殲滅戦争   作:Libro

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第46話

 

「冒険者ギルド?」

「はい! そこにて登録を済ませていただきたく!」

 

 リナが啓礼と共に答える。

 

「……そういえば今回の目的は登録だったわね」

 

 武具屋を見て満足しかけていたが本来の目的は冒険者ギルドへの登録である。

 

「そういえばそうだった」

 

(やっべ忘れてた)

 

 冷や汗を流しながら藤原が答える。

 彼の頭からは完全にそのことが消え去っていた。初の城外というのもあって興奮していたのだろう。

 

「じゃあ。向かいましょうか」

 

 出雲のその一言で一同は歩き出す。

 向かう先は冒険者ギルド──町の入り口にほど近い建物だ。

 

「しかしこうしてみると。本当に人が多いな」

「まぁ王都だから。人が多いのも当然じゃない?」

 

 人間だけではない。

 獣が二足歩行しているようにしか見えない獣人。長い耳を持つエルフ。子供程度の背丈と長い髭を持つドワーフ。

 自らを亜人と呼称する種族もまた多数存在する。

 

「……なぁ。前から思ってたんだけど何で"亜人"なんだ?」

 

「あぁ。それはですね。亜人はヒトの模倣品何です」

 

 藤原が疑問を放ち。リナが答える。

 

「……模倣品?」

 

 模倣。という言葉に出雲が少し眉を顰める。

 

「はい! 神話の時代になるんですが──」

 

 リナが語るのは神話の時代。子供でも知っている絵本の話。

 

 

 昔の物語。人が生まれるより前の時。

 神が地上に居た時代。星が無かった時代。

 とある神が"退屈"と呟いた。

 その退屈を埋めるために。神は身を削って退屈を埋める物を作った。

 話が出来て。走ることが出来て。仲良くなれるモノを。

 そうして生まれたのが人類。二足歩行し喋って動ける。"神の模倣品"

 

 それを見たほかの神々が"自分たちもやってみよう"と真似て作り出したのが亜人"

 "人間の亜種"だから"亜人"という。

 

「だから亜人。なんですよ」

「へぇ……」

 

「と。着きましたよ! ここが冒険者ギルドです!」

 

 そのような話をしていれば何時の間にか目的地に到着する。

 

 辿り着いたのは大きな建物だ。

 煉瓦で出来た建造物だ。屋根もまた石性という頑丈性に振られている。

 装飾の類は少ないが壁にはルーンが刻まれており防御性能を高くしているのが見て分かる。

 また横に大きい。下手な家五。六軒程のスペースを取っている。

 屋根も高く三階建ての建物相応。扉も大きい。体の大きい亜人種や戦斧を考え扉も高く作られている。

 流石は王都にあるだけに立派な建物である。

 

「ここで登録するの?」

「はい! ただその。ちょっと裏を通ることになるんですが……」

 

「裏?」

「はい。表から堂々と入って"勇者"だと宣伝するようなことになると。手間暇かかってしまいますし。混乱も起こるということで……申し訳ないのですが。

 裏口から登録だけ済ます。ということになります」

「あぁ。なるほど」

 

 ゲオルクの反応を見れば勇者という存在は非常に大きい。

 それこそ有名人──芸能人か。あるいは大総統などの雲の上とまではいかないがそこそこ珍しい存在であることは間違いない。

 その溶暗人物が多種多様な人間がいるギルド内を堂々と入れば要らぬ混乱を起こすだろう。

 それを納得した藤原と出雲は大人しくリナについていき裏口へと進む。

 

 ギルドの位置は街の入り口に近く。また城壁のすぐ傍だ。

 依頼を受けてそのまま街の外に行く者も多いからこその位置。

 ギルドの裏となると城壁とギルドに挟まれた路地裏とすら呼べない狭い空間である。

 人一人通るのが精一杯であり一列になって進む。

 

「ここです」

 

「ここ?」

 

