殲滅戦争   作:Libro

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第57話

 クリセルダには五つの地域がある。

 それぞれの都市の名を関する公爵が治めている。

 そのうちの一つ。シュテーレン。かつて仮面乃人が君臨し。世界で最も栄えた商業都市を有する地域。

 地域は広大。その地域の首都の名は地域名と同じシュテーレン。

 そんなクリセルダ国内において最も有名な商業地域。

 その外れ──王都からも首都からも遠く。外国であるクンラフと近い交易都市コメラカ。

 

 普段はクンラフに行く人間や逆に来る人間等で賑わっていた都市は。クンラフ滅亡の知らせを受け縮小していた。

 

 そんな都市に。怪物がやって来た。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「逃げろ! 逃げろ!」

「なんだって魔物が街の中に!」

 

 

 人々の悲鳴が街に響く。

 外国からの影響を受け、様々な建築様式が入り混じる都市は混沌に陥った。

 煉瓦の家や完全木製の家。クリセルダでは一般的な石煉瓦の家が破壊される。

 

 都市の結界をすり抜けて。空から強襲してきた魔物に対し。市民は対抗手段を持たない。

 

 

 本来魔物は都市に容易く侵入できない。外部からの侵入と都市内での発生を防ぐべく神官が奇跡を用いて結界を張っているからだ。

 だがそんなものは知らぬ存ぜぬと、魔物は人々の対処しにくい空から降りて来た。

 

「便利なモノだな」

 

 空から降りて来た魔物を率いる者──ディロンはウードの力に感心する。

 結界はあくまでも侵入と発生を防ぐものだ。発生を防ぐ力は既に生まれている魔物に対し力はなく、結界は物理的な障壁に近い性質を持つ。

 ならば空間を移動すれば結界など無いも同然。こうして簡単に侵入出来る。

 

「さて。慣らすとするか」

 

 ディロンの左肩辺りに本──ケントニスがやってくる。

 開く本にディロンは雑に手を突っ込む。

 

 そこから取り出すは。一つの剣。

 漆黒の、特に装飾も何もない剣を取り出し、構える。

 

「じゃあ、死ね」

 

 そう呟くと同時に、走り出す。

 異形──魔神の力を手にしたディロンの走りは市民程度には視認を許さない。

 街道を走って逃げる市民を。ディロンは追い剣を振るい殺す。

 

「いやだ! たすけ!」

「死にたくな!」

「ごめんなさい」

 

 そう言い残し死ぬ市民を見て。ディロンは素晴らしいと顔をにやけさせる。

 

「いい剣だな。これは」

 

 アンファングを攻め落とした時に使った勇者用の剣等比較に成らない剣だと、ディロンは子供の様に剣を振り回し歓喜する。

 

 ディロンが手にした剣──特に名は無いが能力と作成者の過去を元に名付けるなら『解放の剣』と言ったところか。

 能力は単純。相手の防御力無視。

 更に元は剣だ。当然剣としての機能もある。

 つまりどんな相手だろうと容易く斬り裂ける魔剣となる。

 アダマンタイトであろうとバターの様に斬り裂ける程度ではなく。相手がアダマンタイトの鎧だろうが世界最硬の魔術師や魔物であろうが斬ったという感覚無く斬り裂ける。

 それこそ空気に向かって剣を振るうとの同じ程度。感触なく全てを斬り裂く。

 たとえ相手が大楯を構えていようと魔術による障壁を作ろうと関係ない。あらゆる防御・回避系の能力は意味をなさない。

 更に振るうのが異形の力を持つディロンだ。技術こそないがその斬撃は達人の剣に匹敵する。

 

「さて。次だ」

 

 剣を握ったまま。その剣先を真っすぐに向ける。

 

 その先端に。莫大な魔力が集う。

 眼にしてわかる程に黒い魔力。それを無理に球体上に収めんと圧縮される。

 その光景を見た市民や衛兵は逃げだすも今更逃げ出してどうにかなるモノではない。

 

 

『魔神の閃光』

 

 本──ケントニスが技名を言い剣先から閃光が放たれた。

 

 黒い光という矛盾したそれ。本来光はまっすぐ伸びたりしないが──兎も角ディロンが放ったそれは、アニメや漫画でよくある"はかい光線"として撃たれた。

 

 じゅ、という嫌な音と共に人が溶けて消える。

 人だけではない。車線上にある地面や馬車。家の壁など全て無いかのごとく消していく。

 

 

「ふん!」

 

