打ち倒せる手段だということ。
ならばルイゼンベルグとディロンにとってはただの巨兵に過ぎない。
無論実際に神の力を持っている訳ではない。神が有する神力も権能も持ってはいない。
持つのはその巨体による破壊能力それ一つ。かつて冒険王の地図を元にやってきたドワーフが用いてこの都市を作り上げたという伝承だけ。
攻撃性能も防御性能も何一つわからない。件のドワーフ以外使ったことがないのだから。
神話の時代の遺物を重機代わりに使っていた──その事実に巨兵を扱うルイゼンベルグは苦笑いをする。
巨兵を扱ってわかるこの力の異質性。超越した能力。まさに全能にでもなったような錯覚がルイゼンベルグを襲う。
高揚感。麻薬でも使ったわけでもないのに心が沸き上がり、今なら何でもできる気がすると心が大きくなる。
しかし侮ることなかれ。それは相手も同じこと。
黒い、闇よりも──ルイゼンベルグは知らない夜の闇より深い。暗い光という矛盾した光の柱が上る。
巨兵の遥か彼方。その右手で吹き飛ばした先から上る。
その中心に浮かぶは大男。隊長220cm程度という巨兵からすれば小さすぎるそれ。マントを羽織い靡かせ、その両手に血管が浮かび上がる程に力を込めている。
その背から蝙蝠に似た被膜のある翼を生成し飛翔。
巨兵にとってはまさに蚊が飛ぶように接近。
だが巨兵から見て蚊が飛ぶように見えるということは実際は時速何百キロという──音速に達するほどの超スピードによる飛翔。
事実ただの移動でまだ無事だった街が吹き飛んでいく。
大地に根付いていたはずの家が地盤事吹き飛び、小さな家や放置された移動用のゴーレムや屋台が暴風によって藻屑となりながら空に舞う。
街に甚大な被害を齎し数秒でディロンが巨兵に元まで舞い戻る。
それを視認したケントニスは巻き込まれてたまるかと全力で逃げ出すも逃げ切ること叶わず暴風に巻き込まれる。
「死ねカス!」
安直な罵倒。お前に語彙力はないのかとケントニスが心の中でツッコミつつ遥か彼方へ飛ばされた。
「お前がな」
それに対しルイゼンベルグも答える。だがルイゼンベルグは巨兵の内側。その声がディロンに聞こえることはない。
お互いに話し合えないまま右手を突き出し、拳を放つ。
日本人と王という互いに戦闘経験のない者たちが放つ拳は鏡の様に全く同じ形で放たれる。
違いはサイズそれ一つ。一キロに達する巨体と220cm程度の者の拳が同じなわけがない。
ただしそれは地球での話。異世界の物理法則などは限りなく地球のそれに近いが──魔力という頂上ある世界の法則は不可能を可能にする。
拳がぶつかり合い、衝撃波を散らす。
ディロンは巨体に吹き飛ばされることなく──あろうことか巨体を押していく。
巨兵の腕を振るわせ、徐々に徐々に──目に見えてわかる程度に巨兵が押される。
「化け物め!」
ルイゼンベルグが叫び、巨兵の腕を動かす。
まさしく蚊を払う様に腕が振るわれる。
巨大な物がただの人間と同等の速度で腕を振るえばそれだけで暴風を巻き起こす。
大きさは強さに直結する。実質ただの巨大な物体に過ぎずとも外から見て人と同等の速度で動くとなれば破壊能力は計り知れない。
その衝撃でディロンは弾き飛ばされるも翼を動かし数メートル飛ばされるだけに留まらせる。
「死ね」
手のひらをピストル上にし、指先に魔力を込める。
黒い球体が瞬く間に生成され、レーザーとなって放たれる。
黒い閃光。巨兵を包み込んでなお余りある光。
巨兵を飲み込み、都市を飲み込み──遥か彼方まで包み込んだ。