殲滅戦争 作:Libro
王都から西に約30km。
魔族侵攻を受け利用され始めた塔。
役目としては侵攻を防ぐのではな脅威をいち早く王都に伝えるためにある。その為防衛設備という物は何もない。
バリスタ一つないため遠距離攻撃もできず、バリケードもないため魔物の突進を受ければすぐに崩落するだろう。
如何にマジックアイテムーールーンが刻まれた魔法効果を発揮する道具があると言っても無防備に近い設備だ。
と言ってもここまで設備が足りないのは国の資金が足りないという悲しい理由だが。
唯一金をかけたのは通信魔術ーーと言っても遠くに特定の信号しか送れない劣化モールス信号機だが。
これでも何かあった際は王都へ伝える要所の一つとして扱われている。
「なぁ、何か見えないか?」
塔の頂上。
石造りの簡素な魔術的防御も込められていない頂上で、監視役の革の服を着た者が同じ格好の隣の者へ話しかける。
「はぁ? 何も見えねぇよ」
「いや、何かいるって」
しつこく言う同僚に対し貸してみろ、と魔道具でできた望遠鏡をひったくる。
この魔道具はマジックアイテムとは別の道具になる。
マジックアイテムは誰が使っても同じ結果ーー正確には製作者の設計通りにしか動かないのに対し魔道具は"使用者によって効果が変わる"という道具だ。
真昼間で何が見えるんだと呟きながら望遠鏡を除きこむ。
同僚よりは魔術の才能があるーーつまり魔道具をより強く使える者は同僚より正確に、より遠くまで見通せる。
「馬鹿言うな、お前が見てるのは王都の方角だろ? そっちでなんか……ある……わけ……」
望遠鏡を除きながら喋るも、言葉尻が弱くなる。
ただの見間違いかと軽く飛ばそうと思ったが、実際に何かいる。
いや、何かどころではない。
明らかな土煙。数多の影。
目算に過ぎないが、その数は最低でも千を超えている。あるいは万にも届きうる程。
「はぁ?! なんで王都から魔物が来るんだ!」
「いや、俺も知らねぇよ! どうすればいい?」
「魔力水晶を起動しろ!」
たった三人しか務めていない塔が騒がしくなる。
塔の役目は東から来るであろう魔族や魔物を見つけるのが役目の施設だ。
つまり王都側からの侵攻等想定外。このような時の対処法等用意されていない。
もたもたと最初に見つけた男が頂上に設置された水晶に魔力を込める。
ほんの少しでも魔力を注げは起動する水晶は問題なく起動する。だが送信先である王都には送ることができない。
つまりそれは、送信先である王都に何かがあったという証明だ。
「駄目だ! 繋がらない!」
「クソ! 王都が先に堕とされたのか?! どういうことだ!」
そもそもこの塔自体が半分御飾なものだ。
魔族の侵攻はこの国から更に西の森のエルフ達が食い止めている。
エルフ達にもしもがあった時に、とかつて建てられた古代の遺物を流用しているだけだ。
「なぁ、これどうすればいい?! 俺たちはどうすればいいんだ!」
そこに勤務する兵士もまともに戦ったことの無い者しか居ない。
半場野営や屋外での修練代わりに使われる場所に、練度の高い兵士等いやしない。
「兎に角、ありったけ連絡しまくれ! 他の塔にも街にも!」
「その後は!?」
「とりあえず逃げる!」
そういって片方が脇目もふらず塔の階段を下っていく。
それを見た同僚が兎に角適当に緊急事態の連絡を各地に飛ばし、同じように逃げていった。
一時間後。
押し寄せた大量の魔物とゴーレムにより。
塔は跡形もなく踏みつぶされた。
■
「諸君、集まってくれて感謝する」
最初に口を開いたのはこの街迷宮都市の領主。
サイモン・アンファング・ローグ。
領主になってから五十年は越えている──年齢は最低でも八十代というのに外見はどう見ても三十……多めに見ても四十代程度の者だ。
典型的な貴族らしい肌も髪も手入れされた整った容姿だ。
小柄な者が多い貴族にしては背が高く腕も太い。更に見える範囲では腕にも顔にも傷がある。
デスクワークの人間ではなく、どちらかというと冒険者のような戦う者の姿だ。
領主の城。その一室。
木製の長机が設置された部屋だ。
モダン風の部屋は窓が一つもないが変わりに魔術光源が設置され。物理的に光源を目にすることはないが昼間の青空のように視界が確保されている。
奥に座すがサイモン。
左右には三つずつ椅子が置いてあり、大人数の会議などを開くための場所だ。
