殲滅戦争 作:Libro
「ついたぞ。ここが今日の目的地だ」
バギーに乗り続けること数時間。
一切揺れることなく進む車は実に快適。だが長時間座り続けたことにより腰と尻に多少の痛みを感じるがその程度。
車で遠出した程度の疲労しか感じていない。
程度も何も事実として車で遠出をしているのだが。
「……なんか。こう。異世界の旅って思ってたのと違うな」
「……そうね」
もっと馬とか馬車とか使って尻が痛かったり疲れるモノでは? と疑問を抱く。
だがそれはそれとして体に負荷がかからないのはいいことだとも思ってしまう。
たどり着いた先は宿場町。多数の宿と数件の家。あとは衛兵の詰め所程度しかない町。
交通の便的にあると便利だと作られた町だ。歴史も浅い。
町自体が他所の村や町からくる商人に依存している為特産品の類は一切ないという少々悲しい村だ。
だが王都やほかの大都市や観光都市へ向かうには都合のいい位置にある為利用者は絶えない。
太陽が沈む。
黄昏時。太陽の光が弱くなり街灯に光が灯る。
街灯はルーン製。火を使っている訳ではなく超常的に光を起こしている。
バギーが速度を落とし町の中を進む。
他には馬や馬車などの異世界らしいものしかない中たった一台のバギーというのが風景を台無しにしている。
だが町人等は気にも留めていない。
そうして進むこと数分。一同は宿にたどり着く。
「今日の宿だ。俺は車を止めてくるから先に降りてくれ」
「わかりました」
ネボの言葉に従い車を降りる。
ネボ以外の全員が降りネボはそのまま車を何処かへと持っていく。
(駐車場とか見当たらないけど何処に止めるんだろうか)
車が見えなくなればここはやはり異世界だ。日本ならば当たり前にある自販機や電柱は見当たらないし車の代わりに馬車が走る。
馬ならば馬小屋等に止めればいいが車は何処に置くのか。それにバギーはオープンカーだ。下手に置いとくと盗まれたりするのではないか。
『行きますよ~』
クレールの間の抜けた声に我を思い出し藤原は慌ててついてった。
ふと。たどり着いた宿を見上げる。
(でっけぇ……)
凡そ五階建て。巨大な宿──というよりはホテルに近い。
建築もまた素晴らしい。素材から装飾まで拘っているのが素人目にもわかる。
ドアの細工もまた凝っている。一目で金と時間をかけているとわかるドアを開ける。
ちりんちりんと小さな鐘の音が鳴り響く。
「おぉ……」
思わず感嘆の声を漏らす。
開いた先は高級ホテルのロビーの様な場所──あるいはそれそのもの。
正面には受付。仕立ての良い服を着た男性が一人。外見年齢は凡そ二十代。だが年齢に見合わぬ貫録を放っている。
ロビーの出来に藤原と出雲がたじろぐ中クレールはてくてくと進み慌ててついていく。
『こんばんは~泊まりたいんですがいいですか~?』
胸からちらり。とドックタグを出す。
腕が無いため念力という物質を動かせる魔術を使っている。はたから見ればドックタグだけが奇妙に出てきている状態だ。
「かしこまりました。案内の者が来るので少々お待ちください」
にっこりと。実にいい笑顔で受付が答え人を呼びに消えてしまう。
そのことに藤原は疑問を抱きクレールに問いかける。
「あ、あの……料金とかは?」
『あー。私たちって一応は勇者パーティなので~これ見せれば全部タダなんですよ~』
便利ですよね~とクレールが胸のドックタグを浮かして遊ぶ。
ドックタグ──プラチナで出来た冒険者の証の一つ。
昔はミスリルや鋼鉄などが使われていたが今では全てプラチナで統一された冒険者の証。
ルーンの技術によって専用のマジックアイテムを使えば手軽にランクの確認ができるようになったという技術革新の恩恵を受けた一つ。
ただドックタグ一つで無料になるというのは国──クリセルダの根回しの影響が強い。
勇者が利用するであろう施設──宿や武具屋。食事処等の有名店全てに勇者と仲間であるネボ。クレールの人相書きを回してあったからこそ。
「──ま。世界を救うんだ。いちいち金を稼いだりして時間を浪費するわけにもいかないからな」
いつの間にか戻ってきてたネボが話に割り込んでくる。
何時の間に。と藤原と出雲は驚愕する。
気配が無かった。扉を開けた音も聞こえていないのは技術のたまものか。
それと両手には大きなスーツケースを一つずつ。大きなバッグを背負っている。
「お待たせいたしました。お荷物はこちらへ」
そこにカートを押して来た男性がやって来る。
一同は案内され部屋へと向かった。
■
「……ひっろ」
部屋に案内された藤原は呟いた。
案内された先はスイートルーム。最高級の部屋だ。
一泊するだけで下手な賃貸ひと月分の値段がかかる。その値段に見合った部屋。
布団やクッションにはヴァンダーフォーゲルという渡り鳥の羽を使った最高級品だ。
それ以外にも机や椅子一つとっても騎士ひと月分の給料相応。
この部屋を一人一部屋という大判振る舞いである。一体一拍幾らかかってるのか怖くて聞けない程だ。
