殲滅戦争 作:Libro
「ウード? お前こんなところにいたのか」
ウードが名乗りをあげ終えると同時にケントニスが声をあげた。
「……知り合いか?」
旧友にあったかのように機嫌をよくするケントニスにディロンが驚愕しながら問いかける。
以外に交友関係が広いなという関心も含めた声だ。
「知り合い、という訳ではないが……まぁお互いによく知っている中だな」
そうか。とディロンが軽く返す。
「よく知っているなんてものじゃぁないでしょう。お互いに」
くつくつとウードが笑う。
「まぁそこら辺はどうでもいい。邪魔さえしないならどうでもいい──が。何かするならぶち殺すぞ」
ディロンが魔力を放ち威圧する。
膨大な魔力は放つだけで害となる。異形であるウードは何ともないがその力に畏怖し、壁や床は魔力で汚染され罅が入る。
威圧されながらもウードは極めて冷静に。かつ紳士的に振る舞う。
「邪魔なんてとんでもない。私はあなたの力に成れますよ」
「あぁ? どういう意味だ」
「そのままの意味です。あなたの最終目標──は兎も角。その過程と結果で生じる全ては我ら悪魔にとっても好都合。であれば我ら悪魔一同あなたに是非とも協力したくはせ参じました」
悪魔。その言葉にディロンが眉を顰め何か問いただそうとするもそれより早くケントニスが横やりを入れた。
「ああ。お前──いや。なるほどなるほど。ここに魔界との境界線があったのか。そしてそれをあの剣が封印していた、となるほどなるほど」
「──そこら辺はクソほどどうでも良い。ケントニス。こいつは使えるか? 使えるとして邪魔にならんか?」
「ふぅむ。ウードは空間を操れる唯一の悪魔。そして一同という言葉から最低でも数万の悪魔が味方に付き──そして我らの目標から考えるにお互いに利益のみが発生する」
よいぞよいぞとケントニスが歓喜する。
「であれば問題なかろう。ウード。いったい幾らの悪魔がついてくる?」
「そうですねぇ。雑兵数百万。精鋭数十万。そして私一人といったところでしょうか」
「……はぁ?」
数百万。その言葉にディロンがあっけに取られる。
冗談の類でないのはチートでわかる。だからこそわからない。
いったいどこにそれだけの戦力があるのか。そしてあったとしても相手にしてみれば有象無象に等しい自分にそれだけの戦力を貸す余裕があるのかと。
「なるほどなるほど。実にいいな。お前たちならばその程度些事に等しいと」
一人だけケントニスがうんうんと頷き納得するのに対し、ディロンは苛つきながら問いかける。
「悪魔だとかそういうのがわからんから説明くれ。あと数百万とかいう馬鹿みたいな数の根拠も、どうやって用意するのかも」
「ああ。お前は知らないのだったな。はて。何から話したものか」
ふぅむ、と触手の手を顎に当てケントニスが考える。
数秒の沈黙ののち話し出す。
悪魔。
元々は善なる神々が用意した超常存在である精霊。
邪悪なる神々が作り出した魔物や魔族に対抗するために善なる神々側も兵士を求めた結果生み出された種族である精霊。
それらが反逆。ないしは邪悪なる神々に手ごまにされてしまったのが悪魔。
世界を管理する精霊が堕天。反転してしまった者達。
元が世界を管理する存在である以上その力は非常に高い。
また単純な身体能力や魔力総量以外に管理者としての力をある程度──精霊には劣る程度に保持している。
今の冒険者ランク制度でも最下級でさえC級とされる超越者。
広義的な分類上では魔族に入るが元が善なる神側である為"悪魔"という分野に分けられている。
「──悪魔の総数は数十億から数千兆。たまに増えたり減ったりするからこその数だ。
だからこそ数百万ならば失っても問題ない。悪魔は元来魔界というこの世界とも違う世界にいる。
そのため通常の手段ではこの世界に顕現できないが──まぁ我らゼーベよりは制限が緩い。
更にこの魔界との通行を可能にするこれだ。これも使えばその程度の数容易に揃えられるということさ」
「……なるほどな」
「大方ドワーフ共か──あるいはここに城を築いた者どもはこれを見て封印でもしてたのだろう。これを使えば悪魔たちは面倒な手順無くこの世界に来れるという訳だ」
話に矛盾は無い。ディロンはそう判断する。
その数を用意できる理由。馬鹿みたいな話に使用できることも全てにおいて問題ない。
しかしやはりながら都合がよすぎる。誰かに予め渡すかのように用意されたように。
(……まぁ。関係ないか。何がどうなろうと元の世界に帰るだけだ)
