殲滅戦争   作:Libro

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第49話

 

 

「さて。これからの予定を話すとしよう」

 

 食事も終わり。時刻は夜。

 マジックアイテムの光に照らされたスイートルームにて。藤原と出雲。ネボとクレールは集まっていた。

 集まったのはネボの部屋。内装は藤原や出雲の部屋と大して変わりはしない。

 

「まず。これが地図だ」

 

 懐からネボが地図を取り出し机の上に広げる。

 

 取り出した地図はクリセルダ一帯が描かれた地図だ。

 川や山も書いてあり。また村や都市。それらを繋ぐ道もまた記されている。

 正確無比。基本的には持ち出し厳禁とされる地図を持っているのはネボの実力ではなく勇者としての地位によるモノ。

 

「まず。今俺たちがいるのはここだ」

 

 ネボが地図で示した先は湖──王都の真下。

 

「あれ? 結構近いんですね?」

 

「地図上ではな。だがバギーで移動した時間を考えれば結構遠いぞ。一般人の足なら一週間はかかる」

 

「そんなに遠いんですか?」

 

『えぇ。バギー自体が高速で移動している~というのもありますが道中で魔物との戦闘等を考えるとそれぐらいかかりますね~』

 

「ああ。成程」

 

 地球では高速道路等の移動の為だけの設備が存在するがここは異世界。そんな便利な物は存在しない。

 更に魔物という脅威を考えればただ移動するだけでも相当な時間と労力を費やす。

 

「で、だ。次に俺たちが向かうのはこの都市。アルバ―ロだ」

 

 ネボが次に指さした場所は王都の更に下。大河によって分断された土地。

 川がある為陸路による移動が非常に難しく。川を無視するならば何十倍という時間がかかる場所。

 いわば陸の孤島とでもいうべき場所だ。

 

「アルバーロ……確か林業都市。でしたっけ」

 

「そうだ。広大な領地と建材に適した木々。更に仮面乃人が齎した農耕技術によって栄えたとされている」

 

「へぇー」

 

 何かよくわかっていない藤原が間抜けな声を漏らし。出雲が"あなたも王城で教えられたんじゃないかしら"とジト目で藤原をにらむ。

 

「ま。向かう理由は仲間集めだな」

「仲間、ですか」

 

 

 Bランク冒険者が二人もいるのにまだ仲間が要るのだろうか。藤原はそう考える。

 Bランクは実質的な冒険者の最高位だ。少し前はAランクの冒険者もいたが既に冒険者を辞めてしまっている。

 更に言えばBランク一人で街の一つは滅ぼせるし小さな国ならば滅亡の危機に追いやれる超越者だ。それが二人もいるのに更に必要なのだろうか。

 

「あぁ。Aランクに最も近いとされた冒険者──奴をスカウトする」

「Aランク……? そんな人が居たんですか」

 

 Aランクは単機で大国を亡ぼせる。それほどの者ならば確かにスカウトする価値はある。

 

「ああ。最強の戦士とさえ呼ばれた奴だ。名前は『タリ』純粋な技量じゃ最強と言ってよかったんだが……」

 

 ネボ少し。苦い顔をする。

 何か言いにくい事情でもあるのだろうかと。藤原と出雲は疑問を抱く。

 

「……あいつ。急に冒険者辞めるとか言い出してな」

 

「は?」

 

「"農業の楽しさに目覚めたので冒険者辞めます"つって辞めやがった」

 

 苦い顔をしながらネボが言う。

 

「えぇ……そんなのありなんですか?」

 

『別に冒険者を辞めてはいけない。なんていう規則は無いですからね~辞めると言われたらどうしようもないんですよ~』

 

 冒険者は基本誰でも成れる職業だ。

 それこそ明らかな犯罪者──指名手配でも受けているのならば兎も角そうでないのならば規則上子供から老人まで幅広く受け入れている。

 更には"来るもの拒まず去る者追わず"がモットーだ。

 冒険者はその性質上実力者が多くまた実力者はその気になれば街一つに壊滅的な被害を齎せる。

 下手に規則を付けたり冒険者を冷遇すれば反発を生む。そしてそれをされれば防ぐ手段は無い。

 ならば規則を緩くし締め付けず。実力あるのならばある程度優遇し冒険者を続けさせる──というのが冒険者ギルドの方針だった。

 事実Bランクになればこの高級宿とまではいかずともある程度ランクの高い宿や食事。ある程度の消耗品代等はギルドが出す等の優遇を受けられる。

 それがさらにAランクになれば実質王族等と同等の扱いを受けられる。

 

