殲滅戦争   作:Libro

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第45話

「……平和だな」

「そうね」

 

 大国クリセルダ。城下町。

 湖の上に立てれた居城の先。城と街を分ける橋の向こう側。

 かつては無造作に家や商店が建てられたが再建にあたり整理された区画の一つ。

 冒険区という武具や魔術。保存食等。名の通り冒険に必要な者が揃う区画を三人の男女が歩いていた。

 

 一人の女は王城の騎士。軽装鎧を纏いその背には背丈に合わぬ長槍を背負っている。

 

 残りの二人は男と女で一人づつ。奇怪な格好をしていた。

 

 クリセルダ国内には存在しない学園。それに非常に似通った──現代日本における高校生の制服。それを改造したものを着用している。

 ベースは制服そのもの。だが胸や膝。腕には鋼鉄のプレートが取り付けられている。

 制服部分もまた外見こそ日本のそれと同じだが材料はこの世界──異世界性の物で作られている。

 束ねれば金属の様に硬くなる蜘蛛の糸で編まれた服。大男がハンマーを振り落としても傷一つ付かない金属製のボタン。

 一着で下手な城なら購入できるレベルの代物である。ただの町人は"珍しい服"としか思わないが冒険者や商人は一目見てその服の異質性に気づく。

 

 その嘗め回すような視線を二人は敏感に感じ取る。

 

「……やっぱ変かな」

「……今更じゃない?」

 

 男──藤原がぼやき女。出雲が答えた。

 

 他の者は皆ゲームや漫画にしか出ないような恰好をしているのに対し自分たちだけは普通の恰好をしている。

 多少改造されているとはいえほぼほぼ日本の制服と同じ格好。本人たちにとっては多少の安心感を得れるが第三者からの視線というのは考えていなかった。

 例えるならハロウィン等の仮装イベントで一人だけ普段着で来てしまったような。そのような気恥ずかしさを覚える。

 

「お、お二方! 何か行きたいところはありますか!」

 

 そこに女──リナが声を上げる。

 緊張で顔が強張り声も大きいリナの声に二人は服の事は忘れて異世界のことを考える。

 

「そうね……私は特にないのだけれど。藤原君は?」

「あー、そうだな……武器屋とかかな。そういうのが気になる」

 

 藤原も男だ。剣と魔法のファンタジーとなれば心躍る。

 その最たる例は武器屋だろう。日本では法律や常識の元存在しない店舗となれば興味が惹かれる。

 

「わかりました! 案内しますね!」

 

 藤原のリクエストを聞きリナが「こちらです」と案内する。

 多少緊張が解けて来たのか。手と足が同時に動くようなことはなくなりごく普通に進む。

 

(わぁ~! 勇者様からのリクエスト! 完璧にこなして見せる!!)

 

 しかしながら心のうちはいまだ緊張する。

 何しろ相手は勇者。おとぎ話や歴史書にしか出てこない者。それと目と鼻の先で会合し、会話をする。

 孫の代まで語りづけれる。本人は興奮し息が荒くなる。

 それを見た藤原と出雲は大丈夫だろうかと心配した。

 

 リナ。平民出身の騎士。

 貴族の名家や親が騎士や冒険者だったという経歴も無いごく普通の家庭出身の者。

 数年に一度開かれる騎士募集に応募し受かっただけのつい最近騎士の称号を会得した一般騎士だ。

 

 何故そのような一般騎士が案内役となったのか。理由としては勇者たちの行動を把握するためである。

 藤原と出雲が転移してから凡そ二か月。そのほとんどを王城か練兵場で過ごしてきた。

 相手するのは王族や騎士団団長などといった位の高い者が殆どだ。

 その生活に当たって王族や騎士等は二人を受け入れた。

 神の使者。世界を唯一救える存在として。

 待遇は王と同等。無礼な態度も我儘も全て受け入れる気概でクリセルダは対応してきた。

 元々二人は学生。身分の高い者──会社で言う上司や社長との会話方法等殆ど知らない二人の怪しげな会話を笑顔を持って受け入れた。

 

 だからこれは最後の確認。これまで蝶よ花よと崇め立てられた者が騎士や一般人にどう対応するのか。

 流石に国側も"流石にこれ甘やかし過ぎたな"と多少の反省を元にした確認作業という少々おごりが過ぎるが。

 しかし二人のこれまでの会話は相手への敬意や真心が込められている。まさに勇者に相応しい人格を持っていると国側は判断している。

 だがらこその最後の確認。これまでの言動も行動も全てうそでした──なんて事態は早々ないだろうがそれでも確認する。

 もしこれで人格破綻者等だったらそれなりの使い方という物があるからこそ。

 国側はそこまで考えてはいるが考えすぎとも思っている。何しろ神の使者。世界を救う存在に対して不敬な考えでは──という声も上がったがそれはそれとして確認しておく。

 というのが今回の散策である。

 

