殲滅戦争 作:Libro
「……これで死ぬほど簡単ではないか」
空でディロンがつぶやいた。
光が消え去った後に残ったのは消し飛んだ都市とボロボロになった巨兵。
家々は消し飛び道も消え、ただただまっ平になっただけの地形が残った。
巨兵が膝を付き、ボロボロと体が崩れる。
「……
は、とディロンが見下す。
何千年だが何万年だがわからないが過去にこれだけの巨兵を作り上げたというのは確かに称賛する。
地球においても人型の兵器などは作られていないし、そもそも人型にした時点で歩かせることすらままならないのが殆どだ。
ならばこれだけのサイズで俊敏に動かせるというのは驚異的ではある。
それが近年作られたというのならば。
過去に作られた聖遺物──ということは今では作れないガラクタ同然。
何もわからないブラックボックス。その程度に負けることはないとディロンは嘲笑った。
「……あ? ──再生……いや。修復か」
少しずつ、少しずつかけた体が戻っていく。
無から有が生じ、かけた腕が。胴体が元に戻っていく。
「早いうちに壊すか」
翼を大きく広げ飛翔。遠くに飛ばした巨兵に一秒未満で到達する。
そのまま腕を突き出し胴体へ直撃。巨兵を更に向こうへと押しのける。
「この……!」
ルイゼンベルグもただ受けるだけではない。腕を振るい胸から弾くように腕を振るう。
しかし巨体を動かすよりディロンが見てから動く方が圧倒的に早い。
腕は虚無を掴むだけに終わる。
真上に飛翔したディロンがかかと落としを巨兵の頭部に当てる。
ずどん、と巨兵に衝撃が走りべこんと頭部が歪んだ。
粘土にパンチを撃った様に柔らかく歪む。
ディロンは更に腕を押し込み、扉を開く様に押しのける。
ぎちぎちと嫌な金属音を鳴らし頭部を突き進む。
「──みぃつけた」
にやぁ、とディロンが気持ち悪く顔を歪めた。
頭部の底。おおよそ首元辺りまで突き進んだ先にいたのは杖を地面に刺したルイゼンベルグ。
上半身だけを見せるディロンは更に進み、狭い空間に降りたつ。
「死ね──!」
軽く、腕を振るう。
これまでの超高速の拳ではない。一般人でも視認できる程度の──本人にすれば蚊が止まるような速度。
ここまで来たことで気が緩んだか。あるいは見下していたからか。
──予期せぬ攻撃を、ディロンはその身に受けた。
「──あ”ぁ?」
──何が起こった? 何をされた?
一瞬の思考の空白。それを突かれディロンは距離を取られる。
非常に狭い空間だが三人程度が入れる程度の隙間ならばある。壁ぎりぎりにルイゼンベルグが移動した。
「油断しすぎだ。化け物!」
ルイゼンベルグが冷や汗を流しながら叫んだ。
何が起こったか。痛みの個所に手を当てる。
(──貫かれたのは喉か!)