 どう見ても壁しかない。

 ここに何があるのかと疑問を持ち見ているとリナが壁に触れる。

 

「おぉ……」

 

 リナが触れた途端まるで壁が幻か何かの様に書き消える。

 現れたのは照明がつけられた小さな道。照明こそあるが数も少なく明かりも弱いため足元には気を付けないと行けなさそうだ。

 

(これぞファンタジー)

 

 魔術や魔法に関しては教えられてきたが目にするのは初めてである。

 初めて見た幻想に少なからず藤原と出雲は興奮する。

 

「どうぞ。こっちへ」

 

 リナが向こう側へ進み慌てて二人はついてった。

 

 

「……これぞファンタジーって感じがするな」

「ちょっと同意するわ」

 

 自分たちがアニメや漫画の世界にいるのだと。今更ながらに思い知らされる。

 道は以外にも狭く数分も歩くことなく執着地にたどり着いた。

 

「おう。来たか」

 

 辿り着いた先は応接室だ。

 ソファに机。棚と全てが揃っている広い部屋。

 振り返れば道は無くあるのはただの壁。

 ホラー的な展開だが先に目につくのはソファに座る二人の人物だ。

 

 一人は筋骨隆々の大男だ。スキンヘッドであり髪をそっているのが見て分かる。

 単なる革の服を着ているがその上からでもわかる筋肉は地球でも中々見ないレベルであり戦士としての技量が伺える。

 藤原と出雲。二人を真っすぐと碧眼で見つめる。

 

 もう一人は反対に小さな男だ。

 筋肉や戦士とは無縁そうな研究者の様な白衣を着ている。

 眼鏡をかけており魔術師等に思える。

 

「ふむ。この二人か」

 

 鋭い目で眼鏡の男が藤原と出雲。両名を見抜く。

 

(……雰囲気。すげぇ)

 

 ただ見られただけ。そのはずなのに内心まで見抜かされた気がする。

 力強く鋭い視線。視線だけで人を殺せそうなほどに鋭い。

 

「さて」

 

 二人の男が立ち上がる。

 

「私はクリセルダの冒険者ギルドマスターのシュロス。こちらはトム・マクリ。王都のギルドマスターを務めさせています」

 

「あ。これはご丁寧にどうも。お──私は藤原礼一です」

「出雲大和です」

「り、リナです」

 

 どうぞおかけになってください。とシュロスが良い三人は座る。

 

「さて。早速本題になりますが。これを」

 

 トム・マクリが箱を机の上に置く。

 特に装飾もされていないシンプルな箱だ。

 三人が疑問を口にする前に箱が開かれ。中身が露わになる。

 中身は板だ。人差し指二本程度の大きさの白金色に輝きルーンが刻まれた板。

 両端には小さい穴が開けられチェーンが通っている。

 

 冒険者の証であるドックタグ。それの改良版。

 本来の冒険者が持つドックタグはランクに関係などなく銀色で統一されているがSランク──しかも勇者となれば特別扱いとなる。

 

「これは冒険者の証です。ランクはS。それに幾つかの機能も付けておきました」

 

 冒険者のランクは基本的にAからE。

 だが何事にも例外はある。その例外こそがランクS──超越者の証。

 Aランクが単独での人類殲滅が可能と称されるならばSランクは単独での"世界滅亡"を可能にする者。

 この世界。というのは人類種や亜人を滅ぼすだけでなく世界そのもの──世界を構成する宇宙や星といった物を消せる存在という証。

 Sランクに分類されるのは神々とその化身。つまり勇者とは神々に次ぐ存在だと認められたということ。

 

「ありがとうございます」

 

 一応は王城でそのことを教えられている藤原と出雲は与えられたランクに驚愕しながらもプレートを受け取る。

 

「これが冒険者の証……」

 

 手に取り。じっと見つめる。

 何か面白い仕掛けは別についていない。裏面に見たことの無い文字──ルーン文字が刻まれているだけだ。

 知識の無い藤原と出雲では言葉の意味は解らないのでまぁ何かしら意味はあるのだろうと考えておく。

 