 案内役の騎士こそリナ一人だが護衛として十数名程度の腕利きーいっても冒険者には劣る程度の騎士が隠れ潜んでいる。

 そのことはリナにも伝えられていない。だからこそ三人は自然的な動きをする。

 

 てくてくと三人は歩き、とある鍛冶屋にたどり着く。

 広い鍛冶屋だ。外には何に使うのかよくわからない巨大なハンマーや大きすぎるインゴットが野ざらしにされている。

 

「ここです!」

 

 ふん、と胸を張りリナが自慢する。

 

「この鍛冶屋は?」

「はい! 冒険者向けの鍛冶屋です。剣や槍。盾に斧等多種多様な武具が揃っています!」

 

 斧は武器に入れていいのだろうか。出雲がそう思いながら気軽に入っていくリナの後ろを追う。

 

 ちゃりん、と軽い鈴の音が響き店に客が来たと知らせる。

 

「おぉ……広いな」

 

「……そうね」

 

 店なんだから広いでしょう。という言葉を飲み込み出雲が藤原に同意する。

 

 店に入れば一面に広がる武具の数々。

 

 店に置かれたテーブルには見たことのない文字──ルーンが刻まれた剣。先端部分に重心が偏った斧が置かれている。

 壁側には装飾一つない盾。見た目だけはカッコいいが着るのも脱ぐのも苦労しそうな全身鎧。

 立てかけられた装飾がこれでもかと施され剣どころが武器としての性能を感じられない剣。

 

 日本では見ることの決して出来ない。アニメやゲームなどの画面からしか見れない光景を生で見たことに二人は興奮する。

 

「らっしゃい。最高級とはいかないが最良の武具を取り揃えている。好きに見てってくれ」

 

 奥のカウンターには店主らしき初老の男が一人腰かけている。

 新聞を両手に広げ、ちらりと三人を一瞥しすぐに新聞に視線を戻す。

 

「紹介します! こちらこのゲオルク工房の店主。ゲオルクさんです!」

 

(店名と名前一緒なのか)

 

「ん。あぁリナちゃんか。大きくなったな。……そちらの二人は?」

 

 じろりと新聞から眼を放し店主──ゲオルクが出雲と藤原。二人は睨む。

 

「ゲオルクさん! 。この二人は勇者様です! 異世界からこの世界を救うべく来られた方なのです!」

 

 えっへん、と自身のことかの様に二人を自慢し紹介する。

 

 その言葉にゲオルクは「はぁ?」と言葉を漏らす。

 何を言っているのか。そう考えながらも出雲と藤原二人を今度は直視する。

 

(見ねぇ服だな。何処のだ? ブーフの服に似てるが……あの髪と目の色。ありゃ初めて見たな……ていうか御伽噺の勇者と同じじゃないか?)

 

 そこまで考え。一度視線を新聞に戻す。

 数秒新聞を直視し、直ぐまた視線を二人に戻す。

 

 二度見された藤原と出雲はなんだろうとゲオルクを直視し目と目が見つめあう。

 

「……勇者様じゃねぇか!」

 

 がたり、と椅子を蹴飛ばし立ち上がる。

 

「え、リナちゃんほんと?! この方たち勇者なのか!」

 

「はい! ほんとですよ!」

 

 ふふんとまたも自慢するようにリナが胸を張る。

 

「ほ、本当なのか? 本当に……勇者様なのか?」

 

「──はい。一応は勇者をさせてもらっています」

「えぇと。はい。勇者です」

 

 出雲は胸を張って答え、藤原は照れ臭く答えた。

 何しろ勇者というファンタジーそのものだ。如何にここが異世界で事実として勇者だとしてもそれを名乗るは羞恥心が勝る。

 

「──ま、まじか! えぇ! あ、握手して貰っていいでしょうか?!」

 

 腕をわっさわっさと振り回し、子供の様にゲオルクは歓喜する。

 幻想が現実に現れた。その感動を全力で表現する様に藤原と出雲は若干引き、リナはまるで当然と胸を張る。

 

 その光景にやはりここは異世界なんだな、と二人して苦笑する。

 

「あーと。一応勇者ですが……まだ何の功績も無いですよ?」

「いえいえ! 勇者様と握手出来るってだけで生涯の宝です!」

 

 キラキラと少年の様に目を輝かせるゲオルクに押され、二人は握手をする。

 

 硬い手だ。剣ダコの様な鎚を振るい続けることで付いた後。

 手のひらの筋肉も凄まじい。単純な握力ならば元の二人を圧倒している。

 右手で出雲を。左手で藤原の手を掴むゲオルクは興奮して手を振り回す。

 

「いやほんとありがとうございます! 何も無いところですがゆっくりしていってください!」

 

 ぱっと手を放し。「すげぇ。俺勇者と握手したんだ……」と興奮覚めぬ声でつぶやく。

 

 自身が偉くなったかの様に錯覚してしまう。

 アイドルか芸能人か。それらに合ったように──あるいはそれ以上に燥ぐ様を見て藤原は何とも言えない気分になる。

 

