殲滅戦争   作:Libro

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第52話

 

 最強の戦士。タリ。

 何が最強なのかと言えば。全て。

 戦士として有しえる全ての技能が人類の到達点と称される。

 剣を握れば百人切りを成し。槍を持てばどんな強靭な魔物であろうと貫く。

 大剣片手に巨人を薙ぎ払い。斧を手にすれば城壁だろうと打ち砕く。

 短剣片手に砦に侵入し。巣食う魔物全てを暗殺し。弓を持てば何キロも離れた先から狙撃を成す。

 更に単純な功績をあげればキリがない。鉱山都市に攻め入らんとした邪神の手先の討伐。

 眠れる邪竜の撃退。暴走した古代兵器の破壊──などなど。どれか一つでも英雄として称えられても可笑しくない偉業を成し遂げた者。

 それこそAランクになったのは用意が間に合わなかっただけ──つまり実力で言えばAランク相応の存在だ。

 

 そして。それらすべてを捨て去り農業に走ったモノ。

 

「え? 勇者? え!?」

 

 そこに。何も知らないリートが驚き出雲と藤原を二度見する。

 

「……気づいて無かったんですか?」

 

 そこに名前からしてわかるのではないかと。出雲がリートに問いかける。

 

「いやあの。変わった格好に変わった名前だとは思ってましたが……まさかまさかの勇者様とは露知らず」

 

 えへへ。と誤魔化すようにリートは笑う。

 

「……まぁいいや。リート。とりあえず荷車こっちに持ってきてくれ」

「あ。わかりました」

 

 タリの言うことに素直に従い。リートは荷車をタリの傍まで運ぶ。

 

「お。頼んだ通りだな……」

 

 中身を確認し。タリは機嫌をよくする。

 

『そろそろ本題いいですか~?』

 

 ゆったりと。されど少し苛つきながらクレールがそう言い放つ。

 

「……まぁ。詳細の確認は後でいいわ──んで? また俺に勇者の仲間に成れと?」

 

 実にめんどくさそうに──事実めんどくさくタリが話す。

 

『えぇ。勇者無くてはこの世界は存続できない。あなたもわかっているでしょう?』

 

 クレールが何時もの気の抜けた話し方ではなく。真面目な口調となる。

 

「知らんがな。確かに俺が冒険者ならば勇者に協力する義務が生じる。が俺はもう冒険者ではなくただの農民だ。世界を救うのはそっちでやってくれ」

『今更それは通じませんよ。国の危機を何度も救ってきたあなたが今更知らぬ存ぜぬは通じません。力があるから振るえというのではなく。責任を取れという話です』

「責任? なんのだ」

『あなたはこれまで幾度と国の危機を救ってきた。ならば今度も救う義務がある』

「んなもんそっちの都合だろう? 俺には関係ない」

『これまで力を振るい救ってきた者に対し。今度は気が乗らぬと見殺しにすると?』

「そうはいってない。そっちで勝手に救えという話だ」

『それが出来ないから頼んでいるんですよ……何が嫌なんです? 報酬も補助も出るというのに』

「わからん奴だな……」

 

 はっ。とタリが鼻で笑う。

 

「冒険も強敵との戦いも。全て等しくどうでもいい──我が人生。その全ては農業の為にあると知った。ならば俺は。農業に人生を捧げよう!」

 

 気が狂ったとしか言えない発言。冒険者として地位も名誉も思いのままだったというのに全てを投げ捨て農業に走った気狂い。

 

『気でも狂いました?』

「なんとでもいえ。俺にはもう関係ない」

 

 

「いーや。関係あるぜ。タリ」

 

 そこに。老婆を連れたネボがやって来た。

 

「ネボさん?」

「おう。遅れて悪いな。色々してたら遅れたわ」

 

 ははは。とネボは笑い藤原に話しかける。

 ネボという有名な冒険者の登場に展開について行けていないリートは驚き固まるが。タリは眼を鋭くする。

 

「ネボか……なるほどなるほど。力でどうにかしようと?」

 

 ニヒルにタリは笑う。流石に面倒になって来たと。

 ネボという戦士。更にはクレールという魔術師。更には世界を救う力を持つ勇者二名。

 それこそ下手な神の化身(アヴァターラ)程度ならば倒しえる程に強大なパーティだ。

 如何にAランク冒険者相応と言えど。現在のタリは装備品の殆どが無い。農具しか持っていない状態では勝ち目はほぼ無いだろう。

 

「力は力でも。こっちが使うのは"権力"だぜ?」

「何?」

 

 ネボがそう言い放つと同時に老婆が一歩前に出る。

 懐から書類を取り出し。唐突に読み上げる。

 

 

「クリセルダ国王。マーテル・クリセルダ・ヴァレー・レイゲルフの名において。平民タリに勇者の仲間になるよう命を下す。

 これは王命である。王命に逆らうならば。逆賊と認定する」

 

 

「……は?」

 