(普段使う言葉とかは翻訳されるのに。こういうのは翻訳されないんだな)

 

 当たり前だが世界が違うとなれば言語体系も変わる。

 藤原と出雲は神の力によって翻訳能力を会得している。

 この世界の住人が使う言葉や文字は最初から読めるし。書くことも出来る。

 意識すれば日本語で喋ることも書くことさえできる。バイリンガル──とはまた少し違うが。

 

「あぁ。それと勇者様。一つ質問があるのですか。よろしいでしょうか?」

 

「……はい? なんでしょうか」

 

 さて。一体何を聞かれるのか。二人は緊張しシュロスの言葉を待つ。

 

「何故。この世界に来られたのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「……平和だな」

「そうね」

 

 街の広場。噴水前の椅子。

 そこに二人で座っていた。

冒険者登録も無事終わった。特に審査等も無くただドッグタグを貰うだけということに拍子抜けしたが兎も角問題も無く終えたことに二人は安堵する

用事が終わり時間も出来たことで出雲と藤原。二人で仲良く座り街を観察する。

 

 狼の顔と体を持つ獣人。獣が二足歩行になった用にしか見えない子供とごく普通の──金髪碧眼の少年が仲良く街を駆け抜ける。

 その横では腰に剣を携えた老人が微笑ましく見守り、ローブを纏い杖を突きながら魔術師が歩く。

 

 ……というかあの魔術師ただの老人ではないだろうか。膝ががくがくと揺れている。

 

 はぁ、とため息を一つ零し青い空を見上げる。

 日本の都会で見上げる空よりも青い。空気が澄んでいて雲は純白。

 美しい空を見上げ、藤原は呟いた。

 

「魔王討伐。かぁ……」

「……なによ。今更怖気づいた?」

「いや。そういう訳じゃないけど」

 

 平和。それを理解することによって藤原は現実を知る。

 

 子供が呑気に走り回り。老人が日向で井戸端会議を開く。

 青年が元気に荷物を持って走り回り、巨大な斧を背負った幼女が家々を駆け巡る光景。

 

 多少日本では見られないのも交じっているが紛れもなく平和な光景だ。

 

 その光景が──自身の手に委ねられている。

 

 魔王。異世界から来たとされる存在。

 魔王は存在するだけで全ての魔物の能力が強化される。

 本来ならただの村人でも倒せる程度の魔物が村一つ滅ぼせるほどに強くなるという。最悪の権化。

 

 それを打ち倒す為に勇者として自分たちは召喚された。女神の力をもってして。

 

 もし魔王を倒せなければこの光景は消えさえる。幼子の悲鳴が街に轟き人々は血の海に沈む。

 

 その責任感。たった一つの失敗で全てが終わるという重圧。それに潰されそうになる。

 世界を救うなど高校生である藤原には想像もつかないことだ。普段やっているゲームではよく魔王やら邪神やらで世界が危機に瀕するのを救ったがそれはゲームの話。

 現実では取り返しがつかない。(コンテニューは存在しない)あるのは終わり(ゲームオーバー)ただ一つ。

 

 この世界に生きる全ての命を背負っている。街を歩いたことで今更ながらその事実に恐怖する。

 

「考え過ぎよ。あなた」

 

 それに対し出雲は、何事も無いかの様に振る舞う。

 

「いやだって。俺たち勇者だぞ? なんかこう。責任とか……」

「感じてない訳じゃないわよ。ただ。魔王と言っても所詮私たち──地球で平和ボケしてぐーたらしてるだけの子供二人に倒せる程度でしょう? そこまで考えなくていいのよ」

「いやいやいやいや?! 魔王だぞ! 魔族の王とか悪魔の王とか。そういうのに対して──」

「それはわからないけど。確信して言えるわ。女神さまは私たちを派遣した──つまりは"ただの高校生で倒せる程度の存在"に過ぎないのよ」

 

