殲滅戦争   作:Libro

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第47話

 

「さて。まずは自己紹介と行こうか」

 

 街の外。

 城門を過ぎた先で四人は集まっていた。

 

 クリセルダの王城は湖の上に浮かんでいる。城と大地をつなぐ大橋──の隠し通路。

 大橋の向こう側はただの街。あれだけ盛大なパレードを開いてまた街の中に戻る──というのは少々問題がある為隠し通路を通り街から離れたのだ。

 街の近くにある森。そこに勇者一行は訪れていた。

 森と言っても大した物ではない。ただただ雑多に木々が生えている程度の場所だ。

 

「俺はぜ──戦士ネボ。冒険者として活動して既に十年が過ぎている。経験だけなら豊富だ」

 

『私はクレールです。主に魔術を使いますがたまになら魔法も使えます。よろしくお願いしますね』

 

「あ。よろしくお願いします……けど。この声って」

「ん。ああ──クレールは話せなくてな。代わりに念話を使っているんだ」

『声は出せませんが会話は普通に出来ますので。ご心配なく』

 

 ──腕も眼も無いのに心配しないのは流石に問題あると思うが。

 藤原と出雲の思考が重なる。

 

「さて。ここで話すのもなんだ。町に向かおうと思うんだが……来たな」

 

「来たって。何が──」

 

 がさり。と草が揺れた。

 奇妙な──獣の匂が鼻についた。

 

 何が来たのか。答えは直ぐに現れた。

 

「グルルル……」

 

 大型の獣──狼だ。

 

 大人の膝程まである巨体。剥き出しになった牙。

 筋肉質──室内犬等では見られない。外に出て狩りをするためについた体。

 魔物ではない。異世界の生態系において独自に進化した種。単なる野生の獣。

 

 剥き出しになった野生に藤原と出雲──日本の者は恐怖する。

 森の中で熊に合ったのと同じ恐怖。命の危機。

 

 その中。ネボは何事も無いかの様に振る舞い尋ねる。

 

「勇者様。どうする?」

 

「ど。どうするって?」

 

 ネボの問いに震える体を抑えて答える。

 

「勇者様が殺すか。俺が処理するか。どちらがいいです?」

 

 まるで今日の晩御飯をどうするか程度の気楽さで問いかける。

 

「そ。れは──」

 

 出来れば。

 

 出来ればネボに処理してもらいたい。

 如何に対人訓練を重ねようと。如何に力を持っていようと。

 その本質は変わらない。命を奪うなどとしたことが無い。

 精々が羽虫──蚊を叩き潰すなり殺虫剤で殺す程度の経験しかない二人は戸惑う。

 

 獣は動かない。ぱっと見では一体しかいない。

 獣の数に対しこちらの人数が勝っている。それを警戒してか獣は唸り声をあげるモノの動く様子はない。

 

「……俺が。たお……いや。殺します」

 

 藤原が腰から剣を抜き。構える。

 

「……今後多くの命を奪うことになります。それに魔王も殺すのですから──このような所で戸惑ってはいけません」

 

 弓を構え。出雲が答えた。

 

「わかりました」

 

 その二人に対し非常に気楽な答えをネボは帰した。

 

『頑張ってください~』

 

 クレールは二人の心など知ってか知らずか。のほほんとしている。

 

「ガァ!」

 

 獣が叫び。飛び掛かる。

 

 獣の膂力による跳躍。藤原の頭上──三メートルほどの跳躍。草の中から飛び出し木の枝など知ったことかとその力で折って襲い掛かる。

 真正面からの突撃に対し藤原は剣を構える。

 

 命を奪う。その行動に対して一瞬の忌避間を抱き──気力で誤魔化し。剣を振り落とした。

 

 ぐちゃ。と嫌な音が耳にこびりついた。

 王から渡された剣は最高級品。金を使えば作れる最高位の剣だ。

 魔道具や古代の遺産(アーティファクト)の類ではない純粋な鍛冶師の技量をもって作られた剣は獣を容易く両断した。

 

「お……ぅえ」

 

 吐きそうになるのを何とか堪える。

 命を奪ったというのに吐く。その行為は駄目だろうと。

 

「はぁっ!」

 

 そこに出雲が矢を放つ。

 狙いは草葉に隠れた獣。一体目が襲ってくると同時にやって来た獣に対して出雲は冷静に矢を放った。

 

「ギャン!」

 

 獣が悲鳴を上げ──絶命する。

 辺りどころが悪かったのか。あるいは別の要因か──草に隠れてよく見えていない出雲と藤原では判断が付かなかったが。獣は絶命した。

 

「……これで──」

 

「──藤原君!」

 

 終わった。そう言いかけた藤原に獣が襲い掛かる。

 

(三体目──?!)