罠だったとしても。誰かにはめられているのだとしても。
そのようなことは関係ない。全て踏みつぶせばいいだけだ──という子供じみた。あるいは思考を停止しウードが来るのを受け入れた。
「受け入れよう。ウード。精々俺の役に立て」
「うーん上から目線。ですがまぁいいでしょう。お互いに協力関係ということで。winwinのという奴です」
すっと。ウードが握手を求めて手を差し出す。
それに対しディロンは特に何も考えず右手を差し出しがっしりと握手を返した。
ここに異界の魔人と魔界の悪魔の協力が鳴った。
数千程度の魔族。数百万の悪魔。魔神。邪神。大悪魔。
何処をどう見ても世界を滅ぼす邪悪なる軍勢の完成。
攻守ともに完璧な軍がここに生誕した。
「で。だ。何処にその数百万の悪魔を出す?」
握手を終えディロンが一番の問題を問いかける。
「あと悪魔の食事とかその他諸々の問題だ」
言いながらも悪魔に食事などがいるのか。疑問を抱くが聞くだけ聞いておく。
魔族や魔物に食事などはいらなかったが悪魔もそうだとは限らない。数は用意できたけど食糧不足で全滅しました──なんて笑い話にすらならない。
「そうですねぇ。そこら辺は大方問題ないですよ。悪魔に食事はいりませんし私の力で何時でも何処でも悪魔の軍勢を展開できますし」
細かいところは随時確認すればいいでしょう。我らに時間は無限にあるのだから──とウードが締めくくった。
「まぁ。問題が無いというのならいい。とっとと行くぞ」
振り返り城の外に出ようとした瞬間。ぱちん、とウードが細長い指で起用に指を鳴らした。
なんだ。と警戒する間も無く風景が変わった。
視界の先に移るのはウードではなく城──自身が派手に壊した残骸になりかけている王城が映る。
「これは……あぁ。空間を操るとか言ってたな」
ということは転移系の能力か。と一人ディロンは納得する。
「いくざくとりー。その通りです。私は唯一転移魔術を自在に扱えるもの。私にかかれば数万だろうが数億の軍勢だろうが何時でも何処にでも輸送できます」
空間転移。
ディロンがこれまで見聞きした中やケントニスからの魔術講義では一度も名が出ることのなかった魔術。
この世界ではまず空間転移や操作系の魔術は存在しない。
空間を移動する。それ自体に莫大な魔力が必要だということもあるが問題はそこではない。
邪悪なる神々がこの世界に直接顕現出来ないようにするための結界──それに阻まれるからだ。
そのため空間を移動する術は主に二つ。
一つは結界を張った本神であるハイリヒが干渉し結界を通らせること。不破や出雲などはこれに該当する。
もう一つは結界等知ったことかとごり押しで突破する。その二択。
現在ケントニスがこの世界にやってこれているのもごり押しで結界を突破したからこそである。
結界に阻まれるせいでケントニス達ゼーベはこの世界に来るにあたって力を限りなくそぎ落とされる。かつて顕現した死の邪神などは力の半分以上をそぎ落し顕現せざる負えなかった。
そしてウードは唯一結界に阻まれることなく自在に空間を移動し、操ることが可能な存在だ。
他の邪神も結界に阻まれる以上自在な転移というのは不可能。邪神ですら不可能なことを容易くこなせるという異質性を持つ。
その代わり単体での戦闘能力は非常に低い。単純な耐久性能だけで言うのならばそこらの剣を持った一般冒険者に切られれば死ぬ程度には弱い。
だが空間移動という唯一無二の能力を持つのならばその程度の代償は安い物だろう。
そしてふと。空間移動──転移ということを知ったディロンが疑問を抱き、反射で問いかけた。
「なぁウード。この転移で俺を地球に帰せないか?」
それは当然の疑問だった。
ディロンの目的は地球への帰還。それさえ叶うのならばこの世界がどうなろうと知ったことではない。
虐殺などもした方がいいと思うからこそするだけ。ならば地球への帰還がすぐさま叶うのならば辞めていい。
「無理ですねぇ。地球への転移は。流石に遠すぎますし、私は地球の座標などの情報を一切知りません。
まぁ元の世界に帰すだけならば可能ですがその場合何処に行きつくかわかりませんよ。地球から離れた何兆光年も離れたところに転移するとかありますが
……それでもいいなら転移します?」
「……流石にそれは困るな。やめとこう」
太陽系ならまだしも地球から観測できない程の遠くに転移でもさせられたら困る。
自身の目的はあくまでも地球への──日本への帰還。それが遠ざかるようなことは避けるべきだ。
