殲滅戦争   作:Libro

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第55話

 

 

 崩壊した都市。

 何となく。その言葉が相応しいとディロンは思った。

 

 元は壮健だったのだろう大都市。栄華を誇っていたとわかる都市はボロボロに打ち捨てられていた。

 頑丈な煉瓦で出来た家は打ち壊され。屋根は吹き飛び。道は崩れている。

 だが疑問に思うのは。それが内側から壊されている点だ。

 何者かの襲撃。魔物なり魔族が襲ってきたのならその破壊は外から行われるはず。なのに何故家の瓦礫が外に飛び散り。家の破壊が最小限で済んでいるのか。

 

「奇妙な国だな」

 

 何かあったのか。多少疑問を抱くも気にする暇は無いかと。思考を止め歩き始める。

 同行するのはケントニスとウード。軍勢は無くまた魔王も居ない。

 魔王は現在元エルフの森にて戦力の増強中だ。ウードの空間転移能力によって距離という概念が実質無くなった為。遠い地での戦力増強が可能に成った。

 

「……あ?」

 

 そこに。邪魔をするかのように家と家の隙間から人影が現れた。

 一瞬。人間かと思うがその異形にディロンは目を見張る。

 黒い靄。あるいは渦の様な何か。それが集まり人の形を成している。

 

「魔物か」

 

 丁度いいと。ケントニスから教わった魔物の支配能力を試す。

 魔王も有する能力の一つ。魔物の上位存在である魔神の権能。

 それに──引っかからない。

 

「あ?」

 

「蝗ス繧定ソ斐○」

 

 人型が奇妙な声──声に成らない声をまき散らし。ディロンに突撃する。

 何処か不快感を与える声。水中から空気が出るようなゴボゴボという奇怪な音。

 右手が大剣状に変化し。その剣をディロンに叩き落とす。

 

「邪魔だ」

 

 それを雑兵の一撃と。蔑み防御も回避もせず受け止める。

 肩に当たったその剣は。ディロンに痛痒を与えない。

 そして蠅でも払うかのように軽く手を払い。人型の上半身を消し飛ばす。

 

「譚・繧九↑蛹悶¢迚ゥ」

 

 奇妙な声を上げ。絶命した。

 

「なんだこいつ──?」

 

 そして。灰となり消えない人型に。疑問を抱いた。

 

「おいケントニス。こいつはなんだ?」

 

 即座にケントニスに問いかけ。答えを求める。

 異世界の怪物──魔物は全て死ねば灰となって消える。それは悪魔や魔族であっても例外ではない。ならば何故こいつは消えない。

 

「ああ。これは人間だよ……いや。正確には"元人間"と称した方がいいかな?」

「なんだと?」

 

「見た限り呪いっぽいですねぇ。悪趣味な」

 

 ツンツンと。何処からか木の棒を取り出しウードが突く。

 

「……呪いってのはなんだ?」

「ああ。そこはまだ講義していなかったな。呪いというのは基本的には"永続的に効果を発揮し続ける"ことを指す」

 

 呪い。それは日本における丑の刻参り等の遠くの対象に影響を与えるのではなく効果が永遠に続くことを示す。

 それは術者の死後であろうと続く力。

 代表的なのはクレールが使った代償魔術。それも呪いの一種。

 自らの腕と五感。眼球に子宮と幾つかの内臓を永遠に失う代償に強大な魔力を会得した。

 そしてこの傷は一切治らないし治ることは許されない。

 肉体の再生──それこそネボクラスの再生魔術に長けていれば細胞の一欠けらから肉体を得ることもできるがクレールにそれは許されない。

 仮に体を治せば会得した魔力を失い。ただの少女に戻る。

 

「で、こいつらは呪いによって体を変えられた、と」

 

 だから魔神の支配能力が動かなかったのかと。ディロンは心得る。

 他者に永続的に影響を与えるのが呪い。ならば肉体を変形させる魔術か何かを呪いとして永続化したのだと。ケントニスは言う。

 

「まぁ。目的はこいつらではない。先へ行こう」

 

 ついてこい、とケントニスが先導し、ディロンとウードは大人しく着いて行った。

 ウードの転移能力で即座に行けないのは今回のウードは一度現地に赴く必要があるからだ。既に行ったことのある場所以外には空間転移は出来ない。

 ただ視界内ならば転移出来るため視界の先に転移を繰り返すことで超遠距離転移も可能だが。大人しく徒歩で移動する。

 