「……取り合えず荷物開くか」
ソファに座り柔らかいと思いながらネボが持ってきたスーツケースを開く。
(いろいろあるな)
中身はタオルや下着。変えの服等々。
歯ブラシやハンカチといった旅の必需品だ。
だが中に面白みのあるものは無い。材料が異世界の物というのを除けば日本でもよく目にするものに過ぎない。
さてどうするか。
日本ならばテレビでも見れるが異世界には存在しない。漫画やゲームは今のところ見たことが無い。そもそも書店を見ていないからあるかもしれないが。
食事をとった後はやることが無いなと藤原は頭をなませる。
そこに鈴の音が響く。
チャイムの音だ。誰かが部屋に来たらしい。
はて誰が来たのかと疑問に思いながら立ち上がりドアを開く。
「藤原君。今ちょっといい?」
「出雲さん? 別にいいけど……」
──まさかの出雲。
彼女が自分に何の用があるのだろうか。まったくもって検討が付かない。
「まぁ。何も無いけどどうぞ」
部屋の中に案内する。
異世界──文化の違いで靴は基本履いたままだ。入口に浄化のマジックアイテムが設置されているため汚れはつかないという便利仕様。
「あーと。飲み物とかいる?」
何処にあるかわからないけど。と最後に付け足す。
「要らないわ。そんなに時間かかる訳でもないし」
「そう? ならいいけど」
答えながらソファに座る。
向かい合って座り出雲の顔を直視する。
──こうして面と向かって話すのはこちらの世界に来る前以来か。
この世界に来てから凡そ二か月強。二人は基本分けられていた。
お互いに性別が違い国側の方針で個別で教育を受けていたというのもあるが──最大の理由はそもそもの接点が無かったところにある。
元の世界である日本では同じ学校に通う学生という身分だがまずクラスが違うし通う部活も違う。
藤原は剣道部で出雲は弓道部という似てはいるが接点はない。
お互いに名前と顔が一致する程度の仲。異世界での暮らしという混乱に次ぐ混乱の中気にする余裕も無かった。
そんな中での突然の来訪に何があるのかと藤原は緊張する。
更に藤原は勇者である前に男子高校生。同年代の女子の前となると気が張ってしまう。
「ちょっと話したいことがあってね」
「話したい事?」
「えぇ。この異世界に来てから──暮らしに不便を感じたことってあったかしら」
「不便……」
何かあったかだろうかと考えるも──思いつくことはない。
「まぁ。特に感じたことはないな」
「そう……それってやっぱり。可笑しいことじゃない?」
「可笑しい?」
「ここは異世界よ。日本とは違うっていうのに何で日本のころとほぼ同じ生活が出来てるの?」
「……確かに」
国や文化の違いは根強い。
国際社会──地球においては多数の国家が存在し交流しているが文化の違いは大きい。
国境という見えない線を一つ越えただけで常識が変わる。
部屋に入る際に靴を脱ぐとか脱がないとか。相手にチップを渡す渡さない等の細々としたことから何から何至るまで。
あるいは食文化。質より量を重視する国もあれば量より質を優先する国もある。
後は衛生管理か。地球における中世時代は窓から汚物を投げたりするなどの最悪な時代だったがこの異世界ではそれらは無い。
上下水道こそないがマジックアイテムを使った水洗のトイレや水が出せる蛇口。冷蔵庫などが作られている。
エネルギーとして電気を使うか魔石という超常の鉱石を使っているか。その程度の違いを除けば生活は地球の近代以降──主に2010年代以降とほぼ変わらない。
余りにも可笑しい。都合がよすぎるのではないか? 。
出雲はそう考える。如何に異世界といえど変ではないかと。
更に考えれば食事等もそうだ。勇者という神の使者という立場で考えれば確かに美食ばかりというのは考えられるがそれでも食事が
ここは異世界だろう。地球とは別の世界。別の進化を得た世界のはずだ。それなのに何故こうも日本人にとって都合がいい。
──これではまるで。夢の世界の用ではないか。
「……これらのことを考えると。この世界は──」
──死の間際に見ている。
出雲がそう言い切る前に藤原が声を挟んだ。
「それって考え過ぎじゃない?」
「……そうかしら?」
「いや。まぁ。都合がいいなとは思うけども」
「それにその出雲さんの考えって。この異世界を下に見てる……ていう感じだし。
ここは異世界。じゃあ地球より文明が進んでいても不思議じゃないんじゃない?」
「……そうね。そう考えることも出来るわね」
藤原や出雲がよく目にする異世界ーーファンタジー作品の異世界では日本が上で異世界は下という作品が非常に多い。
ジャガイモが有ったり無かったり衛生観念が無かったり。
あるいは日本での常識やググれば少し出るだけの知識で知識チートという形で文明を進化させれたり。
作品によってはそもそも科学が成立しなかったり魔物やモンスター等の脅威の元文明が進歩しずらい等があるが──確かに異世界といえど文明が日本より上でもおかしくはない。