 

 今から剣を振り上げるにも逃げ出すにも遅すぎた。

 獣が大きな口を開け襲い掛からんと迫る。

 獣が藤原の首を貪ろうとしたとき。

 

「ふん!」

 

 そこに。ネボが拳を放った。

 綺麗に獣の頭部に当たった拳は頭部を粉砕する。

 ハンマーで全力で振りぬいたかのように獣の頭蓋骨を粉砕。眼球もまた拳に負け破裂する。

 地面にべちゃり。と落下した。

 

「無事か?」

 

「あ……はい。大丈夫です」

 

「それはよかった。辛いだろうが……ここだと駄目だな。先に移動しようか。ついてきてくれ」

 

 ネボが獣に対して何もすることなく。歩き去る。

 クレールもまた獣に対して一瞥することはない。てくてくと歩き去る。

 

 ──せめてもの。

 命を奪った責任として藤原と出雲は手を合わせ。ネボの背を追った。

 

 

 

 

 ■

 

 

(クソ雑魚だなこいつら)

 

 本当にこいつらが魔王を倒せるのか。ネボは疑問を抱いた。

 たかが獣を殺した程度で心を痛める。たかが殺す程度で葛藤する。

 本当にこの程度の市民以下の精神性を持つ者が勇者なのか。神は何を考えているのかと疑問を抱く。

 

 この世界において命を奪う。というのは大したことではない。

 単純な文化の違いだけではない。

 そもそもの生物的構造の違い。この世界の人類は限りなく地球人類──ホモサピエンスに近い造形だが別の存在。

 猿から進化したとされるホモサピエンスと神が自身を模して作り上げた異世界の人類では体の構造は勿論脳の構造も異なる。

 

 故に勇者──日本人が命を奪うという行為に対する忌避間や殺した後の手を合わせるという行為に理解が出来なかった。

 

 それに藤原と出雲が気づいていないだけでネボだけでなくクレールもまたあの場で命を奪っている。

 狼は種族的に群れで狩りを成す種族だ。あの場にいるのがたったの三匹などということはなく十数匹は隠れていた。

 それをクレールは魔術でを使い殺していた。別に隠していた訳でもなく大したことでもないので言っていなかったというだけ。単にクレールが好んで使う魔術が派手ではないので気づかれにくいというのもあるが。

 

(ま。こういう種族や文明の違いはおいおい分かっていけばいいか)

 

 言い方は悪いが獣人やエルフと同じだ。言葉は通じるのだから相互理解も可能だろうとネボは判断した。

 

 そのようなことを考えながら十数分──一同は会話することなく森の中を進む。

 命を奪った。という事実に藤原と出雲が多少なり苦しみ。葛藤する。

 だが時間の経過とともに肉を切った感覚も獣の死体の姿も忘れてゆく。

 

「つきました」

 

 そうして一行はひと先ずの目的地に到着し──目を見開いた。

 正確には藤原と出雲のみ。二人だけが先ほどまでの葛藤や沈黙等無かったように

 森の外。街道と繋がる場所に一行はたどり着いた。

 

「……何あれ」

 

 そこにああったのはバギーだ。

 まごうことなきバギー。

 

 四輪車。タイヤが異常に大きい。恐らくは整備されてない道を行くためだろうが小さな子供ほどに巨大。

 車もまた異質。席が計六つ。六人乗りの車だ。

 天井は無い。オープンカーの様にルーフは無く雨などが降ればダイレクトに当たるだろう。

 またトランクも異様に大きい。肥大化しており収容スペースは大量にありそうだが車のバランスを考えると絶対に大変なことになるだろう。

 

 緑色に塗装された異世界産バギーに藤原と出雲は硬直した。

 