よく見ればルイゼンベルグが手に持つ杖。それから眩い光が出ている。
見るだけで目をしかめる。近づきたくもない汚物にすら思えるそれは輝かしいまでの──朝日の様な神々しさを纏う剣だ。
光が集い、剣の形となっているそれ。それで喉を貫かれたのだと一拍遅れて気づいた。
まぁ知ったことではないが、とディロンが跳躍した。
「──がっ」
「オマエモ油断したじゃねぇか」
はっ、とディロンが笑う。
確かに目にするだけでむかつく。言いようのない不安が襲ってくるが──我慢できない程ではない。
がしりと頭部を掴み、持ち上げる。
「じゃあな。クソ王。惨めに死ね」
ぐちゃり、とトマトの様に王の頭部を握り潰し。
べちゃり、とルイゼンベルグの死体が落ちた。
「──ようやく死んだか」
ルイゼンベルグの死体を確認し、ディロンが安堵のため息をついた。
エルフの森にて戦った強者と同じく苦戦した。
肉体能力ならば誰にも負けない自負がある。だが圧倒的に技術と経験が足りていない。
やはり経験を得るべきか。あるいはケントニスに教えを乞うべきかと考えるが──いずれ地球に帰るのに戦闘手法など得ても無駄か、と思考を辞める。
どん、と地を蹴り跳躍。巨兵の頭から抜け出す。
「おや。生きていたか」
ふわふわとケントニスが浮遊し寄ってくる。
「生きてるわボケ。で? 後はどうする」
「城に戻れ。城の宝物庫にユーカリの地図があるはずだ」
「了解」
ばさり、と翼を広げ空を飛ぶ。
全力飛行ではなく、ゆっくりとした──それでも非常に速いが。本人にとっては軽く飛翔し城に戻る。
城の城壁は無残にも破壊され切っている。主に巨兵で内側から破壊したものが大きいが。
それに合わせてディロンの破壊光線による破壊も相まってすぐにでも崩れても可笑しくない有様だ。
「……お前は本当に一度手加減を覚えた方がいい。手にすべきものをその手で握り壊さないうちに」
「……考えとく」
翼を仕舞い、城の中を歩く。
細かい瓦礫の中。トカゲに似た鱗の生えた脚ならば痛みはなくかつかつと歩みを進める。
「方角はどっちだ?」
「魔力の流れからしてこちらだ」
ついて来い、とケントニスが先導しそれについていく。
人の気配は無い。
ディロンの耳に入るのは瓦礫が崩れる音のみ。人の呼吸音や気配一つ感じ取れない。
青い廊下。青い天井。
薄青。目には少し優しいような優しくないような色をしているとディロンは歩きながら考える。
全員殺す為に突撃した時と違い、今は心に余裕がある。それだけで案外見え方という物が変わるのだとディロンは感心する。
「ここだな」
たどり着いた先は巨大な扉。
恐らくは鋼鉄製。それにルーンが刻まれている。
「ふむ。鍵がかかっているな」
巨大な扉に相応しい巨大な錠前。
人の頭部ほどの大きさであり入れるのは鍵とは思えない形状をしている。
四角い物をハメれば開くギミック。
さてどうするか。ケントニスが思案する間にディロンが片足を上げる。
それ見て察したケントニスが「待て」──と言い切る前にディロンが足でけった。
ばぎ、という硬い金属音を鳴らしあっけなく錠前が破壊された。
それと同時に地面から小さい穴。人差し指程度の穴が開き中から細長い槍が突き出される。
風切り音を鳴らしながら槍が突き出てディロンの皮膚にあたり、弾かれ刃を削られる。
数秒後槍は穴の元に戻って行った。
「よし。無事空いたな」
「それのどこが無事だ阿呆」
少なくともディロン──人外でなければ死んでいた。
皮膚に突き刺さることなくガリガリと逆に槍側が削られるだけに終わるのは流石は魔人といったところか。
「別にいいだろう。罠があっても踏みつぶせばいい」
「お前が耐えれても秘宝側が耐えられなかったらどうする。死なば諸共の大爆発だったら全て無駄になっていたぞ」
「あー……その可能性もあったか。すまん」
「……次からは行動する前に私に確認しろ。いいな。勢いだけですべてをやろうとするな」
「そんな餓鬼じゃないんだから……まぁ確認ぐらいはする」
二人でそんな会話をしながらディロンが扉に手をかける。
巨大な扉だがディロンは重さを感じさせずに──普通の扉の如く開く。
鍵を破壊し、力技で強引に扉をこじ開ける。
重い音を鳴らし、地面と扉が擦れる嫌な音に顔をしかめる。
そうして開いた先は武器庫。
広い部屋に多数の棚と箱。
壁には幾つもの──数えるのも億項になる程の武器。
ルーンが刻まれた剣に槍。
刻まれていないのは魔道具の類か。マネキンに鎧がつけられているのもある。
そのすべてが一級品。鍛え上げられた鋼に一級の術氏がルーンを刻んだ武具。
ルーン製はどれも性能は同じだが──紛れている魔道具の類は才あるものが使えば都市一つ滅ぼせるような斬撃を放てる剣すらある。
しかし目的は武具ではない。他はないかときょろきょろと頭を動かす。
「……地図は何処にある?」
見るかに武器庫。地図があるとは思えないとディロンがケントニスに目で訴える。
「こっちだ」
ディロンの訴えを無視しケントニスがふわふわと浮遊し先へ先へと進む。
迷いなく進む様にまぁ大丈夫だろうとディロンがついていく。
一人分の足音だけを鳴らし、奥に進む。
「これだ」
ケントニスが指し示すは小さな箱だった。
ディロンの巨大な手なら片手で持ててしまう程度の箱。
「よし」
「私が明けるからお前は待ってろ」
無理やり開けられて壊されてはたまらんとケントニスがぼやく。
(無理やりやった方が早いし楽だからいいじゃん……)
まぁ正攻法の方がいいというのはわからないでもないが、とディロンは呟く。
ケントニスが箱に触れる。
触れた手から魔法陣が浮かび上がる。
異世界の言語でも日本──地球でも見たことのない言語。
ミミズがのたうち回った様に文字が蠢くそれをディロンは解読する。
(……解錠。解析。分解──開くための魔術か?)
