殲滅戦争   作:Libro

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第56話

 

 炎が上がる。

 家々が燃え盛り。人々は逃げ惑う。

 開拓村──森を切り開き新たな農地とするために作られた村。

 魔物用の護衛としての冒険者や専門知識を持つ者。いざという時の為に病を除去できる神官なども含めれば百人を超える村。

 その村が。燃え盛る。

 

 異形の悪魔が炎の息を吐き。巨大な魔物が家を踏み壊す。

 隠れ潜む人間を悪魔が探し出し。そのまま喰らう。

 

「いやだ! いやだ! 助けて!」

「神様たすけて──」

「来るな! 来るな化け物!」

 

 村人の叫びが村に木霊する。

 

 翼の生えた魔物。人間に角と翼が生えただけの異形。狼や熊などの動物を元の姿に持つ魔物。

 それらを率いて魔物を使役する者が。村の中心で女を掴んでいた。

 

「辞めろ! 母さんを放せ!」

 

 少年の叫びに。女を掴む男は眉を潜ませる。

 女は最後の力を出し。声を絞り出す。

 

「にげ……なさい……」

 

 男に捕まれている女──年齢は三十代ほどか。肌も年老いて変わり始めるころ。

 その右手は折られ。骨が剥き出しになっている。

 つい先日。子にプレゼントと送られた服は自身の血で赤く染め上げられ。綺麗な柄は台無しになってしまった。

 男に頭部を掴まれ。手を折られ。身動きできぬ状態にされてしまった。

 

「……望み通り。放してやろう」

 

 男はまた。異形の姿だった。

 二メートルを超える長身。全身の皮膚が黒い──墨や炭に近い焼けた皮膚とは程遠い色。

 腕と足には所々。ぽつぽつと蜥蜴の鱗が生えている。

 黒い髪を靡かせ。星空浮かぶ瞳で女を睨む。

 

 ほんの少し。男にとっては軽く力を入れるだけで女の頭部を握り潰す。

 みかんやリンゴの様に。力を少し入れるだけで女の頭部は破裂し。頭蓋と脳髄。眼球が散乱する。

 

 

「あ、ああ、ああああああ!!!」

 

 

 少年は家族が。母が殺されたという事実を受け止めきれず。泣きわめく。

 

「殺す! 殺す! 絶対に殺してやる──!」

 

「……その機会は。訪れない」

 

 男が足を振り上げ。勢いよく地面に叩きつける。

 瞬間。起こるのは衝撃波。砂塵が舞い暴風が起き。少年を遠くに吹き飛ばす。

 

 

(畜生! 畜生! 畜生!)

 

 相手にする価値すらない少年は。力に任され遠くに吹き飛んだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

「……で。これでいいのか? ケントニス」

「上出来だ。ディロン。これでお前の名はより多くの人間に知れ渡るだろう」

 

 ごぼり。と女の死体──首から触手がはい出てくる。

 ピンク色の気色悪い。ミミズの様に細い触手が集い。人型となる。

 

「わざわざ生かす必要があるとは。儀式とは面倒だな」

「必要なことさ。こうして多くの人間に名が知られれば。それは楔となり礎となる」

 

 ディロン──異形の存在。魔神となり果てた勇者の成りぞ来ない。

 

 魔物を率いて村を攻め滅ぼすこと数度。必要なことだとわかっていても生存者を出すことに多少の苛つきを感じる。

 

(……何が"母さん"だ。ふざけているのか。お前たちが親を語るのか)

 

 ディロンはそう考え。苛つきのまま腕を振るう。

 それだけで振るった先にある家が粉々に砕け。塵となり空を舞う。

 

「……あー。もういい。ウードは何処だ?」

「確か向こうにいたはずだが」

 

 ケントニスの言に従い。ディロンは歩く。

 その先には背の高い怪物が一人。

 甲殻類──エビやカニの様に殻に覆われた体。カブトムシ等の昆虫の様に黒く輝く体をしている。

 身長は凡そ三メートル強。この場の誰よりも背が高い。

 頭部には目も鼻も無く。あるのは牙が突き出た口だけ。

 鉤爪を持ち。その爪で傷つけないようにくるくると何かを回している。

 

「……何をしているんだ?」

 

 奇妙なことをする異形──ウードに対しディロンが問いかける。

 

「おやディロン。ちょうど焼けましたし。あなたも一口どうです?」

 

 炎で焙り。調理したそれを差し出す。

 

 木で刺し。人を貫いて焼いたそれは。幼子の焼き串だった。

 

「……それ美味いのか?」

 

 不快感ではなく。純粋な疑問を持って放つ。

 先端はまだ生まれる前の子供──妊娠八か月目程の体。真ん中は四、五六歳程度の子供。最後は赤ん坊という焼き串だ。

 

「旨いですよ。本当は出産直前の赤子が一番美味しいんですがねぇ」

 

 食べる気の無さそうなディロンに。要らぬならとばかりにウードは食いつき串ごとバリバリと喰らう。

 

「ディロン様。襲撃が終わりました」

 

 そこに。緑色の渦の塊──魔王が出現する。

 

「よし。……ちゃんと逃がしたんだろうな?」

「はい。十数人程度は生存したかと」

「ならいい。まったく面倒だな」

「これもそれも"ディロン"という名を。存在を知らしめる為に必要なことだ」

 

(面倒だ。何が悲しくてゴミムシ(人間)を残さなければならん)

 

「そういえば。こうやってちまちま襲撃するの四度目ぐらいですけど。これ何してるんです? 戦力増強にしてもやりすぎでは?」

 

 ウードは魔王とディロンがともに眷属製造能力を持つことを知っている。

 その為材料として人間の死体や怒り。悲しみを材料に魔物を作るのだと。

 しかしながら兵力ならば既に充分すぎる程にある。

 単体戦闘力で言うのならばディロンやウードで充分。数が居るならばウードが呼び出せる悪魔の軍勢で事足りる。

 なのに何度もこうして襲撃するのか? 。

 

「この大陸全土を使った儀式魔法を使う為だよ」

「儀式魔法? なんでまた」

「いちいち潰して周る等非効率だろう?」

「……まぁ。そういうことにしておいてあげましょうか」

 

 何かしら隠している。ウードはケントニスの言からそう察するがまぁいいかと放置する。

 別に放置したところで自身が死ぬわけではない。ならば今を楽しもうとウードは思考を停止する。

 

「……そろそろ大型の移動手段が欲しいな」

 

 ディロンはそう呟き。手のひらに力を集める。

 死した人間の魂。苦難の内死した魔物の残骸。それらが集い一つの大きな渦となる。

 

「生まれろ」

 

 空に手を伸ばし。力を放つ。

 

 

 ──空から声が聞こえる。

 獣の鳴き声にも。赤子の泣き声にも聞こえる声が。

 

「……ずいぶんと大きいの作りましたねぇ」

「うちも大所帯になって来たからな。スティーアだけじゃ足りん」

 

 空の雲をかき分けて。現れるは異形の鯨。

 ディロンと同じく黒い皮膚に鋭さを持つヒレと尾。

 所々。体のいたるところから生える触手の先端には巨大な眼球。

 縦横百メートル。現実ではありえない怪物が容易く生まれ落ちた。

 

「名は──そうだな。プフェーアトにしよう」

 

 

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