(……無意識のうちに"自分が上"と考えてしまっていたのね)
日本人にとって都合がいいと考えてしまったが──文明レベルを考えれば確かに。この異世界は日本……いや。地球より遥かに上と言えるだろう。
魔物や邪神という明確な脅威が存在するが環境汚染や国家間の戦争等が無いのだから。
それらによって文明レベルが地球よりも遥か上と仮定すれば……なるほど確かに。ここまで生活が便利だと感じれるのも納得できる。
(あれね。SNSで見た可哀そうな子がジャンクフードとかで"幸せ~"って感じたりする漫画とかと同じ状況ねこれ)
一度冷静になって考えればその程度のことかもしれないと出雲は考える。
自分にとっての常識は他人にとっての非常識だ。
更に国家の違いどころか惑星単位──世界が文字通りに違うのならば自分の常識は通じえない。
よくある異世界から日本に来たモノが日本の文明に驚いて感激する──自分は正にその立場だ。
蛇口をひねれば水が出ることや。エレベーターに驚愕し。車に驚く。
立場を変えて見ればほぼ同じ。
ただそれだけのことを傲慢にも"自分のが上"と思い込みこの世界を見下してしまっていた。
他者に言われれば冷静になれる程度の頭を持っていた出雲はそう考え。それ以上考えるのをやめた。
──多少の気恥ずかしさと共に。
「……なぁ。俺からも一つ。聞いていいか?」
「……何かしら」
そこに。真剣な──思いつめた顔をした藤原が出雲に問いかける。
「初めて……命を奪ったこと。どう思う」
「……私は余り。何とも思わないわ」
「俺もだよ」
「……そう」
「俺もこの手で殺した。のに、だ。何とも思っていないんだよ。
殺したその時は気持ち悪かった。けどな。"自分の手で殺した"って事実に対する不快感が強かった。
"命を奪った行為"そのものは何とも思ってなかったんだ」
懺悔するかの如く藤原が話す。
それに対し出雲は。
「それは。私も同じよ。それに。私たちは普段から命を奪っているじゃない。
スーパーで買う肉も魚も。元は生きていたのよ。それをただ加工された状態で出されて。"命を奪っている"という事実に目を背けていただけ」
「そうかな……俺はちょっと。そうは思えないかな」
「……考え過ぎよ。あなた」
「おーい」
そこに。ドアの外から声がかかる。
声はネボのモノだ。何かあったかと二人は顔を見合わせる。
「そろそろ飯の時間だ。食堂に来てくれ」
そんな何でもない言葉に。二人はくすりと笑った。
■
藤原と出雲はネボとクレールについていき階段を下りていく。
辿り着いた食堂。キラキラと輝くシャンデリアに装飾の施されたテーブルとイス。
特徴的なのはその広さだ。軽く見積もるだけでもスイートルームの何倍もある程に拾い。
シャンデリアや壁紙もまた高級品。埃一つ見つからない程に清掃されている。
(アニメとか漫画で見るような所だな)
悪人とかラスボスがこういうところで食事してそう。なんていうことを考える。
先日までいた王城もまた王が澄むにふさわしい城ではあった。だがここまでの高級品は無かった。
無論壺や絵画の類が無かった訳ではないがそれでもこの宿と比べれば見劣りするだろう。
(一体いくらかかってるんだろう)
日本に居た頃からこういった物には疎いし何なら忌避感すら抱いていた。
壺や絵画は怪しい人が無理やり売りつけてくるものというイメージが非常に強かった。
だが堂々と飾られている絵画を見れば。そのようなイメージは崩れる。
(……綺麗だ)
「どうした? 座らないのか?」
藤原がぼーと絵画を見つめていれば心配したネボが声をかけてくる。
慌てて問題ないと返し椅子に座る。
「二人はどうする? 何か食べれないモノとかあるか?」
ウェイターが渡して来たメニューを見ながら考える。
(うわぁ。凄い名前だけで高級そう)
名前だけでは想像もつかない。精々が多分これが食材名なんだろうなという程度のことしかわからない。
しかも食材名も異世界だ。牛とか豚などの馴染みのある物は無いのが混乱を引き立てる。
「……おすすめ料理とかあります?」
まったくもってわからないので藤原は諦めてネボのお勧めを頼むことにする。
「……すみませんが私も何か。お勧めとかでお願いします……」
出雲もまたよくわからなかったらしくクレールに聞いている。
「ん。そうか。じゃあ──」
『私は~そうですね~』
二人のお勧めをウェイターに注文する。
何が来るのか不安と期待に心を膨らませながら待とうと思えばネボが話しかけてくる。
「んで? 二人は何を話していたんだ?」
「え?」
『確かに~一緒の部屋で何をしていたのか~気になります~』
ニヤニヤとネボが笑いながら問いかける。
はたから見れば男の部屋に女が向かったとなれば成程。そういうことだと思われるだろう。
「そういうのではありませんよ」
まったく。と出雲がため息をついた。