随分と文字が多い。ケントニスの魔術は何かしら違うのか。
意味のないことを考えているとガチャリという如何にもな空いたとわかる音と同時に箱が開く。
たった一枚だけ。慎重に置かれている巻物をケントニスは取り出す。
「これだ。これがユーカリの地図だ」
ディロンに見せつける。
「ほーん。これがそれか」
ユーカリの地図。ドワーフが持っていた最高位の
スクロール。獣の皮をなめした様に思える皮。
紐で閉じられた状態では中身の詳細は分からない。だが金の装飾が施されているのを見ればただの巻物ではないとわかる。
「……」
「……? どうしたディロン。目的の物は見つかった。戻るぞ」
「あぁ。いや……」
呼ばれている気がする。
そう返しディロンは更に先へと進む。
「おい。そこは──いや。まて」
ディロンが壁に触れると同時に壁が消える。
幻か。霧のように壁が消えうせ──通路が現れる。
現れたのは明かり一つ無い廊下。光の届かない場所は無限に続くかのように思える。
「……なんだこれ」
「何かしらの魔道具による幻術だ。ふむ。はてさてなにがあるか」
ケントニスの言葉を無視し先へ先へと進む。
途中からは直線ではなくなり斜め下へと変わる。
手すりも階段も無い道を進むこと数分。最奥にたどり着く。
「……剣?」
「の。ようだが」
それは一本の剣だった。
明かり一つ無い部屋の中央に描かれた魔法陣。その中心に黒い剣が突き刺さっている。
鍔も刀身も全てが黒。闇を凝縮した様に黒だけで構成されている。
剣が突き刺さった先から漏れ出るように黒い煙が噴き出しディロンが危なそうだと手を振るい煙を払う。
「ふむ。なにかは知らんが何かしらの封印の要になっている。はてさてどういうことか」
「……抜いてもいいか?」
「……何を封印しているにしてもこちらにとって悪いことにはならんだろう」
多分。という言葉をケントニスは飲み込んだ。
ディロンが剣に手をかけ、勢いよく抜いた。
ズボン、と言う擬音が聞こえそうな程に勢いよく。
「お?」
途端に異変が生じる。
魔法陣が消えうせ黒い煙が勢いよく噴き出す。
咄嗟に口を手で防ぐが意味はない。煙はディロンの体を透過し部屋に満ちる。
視界の全てが煙に覆われ部屋ごと壊すかとディロンが動きかけた時。煙が動く。
煙が人の形に集い習合する。
途端にぱっと煙が晴れ──何者かが現れる。
「誰だお前」
人間ではない。
では魔物や魔族──という訳ではない。
人型の実態。ディロンが見上げねばならない程の巨体──凡そ三メートルほどの体。
甲殻類を思わせる体。関節部分は蛸のように柔らかそうなのに対しそれ以外は殻に守られている。
手足の指が以上に長い。五十センチはあるであろう指先は先端が尖っており刺突でもしてきそう。
頭部は口が一つ。上下から生えた牙が外に突き出ている。
カブトムシや家庭の台所でよく見る害虫の様に体が黒い異形。
「初めまして魔神。遥かな遠くからの来訪者。
異形──ウードが紳士の如く振る舞い、頭を下げた。