殲滅戦争   作:Libro

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第53話

 

「正気かぁ? お前」

 

 げんなりと。ネボがタリに言い返す。

 

「俺は正気だし。至って真面目だぜ? 仮にも俺を仲間にしたいってんなら、俺を仲間に入れるだけの度量と力を示してほしいもんだ」

 

 タリが片手を前に突き出し。魔力を集める。

 簡易的な魔術を行使し。魔力を剣にする。

 細い剣。紫色に発光するただ魔力を固めただけの簡易魔術。

 

 その剣の先を。勇者──藤原に向ける。

 

「どちらでもいい。もしくは二人とも。俺と戦って見せろ」

 

 

(──面倒なことをしてくれる)

 

 素直に応じてくれればいいものを、とネボは舌打ちしたくなる気分であった。

 この状況。人類が魔王という明確な脅威に晒されている中。このようなことで駄々をこねている場合ではないだろう。

 確かに無垢な子供を攫って洗脳し兵士に仕立て上げているというならば。怒り狂うのもわかる。

 だが相手は自分の意思でこの世界に来て。自分の意思でこの世界を──なんの関係もない世界を救おうとしてくれているのだ。それを拒絶してどうする。

 瀕死の状態で少し手を伸ばせば助かるというのに。相手がだれかわからないから拒絶するなど愚の骨頂だろう。

 

 故に。ここでタリを殺すという選択肢が頭に上がる。

 

 だが現実的ではない。何をどう戦ってもアルバ―ロは滅ぶし農園等も消える。それだけならばまだしも自身も死ぬかもしれない。

 いや。最悪を考えれば自分が死ぬ程度ならばいいだろう。だが万が一にでも余波で勇者が死ねば世界が終わる。

 

「え~と……仲間にしたいのなら、戦えば、いいんですよね?」

 

 自信なさげに藤原が言いながら。タリの前に出る。

 

「そうだ。世界を救いたいというならな」

「ちょっと藤原君。正気?」

 

 そこに。出雲が苦言を呈する。

 

「いきなり戦えだなんだって。急にも程があります」

「戦わないってんならそれでもいい。その場合は俺は絶対に仲間にならんぞ」

 

 タリがため息をつく。それを見た藤原が更に一歩前に進み話始める。

 

「──いきなり何処かの誰かがやってきて。いきなり世界を救うなどとのたまう。それじゃあ。怒って当然だと思います」

 

 だから、と藤原は続けて言う。

 

「行き成り押しかけてすみませんでした。それに仲間に成れと強要したことも謝ります。……上から目線の様になってしまいますが。無理に仲間になって貰わなくても大丈夫です。

 俺たちは自分の力で、どうにかするべきでしょうし」

 

 すみませんでしたと、ぺこり、と藤原は頭を下げた。

 そのことに。この場の全員があっけに取られた。

 

 ──世界を救う勇者。おとぎ話でしか聞かないような者。

 遥か昔の神話の時代。同じく異世界の勇者が聖剣を手に世界を少なったという話もあるが歴史的証拠もない与太話。

 故に。今更になって異世界から来たという勇者に疑問が沸いて出てくる。

 

 これまでタリは冒険者として実績を積んできた。信用と信頼を得て。時には国の滅亡に関わる案件すらこなして来た。

 実に冒険者としての年数ならば六十年程。外見年齢ならば青年か壮年程度にしか見えないが長く戦ってきた実績を持つ。

 異世界の住人というのもあるが高位の冒険者程外見と年齢は釣り合わなくなる。善なる神々(ハイリヒ)の加護と邪悪なる神々(ゼーベ)の魔力が複雑に絡み合うことで生命として上位に変化するからだ。

 それこそB級冒険者となればその平均寿命は五百年程になる。無論ただ寿命が延びるだけでなく生命としてのデメリットも背負うが──それはさておき。

 兎も角タリは名を轟かせた。何かあればタリに頼めば解決してくれると国家が認識する程に。

 

 だからこそ。自分ではなく異世界から来た者に任せるという国に憤慨した。

 

 この感情は嫉妬か。あるいは矜持(プライド)からくるものか。自身にはわからない。

 確かにここ最近──二年前に唐突に冒険者を辞め。農業をするためにクリセルダ国の平民に戻った。

 だがそれはそれとして国からの指令を受けたり魔物を討伐してきた。なのにこれはあんまりではないか。

 何故自分に任せず勇者に任せる。何故勇者という異世界の一般人を巻き込む、と。

 だから国からの要請に今回は反対した。"そんな得体のしれない奴を使うなら俺はいらんだろう"と。

 そもそもが勇者や英雄というのは後から着く称号。世界を救ってもいないのに勇者と呼ぶ等。矛盾しているではないか。

 