「じゃあ。とっとと魔王を回収してこの山を出るぞ。こんなところに要は無いからな」
「……なぁケントニス。この山にはもう用はないんだよな?」
ディロンが確認の意を込めて問いかける。
魔神と邪神と大悪魔三人が仲良く横並びで歩く様は異様。
その三人が仲良く会話をするというのも常人ならば発狂する光景だ。
「まぁ要件は済んだな。それがどうした?」
「いや。手っ取り早くこの山を出ようと思ってな。ウード」
「……なんでしょうか?」
「数百万の悪魔はどうやってくるんだ?」
「あぁ。私が転移で持ってきますよ。私が顕現出来ている以上魔界とこの世界の壁等無いに等しいので」
「よし。ならちょっと本気出すぞ」
「なにを──」
ディロンが何をするのか。問いかける前にディロンが行動を始める。
腕はそのまま。手のひらを外側に向け魔力を集中させ始める。
莫大な魔力に二人がヤバいと思うと同時にディロンが魔力を解放した。
「名付けて──『破滅の光線』」
少し中二くさいか。本人はそう思いながら光線が放たれる。
遠目に見ればただの光の塊に過ぎないそれは幾百の光線の塊。
幾千の糸が集い光の塊となる。
瞬間。炸裂。
制止する間も理解する間も無い。刹那の光。
すべてが埋まる。目を閉じてなお防げぬ眩しい──太陽を思わせる光。
城を包み街を包み──ドワーフの都市全てを飲み込むなお溢れ出す。
エルフの森とほど近い都市も。遥か遠くに離れた交流無きドワーフの都市も。
平穏に暮らしていた人々も。ただそこにいた獣も巻き込み山脈の一角を包み込んだ。
一秒。一瞬。あるいは刹那。
時間はほぼ立っていない。何があったのか術者と周囲にいたケントニスとウード以外は認識する間も無く消え去る。
「……恐ろしい」
ほぼ興味本位で魔界から現世にやって来たウードがポツリと漏らす。
光が収まった先にあったのは──本物の太陽。
風の音が響き、瓦礫が崩れる音と共に小鳥が空の向こうからやってくる。
「太陽か……」
山脈の一角を破壊し、見上げるは本物の空。
雲が形を変えながら空を漂い、山頂の雪が雪崩となって振ってくる。
無事なのはディロンとウード。ケントニスと遥か遠くでシュッツ相手に終わりなき戦いを繰り広げていた魔王。
眷属である
それ以外の全ては等しく消えた。
(──ありえん!)
自分が無事。その事実にケントニスは驚愕する。
(魔術に敵味方の自動識別機能等無い!
魔術を教えて──いや力を手にして一年と少し程度の者が出来る芸当ではない!)
ただ一人。魔術や魔法に精通しているケントニスだけがディロンの力に畏怖する。
単純な破壊規模だけならば予想の範囲内。だが敵だけが攻撃を受ける。ディロンにとって味方だと認識している者には影響を与えない。
(──不破泰二に魔術の才能は無い。それは確かだ。変わりえない。破壊能力だけなら魔神の肉体を得た者ならば可能だろう。だが味方に影響を与えない。これだけは可笑しいと断言できる)
──もしくは。
(……不破泰二が会得した魔神が私の予想以上の産物だった。あるいは──)
魔神ではない。別の何かだったか。
「さぁ。行こう」
ケントニスの混乱を他所にディロンが行動を始める。
片足を地面に突き刺し力を籠め始める。
眷属製造。あるいはゴーレム製造──知識を得たせいでどのような力か本人もわからなくなったそれを行使する。
純白が闇に染まる。大地がひび割れ崩れる。
地面が揺れ突起し、三人を持ち上げる。
がたがたと歪な音を鳴らし円盤状に変形し、手足が横から生え自身を支え歩みを始める。
真っ平な──虚無の平野とかしたドワーフの都市だったものが闇に染まりボコボコと湯が沸くような音と共に人型の怪物が生まれ落ちた。
瓦礫が独りでに動き出し残った僅かな魔族と魔王を載せて走り出す。
向かう先は山脈の向こう側。エルフの森を食い破り。湖の居城を乗り越えて。砂漠を踏破し海を越えよう。
森の向こう側からドアイラクが狂気の笑い声を上げる。平野からはトーベンが産声を奏でる。
異形を生み出し使役する。その姿にケントニスとウードという生粋の異形が戦慄する。
魔術や魔法に詳しいケントニスは猶更。ディロンが行使する力の異質性に気づき恐怖する。
ディロンの魔力に呼応し封印された扉が開き向こう側から悪魔たちが這い上がる。
ウードが呼び出す予定の者達以外。偶々扉の近くにいただけの異形の者達。
「目に映る全てを侵略し。邪魔するものは踏みにじり。遍くすべてを蹂躙しよう」
昼の明かりを夜の闇に書き換えて。異形の軍は進軍を開始した。