集められたのはサイモンの部下ではなくこの街の重役たちだ。
まだ少女とも呼べそうな若い
ローブを纏った
左右に二人ずつ座っている。
女戦士だけはギルドマスターの背後に立っており、唯一集められた者の中で座っていない。
女の冒険者を除けば全員、この街の顔役ともいえる存在だ。
「で? なんで集められたの?」
不機嫌そうに、冒険者が言う。
この大陸の一般的な容姿である金髪碧眼でなく変わった容姿をしている者が声を出す。
赤い髪に赤い瞳。
胸は大きくなく小さくなくというという、髪と目を除けばよくいる人間のようだ。
が、何故か褐色の肌を惜しげもなくさらしビキニアーマー……ほぼ下着みたいな鎧を着ているので違和感しかない。
他の人物が厳正な服の中下着同然の者がいるのは不自然の塊である。
「すまないな、この街最強の……いや。この大陸最強の者の意見が欲しかったんだ」
隣に座っている冒険者ギルドマスター『トム・マクリ』が諫める。
そんな彼も少々居心地が悪い様だ。
冒険者には似合わない、お洒落な空間にいるからか。
テーブルも椅子もダンジョン産の最上位木材作ったのは有名な職人。
椅子一つ売れば数年遊べる程の財産になるという。商人とは違い貧乏な冒険者ギルドの者では普段と違いすぎるのだろう。
ごっほん、とワザとらしい咳をサイモンがする。
「さて、早速だが本題だ、先日この街に向かって数千の魔物が進軍してくるのを塔の者が確認した」
ざわ、と全員が動揺する。
「しかも方角は東、王都の方角からだ」
馬鹿な、あり得ない、何故? 全員の思考が重なった。
ただの魔族か魔物が大量に湧き出たというのならばわかる。だが王都からだと話は変わる。
「さて、これについて王都から来たという者を見た者は?」
シーンと静まり返る。誰も意見も手も上げずに静寂が訪れる。
「ふむ、商人も冒険者もいないと?」
「え、えぇ、前王都に行商に行くと行った者はいましたが、帰還日よりだいぶ過ぎています」
「こっちもだな、王都からの連絡もきてねぇ」
商業組合長とギルマスが言う。
「なるほど、ならば既に王都は落ちたモノと考えよう、我らはどうすべきか意見が欲しい」
領主の一言によって会議所が騒がしくなる。
「無論戦うべきだ!」
「いや逃げるべきでしょう、相手は王都を落とせる戦力を持っている!」
「逃げるとして、何処に逃げると言うのだ! 我々だけで逃げろとでも!」
「そうだ! 民はどうする! この街には数万の民がいる!」
あーするべきだ、こーするべきだ。
会議は廻る。堂々巡りだ。
話し初めて約十分後。
一人の人物が手を挙げる。
上げたのはビキニアーマーの冒険者。
「何かね?」
それをサイモンが諫める。
「戦うか逃げるかなら、戦うべきだと思います」
「その訳は?」
「
堂々と、まるで当たり前のように冒険者は断言する。
それを見て、ふっと頼もしいなとサイモンが言う。
「流石はAランクの冒険者……神々の祝福を受けた者だ」
結構、とサイモンが立ち上がる。
Aランク。
この大陸の冒険者のランクは全部で六段階。ABCDEFというAが最高でFが最下位。
最高位であるAランクは定命の者が到達できる最高地点。単機で一国を文字通り消し飛ばすことができる超越者。
彼女単機でこの国も。隣国も下手したら魔族もを殲滅できる超越者。
そんな怪物が暴れれば魔族も国も全部消えて人類文明が壊れるのであまり戦わせれないという悲しい事情もあるが。
冒険者の中でも一握り──数百年に一人現れるかどうかの逸材。
大陸に一人いるかいないかレベルの者の発言はこの場においては最も強い力を持つ。
「では警備隊長、君たちは市民の避難を神官長は一部神官を残して避難に手を貸してくれ」
「……私なら勝てると言いましたが」
「確かに勝てるだろう、だがそれはこの街も吹き飛ぶということじゃないかね?」
「……あー、なるほど」
そっかー、と冒険者が空を仰ぐ。
確かに新しい脅威は吹き飛ぶがついでに街も吹き飛ばされてはたまったもんじゃない。
超越者の戦いとは"それ以外"はついて行けないということ。
例えるならば木の棒持った子供に対し空から爆撃するようなモノだ。それをすれば木の棒持った子供どころか周辺の都市も消し飛ぶ。
「魔物の軍勢が来るのは恐らく九時間後、余裕があるとは言え油断はできない。直ぐに行動してくれ」
■
外から見ればすべて紫色という趣味が悪いとしか言えず、目にも悪そうな城を抜け大通りを行く。