「好きなとこに座ってください」

 

 ネボはポケットから鍵を取り出しながらバギーのドアを開けエンジンに刺す。

 エンジンの起動音は成らない。すわ電気自動車かと思ったが異世界ということを考えるとあまりにも可笑しすぎる。

 

「と。とりあえず座りましょ」

 

 出雲が先行しドアを開けて座る。

 カップホルダーもシートベルトも存在する。

 

「どうしました? 何か問題でも?」

 

 動かぬ藤原を見てネボが話しかけ。慌てて藤原は車に乗り込みなれた手つきでシートベルトを締める。

 そういえばクレールさんは何処だとみれば助手席に座って居る。驚くことも無くごく普通に過ごしているのを見ればこれは常識なのかと疑ってしまう。

 

「じゃあ出しますね」

 

 バギーが走り出す。

 タイヤが回転し瞬く間にトップスピードに到達。

 風景がぐるぐる巡る。

 左程補修されていない道路を車が進むも揺れはしない。

 サスペンションが優秀なのか。あるいは魔法的な力か。

 また風も感じない。横を見ればものすごい速度で進んでいるとわかるのに速度に相応しいだけの風を感じない。

 これは流石に魔法的な力だと二人は判断する。

 

 多少時間がたち混乱が収まった後。出雲が訪ねた。

 

「あの……これって車……ですよね。何であるんですか?」

 

「あー。これは地球の車ではなくて。魔道具の一種です」

「魔道具……」

 

 魔道具。

 

(確か。魔術師が作る魔術を起こせる道具──だっけか)

 

 その回答に藤原が頭を回す。

 魔道具。魔術師が作れる超常的な道具の総称。

 分類でいうのならば例え剣の形をしていても魔道具と呼ばれるらしい。

 一昔前は武器状の物は魔剣。防具は魔装。と分類が違うかのように呼ばれていたがここ数年で名称が改められたという歴史を持つ。

 その最大の特徴は使用者の資質に依存するというところだ。

 科学の道具が誰でも扱えるのならば魔道具は一部の者にしか使えない。

 例えライター程度の火を起こす魔道具でも才が無いのならば決して火が付くことはなく。逆に才能あるのならば街一つ焼き尽くす炎を出せる。

 流石にそれは極端すぎるが──兎も角才能というあやふやなモノに依存する道具。

 

「……なるほど。そういうことですか」

 

(この車が魔道具ということは……なるほど。道が整備されていないことにも説明がつく。

 魔道具ならばいちいち整備する必要もないしまず数が用意できない。私たちの為に用意してあったというにはネボさんは使いなれている。

 ということは前から使っていたということですか)

 

「車……あの。地球について知っているんですか?」

「えぇ。知ってます。有名ですしね」

『高度な科学文明を持つ世界。この世界の裏側にあるともされる地。流石に詳細は分かりませんが科学という力や銃やミサイル。その程度の知識はあります』

「いや。充分だと思いますが……なんでそんなに詳しいんですか?」

「地球の歴史や技術はかつて仮面乃人が伝えたんですよ」

「仮面乃人?」

 

 何処かで聞いた気がする。と藤原が頭を悩ませる。

 その回答は直ぐに横の出雲が答えた。

 

「……確か。あらゆる知識。技術に精通していたとされる人物ですね。何時如何なる時でも仮面を被っていたことから仮面乃人と伝わったという」

 

 王城での教育で教えられた人物だ。と最後に付け足した。

 そこまで言われてようやく藤原も思い出す。

 

 異界の知識を伝えたとされる伝説の人材。王族にさえ手が出せない程の大商人。

 

(なんか……知識チートみたいな商人だな)

 

 あるいは。それが正解なのかもしれないな──等と考える。

 

「……それとネボさん。クレールさん。敬語はちょっと。いらないです」

 

「そうか? なら普通に喋らせてもらうわ」

 

 これから長い間を共にするのに敬語でいるのはお互いによくない壁を作る。いつ言い出すかと画策していたネボは幸いと声を出す。

 

『私は素がこれなので~』

 

「まっ。これから長い付き合いになるんだ。お互い気楽に行こうか」

 