 一同は同じように黒い靄を持つ呪いに犯された人間を薙ぎ払い。鉄の鎧纏い青い炎を灯す人形の横を通り。巨大なカエルを踏みつぶし先へ先へと突き進む。

 道中何も面白いことはない。ディロン、ウードと邪神の端末となれば道中の者等全て雑兵に等しい。

 

「ここだ」

 

 そうしてたどり着いた果てにあるのは。一つの焼け焦げた死体。

 錆び付いた剣を手に。焦げた死体が一つ置かれている。

 その傍には同じく焦げた本。

 

「……こんなのが目的なのか?」

「ああ」

 

 これに価値があるのか。ただの死体にしか見えないが。

 言葉には出さずとも。ディロンはそう思う。

 

 どろり、とケントニスが溶けた。

 スライム状にドロドロに溶けて無くなり。溶けた物が本に向かう。

 本に集い。纏わりつく。

 本に吸収され。浮かびあがる。ディロンの頭上程度に。

 そして焦げた本の表紙に顔が浮かび上がる。

 一つ──いや。三つの顔だ。

 中心に一つの女性の様な顔が。その両隣に中心の顔。その目に合わせるように顔が出来ている。

 顔の目に視線を合わせることで一つ一つが独立した顔に見えるという人の錯覚を利用した顔だ。

 

『これを。ディロン』

 

 本──ケントニスがそういうと錆び付いた剣が浮かび。ディロンの前まで浮遊する。

 言われるがまま。剣を手に取る。

 

「……あ?」

 

 ディロンが手にした瞬間。錆び付いた剣が変わる。

 錆が何処かへ吹き飛び。剣が漆黒に染まる。

 柄も刃も黒色というのを除けばよくある剣だ。大量生産の量産品。そのような外見。

 だが見た目に反し有している力は大きいと、手にしたディロンは眼を開く。

 

「あぁ。これ呪具ですか。珍しい」

「じゅぐ?」

 

 ウードの納得した、という言葉に対しディロンはオウム返しで問いかける。

 

『呪具も呪いの一種だよ。術者が制作時に死亡。あるいは武具の持ち主が未練を残して死した場合に生まれる魔道具の一種だな

 術者の死という最大の対価を払っている為に効力は古代の遺産《アーティファクト》に匹敵するが並みの者が使うと使用者に多大なデメリットが発生する

 簡単に言えば雑魚が使うと死ぬ感じだな。お前には通じないが』

 

「そんな危なっかしいもん軽く渡すな」

 

 無事だったからいいだろう、というケントニスに対しわかってても気分が悪い、とディロンは返す。

 

『この剣──名前は特に無いが効果は凄まじいぞ。製作者の未練を残した道具だからな。効果は相手の開放……つまりは防御力無視だな。

 アダマンタイトの鎧だろうが最高位の古代の遺産(アーティファクト)だろうが関係なく切り裂くことが出来る』

「お前のその本の変身? 憑依? はなんだ」

『これは依り代にしただけだ。これまで人間の死体を使っていたのを呪具に変えただけだな。

 呪具としての力は単純な魔術の威力の増加程度だが……私が入ることで領域と繋げた。

 これまでこの世界で行使されたほぼ全ての魔術が使える上領域と繋げることによる収納……わかりやすく言えばアイテムボックスの機能も付いた』

「ほー、そりゃ便利な」

『あぁ。これで必要な力は手に入った。この国にもはや要は無い』

「そうか」

 

 即座に移動用の新しい≪不可解な者≫(アンノウンズ)であるプフェーアトを呼び寄せる。

 

「ヴォォ──!」

 

 空から巨大な獣の泣き声が響く。

 雲を割いて現れるのは巨大な鯨。全長百メートルを超える最大サイズの≪不可解な者≫(アンノウンズ)

 黒い体に至る所から生えた触手と眼球。異形の存在。

 

 それが現れると同時にディロンは背中から翼を生やし飛翔する。

 本となったケントニスはディロンに追従し、ウードは連続で転移を繰り返しプフェーアトの背に乗る。

 

 その中央。巨大な脈動する玉座にディロンは座る。

 

「……で、これからの計画を話す前に、聞きたいことがある」

『なんだ? ディロン』

 

 何時になく。ディロンは真剣な顔と声で問いかける。

 

「お前。前ドワーフの国で日本から召喚してる、とか言ってたな。お前もこの世界に日本人拉致してんのか?」

 

 怒気を孕んだ声で。詰め寄る様にディロンは問いかける。

 

『そんなことはしない……お前の境遇が特別なんだが……』

 

 さて、とケントニスは前置きをする。

 