城をすぐでて目に映るは大木。樹齢千年を超えるという木だ。
なんでもこの木はかの冒険王の始まりを見届けた──なんという伝説があり、この街の観光地として有名だ。
周囲にはベンチがあり、周囲には屋台がある。
しかしながら人が居ない。
普段は多すぎて通れない程いる人が。何処かへ消えてしまっている。
屋台も商品がそのまま置かれており人だけが世界から消えてしまったように思えてしまう。
普段のこの時間──昼間ならば、何処に居ても声が聞こえてむしろ煩いぐらいだが。
何処に消えたかわかってるんだけどね、と女が小さく呟く。
それが聞こえたのか目に見えたのか。
ガハハ、と狼の獣人の男が肉を齧りながら女に近づいていく。
「おーう! 会議終わったか!」
「食ってから話しなさいヴァン」
はぁ、と女がため息をつく。
「しょうがねぇだろ腹が減ってんだから! 硬いこと言うなよヴェター!」
ガハハと涎と肉をまき散らしながら獣人が笑う。
ヴェターと呼ばれた女──フルネームはヴェター・ヴューステ。
狼獣人の方はヴァン・フント。
どちらも冒険者であり、このアンファングでは最も有名な冒険者だ。
「しっかしお前お貴族様の所へそんな恰好で行ったのか? 大丈夫か?」
「年中ほぼ裸のあなたには言われたく無いわよヴァン、あなたも似たようなもんでしょ」
「そういうやそうだな!」
またもヴァンが笑う。
顔は少し赤く、鼻が利かない者でもアルコールの匂いがわかるほどだ。
ヴァンと呼ばれた獣人もヴェターとほぼ同じような格好だ。
上半身を少しだけ隠すという臍の部分も丸見え。しかも下半身は短パン。
膝から下は何も着けてないという強気のスタイルだ。靴下どころか靴も履いていない。
ヴェターも下着同然の大事な所だけ隠したような格好だ。
流石に靴と手袋をしているが。
更にはヴァンは獣人種で男。
全身が体毛に覆われ皮膚が隠され、冬でも夏でも全裸で活動できる種族に対しヴェターは人間の女。
下着で動けばまず風邪を引くし周りの人間からは頭を心配され教会へすぐぶち込まれるだろう。
されないのは彼女がこの大陸唯一のAランク冒険者だからか。
唯一の、といったようにヴァンの方はBランクの冒険者であり、単純な戦闘力なら彼女に劣る。
だがBランクと言ってもこの国でも数少ない最上位冒険者だ。
それこそBの次であるAランクの冒険者がこの国にはいなかったが故、実質的な最高位冒険者だったのだから実力は疑いようがない。
といってもBランク冒険者はそこそこの数いる為、どうしても大陸に一人しかいないヴェターと比べると希少性では劣るが。
「で、会議の結果だけど、戦うことになったわ」
「おう! そうかそいつは最高だな!」
祝杯だ! と騒ぎ、肉を買うぞと周囲を見る。
しかしどの屋台も人が消え営業していない。
こんな緊急事態なら当然なのに、ヴァンが肉食いきって「もう肉がない」と嘆き膝から崩れ落ちた。
馬鹿なのだろうか。
「で? あんたは?」
「あん?」
「あんたは逃げるのかって聞いてるの」
「逃げるわけねぇだろ」
先ほどまでのふざけた様子が消え、ヴァンが立ち上がる。
「俺はオルカ―ン様に近い、生きる限り狩りに準じると信仰を示した──
逃げるということは、信仰を捨て、祖先を裏切ることだ」
俺にそれは許されないと、にかっと牙をむき出しにして笑う。
「えぇ、あなたはそういう人だったわね」
「んで──勝てるのか?」
狼の金色の眼を持って訴える。
「ん-、魔王じゃなければ勝てるわ、絶対に」
「大した自信だな、いいことだ」
話しながら、歩き始める。
向かう先は冒険者ギルド。
「でもお前でも魔王には勝てないのか? そんなに強いのに?」
「今代の魔王は『理外の魔王』この世界の外から来たアレは、この世界の住人じゃ干渉できない」
単純な戦闘力では勝っている自信はある。
けれど魔王はこの世界の者が魔王になった訳ではなく、この世界でも邪神の世界から来た訳でもない『理外』の存在。
この世界の住人では干渉できない。だから『勇者』がいる。
この世界の住人では勝てないのなら。別の世界から来た者に倒してもらう。
(ほんと、いやになるわ……別の世界の、戦いと無縁な子供を戦わせるなんて)
ふと、異世界や勇者についてある程度聞いたことのあるヴェターはそんなこと考える。
しかしその先の思考はヴァンに遮られる。
「なるほどな、まぁ魔王じゃねぇだろ、なんかあったら森人の奴らが来るはずだし」