 そしてどこか冷静な自分は。この者を認めていることに気づく。

 

「ああ、なるほど。なるほどな」

 

 確かにこれは"勇者"と呼ばれる者だと。タリは思う。

 実力こそ感じ取れないが人格は優れている。こちらの立場を考えるということも出来る。

 

 だから。気に入った。

 

「よし。じゃあ模擬戦と行こう。結果がどうであっても。仲間に成ろう」

 

 先ほどまでの怒気を含み。威圧する雰囲気は何処へやら。

 ただの陽気な好青年の様にタリは笑う。

 

『……戦ってくれますか~藤原君~』

 

 そこに。クレールが戦うよう要請する。

 なんかもう色々とめんどくさくなりこんなやつ本人の言う通りほっといてもいいような気がしたが──本気で魔王を倒すならばやはりタリは必須だ。

 確かにネボというBランク冒険者もいるが実力では劣る。少し前まで大陸唯一のAランク冒険者もいたが退職して久しい以上Aランク相応のタリを逃すという選択肢はない。

 

「ま、あくまでも模擬戦だ模擬戦。そこまで気が舞えなくていいぞ」

 

 ははは、と陽気に笑うタリに藤原が近づく。

 

「まぁ、仲間になってくれるというのなら……」

 

 異世界とはこういうものなのだろうかと。藤原が疑問を抱きながら剣を──腰に差した刀を抜き。構える。

 

 その構えの姿勢を見てタリは落胆する。

 弱い。余りにも。

 体は貧弱。魔力は一切感じない。容姿は優れているがその程度だ。これの何処が勇者なのか。

 

 数分。あるいは数秒の静寂。

 気絶していたリートが起き上がり。何があったかときょろきょろと周囲を見始める。

 

 

「こないのなら──こちらから行くぞ!」

 

 ドン、と地を蹴る。

 片足に力を込めただけのそれは。軽い衝撃波を放ち周囲の作物を揺らし砂埃を巻き起こす。

 全力の一割にも満たない突進。そこから放たれる横薙ぎ。

 

 風切り音がなる程度の全力で手加減された一撃を藤原はどうにかして剣で防ぐ。

 刀と魔力の剣がぶつかり金属音を鳴らす。

 

(この程度は防ぐか)

 

 一度距離を取ろうと。タリは不自然な体勢から魔術を行使することで無理やり後ろに跳躍する。

 それを藤原が追い。刀を振るう。

 

 鍔競り合いでも演じようかと。タリは剣で防ごうとし。

 

 それは駄目だと。戦士としての勘が告げた。

 

 即座に後ろに逃げ(バックステップ)。更に藤原から距離を取る。

 藤原も刀を途中で止め。構えなおす。

 

 

「……なんだ。その刀は」

 

 

 青い炎が宿る刀に。思わずといった感じでタリから言葉が漏れる。

 刀が光る。刀に炎が宿る。それ自体は別にいい。よくあることだ。

 だが魔力を感じないのはどういうことだと。凝視する。

 

 この世界における超常現象のほぼすべてには魔力が関わっている。

 無限に湧き出る温泉。異常成長した森林。自我を得た邪神殿等。

 それらすべてに魔力が影響している。全ては魔力があって起こる超常現象。

 魔力という無限大のエネルギーは異世界の狂った物理法則を更に狂わせ。常識を無くす。

 だからこそ。魔力を感じないという異常性にタリは動揺した。

 

「行きますよ!」

 

 止まるタリに対し。誘っているのかと考えていた藤原は思考を捨て突進する。

 振るわれた刀を咄嗟に。魔力で出来た剣で受け止めてしまう。

 

 どろり、と剣が溶けた。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちと共に真上に跳躍。刀が体を掠るも無視する。

 ちょうど藤原の真後ろに着地すると同時に魔力の剣を解除する。

 後ろに着地されたことを音で把握した藤原はすぐさま振り返り刀を振り落とそうとし。その光景に止まる。

 

 タリの上半身だけが。回転している。

 

「は?」

 

 藤原が間抜けな声を漏らした。目の前の現実を認識したくない声だ。

 ばぎばぎと嫌な音が耳に入り。視界はタリの腰あたりから流れ出る血で真っ赤に染まる。

 動きが止まる。情報の処理が追い付かない。

 そしてそれを見逃す最強の戦士(タリ)ではない。

 

 回転の勢いのまま。拳を突き出す。

 魔力で強化した拳は藤原の腹へ致命的な一撃(クリティカルヒット)となる。

 

「ごぇ!」

 

 奇妙な声を出し。藤原は吹っ飛ばされ、遠くに落ちた。

 

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