『元来この世界に異世界の者を入れるには両方の同意が必要だ。この両方というのは呼び出す側と呼び出される側。両者が完全に同意していない限り異世界召喚というのは成り立たない

 ただ別に神々の力をもってすれば強制的に召喚するというのは不可能ではない。だがしたところで無意味だ。

 同意の無い状態で無理に入れれば歪みが発生する。扉を開け切っていないのに無理に入ろうとするようなものだな。それが扉事態に影響を与えるだけならまだマシと言えるが入れる側。

 つまり日本人に影響が出れば体と魂が砕け散る。そうなったらなんの意味も無い。記憶も力も何も無いただ"異世界の欠片"に成り下がる。そんなものには価値が無い。

 というかそんなのにするぐらいなら素直にこの世界の眷属なり使う。高いコスト支払って粗大ゴミを作る者などそうはおらん』

 

「じゃあ俺は何なんだよ。俺は同意もしてねぇのにぶち込まれたぞ」

 

 ディロン──不破泰二は自らがこの世界に来た時を思い出す。謎の白い空間で勇者に成れと迫った巨大な女を。

 開口一番に「勇者様助けて」と懇願した女を。

 

『先程言ったように"無理に入れる"のは不可能ではない。だが知り合い──念の為邪悪なる神々(ゼーベ)に聞いてたら"そんなの知らん"と返された。

 可能性があるとすれば善なる神々(ハイリヒ)だがそちらにはコネが無い。殺しあう中だしな』

「仮にお前が召喚してないとしてその邪悪なる神々(ゼーベ)のどれかが嘘ついてる可能性は?」

『まずないな。怒ると話が進まないから怒らないでくれよ』

 

 ケントニスとディロン。二人だけで成り立つ会話にウードは暇を持て余す。

 空間転移で官能小説を取り出しぱらぱらと読み始める。

 それを横目で見ながらディロンは分かったと返す。

 

『まずない、と言ったのは我らにはトラウマがあるからだ。少し前──と言っても千年以上前だが無理矢理日本から召喚したことがある。ああ、無論私ではないが。

 そいつは記憶と力に障害が生じてな。勿体ないことをしたと召喚した奴は後悔したんだが、それがまずかった。

 どういう訳かそいつは記憶を取り戻し。自らの境遇を把握したそいつは我ら神々全て──善なる神々(ハイリヒ)邪悪なる神々(ゼーベ)両方に戦争を仕掛けて来た

 そして我らの領域は破壊され、本体も壊された。善なる神々(ハイリヒ)も何柱かやられた』

「なんだそいつ」

『まぁつまり。我らは異世界人に対し多少のトラウマがあるのだ。無理に呼び出せばこちらが殺されるかもしれんとな。

 我らにとって死は死足りえないとしても一時的な力の喪失に現世への干渉能力を大幅に失うのは痛手だ。それ以来両陣営ともに無理な異世界召喚は辞めるということで話が付いた。

 後そいつは怖かったんで全力で謝罪して日本に帰って貰った』

 

 

 だが、とケントニスは続ける。

 

『だからこそ今でも異世界召喚は行われる。結果としてそいつは"異世界人"の価値を高めたのだ。異世界人は神々に匹敵──ないしは上回ると。

 無論下手に拉致でもすればこちらがやられるかもしれんがその危険性があってなおその価値は高い。

 だからと言って無理に拉致すれば殺されるかもしれんので相手の同意を得て、自身が属する陣営の半数以上の賛同を持って初めて異世界召喚は許可される』

 

「あぁ? じゃあ俺は何なんだよ」

 

『知らん。異世界召喚は神々──異世界への干渉を可能とするほどの存在が力を行使することによってのみ可能となる力だ。

 神に匹敵する力を持つ者が居たとしても、異世界への干渉等そうたやすく行えない。また代償無しにも行使出来ん。

 それに私がお前のことを感知したのは大分後だ。何者か──異世界のモノがこの世界で暴れているとな

 いったい何なのか知る為にも私がいの一番に会いに行ったという訳だ』

 

「……じゃあ結局。俺が誰に召喚されたとかはわからないまま、と」

 

『そうなるな。今すぐ帰って貰おうにも今は時期が悪すぎる。邪悪なる神々(ゼーベ)は二百年前のドレッドの内乱──戦争によって力を大幅に落としている。

 だからこそ直ぐに帰るとなれば儀式魔法が必要、という訳だ』

 

「なるほどね……まぁ、やることは何も変わらん、ということか」

 

 

『そうなるな。では、作戦会議と行こうか』

 

 

 

 

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