 そこに。疑問を覚えた出雲が問いかけた。

 

「あれ。地球について詳しいのなら──なんで車や電気とか。ないんですか?」

 

『それは知識だけではどうにもならなかったからですね~』

 

「知識だけでは……どうにもならない?」

 

 はて。科学とは知識の積み重ねだ。

 知識さえあるのならば理論上子供でも戦車でもエンジンでも作り出すことが出来るのが科学。

 仮面乃人が科学知識に深い造詣を持っていたのならばこの世界は地球とほぼ同等の文明を手にしていても可笑しくはないはずと出雲は考える。

 

「ああ。物理法則の違いだな」

「あー。異世界だと違うんですね」

 

 科学とは法則の解明。ニュートンが物を落として重力を発見した様に科学の発展は一歩一歩法則を理解していく必要がある。

 だからこそ仮面乃人は知識を伝えることしかできなかった。

 物理法則が違うとなれば地球の知識は意味を持たなくなる。

 

 拳銃を作れば暴発し。エンジンを作ってもそもそも油田が見つからない。

 発電機はそもそも機能しない。手回し発電機は歯車が何処かへ飛んでいく。

 

 仮面乃人が持つのは地球での科学に対する知識。この異世界での科学知識は持っていなかった。

 

「科学の発展には大量の資材と土地が居る。だがそれを手にすることは出来なかった。

 資材を得ようにも魔物に邪魔され。土地の維持には金と戦力が足りない。

 当時戦乱の中だったというのも加味しても圧倒的に駐在できる戦力が足りないんだ」

 

 例えば。

 地球と同じように何らかの奇跡で油田を発見し。それを使えるエンジンなり何か作れたとしよう。

 この世界に来る魔物は意思を持って送り込まれる。

 人類の発展を嫉む邪神や単に邪魔したいだけの邪神。偶々生まれたヤバい魔物。

 それらに対処し続けるコストを考えれば作らない方がマシだと貴族などの富裕層は考えた。

 上位存在──魔王と言わなくても魔族やそれに連なる力を持つ者は容易く地形を変えれる。

 無傷とはいかない。人材は消費し建物は壊れ続ける。

 

 そもそもが現在でも鉱石や木材を得るための戦力が不足している状態だ。そこに更に実際に使えるかわからない技術への投資──となると二の足を踏む。

 

『研究に係る資金や時間に人材。余裕があったなら科学の研究も進めれるんですが~魔物が蔓延るこの世界では研究も難しいんですよね~』

 

「だからこそドワーフが使っていたルーン技術──既に完成され研究の余地がなかった技術はただ普及させるだけでよかった」

 

 作成に関してはある程度の才能という物が居るが使用には必要ないという革命的技術。それがルーン。

 

 文字そのものが力を持っているという異質性からか誰が使っても同じ効果となる。

 一定以上の出力には魔石が必要という欠点からかドワーフ達や一部の愛好家ぐらいしか使っていなかった技術は仮面乃人の介入により広まった。

 結果としてマジックアイテム。ルーンを元にした技術は普及に成功した。

 冷蔵庫や蛇口。照明等の科学の知識を元にした便利道具。

 "誰もが普遍的に扱える便利な道具"というのは科学ではなくルーンによってなりなったのだ。

 ルーンという代用品があったからこそ科学知識の発展が進んでいないという側面もある程に。

 水道や電線要らず。という点だけで言えば生活の利便さでは地球を上回っているだろう。環境破壊も無いのだから。

 

「──と。村が見えて来たな」

 

 そのような話をしているうちに車は道を進んでいた。

 見えてきたのは小さな村だ。家が十数件程度立っているだけの村。

 

「トイレとか大丈夫か?」

 

「大丈夫です」

「……問題ありません」

『大丈夫です~』

 

「そうか。じゃあ突っ切るぞ」

 

 そのままネボは運転し村の横を通り過ぎる。

 村は道から少し離れている。高速で走っていても問題にならない。

 ぱっと。高速で動く車の上から見える景色は平和そのもの。子供が歩ているのが見えた。

 

「…………なんというか。あれだな。高速道路で旅行に行くみたいだな」

「……夢のないこと言わないで」

 

 だけど的を得ていると。出雲はため息をついた。

 

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