「本当にやばい奴ならね。地球の高校生なんか採用しないわよ。それこそ現代のプロボクサーなりオリンピック選手なり──この世界の冒険者なり使うでしょ。

 それじゃなくてただの高校生である私たちが選ばれた時点で大した存在じゃないのよ。魔王ってのは」

「えぇ……いや。まぁ……理論上はそうだろうけど……」

 

 理屈では会っている。だけどそれはなんか違う気がすると藤原はもやもやする。

 ライトノベル等ではよく高校生やら中学生などが召喚されるが確かに。本当に戦力を欲しているのならばそう言った者達の方が合理的か。

 何となく藤原はそう考え。いや違うだろうと思考の海に陥ろうとしたとき。

 

「お二方! 飲み物を買ってきました!」

 

 その思考を遮る様にリナが両手に飲み物を持って駆け寄って来る。

 手に持っているのは異世界産の果実水。レプーアという荒地でも育つという異世界では一般的な果実。

 甘みもある為農民等は菓子の代わりに食すほどにポピュラーな果物だ。

 

 透明なカップに注がれたそれを二人は受け取り軽く礼を言いながら飲み始める。

 

「美味いな。これ」

 

 初めて飲む味だ。王城では基本的に水のみ。

 酒類も選択肢として出されたが異世界とはいえ未成年。それを考えて断って来た──何気異世界らしい食べ物を食すのは初めてかも知れない。

 

 味としてはリンゴに近い。それにパイナップルの様な甘みが足されているようなモノ。

 

 それを飲み干し。藤原はリナに問いかけた。

 

「なぁ。なんで俺たちを"勇者様"って褒めるんだ?」

 

 それは。この異世界に来てから常に感じていた疑問。

 

 王城に努める騎士。玉に会話する程度の貴族。

 彼らは必ず自身に対して敬語で接して来た。

 

 余りにも可笑しいだろう。藤原はそう考える。

 

 何故異世界から来ただけの小僧を褒めたたえる。何故そのように持ち上げる。

 確かに女神に選ばれた。だがその程度だ。これまで懸命に努力を続けてきた騎士団長や冒険者の方が素晴らしいだろう。

 ただ日本で特に何も考えず──戦いだとか命を奪うだとか。そんなことは考えもせず生きていただけの凡夫。

 

 それを何故称える。馬鹿にしているのか。

 

 これは出雲も同じだ。多少藤原より交友関係が広く、より多くの人間と接してきている出雲は会う人間全てが心の底から称えてきているのを感じている。

 出雲は馬鹿にしているとは考えれない。感じるのは恐怖。あるいは異質差からくる壁。

 

「なんで褒めるか。ですか?」

 

 その問いにきょとんと。考えてもいなかった様にリナは目を丸くした。

 

「うーん。そうですね」

 

 一拍おいてリナが答えた。

 

「勇者様は凄いから。ですかね」

 

 ──それは余りにも多く聞いてきたありふれた回答だった。

 

「いや。凄く──」

「いや。凄いですよ!」

 

 "凄くないだろう"という自虐にも似たことを言おうとすれば。リナの声にかき消される。

 少々声が大きいが街中の剣層に紛れて誰も気に止めない。

 それを認識した藤原はリナに続きを促す。

 

「勇者様は異世界から魔王を倒すためにいらっしゃったんですよね。それって凄いことです」

 

「少なくとも私なら勇者様と同じ状況になると動けないと思います。私なら勇者様と同じような状況──そうですね」

 

 うーん。とリナが頭を悩ませる。

 聞くべきじゃ無かったか。藤原は反省しかけた時リナが続きを喋りだす。

 

「あぁ。そうだ──勇者様の状況って"力を与えたから。この魔物を倒せ"って行き成り放り出されたようなものですよね」

 