 ──それが途中で止められた。

 

「あ"?」

 

 自身の力──更にはケントニス・ヴィッセンという邪神の助力も合わせた魔術を止められたことにディロンは眉を顰める。

 

「魔族め! お前の思い通りにはさせん!」

 

 光線のはるか先。ディロンから凡そ50m程離れたそこに居たのは。眩しい男だった。

 比喩ではなく。全身が光っている。

 黄金の鎧。そう形容するのに相応しい黄金色の輝きを放つ全身鎧を纏っている。

 その癖自己主張はしたいのか。頭部は金色のサークレットだけ。兜ではない。

 手にする剣もまた金色の剣だが光線を止めたと思われる盾は異様。

 左手に盾を持ち。全面に突き出すように構えることで光線を止めた姿勢で止まっているためよく見えるそれは黒色の鱗で覆われていた。

 蜥蜴等の爬虫類の鱗。それが前面にびっしりとつけられている。

 ファンタジー世界らしく竜鱗の大盾(ドラゴンスケイル・シールド)とでもいうのだろうか。

 

 

『あれは面倒だぞ。使用者は大したことないがあの盾は二百年前の戦争で使われた古代の遺産(アーティファクト)の一つだ

 名はイージス。あらゆる魔を防ぐ力を持つ』

 

「あっそう。関係ないな」

 

 だがめんどくせぇ、とディロンはため息をつく。

 

「魔族! どうやってこの地に入った! この街に何を齎す!」

 

 男が叫び、剣先をディロンに向ける。

 

 あー、とディロンはめんどくさそうにため息をつき。名乗りをあげる。

 

「俺の名はディロン。終焉を齎すものだ。人間も亜人を何もかも。全て等しく死んでもらいに来た」

 

 にやり、と笑い魔力を集中させ魔術を発動する。

 ついでに。これまでに手にした力の練習台に丁度いいと。ディロンは意識をケントニスに向ける。

 意図を組んだケントニスはやれやれ、と本を開きばらばらと勢いよくページをめくる。

 

『魔弾乱舞』

 

 魔神の周囲に黒い球体が複数。生成される。

 ピンポン玉程度のモノからバスケットボール程のモノまで。サイズは多種多様。更にいくつかは球体ではなく歪んだ丸や四角いモノさえ存在する。

 そうしたものがディロンの周囲の十以上生成されると同時に。相手に向かって放たれる。

 速度も非常に速い。人が出せる最高速度の投球時速160kmを超える時速300km。新幹線等に近い速度をたたき出す。

 初速から最高速度。更に放つのは最小でピンポン玉。それらが不規則な軌道──ジグザクに進むそれを視認するのは困難。

 これがB級冒険者でも上位──それこそタリやネボ等のレベルなら蠅が止まる程度の速度だと一笑に付す程度だがこの程度には丁度いいとディロンは笑う。

 

 

「ふん!」

 

 しかし全て黄金の男が構える盾に防がれる。

 ならば、と軌道を変えるも全て無駄。

 上から、横から、盾を構えていない位置から。足元に。

 全方位──360度どの方向から向かわせても無意味。無駄。全ての魔弾は当たることなく直前で消滅する。

 

「ちっ。魔力の消滅か?」

 

 似たような──それこそアンファングにて遭遇した自身を消す勢いの青い炎。それと似たモノかとディロンは推察する。

 防御系の魔術や魔道具にしても全て防いだにしては相手に消耗が見えない。

 

 

 そして、ディロンの頭部に矢が当たった。

 

 

 ガン、という鈍い音が響いた。

 

 

「あ?」

 

 魔弾を放つのを辞め。矢が飛んできた方向──ディロンの右側。その家の屋根に向けて視線をずらす。

 

 そこに居たのは若い男だ。複合弓(コンポジット・ボウ)を手に持っているのが矢を放った本人だと主張している。

 

「マジかよ、傷一つねぇ!」

 

 頭部というのは生命全般。及び魔物や魔族全ての弱点だ。

 魔族等ならば死ななくても頭部を破壊されれば視界は閉じるし行動にも支障が出る。更に冒険者の弓となれば鋼鉄程度軽く貫く。

 貫けずともダメージは何にせよ入るはず。だがそれはない。

 魔神と化したディロンは並大抵の者の攻撃はほぼ防げる。魔神の特権ともいえよう。

 

「カスが」

 