「そうね、私も国から動いたってことも聞かないし……」
そうこう話しているうちに、冒険者ギルドに付く。
ギィ、と少し軋む木製の扉を押し開ける。
「さぁみんな! 戦闘準備よ!」
■
迷宮都市アンファング。
かつて冒険王が"世界で最初に"完全制覇を果たしたと伝えられる街。
その街は迷宮の完全制覇で活気を取り戻したーーとも言われる。
何故か、冒険王が制覇したことで未発見領域が出たからである。
これまで迷宮が出現してから何百年も攻略されなかった迷宮を攻略したことで機能が制限されていた迷宮が力を取り戻したという。
結果これまで閉ざされていた扉が開いたり。新しい武具が生産されるなどのより多くの富を生んだという。
攻略した本人である冒険王はどういう訳かその後街を出てしまった為、冒険王より多くの財宝を得ようと冒険者が街に殺到した。
更には二百年ほど前の隣国での内乱ではこの都市から産出された武具が戦局を別けたーーと。
「……歴史の教科書か?これ」
人多り読み終えた不破泰二が本を投げ捨てた。
慣性の法則に従いゴーレムの上から本が地面に落ちていった。
「……あの本が事実ならこの戦力じゃ足りんか?」
ゴーレムーー人の死体を繋ぎ合わせて作った移動用のゴーレムの上から配下を見下ろす。
適当に……王都に残った死体や瓦礫を材料に不破泰二は大量にゴーレムを造りだした。
十体作っても百体作っても疲れることなく製造できた為、調子に乗って作った数は千を超える。
凡そ四千強。下手な都市の騎士や冒険者の数だけならば優に上回る戦力だ。
しかしながら勝っているのは数のみ。数より質が勝る異世界では油断は出来ない。
更に不破が乗っているゴーレムが八本の足でたまにゴーレムを踏みつぶす。
「……このモンスター?魔物?も使えるか……?」
魔物。
王都から出た際に平原をゴーレムで蹂躙しながら歩いた時に見つけた者達である。
平原で楽しそうに人を食っていたり歩いていたのをゴーレムが踏みつぶしたり追いかけたりした結果仲良くゴーレム達に交じって走っている。
不破泰二はどんなものか知らないが、まぁいいかと放置している。
現在の総数は八千程度。割合的には魔物とゴーレムで丁度半々である。
しかし魔物はたまに殺し合いーーというよりは食い合っている為増えたり減ったりが激しい。
魔物というのは敵対することがしばしばある。
これは魔物の創造主である邪神間で仲がよかったり悪かったりすることが多々ある為その影響が魔物にも出て殺し合うのである。
しかし不破は何故魔物に食事が要らないかはわかっていない。だが食料を与える必要が無いのでまぁいいかと放置している。
最悪魔物たちが共食いで全滅しても死体を適当なゴーレムにすればいいと。
兵站と言う軍を動かすに当たって必須の物を考えなくていいのは楽で助かるな、と笑う。
「……喉いてぇ」
のど飴あったらな、と日本を思い出し、王都から盗んできた食料品から飲み物を取り出す。
ラベルには大きく異世界の言語で"酒"と書かれているが気にせずぐびぐびと飲む。
「──見えてきたな」
飲み干した酒瓶を放り捨て、呟いた。
永遠に続くように思える平原。
その先には巨大な城壁が見えてくる。
城壁の左右には木々が生えており、まるで文明が自然に侵略されてるかのように城壁に生えていっている。
しかし城門から続く道には一切。いっそ不気味な程に草しか生えていない。更にはその草も足元までしか伸びていないという、明らかに人の手が入っている。
徐々に近づきながら、勇者にされて視力も上がったのか城壁の上に人がいるのが見えてくる。
王都に居たのと同じファンタジーの魔法使いのような格好の者達だ。
その中に一人異質な者。若い人間の中に初老の男が混じっている。
他がローブで体を隠しているのに対し金の装飾が施された高価そうな服を着用し、他が杖を構えているのに対し杖を地面に立てている。
不快だな、と呟く。
尖兵──移動速度の速い狼や猫型の獣が城壁に近づく。
しかし城壁から魔法や魔術が飛び、魔物たちがやられていく。
「行くぞ冒険者たちよ! 我らの戦いを、神々に魅せようぞ!」
相手の男が叫ぶのが、今だ遠いここまで聞こえてくる。
いいだろう──
「全軍突撃──奴らを縊り殺せ!」
別に魔物を使役できている訳ではないが、格好つけて叫んだ。
夜の闇より暗い異形の怪物たちが、声を上げた。