「見るからに悍ましい。近づくもの全てが死んじゃうような怪物に。"今の君なら倒せる! "って言われて一張羅で放り出されたようなものじゃないですか。

 ──私なら怖くて逃げちゃいます。わき目も降らず一目散に逃げちゃいます。

 だけど。勇者様は立ち向かった。女神様に力を与えられただけなのに。そもそも一切関係無いのに。関係の無い私たちの為に。立ち上がってくださった──だからこそ。私は勇者様を……いいえ。藤原様と出雲様を尊敬します」

 

「──んなこと言っても。俺はまだ何もしちゃいない。ただこっちに来ただけだぞ」

 

「だからこそです。故郷を離れ。家族の元から離れてでも。見も知らない私たちの為に力を振るおうとしてくださっている」

 

「いや。俺は……女神様から報酬を約束されている。それ目当てなもんだ」

 

「──いやいや?! 報酬が例え有るとしても怖いものは怖いですよ! 私なら一キロバンジーとか報酬出るとしても絶対に出ません! 怖いですもん!」

 

 

「だからこそ。私たちはあなた達を尊敬します。異世界の勇者様。遥か遠くの彼方から見も知らぬ私たちを助けに来てくださった英雄たるあなた達を」

 

 

 

 ■

 

「何故。この世界に来たのか……ですか」

 

 シュロスの疑問に。藤原は答えられなかった。

 いや。あるいは答えは出ていたのか。

 

 

 異世界。剣と魔法のファンタジー。

 近年流行りの異世界。その中に命の危機無く。更には大金も貰えるとしたら誰もが行きたいだろう。

 

 ただ。それだけ。

 

 日本で何か辛いことがあったわけでも。取り返しのつかない失敗をしたわけでも。特別な才能がる訳でも無い藤原はその答えを持たない。

 あるいはゲーム感覚──現実感の喪失。ただ"行ってみたい"から"来てみた"ただそれだけ。

 

 最終的にはシュロス側が「失礼なことを聞いてしまいました」と謝罪し。話は終わった。

 だが藤原は答えを持っていなかった。何となくで来ただけの藤原は。

 

「……出雲さんは。何かこの世界に来たい理由でもあったのかな」

 

 ぼそりと呟かれた言葉は。ヒトに聞かれること無く空に消えた。

 

 

 ■

 

 

 

 

 ──数日後。

 藤原と出雲は玉座の間に召集されていた。

 

 いるのは式典用の武装──外見重視の鎧を纏った騎士数十人と騎士団長。

 玉座に控える王もまた普段の比較的ラフな格好ではなく式典用の豪華な格好をしている。

 

 何があるのかと言えば──旅立ちの日だ。

 ついに魔王を倒す為。国の外へ出ることとなったのだ。

 

 藤原と出雲は玉座の前。王の御前にて膝を付くことなく堂々と王を直視する。

 このような行事への参加は初。更には主役は自分たちと来れば二人とも緊張するがそれを表には出さないよう全力で挑む。

 

「勇者藤原玲一。同じく勇者出雲大和。ついに旅立ちの時が来た」

 

 王が仰々しく話始め二人は傾聴する。

 

「世界を救う偉大なる旅だ。無論多くの苦難と困難が待ち受けるだろう」

 

 魔王を倒す。それは並大抵の覚悟や力でできることではない。

 転移してから二ヵ月と少し。鍛錬してきたが今だ実戦はしたことが無い自分たちでは実力を正確には把握できていない。

 不安もある。恐怖もある。だが自分たちは──自分では思えなくてもこの世界の人たちにとっては"勇者"なのだ。ならばそれに相応しいことでもして見せようとも。

 

「旅に当たって必要な物は全て用意した。あらゆる国家を通り抜けれる通行証。領主たちへのバックアップ要請──そこに。旅の仲間を紹介しよう」

 

 ──実のところ二人が旅に出ていなかったのはこういった政治的な側面が強い。

 如何に勇者としても。世界を救える唯一の人材であろうと政治的な問題からは逃げられない。

 魔王を倒すとなればあらゆる地域に赴く必要があるし国家間の移動も必要となるだろう。それらすべての問題を解決して初めて旅が始めれる。

 