(いかんいかん。気を付けないと)

 

 これはあくまでも自分が勇者だからこそだ。勇者だから褒められているだけ。勇者ではない自分に価値は無いと思い込ませる。

 

「どうぞ好きな武器を見てってください!」

 

 興奮覚め声に若干引きながら好きに武器を見る。

 

(映画のセットみたいだな)

 

 武器は武骨な物が多い。

 

 特に装飾もされていない武器が大半を占める。

 鋼鉄の剣や槍。盾に斧。

 主な材料は鋼鉄。

 武器の下に置かれた看板には材料が書かれている。

 

 それらを一つ一つ読んでいく。

 

(これは鉄。こっちはミスリル。こっちは……オリハルコンか)

 

 ファンタジーの鉱石勢ぞろいである。

 

 アダマンタイト等は何だったか。王城で受けた教育を思い出す。

 単純な物理強度で言うならばアダマンタイトが最高峰だと言う。

 アダマンタイト。オリハルコン。プラチナ。銀。金。鋼鉄。鉄。

 主に扱われるのはこの七種類の鉱石だ。左が最高硬度。右が最低硬度。

 現実──地球でならば金やプラチナは武器には絶対に向かない物質だが異世界では違うらしい。白く輝く剣が堂々と飾られている。

 

「あの。少しいいですか?」

 

 何となく剣を眺めていた藤原と違い出雲は何かしら気になるところでもあったのか。店主に問いかけた。

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 先ほどまで騒いでいたのが嘘のように静かだ。だが顔は少し赤い。

 興奮が冷めていないのか。あるいは先ほどまでの痴態に気づき羞恥を抱いたか。

 

「ずっと気になっていたのですが……魔物を素材にした武器。というのはないのでしょうか?」

 

「──そういえば聞いたこと無かったな」

 

 出雲の疑問にそういえば。と藤原も疑問を抱いた。

 

 魔物の素材──それこそ竜の鱗や魔物の骨を使った防具。等は聞いたことが無いしこの店にもそれらしいものは無い。

 あるのは全て鉱石性。言っては何だが現実にもあり得る程度の武具類だ。

 

「魔物を……素材に? 勇者様は面白いことを言うんですね」

 

 ゲオルクが引き攣った笑いを漏らした。

 それを見たリナが"あっやべ"と見るからに慌てふためく。

 

(あっこれ聞いちゃいけないこと聞いたな?)

 

 早速やらかしてしまった──と出雲は後悔する。

 

「あぁ。すみません。馬鹿にしたとかそういうのではなく……まぁ魔物で武器とか作れたらいいとは思いますが……魔物は死ぬと灰になっちゃうんで。作れないんですよね」

 

「──なるほど。そういうことでしたか。無知を晒してしまってすみません」

 

 出雲が軽く頭を下げ謝罪する。

 成程確かに。灰になってしまうのならば武器等作れはしない。

 アニメやゲームではドロップアイテムなどを残して消えるが異世界では何も残さず消えるだけらしい。

 

(……魔物。人類の敵。存在するだけで害となるモノ。人類を滅ぼすべく邪悪なる神々が遣わした兵士──だっけか)

 

 

 邪悪なる神々。遥かな昔世界が楽園だった時代にやって来た侵略者の末裔。

 その先兵として作り出されたのが魔物だ。

 元としてこの世界の生命体──人間やエルフ。ドワーフに始まり虫や豚。植物から岩に至るまで。

 その全てを解析し模倣し記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)が体系化させた怪物達。

 藤原と出雲に与えられた使命である魔王討伐もまた魔物が深く関わっているという。

 

 転移してから凡そ二か月。出雲と藤原が知っているのはその程度の知識だ。

 転移してからほぼすべての時間は鍛錬に使われた。

 異世界に来たことで上昇した自身の身体能力や技術の修練。

 知識は凡そ必要最低限程度。売買に使う通貨や国の名前等生きていくのにあたって本当に必要なことだけ。

 ──これには国側の"どうせ魔王倒せば消えるんだから下手に教育に時間も金もかけていられない"という面もあるが二人は気づいてはいない。

 

「……それでもなんか。動物の骨の剣とか鎧とかあってもいいような気がしますが」

「いやあの。骨とかより鉱石の方が硬いんでわざわざ骨を使う必要性は……?」

「…………言われてみれば確かに」

 

 フィックションでは動物の骨やら角を使った武具というのは定番だ。

 だが現実ではどう考えても鉄やらの鉱石の方が圧倒的に良い。

 

 需要があるのならば地球でも牛や豚の骨には多大なる価値が生まれるが実際はそこまでの価値は無い。

 精々がスープ等の食用。もしくは蝋燭等に使われる程度。鉄の代わりには決してならない。

 

 意外と現実味があるような。それでもないような──複雑な気分を味わないながら二人は店主に礼をいい退店した。

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