 正しそれらすべて要らぬ知らぬ辞めると言われれば退職を防ぐ方法は無い。

 

 逆にそこまで優遇されておりながら農業するから辞めるとは一体どんな情熱があるのかと出雲は疑問に思った。

 

「……それで勧誘はいいとして。実際受けてくれるんでしょうか?」

 

「確かに……そんな人が簡単に来てくれるとは思えませんが……」

 

「ああ。それに関しては秘策がある」

 

 自信満々にネボが決め顔で言う。

 

「秘策? それは一体……」

 

「ま。それは着いてからのお楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 夜。

 宿場町の暗闇に紛れて動く一団が居た。

 黒いローブを纏い不規則に揺れながら動く一団は亡霊のようにも思える。

 ローブの下はただの衣服。鎖帷子(チェインメイル)ですらなくマジックアイテムでも魔道具でもない。ごく普通の衣服。

 その腰には短剣一つを握りしめ一同は進む。

 暗闇の中凡そ十人程度が同じ格好をして進むのは異様。だが誰も気に留めない──それどころか認識できていない。

 魔術ではなく。技術の結晶。隠密技能を高めた者達だ。

 足音一つ立てず。布ずれの音も立てずに一団は訓練された動きで町民からも衛兵からも気づかれずにある一転に向かって進む。

 

 満月の明かりだけを頼りにたどり着いたのは高級宿ムルトコスタ。

 勇者一行が泊まる宿。

 その裏側。テラス。外での食事や馬を進める為の場所に一団は──暗殺者たちはたどり着く。

 

「……」

 

 言葉は出さず。視線だけで仲間に伝える。

 

「よう。こんな夜更けに何の御用で?」

 

 そこに。男の声がかけられた。

 大剣を背負いし戦士の声。

 

「……っ」

 

 驚愕。されど直ぐに冷静さを取り戻す。

 

 逃げる。否。逃げるのは許されない。

 ローブの一団は男から離れ。それぞれ距離を取って囲む。

 

「ほう。範囲攻撃でやられるのを避けるか。手慣れている」

 

 男──ネボは感心関心と顎に手をついてローブの一団の行動を褒める。

 

 それに対し一団は何も反応しない。ただ冷静に腰につけた短剣を取り出す。

 

「成程成程。冷静沈着。よく訓練されている」

 

(さてはて。邪神か人間か。どちらの差し金かね?)

 

 まぁどちらでもいいか。とネボは軽く笑った。

 

「さぁ。かかってこい暗殺者ども。屍を晒せ」

 

 巨大な剣をネボが構え、月明かりに照らされネボの全容が露わになる。

 

 巨大な剣──ネボ作成の魔道具。

 宝石が多数つけられた実用性よりも外見重視に思える剣は魔道具。そして魔道具に真っ当な物理法則など当てはまらない。

 装飾重視で切れ味など無さそうに見えるがその実アダマンタイト等の世界最高峰の鉱石であろうと紙切れ同然に両断できる剣だ。

 無論それはネボが使った場合。しかし現状ネボが使っている以上最高位の剣ということに間違いはない。

 

「…………っ?!」

 

 そして月明かりに照らされ。一団は驚愕する。

 その大剣? 否。相手がネボという事実? 否。

 

 一同が驚愕した理由はただ一つ。

 

「どうした? 来ないのか?」

 

 ──全裸になったネボ。にである。

 

 正確には全裸ではなく半裸。ブーメランパンツ一つを纏い大剣一つ背負ったネボに一団は驚愕した。

 

「???」

 

 一団のリーダー格が驚愕し動きを止める。

 

 何故全裸に? 魔術か何か? あるいは幻術でそう見せている? 何故そんなことに魔力を? 

 

 ネボ以外の全員の思考が重なり止まる。

 

「来ないなら……こちらから行くぞ!」

 

 ドン。とネボが地を蹴り跳ねた。

 

 Bランクの冒険者──単機で街一つ滅ぼせる存在。

 その動きはまともな人間の目で追える速度ではない。ましては訓練を積んだ暗殺者──直接戦闘を生業にするものでなければ残像すらその目には映らない。

 

 刹那、ネボが一人のローブを纏った男に接近しそのまま大剣を振り落とす。

 縦に振り落とされた大剣によって容易く両断される。その手に握った短剣を振るう暇も無く。

 ネボが返り血によって赤く染まった。

 

「さぁ。どうする雑魚共。今なら楽に殺してやる」

 