 この場の全員が。唐突な王命に言葉を失う。

 しかし老婆を連れたネボだけは。にやりと笑い追い打ちをかける。

 

「タリよぉ。お前は確かにもう"冒険者"じゃぁねぇ……冒険者ギルドからの命令に。従う義務はもうないが……忘れちゃ困るな。冒険者を辞めたお前はただの平民。

 つまりこの国に従う義務が生じるということを……!」

 

 

 

「──」

 

 

 冒険者とは。国境を越えて魔物、魔族と戦う組織だ。

 そもそもが国という概念が生まれるより前に誕生している以上。あらゆる国を、国境を越えて存在する。

 更には魔物という無限に湧き出る人類の敵と戦う組織である以上国家間のいざこざや政争に扱う訳にもいかず。冒険者は生まれた国に帰属しない。

 つまりは税金や最低限度の生活。人権などは国からは一切保証されず。代わりに冒険者ギルドが保証する。いわば国境、国土なき国とさえ言えるだろう。

 所属すれば魔物との戦闘を義務付けられる。ギルドの上層部からの命令などは従う義務が生じる。

 拒否や一定期間依頼を受けないならば除名され。ギルドからの保証はされなくなり。元の──生まれた国の所属に戻る。

 

 そう。つまり冒険者を辞めた今のタリは。冒険者の特権である国からの呪縛の開放が。ない。

 ただの一般市民。クリセルダ国の平民という立場だ。

 

 で。あるならば──クリセルダ国からの命令に。逆らうことは出来ない。

 

 しかし。

 

「それは悪手だろう」

 

 魔力を放ち。威圧する。

 

 

(これが……最上位冒険者の力!)

 

 

 その魔力に。この場の全員が圧倒される。

 戦う者ではなく。そもそもがただ物品を運びに来ただけのリートは気絶する。

 立ち上る魔力。魔力という物を未だよくわかっていない藤原と出雲でさえ目に見えて分かる強大な力。

 空を貫く塔の如く。莫大な魔力は空に昇り。空の雲が吹き飛び。大地がひび割れる。

 ただ。魔力を放つだけでこの程度のことは起こせる。ならば魔術として放てばどうなるか。

 

しかし威圧される藤原と出雲に対し。ネボとクレールは冷静に。冷徹にタリを見る。

確かにこれだけの魔力。A級相応と言われるだけの力はある。ただそれだけだ。

無手の状態ならば万全の自分たちだけで倒せると。もし暴れた場合即座に鎮圧できるように構える。

 

 そう。確かにタリは強大だが。勇者パーティならば倒せる程度。

 だがその戦闘による余波の被害は計り知れない。真面にぶつかればネボやクレールが怪我を負うだけにあらず。最悪絶命する可能性もある。

 単純にネボとクレールが死ぬだけならばまだしも。ここは農地だ。広大な。

 ここで戦えばどうやろうと作物に被害が出る。そうなれば国の損失は計り知れない。

 周辺国家最大の農業都市でもあるアルバ―ロの農地が被害を受ければ最悪。飢餓が発生しうる。

 そこまでは行かなくとも作物の値上がりは絶対に起こる。国としてはそのような事態は避けたいはず。

 だからこそ。これまで国もタリに対して強権を振るうようなことは無かった。単純に暴れられれば被害が出るし。他国に移られればそれだけでも損害だ。

 最強の戦士として名の上げたタリが。農業都市に居る──それだけで国は利益を得。邪神崇拝者等の悪しきことを企む賊は減る。

 

「……やめだ。これは俺のキャラじゃない」

 

 途端。タリが魔力を放つのを辞める。

 

「正直に言おう。俺は魔王を倒すこと自体には協力してもよかったんだ。……魔物が蔓延れば農業が出来なくなるからな」

 

『ならなぜ。素直にこちらにつかないので?』

 

「理由は簡単だよ。クレール。そこの勇者だ」

 

 びしっと。勇者──藤原に対し指をさす。

 指をさされた藤原は「え、俺?」と間抜けな声を漏らす。

 

「異世界から呼び出された。勇者様……何故。この世界の者たちじゃないんだ。異世界などというあやふやなモノに頼る必要は何処に? 

 単純に魔族、魔物特攻ならば聖女ヒュムネがいるだろう。だというのに何故異世界から来たという怪しげな者を使う」

『……今代の魔王は。勇者出なくては──』

「ちげぇよクレール。俺が話してるのはそういうことじゃない」

 

 声に怒気が含まれる。

 

 タリ。最強の戦士。彼は"理不尽"が許せないから冒険者となった。

 理不尽に魔物に奪われる人の命。理不尽に壊される人々の家。

 それらが許せないからこそ。タリは"勇者"を許せない。異世界の住人に過ぎない者達を。この世界の事情に巻き込み。戦わせるということに。

 

「あぁ。そうだな。お前たちが真に俺を仲間にしたいのならば──その力を俺に示せ。世界を救うに足る存在なのだと照明して見せろ」

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