 地を蹴り跳躍。矢を放った者の眼前に一瞬でたどり着く。

 男が何かしら反応する前に。ディロンは男の頭部を握る。

 ディロンの身長は二メートル強。そのサイズに相応しく手のサイズもまた大きい。成人男性の頭部を片手で包んで余る程には。

 

「死ね」

 

 手のひらに力を籠める。

 まるでパンでも潰すかのように、簡単にあっけなく。男の頭部は潰された。

 

 べちゃり、と脳だったモノと血と一緒に、男は屋根の上に転げ落ちた。

 

「──っ、己! よくも俺の仲間を!」

 

 仲間であり、幼馴染でもあった者の死に黄金の鎧を持つ男は激昂する。

 その手に握る盾に力が入り、憎悪に顔を歪めそうになるも──すんでのところで冷静さを取り戻す。

 

「ふん。こっちに集中していていいのか?」

 

 その相手に対し。ディロンは冷めた目で。屋根の上から男を見下す。

 

「何を──」

 

 瞬間。轟音が響く。

 家が崩れ。瓦礫がばらまける音だ。雷鳴にも近い音が街中に響き、遅れて人々の悲鳴が沸き起こる。

 

「なん、だあれは」

 

 思わず。敵との戦闘中だというのに視線を音の方に向ければ──怪物が居た。

 異形が代名詞の魔物の中でも更に異形。人知を超えた怪物。

 口だけの怪物がそこに居た。

 

 口だけ……正確に言うならば入れ歯だ。人の胴体程のある巨大な白い入れ歯。それが何十──あるいは何百と折り重なり蛇の様な。あるいは人にも見える怪物となっている。

 剥き出しの歯が。家を喰らい人を喰らい街を汚す。

 遠くからでも全貌がわかる程に巨大。家々を軽く超える体。最低でも十メートル以上。

 

「間抜け」

 

 異形に目がくらんだ男に対し。ディロンは軽蔑し眼前に移動する。

 空間移動の類ではなく。純粋たる膂力による移動。体に慣れたディロンは無音での移動を可能とした。

 

 そのまま。不安定な体勢で拳を振るう。男は直前で盾で防ぐ。

 

「が──!」

 

 防いでなお。ディロンの一撃は重い。

 素人の拳。構えも何もなっていない拳だが肉体能力は地球人類は勿論この世界の冒険者を優に上回る。

 盾は拉げて壊れ。盾を手にしていた腕は圧力に耐え切れず歪んで折れる。

 本人もまた数メートル程吹き飛ばされ、地面に転がる。

 

「ま、魔族め……お前の思い通りにはさせん……!」

 

 それでもなお。冒険者は諦めない。

 盾が壊れた以上。先ほどまでの様に魔神の魔術を防ぐことは出来ない。それこそ雑に魔力弾を放つだけで死ぬであろう男は。折れた腕を治しながら気合で立ち上がる。

 

「……蛆虫が」

 

 そんな。輝かしいまでに諦めない男の目に苛つくディロンは。思念で配下を呼び寄せる。

 一直線。家々を破壊しやって来るのは巨兵。城壁以上の高さ──つまり30m以上の巨体。

 これまで使っていた≪不可解な者≫(アンノウンズ)を融合し作った存在。

 名付けるなら≪集合する不可巨人≫(スウォーム・ジャイアント)。人型の怪物を無理くり一つの塊に、巨人へと変えた巨兵。

 無論単なる見掛け倒しの体だ。その体に見合った力こそあるが一級品──C級程度の魔術師が連続で魔術を放てばそれだけで死ぬ程度の雑兵。

 だが見た目のインパクトは強い。人の様な物が集まった姿はまともな人間の正気を削る。

 

 ≪集合する不可巨人≫(スウォーム・ジャイアント)は家を破壊したその足で。真横から男を蹴り飛ばした。

 

 

 

「……めんどくせぇ。で、これでいいのか?」

『ああ。あの目立つ格好の男はあれでもB級。あの程度で死にはせん。宣伝にはもってこいだよ。ディロン』

 

 

 街の襲撃。かつては苛つき心の赴くまま暴れた行為。それに意味など無かったが今は違う。

 街を壊し人を殺せば。それは人の記憶に残り、記録と成る。

 それが。計画の第一段階。何が何でもまずは『ディロン』という終焉の名を関するモノを世界に示さなければ成らない。

 

「……めんどくせぇ」

 

 

 はぁ。とため息をつき。ディロンは魔力を解放した。

 

 

 そうして。一時間も経たぬうちに。街は瓦礫の山となった。

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