 仲間が一人死ぬことでようやくネボの動きを悟った一人が短剣を投げつける。

 ただの短剣ではない。かすれば容易く相手を死に至らしめる猛毒が塗られた暗殺者御用達かつ禁制品。

 更には材料は青く輝くミスリル──アダマンタイトに一段劣るとはいえそれでも高位の金属。鋼鉄程度ならば雑に投げたとしても貫ける鋭さを誇る。

 それを暗殺者という殺すことに特化した者が投げればまず当たり。死に至る。

 無論高位の冒険者となれば毒の無効化手段を持っていても可笑しくは無いし毒に対して素で耐性を持っているだろう。Bランク相手に毒殺は通じない。

 だがそれでも数秒の隙は出来る。毒に抵抗か無効化するその隙を狙って目標を殺せればいい。

 

 その後自分たちはネボに殺されるだろう。だが目標さえ殺せれば自身の死等関係ない。暗殺者とは対象さえ殺せればいい。それが存在意義なのだから。

 

 暗殺者たちはそう考える。確かにそれは正しいだろう。暗殺とは闇に紛れて殺す者。

 装備を纏わないネボは毒を無効化か抵抗する隙が出来る。だがそれは当たればの話だ。

 

 かつん。とまるで硬いものにでもあたったかのように。ネボの背を狙って放たれた短剣が弾かれた。

 

「は?」

 

 その事態に流石の暗殺者も困惑する。

 自動で防御する魔術等は確かにある。だが事前の情報では『全裸戦士ネボ』は名の通り戦士。魔術師ではない。

 戦士であろうと無意識化で魔術──身体能力の強化や防御は使えるがその程度だ。決してミスリルを素肌で弾ける程の強化や自動発動する魔術等は使えない。

 一瞬。魔道具という可能性が暗殺者の頭をよぎるが相手はほぼ全裸。魔道具を持つスペースなど無い。

 

「ま。この程度か」

 

 ──暗殺者達の瞳に映ったのは自身を切り裂く大剣だった。

 

 

 

 

 

 ■

 

『随分とまぁ。派手にやりましたねぇ』

 

 宿の窓からゆっくりと。一人の少女が降りてくる。

 降りてくるのは体のパーツがかけた少女──クレールだ。

 

「ま。相手が向かってきたからな。仕方がない」

 

 大剣を担ぎ。最後の一人を殺したネボが返す。

 

 暗殺者とは直接戦闘が出来ない物だ。

 闇に紛れ人に扮して対象だけを手段を問わず殺す。

 毒殺刺殺その他諸々。

 殺す対象の素の戦闘力が高かったりするからこそ。暗殺者は戦闘力以外を持って殺しにかかる。

 無論暗殺者側も直接戦闘が出来る者がいない訳でもなかったが──ネボはBランク。更には勇者の護衛として選ばれるほどの実力者。

 言ってしまえばAランクに近い、超越者に半歩踏み入れている存在だ。

 

「お前の探知魔術のお陰だ。ありがとうな」

『この程度お安い御用ですよ』

 

 クレールは最高の魔術師と称される程に魔術を極めている。

 その力を持てば敵意や殺意を持つ者の探知程度訳が無く。容易く気付きネボに伝え。対処した──というの事のあらましである。

 

『しかし彼らは何をしたかったんでしょう? この程度の力で私たちをどうにかできるはずもないのに』

「……答えはここにある」

 

 ネボが両断した暗殺者の一人の死体をまさぐる。

 横に両断されたその死体の胸元を漁り。ローブを開けさせる。

 

『これは……』

 

 現れたのは逆さになった女性の生首を模した紋章。

 黒いローブに赤い血を持って描かれた罪を表すマーク。

 

「邪教団モルトだよ。奴らしぶといな」

 

『……二百年前に英雄に滅ぼされたと聞きましたが……』

「さてな。生き残りでもいたか。あるいは新しく作ったかのどちらかだろうよ」

『……確か罪と罰を司る邪神(シュトラーフェ・シュルト)を崇める教団でしたね。新たに神託でも受けたのが現れたのでしょうか?』

「神はこういう時面倒だ。決して滅ぶことが無いからこそ強気に。そして享楽的に動いてくる」

 

 実に面倒だとネボがぼやく。

 邪神の行動に余り意味は無い。今回の襲撃とて"勇者がどんなものなのか"気になったから襲いに来たか。あるいはその場のノリと勢いで来た程度のことだろう。

 

『あ。死体はどうします?』

「消しといてくれ。欠片も残らないように」

 

 勇者様に知られると、後が面倒だ──とネボは苦笑した。

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