 かつん。と儀式兵が槍で地面を叩くと同時に扉が開く。

 木製の扉が開き二人の男女が入って来る。

 

 肩で風を切り。威風堂々と歩む。

 玉座の間だというのに王への敬意が微塵も感じられない振る舞い。だがそれを許してしまう程の圧を放っている。

 

 一人は長身の男だ。藤原や国王よりも大きい──凡そ180cm程の身長。

 鎧の類は来ておらずごく普通の服だ。青を基準としたシンプルな服の上からは隠せない筋肉。

 髪と瞳はこの国──というよりはこの大陸の基本である金髪碧眼。頬に傷があるのも相まって野性味を感じさせる顔だ。

 その背には巨大な剣。地面すれすれを行くほどの長い剣を背負っている。

 宝石が多数取り付けられた切れ味よりは外見を重視した様に見える剣だ。その他の装飾も相まって売るだけで一生は遊べそうな剣。

 

 二人目は奇妙な女だった。

 女性としても低身長。150cm程の小さな体だ。

 隣の男と並んで歩けば大人と子供。それどころか幼女にすら見える。

 だが何よりも異質なのはその姿。

 まず腕が無い。腕があるべき場所に無い。

 両腕の欠損。肩から先は何もなく衣服のパーツも待たない。

 それだけにあらず。眼もまた無かった。

 瞼が無く眼球無き窪みが露わになっているのを見れば多少の忌避感を抱いてしまいそうなほどに異質。

 また特徴的なのはその髪。純白。蝋燭の様な白だけで構成された髪。

 服装は至って普通。そこらの街中で見かける程度のワンピース。

 

「"最強の冒険者"ネボ。並びに"特異の魔術師"クレール」

 

 最強。その言葉に心が躍る。

 

「冒険者ネボ。王命しかと承った」

 

『同じく冒険者クレール。了承しました』

 

 少女の声が頭の中に響く。

 そのことに驚愕し顔に現れるもすぐさま何ともない風を装う。

 

「さぁ勇者よ。旅立ちの時が来た。必ずや魔王を打ち倒し。世界に平和を取り戻してくれ!」

 

 ガゴン。と扉が大きな音を立てて開いた。

 玉座から振り返り。真っすぐと歩き出す。

 

 ネボとクレールの横を通り過ぎれば何処からともなく音楽が流れ始める。

 旅立ちの瞬間。城の扉を抜け城外へ行くと大勢の人だかりが。

 

 騎士団が道を守り。国旗を掲げる。

 その横には大勢の市民。

 

 革の鎧を纏った冒険者らしき人が居ればごく普通の服を着た市民もいる。

 玉石混交。人も亜人種も関係なく。全ての種族が居た。

 

(──すげぇ緊張する)

 

 これだけ大勢──下手したら万に届く。あるいはそれ以上の人間の前を堂々と歩く等これまでの経験は無い。

 精々が剣道の大会などで数百人程度に見られた程度だ。

 更に今回は全員──旗を掲げる騎士も含めて全員がこちらに対して羨望の眼差しを向けてくる。期待が重い。

 

 そうして街中を歩く中。ネボは時折市民に向かって手を振るう。

 

 自身もそうやって手を振るうべきか。だが緊張しすぎて手が上がらない。

 

 パレードの音。市民の声に紛れて吟遊詩人が歌い謎の楽器集団が演奏を始める。

 もはや一種のお祭り状態。

 

 ここは今だ城壁の中──市民等は普段は来れない場所にいる。というのも興奮を助長する手助けになっているのだろう。

 普段は騎士が住まう寮や練兵場として使われる場所だ。市民にとっては雲の上の様な場所だろう。

 

 そうして多数の市民と騎士に見守られ。勇者一行は旅立った。

 

 

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